交差する運命   作:門の主トルネ

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「暗黒をふさわしき場所へ」ーー予言者ーー


愚か者たち

__ぼんやりと、しかし明瞭な光景が見える

 

砂嵐の向こうに、大好きな背中が消えていく

 

__叫びが聞こえる、それは自身の口から発せられていると、他人事のように思う

 

名前を呼ばれても、その背中は振り返らない

砂漠の中なら目立つはずのシアンの髪がかすれていく

 

__手を伸ばしても空を切る。肉の筋がちぎれるような音をたてながら、それでもと手を伸ばす

 

手が何かに触れる。それが彼女だと信じて握りしめ、たぐり寄せる

そのまま今度こそ手放さぬようにと掻き抱く。しかし、肌に熱は伝わらず、かさりという潤いのない音が聞こえてきた

 

__それは枯れていた。滑らかな肌はひび割れ、痩せこけ、目はくぼんでまるで洞のようだ

 

息ができなくなる。砂が喉を傷つけるが、その痛みももはや分からない。

頭を、顔を掻きむしり血が垂れてくる。しかして慟哭はやまず、私の視界は暗闇に呑まれる。

 

__自身の叫びが反響する頭の中に、はっきりと『囁き』がきこえた

 

 

「 こ れ が 真 実 だ 」

 

 

 

 

「あああああァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」

 

夢の中と区別のつかない叫びを上げながら、しかし確かにホシノの意識は覚醒した。

頭に酸素が足りないのか、少しながら明瞭さに欠ける視界には洞窟のような光景が映る。

洞窟とはいってもある程度整えられており、光源も設置されている。

 

息を整えながら、少しずつ現状の理解に努めようとした。

自身は薄い寝袋の上に寝かされていたようだ、軽く体の感触を確かめるが外傷などはない。

また、側を見れば愛用する盾と銃も置かれている。誘拐や拘束されているわけではないらしい。

現状に至るまでの経緯を思い出そうとしたとき、彼女に声がかけられた。

 

「目が覚めたようだな、小鳥遊ホシノ」

 

声の方向を見上げれば、赤く、形に棘のあるアーマーを身に纏った大柄な男がそこにいる。

 

「レジル・アジール…」

 

彼はホシノの側に膝をつきこちらの様子をうかがう。どうやら敵意はないようだ。

 

「特に目立った外傷はないように見えたが、大丈夫か?」

 

彼との会話は少なく、何処か読めない男だと思っていたが、その声色は心配気味だ

 

「…問題ないよ、大丈夫。助けてくれたの?」

 

周囲を見渡しながらそう尋ねる。状況として彼がホシノを助けたことは間違いない。

しかしこの場所がどこかは彼女には思い当たらない。

ホシノの疑問に気づいたのか、レジルはそれについても答えてくれた。

 

「助けた…とは言えんな。アレに襲われて離脱したは良いが、ここはカイザーの掘削区画の一つだ」

 

どうやらここはまだカイザーの保有地であるらしい。

情報としては知っていたが、本当に大規模な地下調査を行っていることがうかがえる。

レジルは私を運びながらこの場所に逃げてきたのだろうか?状況が許さなかったのかもしれないが、カイザーの勢力圏から逃げたほうが良かったのではないかと少し考える。

しかしその疑問はレジルの続く言葉によって答えれる。

 

「周囲に兵が多かったこともあるが、この場所から離れるわけにはいかなかった。すぐにでも調査をしなければ、手遅れになる」

「お前も見たはずだ、怪物と化したカイザー理事を」

 

その言葉に思い出す。

理事を飲み込んで現れたあの影は、紛れもなく恐怖そのものだった。

迫りくるソレに対して、自身はとっさに防御をすることができなかった。しかし最低限その衝撃を逸らそうと後ろに飛び退こうとしたはずだ。けれどもホシノは衝撃を感じる前に意識を失った。

 

アレには単純な力だけでは説明できない何かがある。そうホシノは直感的に理解していた。

 

「アレは、何だったの?」

 

私の問いにレジルは小さく唸ってから答えた。その声色は険しく、しかし自信を持ったものだ。

 

「暗黒だ」

 

「なぜ理事を取り込んだのか、アレにどのような力があるかはわからん。しかしアレと対して確信した」

 

「理事は間違いなく、暗黒に呑まれている。恐怖か悪意か、それに近い感情を利用して理性を奪ったのだろう」

 

レジルの言葉は確信を得ているかのようだった。まるでそれをよく知っているかのように。

 

「どうする気なの?」

 

そう問えば彼は立ち上り、自身の銃を見た。

 

「あの理事を暗黒に陥れた存在がいるはずだ、この砂漠の地下のどこか、恐らくカイザーが調査していたこの現場のどこかにある。それを打ち砕く」

 

「今もなおこの暗闇から何かの囁きが聞こえるのだ、根本を絶たなければこのキヴォトスはいずれ危機に陥るだろう」

 

