交差する運命   作:門の主トルネ

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「真実とは、面白いものだ。それは世界の中にあるのか?あるいは心の中か?」ーーサバスンーー


真実の探求

1人、小鳥遊ホシノは校舎から遠く離れたカイザーPMCの基地に足を踏み入れていた。

朝には一度登校していたが、ある人物からの連絡を受けて呼び出し場所に向かってみれば車が停められており、カイザーの兵士がこの場所へとホシノを案内したのだ。

 

黒服。ホシノが見た目から勝手にそう呼んでいただけだが、いつしか自身でもそう名乗るようになった人物は、いつもならこのような場所には呼び出さない。

そもそも今回の呼び出しも無視をするかユメ先輩、もしくは先生に相談しようと思ったが、奴はそれをしないように念押しをして来たこともあり、何かこれまでとは違うものを感じてこれに応じた。

 

案内をする兵士についていきながら、周囲を観察する。

カイザーはいくつも砂漠に拠点を作っているようだが、ここの設備はかなり本格的に用意されているようだった。

防衛のための設備、兵士、おそらく倉庫と思われる建物などが多岐にわたって存在している。

加えてその中にいくつか掘削用と思われる機材も見ることが出来た、マイカが言っていた「宝探し」というものは実際に行われているらしい。

 

そんなことを頭の片隅で考えながら、気づけば一つの部屋の中に案内された。

ここまで連れて来た兵士はすぐに姿を消す。他者に話を漏らさないようにしているのだろう。

 

少し息を吐いてドアノブに手をかける。

もし再び取引を持ち掛けられたとしても断るのは変わらない。なによりも大切な後輩たちに、帰ってきてくれた先輩もいるのだから。そう意を決して扉を開けた。

 

視線の先にはこちらに背を向けて窓の外を眺めている黒服。

そして、部屋の隅に佇む赤い不死鳥が描かれたアーマーを身にまとった大柄な男だった。

 

「…レジル・アジール?」

「おや、来ましたかホシノさん」

 

ホシノの声に反応して黒服がゆっくりとこちらに振り向く。

彼はホシノを見て、彼女がレジルの事を気にしているのに気が付いたのか、レジルの方を見やる。

 

視線を向けられたレジルは2人に少し顔を向けると、組んだ腕をそのままに小さな声で告げる。

 

「俺はお前たちの取引には口をだすつもりはない」

 

そう言うレジルの言葉に黒服も頷く。どうやら密接な協力関係というわけではなさそうだ。

 

「彼との取引はすでにほとんど完了しています。互いの世界の知識の交換以外では無関係です」

「ならなんでここにいるのさ?」

 

黒服の言い分が正しいのであればレジルがこの場にいる理由はない。疑念の目を向けてもレジルはだんまりを決め込んでいた。

その様子に黒服はやれやれといった様子で説明をする。

 

「彼はどうやらこの場所が気になっているようです。私がここに来ることを口実に同行してきた、といったところです」

 

その説明に満足したのか、レジルは窓の外に視線を移して掘削作業の現場と思われる場所を見つめていた。

彼が何を考えているのかは知りたいが、黒服が要件を離し始めたため意識をそちらに切り替える。

 

「改めて、ホシノさん。あなたに決して拒めないであろう提案を一つ…」

 

久しぶりだが、いつもと変わらない取引の誘い。アビドスの借金にまつわる多くの問題を解決できる甘美な誘い。

損得だけ考えれば、後輩たちの事を考えればそれがどれだけ大きなメリットなのかは理解している。しかし、今のホシノはその提案を受け入れようとは思えなかった。

後輩たちと一緒に奮闘する日々に感じる愛おしさ、自分たちを助けようと協力をしてくれる仲間も増えた。そして何より、それららの大切さを思い出させてくれた先輩が、傍にいる。

 

「何度も言ったはずだよ、ことわ「…という取引は今は置いておきましょう」…は?」

 

意を決して放とうとした言葉は思わぬ形で遮られた。

呆気に取られて黒服の顔を見れば、「クックック」とどこか悪戯が成功したかのように笑う。

その様子に眉をひそめれば、悪びれる様子もなく話を続けた。

 

