交差する運命   作:門の主トルネ

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「今すべきは、この瞬間の喜びを嚙みしめることね」ーーイコラー


エピローグ

怪物を倒したためか、暴力装置と化していたカイザーPMCの兵たちは徐々に正気を取り戻していった。

同時にこれまでの自身と理事の行動、そして基地の被害に困惑をしていたが、狂気に陥っていた理事が無力化されたことからこちらの交渉に応じ、基地内外の戦闘は終息した。

 

セイントとレジルは倒れた理事が意識こそないものの死んではいないことを確認し、死者がいないことに安堵する。

 

 

「ひとまずは、終わりか」

「ああ、そのようだ」

 

 

鳴り響いていた銃声や爆発音は鳴りを潜め、少女たちの声が聞こえてくる。

 

治ってこそいるようだが、大きな怪我をしたと思われるユメは涙を流しながら抱きつくホシノの背中をゆっくりとさすりながらなだめている。

 

全域のオペレートとヘルメット団の監督をしていたアヤネも合流し、アビドスの皆もそれに加わった。もみくちゃにされた2人はは慌てるが、その顔には笑顔が浮かんだ。そして皆もそれにつられて笑う。

 

そんな少女たちを見て、セイントも笑みをこぼした。

 

「決着をつける機会を逃してしまったな」

 

レジルはそうぼやく、確かにこれからクルーシブルをするといのはいささか場違いだ。

そして既に2人もとうにその気分ではない。

 

「今更、そんなものは必要ない」

 

セイントはそう言ってレジルに向き直る。ヘルムはもう必要はない、今は顔を見せ合って話したかった。

レジルもそれにならい、ヘルムを外した。その視線は少しばかりうつむき気味だ。

しかしセイントは気にせず言葉を続ける。

 

「お前は間違いなく私の友だ。お前が罪人だろうと、世界を跨ごうともその絆は変わらない」

 

その言葉にようやくレジルは顔を上げた。

少しばかり苦虫を噛んだようなその様子は、セイントの言葉を受け入れてよいのかを悩んでいるようだ。

 

「お前の過去も、罪も、話したいなら話せばよい。何時でも付き合おう。だがそんなものよりも重要なことがある」

 

そんなもの、とレジルは反論しようとした。

しかし、それをかき消すような大きな声が彼らを呼んだ。

 

顔を向ければ、そこには作戦を終えて合流したマイカに便利屋、ヘルメット団の姿だ。

 

彼女たちはセイントと、そしてレジルの名を呼んだ。

その表情は晴れやかな笑顔だ。

 

「お前は彼女たちを導いた、かつての偉業にも劣らない大きな勝利だ」

 

この気持ちは、久しぶりだ。

シティを守る戦いを超えた時に仲間たちと分かち合ったもの。

もう二度と味わうことはないと思っていたもの。

 

——あぁ、悪くない

 

レジルの口は僅かに弧を描いており、その様子にセイントも満足する。

 

「勝利の美酒でもあれば、口が回るかもな」

 

ずいぶんと遠回しな、しかし確かに話す意図を伝える言葉にセイントは背中を叩く。

 

「素直じゃない奴め」

 

互いに笑い、手招きしている少女たちの元へと歩みを進めた__

 

 

後日_

 

アビドスを取り巻く環境はいくらか変わった。

 

作戦を終えてマイカが呼んだSRTやヴァルキューレによってカイザーPMCの多くのメンバーが拘束された。

ほとんどの被害は基地とその周辺に限ったものだったため、その拘束は一時的なものになる予定だったが、マイカの独自調査や黒服の紹介でカイザーの仲介役として雇われていたレジルがもたらした情報により、カイザーPMCならびカイザーローンにいくつかの違法取引の記録や犯罪行為などが明るみに出たことで理事を含む一部の上層部はそのまま逮捕、調査の流れになるという。

 

その中には連邦生徒会内部を騒がせる情報も存在したが、カイザーグループを問いただしても子会社が独自で行っていたという返答をされ、トカゲの尻尾切りによってその真相の全ては明るみにはならなかった。

 