「悪いが君にもついて来てもらう、暗黒と何処で接触するかわからん」

 

彼はこの地下を探索し、脅威の根源を対処するつもりのようだ。そして私を帰すつもりはないらしい。とはいえ悪意からではなく、暗黒の脅威から守るためのようだ。

 

少しばかり考える、彼にはアレからどれだけの時間が経ったのか、外の状況はどうなっているかなど問いただしたいこともある。そして何より気になってしまうものがあった。

 

それは彼が幾度となく口にしたもの、意識を失った時に聞いたたもの。

あれはただの夢だと、切り捨てることはできなかった。

 

無慈悲で恐ろしいあの言葉を言い表すなら__

 

「私も、その囁きを聞いたかもしれない」

 

私の口からこぼれた言葉に、レジルは勢いよく振り返る。

ヘルメットの向こうの顔はうかがい知れないが、驚愕していることは間違いないだろう。

 

「アレはただの夢じゃない、それよりもずっと、怖かった」

「囁かれたのか!?」

 

彼はやや乱雑に肩を掴んでくる。その声にはどこか警戒の色がにじんでいることから、暗黒に囁かれることは相当に恐ろしいことのようだ。

 

「大丈夫、夢でちょっと聞いただけだよ、なんともない」

 

そう告げればゆっくりと手を離してくれた。「何かあればすぐに言え」と告げるからにはこちらを心配してくれているのだろう。暗黒とはそれほどまでの脅威なのだということだ。

 

ただ、先生たちから話を聞き、実際に相対したとはいえレジルの恐れようはどこか他の人とは違うように感じる。

 

「…どうしてそんなに、暗黒を恐れているの?囁かれることは、そんなに危ういことなの?」

 

その問にレジルは一瞬言葉を詰まらせた。

静寂の中に彼のグローブがきしむ音がする。強く握られた手は、怒りに震えているようだった。

 

「暗黒は我々の意識を塗り替える。精神に複雑に絡み合い、感情を動かし、本能を呼び覚ます」

 

「そしてそれらは力となって顕現する。誰に与えられたものでもない、自身の内から湧き上がるそれは強大だ」

 

「しかし、その力を制御する理性も、同時に失われるのだ。一度それに呑まれてしまえば、誰であろうと破滅を招く」

 

「その先にあるのは、死と恐怖なのだ」

 

他に人影も音もないこの空間に響き渡るのは彼の怒りか不安か、それとも、

後悔だろうか。

 

まるで巻き戻らない過去へと向けたようなそれに、ホシノはどこかデジャブを覚えた。

 

ああ、それはあの時、取り返しのつかない間違いをした私のようじゃないか。

 

 

きっとこの人はその先を、行きつく果てを知っている。

そしてそれを阻止するべく歩んでいる。

 

 

彼の過去は知らない。先生と同じ世界から来た、けれども先生とは大きく違う人。

 

それでも、信用していい気がするのだ。

 

彼は、私や皆を助けてくれる人だと、なんとなくそう思うのだ。

 

「…わかったよ」

 

ホシノは自身の盾と、銃を確認する。不具合はなさそうだ_

 

息を吸い、ざり、と足を鳴らす。

伺いしれない彼の視界に入り込むように、眼前に立って彼のヘルムを見上げる。

 

「私も、アイツを放ってはおけない。砂漠の外に出たとしたら、皆が危ない」

 

彼も私も同じなのだ。

過ちを繰り返さないように、自身の過去からしか学べない愚者だとしても、今度こそと足掻くのだ。

 

「アイツを倒す。手を貸して」

 

私の言葉も、覚悟も、わかるはずだとレジルを見やる。

 

彼は短い沈黙の後、口を開いた。

 

「いいだろう」

 

言葉は少く、彼は背を向けて洞窟の奥を見据える。

カチリと小さな音と共に銃を構えた様子からは、ピリピリとした圧を感じ取れる。

 

ホシノもあえて答えることはせずに、盾と銃を構えてその横に並び立つ。

 

「暗黒の影響を受けている可能性がある、接触した兵士は全て意識を奪え」

「通信装置があれば破壊しろ、暗黒の蔓延を遅らせる」

「使えそうな爆薬があれば可能な限り回収しろ」

「根源を発見次第、破壊あるいは封印をする」

 

一瞬だけ、彼がこちらを見た。

 

「わかった」

 

小さく頷き、短く答える。

これだけで十分だ。

 

即席のファイアーチーム作戦が、始まった。





愚者は経験に学ぶ


気が付いたら1ヶ月も経過してしまいました。今年度中にアビドス2章を終わらせるつもりですが果たして間に合うのか不安です。

レジル・アジールは暗黒を使い、そして理解していました。
Destiny本編では彼の死後に表れ、彼の思想を学んだとされる「ヨルの影」と呼ばれる集団が存在します。
そちらの解説はまた別の機会に、今後も楽しみにしていただけると幸いです。
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