紫光が砂漠に滲む。
セイントはドーン・ウォードの縁に立ち、愛銃「パーフェクト・パラドックス」を握り直す。
外の砂嵐の中で、ベックスが赤い瞳を輝かせながらにじり寄ってくる。
ゴーストが姿を見せ、静かに告げる。
「ハイドラが1体、ミノタウロスが2体、ハーピー、ゴブリン多数」
セイントは砂を踏みしめる足に力を込めた。
「いつも通りだ」
紫の境界から外へ一歩踏み出す。
大きな足が砂を踏みしめる音がする。
閃光が迸る。
セイントは頭を低くし、砂の上を滑るようにスライディング、
背中を掠める光弾が空気を焦がす。
立ち上がりざま、ショットガンを構える。
照準に、白く濁った光が重なった。
引き金を引く。
雷鳴のような轟音が砂漠を揺らし、ミノタウロスのコアが砕け散り、白濁したレディオラリア液が飛び散った。
金属の残骸が火花を散らして砂に倒れる。
次いで、ハーピーの飛翔音。
背後から聞こえるそれに、振り返ることはしなかった。
ショットガンを回転させて肩に乗せ、引き金を引く。
まるで悲鳴のような甲高い金属が砕ける音と衝撃が背後から走る。
セイントは止まらない。
熱気が吹き上がる砂の上、ゴブリンが群れを成して赤い光を打ち込んでくる。
セイントは臆さない。
自身に打ち込まれる光弾をものともせずにショットガンを構え、引き金を引く。
爆音、金属の悲鳴。
「どうした!私はここだぞ!!」
セイントは叫ぶ、自らを知らしめるように。
遮蔽のない砂漠、それも数で劣るセイントは本来であれば不利な状況のはずだが、彼はそれをものともしない。
なぜなら彼はタイタン──人類を守る盾として、数多くの戦場を生き抜いた者なのだから。
セイントがこれまで経験した戦いの多くは、人類の守護を目的としたものだった。
そして、そこで彼は比喩なき意味で、敵に対しての最強の防壁だったのだ。
一人の少女という命を背負ったセイントが負けるはずがない。
瞬く間にハーピーの群れを対処したセイントは残りの敵を見据える。
ハイドラとミノタウロスが1体ずつ、数体のゴブリン…
「厄介だな」
ミノタウロスの背後から砲撃を続けるハイドラを睨む。
高威力な砲撃に加え、3枚のシールドが付近を浮遊しているせいで、隙間を縫った銃撃や至近距離での攻撃しか有効打が与えられない相手だ。
だがそれさえ排除すれば、戦局は大きく変わる。
「押し通る!」
セイントは腰を低くし、砂を蹴り上げた。
その巨躯からは到底想像出来ないスピードでハイドラの前にそびえるミノタウロスに迫っていく。
ミノタウロスはセイントの接近を察知し、その機械の腕を大きく振り上げた。
瞬間、セイントは跳躍して振り下ろされる腕を回避する。勢いのままに体勢が低くなったミノタウロスの背に足をのせ、さらに高く跳び上がった。
その直線上にはハイドラがいる。
セイントはその勢いのままに接近しハイドラの眼前に迫り、赤い瞳に向かって引き金を引いた。
銃声と金属音が響く。
浮遊するシールドが掻き消え、大きな金属が崩れ落ちていく。
ボロボロになったそれからは光が漏れ出し始めた。
「爆発します、離れて!」
ゴーストが警告をしてくる。しかしその声にセイントは従わなかった。
両の腕でそれをしっかりと掴むと体を回転させながら勢いをつけ、投擲する。
その先にはただこちらへ残骸が飛んでくるのを眺めているだけのゴブリン達がいた。
爆発──
大きく砂が舞い上がり、周囲にいたミノタウロスとセイントの姿を覆い隠す。
ミノタウロスは見失った脅威を探ろうと、その赤い目を動かそうとした。
しかし、それを視認する前に自らの胴体を掴む両手を認識する。