しかしそのタイミングでPMCの所持資産が整理される流れとなり、黒服の協力を経てアビドスの一部地域の所有権をアビドス高等学校が保有する流れとなった。その土地はこれまで黒服の依頼で調査が完了したものに限られるが、それでも広大な土地に変わりはない。

 

黒服いわく、これまでアビドスとホシノに対してかけた迷惑料とのことだ。

 

無論、その程度でユメや他の面々の不満と怒りは消えなかったが、貰えるものはありがたくもらうというホシノの言葉と今後の協力、調査完了後の土地の返還の約束で一度手打ちとなった。

 

また、拘束されたカイザーPMC理事に対して取り調べを行ったところ、アビドスへの度重なる嫌がらせが失敗している最中に地下の像を発見。その掘削区画の整備を視察した時からの記憶が曖昧だと供述した。

しかしそれは言い逃れのためではなく、何かを恐れて震える様子から精神的な治療が必要と判断され、現在は経過観察を行っている。その症状は地下にいたと思われる作業員たちを中心に従業員にもいくらか見られるため、そちらもあわせて様子を見ていく必要があるそうだ。

 

その地下の像については、今後もシャーレ主導のもと黒服を協力者として監視・調査を行っていく運びとなった。

 

彼曰くその像から発せられる『囁き』は電磁波に似ているとされ、抑制は可能だということだ。

 

一度セイント、レジル、ユメ、ホシノの4人がその像を確認したが、抑制された状態でも背中に爪を立てられているような痛みと不快感を覚えた。

この像、そして暗黒が存在する理由とその影響は未知数だが、今後の脅威への対策が判明することが期待される。

 

そして新たに発見されたものの調査も必要になった。

 

それはユメが目覚めた『光』の力。

トラベラーの恩恵を得られなければ使えないはずのそれを彼女が扱ったことだった。

 

彼女いわく、あの怪物――後にトーメンターと名付けられた――に傷をつけられた時に内側から湧き上がってくるような感覚があったようだ。

 

彼女は恒星の炎(ソーラー)を身にまとった。

かつてセイントの愛する人であり、類まれなる研究者(ウォーロック)であるはその力をこう表現した。

 

『ソーラーは太陽の力を利用し、同時にそれに頼ることを意味する』

『だが操るには、この恒星の二面性を理解しなければならない』

『その核融合の力は、愚かにも近づいた全てを焼き去るが…それは治癒の力にもなり得る』

 

ユメはまさしくその言葉を体現していたと言えるだろう。

炎は彼女の傷を癒し、そして暗黒を焼いた。

 

その扱い方はセイントの世界のウォーロックたちが使うものに似ている。

ラディエンス:ファイアボーンと体系化されたそれはゴーストの補助を得ることなく自らの命を点火し、一時的に回転数を飛躍的に向上させる技術だ。

 

彼女がその能力を開花させた理由について、黒服は幾つかの情報と推論を述べた。

 

 生徒たちには『神秘』を内包し、それは『光』と似た、あるいは同じものだと。そして生徒であるならば個人差はあれど『光』を扱える可能性を秘めているのではないか、と。

 

 そしてユメの能力の方向性はその『神秘』の特性によるものだと。それは世界に存在した神の権能、今や忘れられた神の残滓。その神性の名を『オシリス』と言う、と。

 

あまりにも突飛な話でユメも半信半疑であり、以前に聞いていたホシノも懐疑的ではあったが事実としてユメがその力を扱えたのだ、その他にもかつてゴーストだったとはいえマイカやルナなどその一端を扱う生徒が存在することから、今はその過程で調査を続けていくしかなかった。

 

ユメに宿る神性、その名にどこか運命的なものを感じつつセイントはユメに光の扱い方を稽古することとなる。それはそれは過酷なものだったということはまた別の話だ。

 

 

アビドス高等学校にまつわる変化はもう一つある

 

 

それは今回の作戦に参加してくれたカタカタヘルメット団を生徒として迎える手続きが進んでいるということだ。

リーダーを含めて当人たちはそれを断ろうとした、かつて校舎を何度も襲撃した自分たちがとホシノたちに伝えたが、彼女たちはそれでも考えてほしいと返した。

 