「本来であればそうしたいところですが、そうも言えなくなってしまった、と言えばいいのでしょうか」

「どういうこと?」

 

黒服は少し目を細める。何かを考えるそぶりと同時に、言い淀んでいる様子だ。

常に余裕をもった雰囲気を纏う彼にしては珍しい。

 

「前提として私の目的はアビドス高校ではありません。カイザーの目的はともかくとして、私にとっては重要なことではありません」

 

その事実はホシノにとっては聞き捨てならないことだった。

今まで散々校舎を襲撃した来たというのに、今更何を言うつもりだと彼を睨む。

 

「私の狙いは初めから貴方だったのです、小鳥遊ホシノ」

「あなたというキヴォトス最高の神秘を手に入れ、研究し、分析し、理解する」

「そうしてこの世界の真理に、崇高へと手を伸ばす」

「それこそが私の目的でした」

 

それは堂々とした宣言だった。

自身の研究のためにホシノを使った人体実験を行う、それこそが黒服の真の目的。

 

「お前…ッ!」

 

ホシノは怒り、警戒心、敵意、その全てがないまぜになりながらも素早く自身のショットガンを構えて臨戦態勢を取る。

引き金に指をかけ、そのまま引いてしまおうかと逡巡した時、黒服のはゆっくりと首を振りながらホシノを制止した。

 

「ですが、今はそのようなことをするつもりはありません。信用することは難しいでしょうが、私としてもデメリットが多くなると理解していただければと思います」

 

「それに、」と黒服は続けながらゆっくりと部屋の隅に顔を向ける。

 

「そんなことをすれば先生や、()()怒りも買うでしょう」

 

そう言う黒服の視線の先には静かにハンドキャノンの銃口を一切のブレなく構えているレジルの姿があった。

ヘルムの向こうにある表情は読み取ることができないが、少なくとも黒服の目的には協力をしていないということは本当らしい。

 

「ご理解いただけたのなら、お二人とも銃を降ろしてください」

 

そう両手を小さく、しかしわざとらしく上げて見せる様子に渋々ホシノは銃口を下に向ける。とはいえグリップから手を離すことはなかった。

同じように銃を下げたレジルを確認すれば、黒服は説明を再開する。

 

「当初予定していたのは、神秘をもつホシノさんに対してその裏側、つまりは恐怖(テラー)を適用できるのか、そんな実験をするつもりでした」

 

神秘、そして恐怖。ホシノからしてみればそれが何なのかは分からない、とはいえ自身を対象とした実験の計画など聞いていて気持のいいものではない。

眉をしかめながらどこか楽しげに語っている黒服を見守っていたが、彼はそこで言葉を区切り声色を変えた。

 

「…しかし、その計画の根幹が揺らぎ始めました。それこそが先生と彼、レジルさんがこの世界に現れたことで、です」

 

それは一体どういう事だろうか?

確かに先生はキヴォトスの外から来た存在であり、並外れた力を持っている。それはレジルもそうだろう。

であれば黒服の計画の障害になる、というならホシノも納得ができる。

しかし根幹が揺らぐとは?

 

ホシノの疑問に答えるように黒服は話を続けた。

 

「私自身、このキヴォトスの外の存在であるという自覚がありました。だからこそ、このキヴォトスの神秘の探究を目的としています。ですが、キヴォトスの外についてをレジルさんに聞いた時に気がついてしまったのです。私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです」

 

ホシノはその言葉の意味がよくわからなかった。

確かにホシノも先生とユメ先輩の話を聞くまでは外の世界の実情などは知らなかったが、外の世界から来た黒服が知らないというのはどういうことなのか。

ホシノの困惑を感じ取ったのか、黒服はどこか自嘲気味に、それでいておかしそうに話す。

 

「おかしな話です、私はそれを知らなかったことに疑問すら覚えていませんでした。しかし認識すれば多くの問が私の中に生まれました」

「なぜ、外の世界を知らなかったのか」

「なぜ、私は神秘を研究しているのか」

「そもそも、神秘とはなんなのか」

 

黒服は大げさに言葉を紡ぐ。

その様子は自らが知り得ない未知が存在することに対して歓喜をしているようだった。

 

