交差する運命   作:門の主トルネ

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タイタンは揺るぎなく、強く、恐ろしい


衝突

「全員無事か⁉」

 

ガラガラとドーンウォードに沿って崩れていく瓦礫を見ながらセイントが皆の安否を確認する。

見れば大将はもアルが助けてくれたおかげで無事なようだった。

 

『皆さん無事なようです!先生は大丈夫ですか⁉』

アロナの声がセイントの耳に響く。建物は無事では済まなかったが、皆を守ることは出来たようだ。

 

「そ、外に置いていた爆弾が…」

「ハルカが爆発させたわけじゃないわ!誰かからの攻撃よ!」

 

爆発規模が大きくなったのはハルカの爆弾のようだが、外的要因があるのは明らかだった。アビドスを狙った攻撃にしては場所に疑問が残る上に、ここに所属生徒はいない。カイザーの勢力の攻撃にしては妙だとセイントが思考を巡らせたところで、カヨコには何か心当たりがあったらしく口を開いた。

 

「今の迫撃砲、覚えがある。この攻撃はゲヘナの風紀委員のものだよ」

「なんだと?」

「私たちはゲヘナから指名手配されてるからね~ここまでするとは思わなかったけど」

 

ムツキの言葉が事実であるならば、風紀委員が便利屋68を狙ってわざわざ自治区を超えてまで攻撃を仕掛けてきたことになる。カヨコはその言葉を受けて何やら眉をひそめているが、現状は変わらない。

 

「君たちは大将を安全な場所へ、風紀委員が来たというなら私が対応する」

 

本来であれば無許可で自治区を超えた活動を行うのは越権行為だ。シャーレの立場で介入をすれば無駄な戦闘を避けて風紀委員を下がらせることができるかもしれない。

アルはその思惑をくみ取ったのか頷くと、大将を連れてこの場を離れる準備をする。

 

「わかったわ、戦闘をして被害を増やすわけにはいかないもの。大将は任せて」

「頼んだぞ、ユメ!行けるな?」

「はい!大丈夫です!」

 

彼女たちが移動するのを確認し、ユメとともに瓦礫の山を抜けていく。

ゲヘナ自治区に向かって歩を進めれば、すぐに武装した集団を視認できた。規模としては1個中隊かそれ以上だろうか。

 

「建物への着弾を確認、ターゲットの状態は不明です」

「よし。歩兵、第2小隊まで突入。便利屋相手だ、気を抜くなよ」

 

報告を受けて指示を出している少女の言葉から、便利屋を狙いにした攻撃だということは判断できた。とはいえ、風紀委員による越権行為なのは変わりない。警戒は怠らないが、交渉をするためにセイントはその身をさらすことにした。

 

「そこまでにしてもらおう!!」

「誰だ!」

 

銀髪の少女がセイントに向かって銃を構え、周囲の部下たちもそれにならう。

 

「私は連邦捜査部シャーレ、セイントだ!そちらの所属と名前は⁉」

「シャーレ?なんだそれ?こっちは指名手配犯を捕まえてる最中なんだ、邪魔するな!」

 

どうやら彼女はシャーレについては余り知らないようだ。こうなっては自身の立場を交渉の材料にしにくくなるため、話題を変える。

 

「ふむ、それは他の学校の自治区を侵害して行うものなのか?」

「どうであれ、公務の執行を妨害するなら、問答無用で敵とみなすぞ!」

 

どうしたものか、とセイントは思案する。自身も頑固で直情的な自覚はあるが、目の前の少女も同じかそれ以上らしい。衝突は避けられないかと思った時、

 

「イオリ、待ってください!戦闘をしてはいけません!」

 

聞き覚えのある声が響く。

イオリと呼ばれた少女とともにそちらへ向けば、ユメがチナツを連れてこちらへ駆け寄ってくる。

もし戦闘が始まった場合に、風紀委員の後方戦力を叩いてかく乱してもらう手筈だったが、どうやらチナツを見つけたために方針を変えたらしい。

息を切らしたチナツは深呼吸をすると、イオリを含めた風紀委員に声をかけた

 

「皆さん銃を下してください!イオリも、先生が相手ならこの戦いはこちらにとって不利です。無駄な衝突は避けましょう」

「な、たかが2人じゃないか!こっちは1個中隊なのに!」

「外交的な意味もありますし、戦力としても不利です!」

 

