交差する運命   作:門の主トルネ

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「私は君たちと共にいる」ーーセイント14ーー


間章〜小さき光のダンスカップル〜
大鎚太陽堂


 セイントとユメ、そしてレジルは百鬼夜行の街を訪れていた。3人ともこの学区に足を踏み入れるのは初めてだが、今回はシャーレの仕事というわけでもない。

 今日の用事は、セイントとレジルのアーマーの鍛えなおしをするためだ。もとよりこのアーマーは通信機能などの電気的な機能も備えた高性能なものだが、同時にその外郭も相応に高い技術で作られている。それはセイントたちの世界にかつてあったとされる黄金時代の技術を掘り起こしたものだったりもするわけだが、それ以上に大切な要素がある。

 

 それは『光』によって鍛え上げられているということだ。

 

 セイントたちが自身の力を最大限に発揮できるように作られたそれらは、本来この世界では作ることは不可能だ。レジルのアーマーは先日のトーメンターとの戦いで破損し、肩に存在していた大きな棘が折れてしまっている、はっきり言って近づくだけで怪我をしかねない。レジルはこのキヴォトスで入手出来る装備でどうにか解決しようとしていたようだが、そこでかつてのゴーストたち、マイカやルナがとある鍛冶屋を紹介してきたのだ。

 

「ここみたいですね」

 

 地図を見ながら先導していたユメが足を止めて1つの建物を見上げる。この街並みの端に建っていたのは他の店舗よりも少しばかり大きなものだ。

 

【大鎚太陽堂】

 

 そう看板の掲げられたこの店は百鬼夜行のみならず知る人ぞ知る鍛冶屋らしい。何人か料理を趣味にする生徒はここで作られた包丁の使い心地を絶賛していた。職人の生徒は数名いるそうだが、率いている生徒が元ゴーストの生徒であるらしい。どの様な人物かはあってのお楽しみとのことだ。

 3人は頷き合うとすぐに扉に手をかけた、早く会ってみたい気持ちもあったがそもそも道に大男2人がいるだけで目立つのだ、変なトラブルが発生する前に入ってしまった方が良いだろう。

 

「ごめんくださーい!」

 

 中に入ったユメがそう声を上げる。店内には包丁や農具などの刃物から銃火器なども飾られており壮観な眺めだったが肝心の人影は無かった。少し首をかしげるが、見れば受付と思われる場所に「現在作業中!用事があれば奥の作業場まで!!」との札が立てかけられていた。視線を動かせば方向を示す矢印が書かれており、微かにではあるが鉄を打つ甲高い金属音が聞こえてくる。3人はそれに招かれるように奥へと足を進めた。

 

 カーン、カーンッ!

 

 少しずつ音が近くなってくる、リズムよく叩かれるそれはどこか心地よさを感じるものだ。しかし同時に別の音も、というより声がそれらの間に挟まっていることに気づく。それはどこか怒号に近い勢いのものだがユメには既視感がある、それはセイントに戦闘訓練もとい熱血指導で飛ばされた檄に似ている。少しばかり入って良いのかという考えが3人に浮かんだが、話は通してあるはずなのでそのまま作業場に足を踏み入れることにした。

 

 むわり、とした熱気が襲う。外も日差しのおかげで温かだがここは真夏、というより湿気こそ少ないが蒸し風呂のようだ。

 

「よし、十分だ!上手くなってきたじゃないか!」

 

 そう言ってペンチのような、所謂やっとこ鋏を持っていたブロンド髪を短く揃えた少女が頭巾を外しながらハンマーを持つ少女の肩を叩いた。労われた眼鏡をかける同じくブロンド髪の少女は小さく「ありがと」と溢して自身の汗をぬぐう。どうやらちょうど作業を終えたところのようだ。

 

「ん?ああ、今日は大男たちが来る日だったか!」

 

 声をかけようとした時、指導をしていたと思われる少女がこちらを見て手を挙げる。快活に、そしてセイントたちを「大男」呼ばわりする豪快な様子はどこか既視感さえある。

 

