「アコ、今どこ?」
「ひ、ひ、ヒナ委員長⁉あ、えっと…ゲヘナ近郊でパトロールを…」
静かだが芯の通った声に、アコは見るからに焦っていた。周りから見ればバレバレな噓をつき、先程まであった余裕は消え去ってしまっている。
彼女の言葉からするに風紀委員のトップ、つまるところの上司からの突然の連絡に焦っているのだろう。
「思いっきり噓じゃん!」
「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね…」
その様子からカヨコの推測が当たっていたことを確信しつつ、今後の動向を見守る。風紀委員長の対応次第で今後の展開は大きく変わってくるだろう。それと同時にセイントはゲヘナの治安維持組織の長がどのような生徒かを見極めようとしていた。
「出張から戻られたのですね。えっと、い、今は少し立て込んでまして…」
「パトロールで?珍しいわね、何かあったの?」
返事は変わらず冷静で、淡々としている。アコが急いで話を逸らそうと口を開いたとき。答えを聞く前に彼女は言葉を続けた。
「他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?」
その声と共に、エンジン音が響く。
セイントたちと風紀委員の間に割り込むように、1台のバイクが砂塵を上げながらその場に停止した。見れば2人の少女がゴーグルを付けて跨っていたが、後ろに乗っていた少女が付けていたゴーグルを外しながら優雅とも思える所作で降りる。
「この状況、説明してもらえる?」
白い髪をひらめかせながら威厳をもって問う姿に、アコを筆頭に風紀委員全体がざわつき始める。
ときおり聞こえる「委員長、怒ってる?」「流石に不味くない?」という話し声を聞くに、彼女が風紀委員長のヒナという人物らしい。
「そ、その…これは素行の悪い生徒たちを捕まえようと…」
「確かに便利屋がいるようね、でも彼女達が何かをした報告は聞いてないけど?ゲヘナで事件を起こして追ってきたならともかくそうじゃないでしょ」
セイントと同様の正論をぶつけられた、アコは今度こそ黙ってしまった。
その様子にヒナは一つため息をつき、周囲を見回す。セイントたちを見て視線を止め、少し目を細めた後に声を発した。
「なるほどね、今後の私たち、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」
彼女は聡明なのだろう。すぐに現状を理解し、アコの思惑も当てて見せた。
「アコ、確かに彼らは不確定要素よ、でも私たちは生徒会じゃない。そういうのは万魔殿に任せておきなさい」
「詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎すること、いいわね?」
「…はい」
彼女の言葉に逆らうことはせず、アコは静かに通信を切った。これでセイントの身柄を確保するという目的で今後の戦闘をすることは無くなっただろうが、油断はできない。
こちらが彼女を注視していれば、警戒が伝わったのか自身の武器を背に回して担ぎ直す。
そうして何歩かこちらへ近づいて、おもむろに頭を下げた。
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎをおこしたこと、そして連邦捜査部シャーレに対しても武力行使をしたこと」
「ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナとして公式に謝罪する」
その行動に、形は違えど皆驚愕した。特に風紀委員たちは自分たちのトップが頭を下げているという事態に大慌てだ。
「風紀委員は全員この場から撤収させた上、今後このようなことはないと約束する。どうか許してほしい」
「ま、待って委員長!便利屋が目の前にいるのに…「イオリ?」あ、うぅ…」
ヒナの決定に異を唱えようとしたイオリは、少し視線を向けられただけで黙ってしまう。
一組織の長としての貫禄のある振る舞いにセイントは感心する。
誠意をもった対応をしてくれた上、問題を起こしたアコについての対応も彼女に任せて良いだろう。そう判断し、彼女の謝罪の言葉をもってこの場は収めてもよいと考える。
「わかった。連邦捜査部シャーレとして、その謝罪を受け取ろう」
セイントとしてはこれ以上事を荒立てることはないが、最後に決めるべきはアビドスだ。
そう思いホシノを見れば、判断を委ねられて皆の視線を一身に受けるホシノがいた。
「うへ~、そんな目で見ないでよ」とぼやきながら一歩前に出ると、いまだに頭を下げ続けるヒナに声をかけた。
「頭をあげてよ、風紀委員長ちゃん」
その言葉を受けて顔を上げたヒナに彼女は声を続ける。
「大将には別でちゃんと謝って欲しいけど、それくらいかな。お店の弁償とかは大将次第ってことで。委員長ちゃんが悪いとは思ってないし、こっちは怪我人もいないからね~。あ、便利屋は突き出した方がいい?」
冗談めかしてそう言うホシノの言葉に、ヒナの登場からどこかビクビクと落ち着きのなかったアルが途端に白目を剥く。「私が言えることじゃないけど薄情よ!」というアルに対して「それはそう」やら「恩を仇で返したの忘れてないからね!」など、やんややんやと騒いでいる。
「…むしろうるさくてごめんね~」
騒ぎを横目に苦笑いするホシノの様子を見て、ヒナは少し驚いた様子を見せる。
「以前のあなたを一方的に知ってたけれど、雰囲気が変わったわね」
「うへ〜、おじさんを知ってるの?」
「ええ、小鳥遊ホシノ。貴方の強さは2年前から有名だもの、それに…」
そう言葉を区切ると、ユメに目を向ける。少し目を細めて何かを迷った素振りをした後、何処か心配そうに続ける。
「梔子ユメ、あなたが行方知れずになったことも。チナツに聞いたときは驚いた」
「記憶喪失だったこともね」と付け足す彼女は、梔子ユメというアビドスの生徒会長がいたことを知っていたらしい。とはいえ一方的なもので互いの交流はないようだ。
「生きていたようで良かったわ」
ほとんど表情を変えなかったが、僅かに眉を下げて漏らすその言葉は安堵と優しさがこもっている。
そんな彼女は信頼に値する人物だとホシノや皆も認識したようで、先ほどまでのトラブルが今後の軋轢になることは無さそうだった。
そうしていれば風紀委員の撤収準備も完了したようで、一人の風紀委員と思われる少女が近寄ってくる。
白に近い銀髪のショートヘアに二本の黒く短い角を生やした少女は、確かヒナが乗せていたバイクを運転していた生徒だろう。
「委員長、撤収準備おわったよ」
そばに来た彼女の顔、そしてヘイローがよく見えた。そして細部に違いがあるが、そのヘイローによく似たものを知っている。
この世界でその形を初めて見たのはマイカのヘイローだ。初めて見たときは偶然似ているだけと思ったが、彼女の正体を聞けばその形はかつての世界で纏っていた
つまるところ、その少女のヘイローもガーディアンの相棒であるゴーストによく似ているのだ。
セイントが少女を見つめていることに本人もヒナも気づいたようで、2人は頷き合うと指示を待っていた風紀委員達に先に撤収するように伝える。そして改めてセイントに向き直り、提案をしてきた。
「いきなりで悪いのだけれど、時間をもらえないかしら」
新たに現れたゴーストのようなヘイローを持った少女、その正体は…?
ヒントは前書きです
基本的に原作沿いなので生存報告として投稿します、続きは少々お待ちください。