今回のホシノ救出にはレジルの指示があったとはいえヘルメット団の協力がなければ決して成功しなかった。それ以前にセリカの誘拐をある意味で防いでくれた実績もある、受け入れるには十分だと皆は判断したようだ。(余談だが、襲撃を恨むなら便利屋をゲヘナに突き出しているとのことだ。アルは白目を向いた)

 

レジルとセイントもその背を押した。他ならぬヘルメット団の皆が自ら紡いだ絆だと。

 

皆で話し合い悩みぬいた後に、おずおずと彼女たちは差し伸べられた手を取る事に決めた。

今はアヤネからの手続きをシャーレづてに連邦生徒会に通している。もう少しすれば彼女たちは正式にアビドスの生徒だ。ここ最近はその準備として砂に埋もれている教室を皆で掃除しているという。

 

他の協力者たちの話をしよう。

 

便利屋68はDU地区に借りた事務所を本格稼働させているらしい。襲撃を受けたカイザーの元兵士などから武勇伝が伝わったらしく多少なりとも箔がついたことで依頼も問題なく舞い込んでいるようだ。マイカが「言った通りだろ?」と得意げに笑っていることにはアルは感謝しつつも何か言いたげだった。

また、マイカは何度も事務所に顔を出しているらしい。SRT生がグレーな便利屋の傍にいてよいのかとも思ったが、ブラックマーケットを出入りしている時点で今更だとのことだ。アルも最初は小言を言ったが「治安組織と裏で繋がってるアウトローって映画みたいだよな」という言葉にまたしても乗せられていた。そもマイカを嫌っているわけでもなければ作戦の時に見せたゴールデンガンの狙撃に目を輝かせていた彼女には時間の問題だったかもしれない。

 

 

作戦の狼煙、最初の花火を打ち上げてくれたヒフミはホシノの無事の知らせをうけて自分の事のように喜んでいた。トリニティ生という立ち位置上今回の一件に関わりはないとされているが、私的な付き合いは今も続いているようだ。

先日もアビドスの校舎を訪れて対策委員会の面々とともに談笑をしていたらしい、ここ最近は初めて出会うヘルメット団の人にぺロロ様グッズを布教しているとかいないとか。

 

 

ゲヘナ風紀委員の面々は今回の件に対してこれ以上深く介入するつもりはないようだ。

ホシノとヒナなどをきっかけ今後は交流を深めるかもしれないが、あくまで組織としてはノータッチというスタンスを取るようだ。

『暗黒』の問題はルナと彼女を通してヒナにも随時報告がいくため有事の際は協力してくれるだろう。加えてヒナは調査結果によっては生徒会である万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の羽沼マコトへ報告が必要かもしれないと言っていた。その時はシャーレも同席することになっている。

 

 

 

こうしてアビドスで起こった一連の出来事はひとまず幕を閉じた。

今日はその作戦に参加したものたちがアビドス高等学校の校庭に集っている。マイカやヒフミ、そして全員くることは叶わなかったが風紀委員からはヒナとルナまでだ。

ちなみにヒナが来るとは思っていなかったのか便利屋は流石に驚いた様子だったが、ヒナいわく「今日は友人に呼ばれただけ」ということで彼女たちには手出しをしないと約束をしたためほっと息を撫でおろしていた。

 

校庭の中心では対策委員会と大将が引っ張ってきた屋台がある。

あの時に店は壊れてしまったが、柴関ラーメンは屋台から再出発をすると大将は笑っていた。

引退も一度は考えたらしいが、セリカたちの言葉で考えを改め、新たに加わるアビドスの皆を支えていくつもりらしい。

しかしながら、勝利の宴とはいえラーメンが適しているのか、そしてそんな大盤振る舞いをする大将はやはり商売が下手なのではないかという疑問がでるが、それをかき消してしまうほどここに集まる皆は笑顔だった。

 

また、しぶしぶといった形でこの場に訪れたレジルもセリカの誘拐を伝えるために店に来店したことを大将に覚えられており、今回の功労者だと教えれば感謝の言葉と山盛りになったチャーシューがレジルのどんぶりを埋め尽くした。