「…お客さん?」

 

 そばにいた少女はその長い髪を整えながらそう尋ねる。どうやら彼女はセイントたちが来ることを知らなかったようだ。

 

「あ〜…まぁそんなところだ、アイツらなら大丈夫だろ」

 

 少し目を泳がせてからそう告げてこちらに来る彼女は本当に今日の用事を忘れていたようだ、後に続く少女もため息を漏らしているあたりそういう性格なのだろう。とはいえ何か心配ごとでもあるのかと少し引っかかるが、彼女たちが告げないのであれば脇に置く。

 

「ようセイント…じゃない、今じゃ先生か!それと、レジル・アジールにもお目にかかれるとはな!」

 

 ガハハと表現するのが正しい笑い方をする少女は、その口ぶりからしてかつてゴーストだった生徒に違いないのだろう、そのまま手を差し出して握手を求めてきた。

 

鍛冶(たんや)コヅチだ!よろしくな!」

 

 それに答えるようにこちらも名乗って手を差し出せば、少し痛いくらいの勢いで握ってくる。やはり豪快で、この部屋以上の熱気が彼女から発せられているようだ。

 そのまま隣の少女に目を向ければ、彼女は少し悩んだように口ごもる。人見知りというわけではなさそうなため疑問に思えば、コヅチと名乗った少女がニッっと彼女に笑顔を向ける。それに少し安心したかのような様子を見せれば、彼女もこちらに手を差し出して名を名乗った。

 

「アヤメ、…七稜、アヤメ。よろしく」

 

 そう眼鏡を外しながら言う少女は控えめに笑った。何か事情はありそうだが、こちらに対して悪い印象を持っているわけでもなさそうだった。

 

「うん、よろしくね。アヤメちゃん、って呼んでいい?」

 

「うん、いいよ。私もユメって呼ぶから」

 

 そういって続けてセイントたちとも挨拶を交わすと、パンッとコヅチが手を叩いて音頭をとった。どうやら休憩スペースにしているであろう木箱に3人を座らせていそいそと閉めていた窓を開ける、籠もっていた熱気が逃げてさわやかな風が心地よい。そこにコトリとグラスが置かれ、見ればアヤメが氷の入った麦茶を用意してくれていた。

 

「ありがとう、アヤメちゃん」

「いいよ、このくらい」

 

 そう返す彼女にユメは違和感を覚えたが、すぐにコヅチが語りだしたためそちらに耳を傾けた。彼女は少し興奮した様子でセイントたちに話しかける。

 

「セイントもレジルも何百年ぶりだ?本当に懐かしいぞ」

「…誰のゴーストだったんだ?それを言われなければわからんぞ」

 

 レジルの言葉で気づいたのか「おっとそうだった」と溢した彼女はまるでポーズを決めるかのようにくるりと手元のハンマーを掲げて正体を告げた。

 

「ウチはサンブレーカーズ3番目にして最後の執政官、ウロスのゴーストだ!」

 

 その宣言にセイントもレジルも驚いた様子だ。

 

 『サンブレーカーズ』

 

 それは太陽の鎚を掲げるタイタンオーダー。

 血気盛んなタイタンたちの中でも、戦場に生きることを誓った戦闘集団。かつてシティの壁の外で戦いに身を投じてきた傭兵たちは、その昔に自らの炎がもたらす破壊から民を遠ざけるために荒野へと向かったとされている。

 その中でも優れた炎の使い手は彼らに受け継がれる聖炉を管理する執政官となり、新たな炎の担い手が誕生するのを見届けると言う。

 執政官になったことは知らなかったが、ウロスというガーディアンはセイントも覚えていた。

 

「ウロス、懐かしい名前だ。私はサンブレーカーズではなかったが、共に水星の炉を築くために鎚を振るった。炉に火が灯るまでの間、我々は常に金音を響かせ続けたのだ」

 