チナツに一喝されて口を噤むも、彼女の顔には不満がありありと浮かんでいた。

 

「チナツか、直接話をするのは久しぶりだな」

「先生…こんな形でお目にかかるとは…」

 

困ったように眉をひそめる彼女にとっても、この状況は不本意なようだ。とはいえ、事情を説明してもらわなければこちらとしても対象はできない。

 

「事の経緯を説明してくれくれるか?知っての通り、私は筋を通さないものは好きではなくてな」

「はい、それはーー「私から答えさせていただきます」」

 

チナツの言葉を遮るように通信が繋がる。反応を見るに、風紀委員のメンバーであるようだ。

 

「こんにちは、シャーレの先生。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します」

「今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

ゲヘナの行政官、風紀委員のナンバー2である人物が状況説明をしてくれるというのであれば、一度話を聞くべきだろう。ユメと頷き合って続きを促す。

 

「自治区を超えて行動を起こした件については、私の方から謝罪させていただきます」

「皆さんも、銃を下げてください。無差別に銃を向けるべきではないですよ?」

 

その言葉に周囲の風紀委員たちは銃を下すが、イオリが喰ってかかる。

 

「なっ、私は命令通りにやったんですけど⁉アコちゃん⁉」

「イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですよね?」

 

アコの言葉にイオリは委縮したように小さくなる。

 

「失礼しました、とはいえ私たちゲヘナの風紀委員はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました」

「現場判断の結果として、近くにいる手配犯を逮捕するための行動であったとご理解ください」

 

彼女としては、現場の誤った判断としてこの場を収めようとしているのだろう。確かに事態を早急に鎮めるのには有効かもしれない。だがセイントは納得しなかった。

 

「だとしてもだ、他校の自治区で無許可に戦闘行為を行う理由としては到底納得できるものではない」

「そもそも現行犯ではないのだ、事前通告がないのは筋が通らない。もし現行犯だとしても、その処遇はアビドスが決めるべきことだとは思わないか?」

 

アコに対してセイントは毅然とした態度で問う。ここの問題を放置してしまえば、今後の自治区間の政治的問題にも発展しかねない。

 

セイントの態度にアコはため息をつく。その様子はやや大げさなくらいに心底面倒だという気持ちを表していた。

 

「困りましたね…どれだけ先生に力があるとはいえ、状況は理解していると思ったのですが、仕方ありません」

 

その声とともに、風紀委員たちが一斉に銃を構える。

 

再び一触即発の空気が流れーー

 

「うへ~、ずいぶんと大所帯だね」

 

のんびりとした、けれども威圧的な声が新たに現場に現れる。

見ればアビドスの皆、それに便利屋68が揃って駆けつけていた。

 

「大将は安全な所へ避難させたわ、事情も話して協力してもらったの」

「風紀委員だか何だか知らないけど、よくも柴関ラーメンを!」

「ん、タダでは返さない」

 

皆も風紀委員の越権行為には物申したいようだった。その光景にアコは更にため息をつく。

 

「はぁ、人数差はわかっていると思うのですが、大人がいるからでしょうか?」

「そこまでして便利屋を庇いたいというならーー「噓をつかないで、天雨アコ」ーーあら?」

 

カヨコが話を遮る。アコを見透かすように目を細めて言葉を紡ぐ。

 

「最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった、他の自治区にまで私たちを追う理由はないはず。そもそも非効率的で風紀委員長のやり方じゃない、あんたの独断的な行動なんじゃないの?」

「それに加えて過剰ともいえる戦力、想定していた相手は私たちでもアビドスでもない」

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

カヨコの言葉に、イオリとチナツも含めた全員がアコを見つめる。しかし彼女は自信に満ちた態度を崩さずに、まるで種明かしをするマジシャンのように話を続ける。

 

「ふふ、そうでした。便利屋にはカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたね…」

 

彼女は楽しそうに自身の狙いを明かした。

曰く、トリニティの生徒会『ティーパーティー』がシャーレに関する報告書を手にしたと。

曰く、シャーレは外部の大人が担当する正体不明の超法規的組織だと。

曰く、その存在はトリニティとゲヘナの今後に関わる条約にも影響を及ぼすのだと。

曰く、だからこそその条約締結まで先生の身柄を確保したいのだと。

曰く、便利屋への攻撃はそのついでだと。

そう語り終えた時、風紀委員の増援が到着する。シャーレとの衝突は意図的ではないと言っていたが、それにしては多すぎるというほどの戦力に、便利屋やアビドスの皆も焦りを見せる。