「私は自身の計画を根本から見直すことにしました。このキヴォトスの神秘についての再定義です」

 

自らの興奮を抑えるようなそぶりを見せながら、黒服は改めてホシノを見つめる。

 

「あなた方は意識していないかもしれませんが、このキヴォトスに住まう生徒たちには神秘を内包しています」

「神秘とは、抽象的な例えになりますが、生命体として、神としての格のようなものです。観測することは難しく、定義することも難しいものと考えていました」

 

神秘、それが自身に流れていると言われてもいまいちピンとこない。ましてや黒服が言うにはホシノ自身には最高の神秘が存在しているのだという。

見ることも感じることもできない価値について他者に語られたところで自分に関係があるのか、そもそもなぜ自分は黒服の話に付き合わなければいけないのか、そんなことを考えるホシノをよそに黒服の口は止まらない。

 

「ですが、それと酷似するようなものが存在したことがわかりました」

「それは圧倒的な破壊の力にも、壊すことの出来ない城壁にもなり、生命を不死に変えることさえ出来てしまうもの」

 

「すなわち、『光』です」

 

その言葉に、ホシノはすでに寄っていた眉間のしわをさらに深めた。

 

『光』

 

それは先生やレジルが振るう力。先生から教えられた話によれば、外の世界で『トラベラー』と呼ばれる存在が人類に与えたものだという。それを授けられた先生のようなガーディアンの強さについても、ホシノは目にしてきた。

 

そんな力が自分たちにあるとは、到底思えない。

ただの黒服の妄言なのでは?そう感じているのが伝わったらしく、黒服は説明を続けた。

 

「もちろん、『光』を見たからだけではありません。ですがその対極とされる『暗黒』の存在が、よりこの仮説を強固にしました」

 

『暗黒』

 

それは『光』ないしは『トラベラー』の敵であり人類を襲う脅威である。そう先生は言っていた。

 

「『暗黒』について、レジルさんから興味深い話を聞けました。

それは暗闇から囁き、意識を侵食し、感情をも塗り替える」

「それは神秘の対極にある恐怖と、とても似通っている」

 

なるほど確かに、似たようなものが似たような関係性で存在していれば、同一のものであるという可能性は高くなるだろう。

多少なりとも納得できる説明だ。ホシノが理解したところで黒服は改めて設定した目的を提示し、告げる。

 

「私はこの仮定をもとにこのキヴォトス、引いては世界の理解を進めるつもりです。そしてそれにはホシノさん、あなたのような生徒や先生たちとの協力が不可欠だと判断しました」

  

「…ずいぶん長い話だったけど、それで協力しましょうって言うつもり?虫のいい話だとは思わない?」

 

ホシノの憤りは当然のものだ、直接的な介入をしなかったにせよ、彼が協力していたカイザーがアビドスを何度も襲撃した事実は変わらない。黒服とてそれは自覚しているだろう。

だからこそ、ここで彼はこちらに対してメリットを伝え、取引を提案してくる。そうホシノは確信していた。これまでに借金の肩代わりを申し出たように。

 

そしてその想像どうり、黒服はこちらに取引を迫ってきた。

 

しかしそれは、ホシノが考えていたようなメリットの提示ではなかった。

 

「もちろんこれまでの迷惑料も払いましょう、ですが私の探求は貴方にも…貴方に関わる人々にも関係するものです」

 

「このキヴォトスにある暗黒の危機への対策、という想像しにくいものの話だけではなく、です」

 

「貴方の先輩、先生と共にこのキヴォトスに帰って来た『梔子ユメ』」

 

その言葉に、ホシノの眉はピクリと動く。

 

「不思議なものです。貴方という神秘をかつてより観測していたのでもちろんその存在は知っていました。同時に、とても弱い神秘をもつ生徒だと特に気にもしていなかったのですが」

 

「それが、どういうことでしょうか?『先生』と共に強い神秘を宿して帰ってきました」

 

「…なにがッ、言いたい、」

 

ホシノの心臓が激しく動いたような、そんな錯覚を覚えた。

 

いや、もしかしたら本当に動いたのかもしれない。

 