 セイントはそうこぼしながら記憶のなかの友に想いを馳せた。サンブレーカーズにとって何より大切な炉の建設に携われたことはセイントにとっても誇りだった、そしてそれを共にした兄弟たちもだ。しかしコヅチがこの世界にいるということは、彼女の言った「最後の執政官」という言葉の意味することはセイントにも分かっていた。

 

「サンブレーカーズが、潰えたのか」

 

 レジルの言葉にはどこか悔しさが含まれていた。彼にとってもその一団は偉大だったのだ。それほどの戦士たちの命が消えたという事実にユメの心にも痛みが走る。

 

「そうだ、カバル大戦の時にウチらの炎は消えてしまった」

 

 一時的とはいえ、光を奪われたことで多くのガーディアンが成すすべなく敗北したと言うことは知っている。知っていても、ユメにとってその悲劇は受け入れがたいものだ。しかしそれを語る彼女は穏やかで、満足している様子からグッと我慢する。

 

「悔しさはあるよ、でも炎は再び燃え上がった。」

「歴史は私たち(サンブレーカーズ)を覚えているし、新たな火が人々を温めてくれる。」

「命の灯火が潰えることは、絶対にないからな」

 

 「そうか」と呟いたのはセイントかレジルだったか、少なくとも彼らはその事実を飲みこんだようだった。戦士として、人類の守護者として彼らは折り合いをつけたのだ。

 そして、それを聞き届けたユメはコヅチに声をかけてゆっくりと抱きしめた。コヅチは少し照れくさそうにしながらもその抱擁を受け入れる。ユメにとってそれは一生を駆け抜けた者への自分なりにできる敬意の表し方であり、労いなのだ。

 

 少しの沈黙のあと、体を離して互いにくすりと笑う。元ゴーストの生徒と初めて会う時の恒例行事となったそれを終えると、思い出話をやめてこれからの話をし始めた。

 

「辛気臭いはなしは一旦終いだ、アーマーを鍛えなおすんだよな?」

「そうだ。壊れたレジルのはもちろんだが、私のアーマーの棘もどうにかしたいところでな」

 

 先日の戦いで折れたレジルのアーマーと同じくして、セイントも装備に手を入れるつもりらしい。というのも彼のアーマーもレジルの肩のそれほどではないが四肢にいくつもの棘がある。普段の生活でも、そして戦闘でも生徒に過剰な怪我をさせる可能性が高いのだ。コヅチは納得したように頷くと自信をもってそれを引き受けた。

 

「まかせろ、なんならついでに少しデザインも変えるか?それとレジルのは肩だけじゃなくて全部変えるぞ」

 

 その言葉にセイントは乗り気だったが、レジルはどこか渋っていた。慣れ親しんだ装備なのもあるだろう、あまり勝手が変わるのは嫌なのかもしれない。しかし、続く言葉が彼に不満を許さなかった。

 

「あのなぁ、そんなクルーシブルチャンプが着る仰々しいアーマーをここでも着続けるつもりか?()()()()()()って聞いたぞ?」 

 

 その言葉にレジルは更に眉間の皺を深くした。それは今日に至るまでに行われたいくつかの話し合い出決定したことで、レジル自身も渋々ながら納得はした。であれば今の真紅が目立つこのアーマーはその立場に合っていないのも理解している。だからこそ不満は飲み込んでいるのだ。

 

「これからは否が応でも人目に触れるのだ、この都市にふさわしい姿であるべきだろう」

 

 セイントの言葉もあり、彼はデザインの変更は受け入れることにしたようだ。それにコヅチは満足そうに頷くと、これからのスケジュールについて話す。

 

「わかってると思うけど、短くても4日とか1週間はもらうからな?そもそもデザインとかも決めなきゃならんしな」

「わかっている、暫くはこの百鬼夜行に留まるつもりだ。この機にこの学区を見てみたい」

 