 

「ゲヘナの風紀委員は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その判断をすれば、一切の遠慮をしません」

 

脅しとも取れるその言葉を最後に、アコは微笑む。そこまで彼女の言葉を黙って聞いていたセイントがようやく口を開いた。

 

「犬の遠吠えはそれだけか」

 

あまりにも冷めたことばだった。しかしヘルムで見えない双眼が、普段は機械ながらに豊かな感情を向けてくれるその目が、ただモノを見るためだけのレンズとしてそこにあるかのような感覚。

 

「シャーレの自治区への介入能力の大きさも、その成り立ちの不透明さも認めよう。だが、君は私の何を見たのだ?そもそもシャーレの窓口は開いている。会談の場ならいくらでも設けよう」

「その連絡すら怠り、危険分子と決めつけての確保ときた、良いだろう。私を捕まえようという気概は認める。いつでもかかってくるといい」

 

「だが()()は何をしたのか、分かっているのか?」

「ついでなどという理由で人が住まう自治区に攻撃をしかけ、彼女達の憩いの場を奪った!穏やかな幸せの思い出が詰まった場所だ。治安維持を担う人物として風上にも置けん愚行だ!あまつさえその責を部下に押し付けるなど、恥を知れ!!」

 

セイントの怒りが響く、何人かの風紀委員はそれに委縮するが、それでもセイントは止めない。

 

「せいぜい高みの見物をすればいい、その場所が風紀委員の本部であろうが、私は全てを打ち砕いてそこにたどり着く!そして貴様の性根を叩き直す!」

 

「彼女の命令に異を唱える者は下がっていろ!この戦いに大儀はない!便利屋、アビドス!後方から囲う連中は任せる、広域に展開しているが層は薄いはずだ!」

「わかりました、先生とユメ先輩は?」

「正面の大隊を薙ぎ払う!少しばかりは痛い目を見てもらわなければならん!」

「…私も怒っているんです。フォローは任せてください!」

 

珍しく敵意をにじませた二人の様子に、任せたほうがよいとホシノのは判断する。

他の面々に向かって交戦許可をつげる。その時のホシノ目も、笑ってはいなかった。

 

「聞いた通り、ちょ~っとお灸をすえよっか」

 

 

 

そこから始まったのは、蹂躙だ。

セイントが正面の大隊の多くを吹き飛ばし、風紀委員の陣形が大きく崩れる。

散らばった武装をユメは拾い上げ、グレネードランチャーでさらに敵を押し戻しつつ残りの集団の中心に突っ込む。

わざと射線が交差する位置に常に移動しながら、ショットガンで、時には武器を奪って、時には設置されている爆弾を逆手にとって、相手を手の上で転がすように、全体像を把握して常に最善手を、打ち続けていた。

 

「第一から第三中隊、これ以上の戦闘続行不可!撤退します!」

「た、待機していた後方待機中隊!し、指示を…ッ!」

 

通信機から聞こえてくる声は、予想をしていたものとは程遠い悲鳴にも似た報告。合間にはあれほど在った戦力差をひっくり返す巨人(タイタン)の咆哮が聞こえてくる。

 

「風紀委員よ!命令に従うその気概と忠義に敬意を評そう!しかしこの戦いに君たちの目指す信念はないぞ!これ以上被害を出したくなければ大人しく引け!」

 

その言葉に、風紀委員たちは少しずつ戦意を失っていく。そもそもアコの思惑も聞いていた命令とは違う上に、セイントという規格外の相手をさせられているのだ、士気もさがって行くのも当然と言える。

アコは焦る。このままでは自分の思い描いていた計画の完了どころか、甚大な被害を被るだけになる。そうなれば結果は委員長の耳に届く上に、反省文どころでは済まない。何としてでも先生の確保だけは遂行しなくては、という気持ちが彼女にさらに間違った判断をさせる。

 

予備戦力をさらに投入して戦況を変えようと口を開いた時ーー

 

「アコ」

 

通信越しに、静かながらよく通る声が響き渡った




タイタンはトワイライトギャップでその名を轟かせた、その悪名を。

うーん、原作描写は短くしたいけどままならない
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