その体を大きく押され、反射的に重心を変化させた瞬間、今度は逆に大きく引かれる。
そして聞こえてきたのは──雄叫びだった。
セイントは自身の頭を大きく引き、ヘルメットの冠部分を勢いよくミノタウロスのコアに突き刺した。
コアが砕かれ、痙攣をしながらミノタウロスは沈黙する。
セイントは一仕事終えたとばかりに唸りながら頭と手を振り、自身についたレディオラリア液を振り払った。
周囲に静寂が訪れる。戦闘は終了した。
ゴーストが近寄り、声をかけてくる。
「相変わらず、無茶な戦い方をしますね」
「急いでいたんだ、気にするな。それよりもだ…」
セイントは足早に少女の元に駆け寄っていく。
ドーン・ウォードを解除しつつ、彼女の身体に手を当て、揺り起こす。
シアンの髪をもつ少女は目を覚まさないが、少なくとも呼吸はしているようだった。
「ゴースト、この少女の容体は?」
「待ってください、スキャンします。…見たところ頭から血を流してはいますが、思っていたよりも外傷は少ないようです。ですがケガとは別に少し衰弱しているようです、砂漠ですし脱水症状なども考えられます」
「そうか、ならまずは手当が先だが…そもそもここはどこなのだ?」
「わかりません。周囲をスキャンしてみたところ、環境としては地球の砂漠地帯とよく似ているようですが、現時点のデータベース上で一致する地形はありません。」
「周囲に居住区などはないか?」
「少なくとも検知できる範囲には何も。ベックスがどうして我々をここに転送したのかも不明です。」
「ふむ、仕方あるまい、一度周囲の探索をする、この少女を休ませられる場所を探すぞ。ゴーストはスキャンの範囲を広くして…」
セイントがゴーストに指示を出そうとした瞬間だった。
ゴーストが何かを感知したように一瞬停止する。
「……セイント、周囲の空間に異常反応があります。」
「何だ?」
砂漠の熱気を含んだ空気が、急に冷たく感じられた。
周囲の砂が微かに揺れ、風の流れが変わる。
「ポータルです!不安定ですが、おそらく我々が元居た場所との接続だと思われます!」
光が地面を走る。
砂が渦を巻くように空へ舞い上がり、その中心に淡く揺らめく光の歪みが生まれた。
セイントはその光を見つめる。
それは帰還のチャンスだった。
あの果てなきシミュレーション空間へ戻り、オシリスの探索を続けることができる。
だが、視線を下せば、腕の中で眠っている少女がいる。
呼吸はある。だが、目を覚ます気配はない。
「……。」
「セイント、今ならまだ戻れます!」
ゴーストの声が静かに響く
砂漠の風がポータルへ吹き込む音が耳に届く。
しかし、周囲に人のいない砂漠に負傷した少女を置いていくなどという選択肢はセイントにはない。
「行くぞ、ゴースト。」
セイントは少女を抱え上げる。
その体は軽かったが、確かな命の重みが両腕に伝わってくる。
少女を抱いたまま、光の中へ駆ける。
ポータルの光が強く瞬き、風が吹き荒れる。
次の瞬間、二人の姿は光の中へと消えた。
残されたのは、砂に埋もれかけた血のついた盾とベックスの残骸。
それらに吹き付ける砂塵のみだった。
これにてプロローグ終了です。
戦闘描写とか書くの初めてですが、読みにくくないですかね…?
ほぼほぼ思いつきでセイント14と梔子ユメの組み合わせを書くことにしましたが、この先大丈夫なのか作者にもわかりません!!
この後はDestiny世界でセイント14と梔子ユメの交流を少し書く予定なのですが、一旦それよりも前にブルーアーカイブ本編のストーリーを書くか迷っていたり…気長にお待ちいただけると幸いです。