ここに来て珍しい呆けた様子を見せたレジルだが、大将に礼を告げた後に自身を呼ぶヘルメット団の元へと向かって行った。

 

そんな宴を、セイントは静かに眺めていた。

困難な戦いだった。しかしそれでも、この場にいる全員が力を合わせて勝利した。

この勝利は数々の伝説的な戦いを繰り広げてきたセイントにとっても代えがたいものだ。

 

未だに懸念が残っていないわけではない。『暗黒』がこの世界に存在した以上、予断を許さない状況であることに変わりはないのだ。

 

そして、セイントやレジル、かつてゴーストだったマイカやルナたちがこの世界に招かれたことが何か大いなる意思によるもののような、そんな作為的なものを感じているのだ。

 

そう物思いにふけっている時、セイントの隣に影が落ちた。

 

「セイントさん、お隣いいですか?」

 

先程まで輪の中心にいたユメが声をかけてくる。セイントが頷くと彼女はゆっくりとその隣に腰をおろした。

 

「なんだか、夢みたいです」

 

楽し気な皆をみてユメはそう愛おし気につぶやく。

普段の明るい彼女の様子で忘れがちだが、彼女の持つ記憶と経験の中ではこの様な出来事は無い。

 

セイントに出会い、世界を超えて、新たにできた友達

 

「本当に、みんなでここにいることが嬉しいんです」

 

もしかすれば、それが大切なものが失われるかもしれなかった。

ユメ自身、死の淵をさ迷いかけたのだ。それはどれほど恐ろしいことなのだろうか。

 

今日に至るまでに、ユメが『光』に目覚めるきっかけについて、彼女の怪我についてセイントは一度だけ謝罪をしようとしたことがあった。一歩間違えれば彼女は死んでいた、その責任のために。

 

約束をした筈なのに君を守れなかったと、それを守れずして何がタイタンか、何がガーディアンかと。

 

そう言葉を紡ごうとして、ユメはそれを許さなかった。

初めて出会ってすぐ、稽古をつけてもらった次の日にセイントのゴースト、ゼペットに言われた言葉を彼女は胸に刻んでいた。

 

『私たちは戦友になる』

 

自身は守られるだけじゃないと、共に考え、支え合い、未来に向かって進むのだと。

 

マイカから聞いたという、カバル大戦の折にかつてセイントに助けられたシティの人々が故郷を取り戻すために立ち上がって戦ったことを、同じくセイントの背に憧れた者として目標と誇りにしていると。

 

彼女はなんと頼もしくなったものか、それに対して自身はなんと無礼なことを言おうとしていたのだろうか。

セイントはその時、改めてユメとの出会いに感謝した。

 

「ならば共にこの今と未来を守っていこう。頼りにしているぞ、ユメ」

 

「はい!!」

 

そう言う彼女の顔には、太陽のような笑顔が咲いていた。

 

 

 

 

 

「ユメせんぱーい!!、先生もこっち来て!!」

                「しばらくは別の学区行くんだっけ?」「えぇー寂しいー!」

 「依頼は何時でも待ってるわよ!」

 

        「お、なら今度時間をくれよ。レジル、お前もだからな!」

           「ていうかレジルの肩元々刺々しかったのに折れてて余計に危ない!!」

「なら百鬼夜行に紹介する、いい鍛冶屋がいるよ」

 

 

宴もたけなわ、子供の体力は戦士に劣らず。まだまだ笑い声は収まらない。




これにてアビドス2章、本当の本当に完結です(n回目)

さて、これからはパヴァーヌ…ではなくしばらくはオリジナルの間章が続きます!
マイカが紹介すると言った他の元ゴースト生徒たち、腕の良い鍛冶屋とは?レジルにも関わる用事とは?
このタイミングでは関わることのなかった生徒とも関わることになるかもしれません。
次回も楽しみにお待ちください。



DestinyのNPC、オシリスがソーラーを含む属性についての見解はDLC「光の超越」にて確認ができます。この広大な宇宙を構成する要素がどのようなものか、Destinyの設定を深く調べてくるとなかなかに面白い話を見ることができます。
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