そう感じるくらいには頭の中にうるさい音が響き、嫌な予感が汗として肌から噴き出す。

その後の言葉を聞いてはいけないと理性が警鐘を鳴らすが、黒服の口は止まらない。

 

「確かにあの時、彼女の神秘は観測できなくなりました、それは紛れもない事実です」

 

やめろ

 

「であれば」

 

やめろ

 

「梔子ユメは死んでいるはずです」

 

やめろ

 

「あの梔子ユメは、いったい誰なのでしょう?」

 

 

「ふざけるなッ!!」

 

慟哭とともに引いた引き金は確かに撃鉄を動かし、弾丸を放った。

その弾が黒服を撃ち抜かなかったのは理性が残っていたからか混乱からかはいまのホシノには判断がつかない。

 

「あの人はユメ先輩だ…ッ、だって、だって…!」

 

そうだ、以前と変わらない優しくて、お人好しで…

でも、その『前」を先輩はしらない、覚えていない。

 

それでもあの声は、抱きしめてくれる腕は同じで、

 

 

一瞬の気持ちの揺れ、少しの疑いが心に生まれた時、何かの()()が聞こえて来た。

 

 

『お前を知らない先輩は、おまえのせんぱいじゃない」

 

 

ちがうちがうそんなはずはない、あのひとはユメせんぱいだ、きおくがなくなってもかわらないせんぱいで、

 

ぐるぐるグルグルと思考と共に視界が回る。気持ち悪い、もう聞きたくない、考えたくない

 

 

うずくまり始めたホシノを黒服は落ち着いた様子で見つめる。ホシノ自身にも梔子ユメを疑う心当たりがあったのだろうか、そう思案した時だった。

 

バタンッ!!!

 

大きな音と共に部屋の扉が開かれた

視線を移してそちらを見れば肩を揺らしたカイザーPMC理事の姿がある。何かあれば連絡をとは伝えていたが、同時にこの部屋には立ち入らないようにも言っていたはずだ。

 

理事に現れた理由を問おうと口をく、その時に大きな変化が起こった

 

理事は雄たけびを挙げながら体を大きくのけぞらせる。

彼自身の影からまるで体全体を覆うように黒い木や枝が伸びてくる。

 

それは彼の体を隠しながら長い手足を形成し、新たな頭部、というよりは光を放つスリットのようなものが刻まれた帽子のようなものを作り上げた。

手には同じく影より作られた大きな鎌をもち、黒服でさえも感じる恐怖を振りまいた。

 

「まずい!離れろ!!」

 

ここまで口数の少なかったレジルが叫ぶと同時にソレは跳びあがる。

 

混乱しきった思考をホシノが戻した時には、自身と黒服、レジルの丁度中心点にめがけて着地をし、衝撃を飛ばしてくるソレの姿と。

 

 

衝撃と共に意識が白く吹き飛ばされた感覚だった





少し長くなってしまった黒服の説明、アビドス2章のラストへ向けてスパートをかけていきます

記憶を失ったもの、destiny本編ではゴーストによって呼び起こされたガーディアンは等しく記憶を失っています。
そしてそれはシティが長く続いてきたことで新たな問題が発生する可能性を高めていました。
最新のDLCの反逆ではかつて死んだ母を灰にして墓に埋葬していたところをゴーストが復活させ、ガーディアンにするという事案が発生しました。
その見た目も、声も、かつて生きていた人物のそれのままです。ですが、記憶は存在しない、
生き返った母を見た少年は母へ駆け寄り、その体に抱き着きました。母のぬくもりを求めたからです。
しかし、その母だったガーディアンはうっとおしそうに少年を引き剝がし、地面へと投げ出しました。かつて母だったその人物からは冷たく、まるで未知の片隅にあるゴミを見つめるような目で見られ、そのやり取りを見ていたゴーストは少年を罵りました。
少年は深く傷つき、自身の母を眠らせてくれなかったゴーストにも、慣れの果てであるガーディアンをも憎むようになりました。

もしあなたは、自身の知る人物が、何も覚えてないと言ってきたら、あなたはその人物をどのような存在としてあつかうのでしょうか?
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