 日程感の共有ができたところで、コヅチは早速今日出来ることをやろうとする。しかしその時の提案が今の今までどこか居心地悪そうに黙って座っていたアヤメを驚かせた。

 

「よっし、なら今日はそのアーマーを外して洗うぞ、溶かすまでに綺麗にしときたいしな。それと…」

「こっからの鍛えなおしにはアヤメにも手伝ってもらう」

 

「……へっ?ハァ!?」

 

 ここまで静かだったアヤメは目を大きく開いて驚いている。先ほどまでの雰囲気とは随分違うが、こちらが素なのかもしれない。

 

「ちょっ、何勝手に決めてんの?第一今までの話だって私が聞いてていいやつじゃなかったでしょ!?」

 

 そう慌てて彼女はコヅチに詰め寄るが、それを見ても落ち着いたそれを手で制した。

 

「いいんだ、そもそもウチに前世があることは話してたろ?」

 

 この会合に同席させたことから察してはいたが、アヤメはコヅチの過去についてを知っているらしい。それにしたって今日の来訪を忘れていたあたりアヤメには想定外の事ばかりなのだろう。

 

「でも、1週間なんて…」

「ツケもあるし、ニヤから陰陽部の依頼ってことにしてもらえばいい。要件は…要人警護と案内っってことにすれば嘘じゃないだろ?」

 

 アヤメが断ろうとする理由をコヅチは先んじて抑えてくる。会話からするとアヤメはこの工房に普段からいる人物ではないらしい。とはいえコヅチは少しばかり強引にこちらの事情に巻きこもうとしているように思えたため、セイントが仲裁に入ろうとした時

 

「それに、私がやらなきゃ「悪い癖、出てるぞ」…っ!」

 

 コヅチに遮られたアヤメは俯いてしまった、その拳には少し力が入っているように見える。ユメが声をかけようとしたが、それをコヅチは手で制す。

 

「都合はウチがつけてやる、あとはアヤメが選びな。いつも通りに仕事がしたいんならそれでもいい」

 

「でも、そうしなきゃいけないってわけじゃない」

 

「ここにいたって、いいんだぜ?」

 

 その言葉にアヤメの手が少しばかり緩められた。彼女はそれを見て微笑むと言葉を続けた。

 

「それに、お前は筋がいいんだ。今日のために作らせた先生たちの仮装備、いい出来だぞ?」

 

 そう言って指し示された先にあったのは2組のアーマーだ。タイタンが普段使うような質実剛健なものではなく、電気的な機能は排除されたものではあるが、どれも洗練されているといっていい。無駄のないその作りはハンターが好みそうなものだ。

 

「ほう、これをアヤメが作ったのか?実に素晴らしい!」

「…悪くない、何よりも動かしやすい」

 

 セイントは手に取ったチェストプレートを撫でて称賛し、レジルは修理のために装備を外していた腕をそれに通して感触を確かめる。どうやら歴戦の戦士からもお墨付きをもらえるほどの出来らしい。

 

 その言葉にアヤメは少し虚を突かれた様子だが、同時に恥ずかしそうでもあった。それにコヅチはニヤリと笑う。

 

「それに、鉄を打っている時のお前、楽しそうだったぞ?」

 

「…私が?」

 

「ああ、笑ってたよ。無自覚だったみたいだけどな」

 

 その言葉を受け、アヤメは口を閉じた。しかしその様子はどこか嬉しさを噛み締めているような、悪いものではない。

 自分の様子に気づき、そしてそれを他者に見られていることを思い出したのか彼女は咳払いをして話を変えた。

 

「あー、もう!わかったよ、私も手伝うから!」

 

 決まりだな、とケラケラ笑うコヅチをジト目で見つめるアヤメはどこか悔しそうだ。それを気にもせずコヅチは続けた。

 

「ほら、お前らはさっさとその装備を外せ!さっさとやらなきゃ日が暮れる!あと変えるデザインは…マイカたちに連絡して案出ししてもらえ、どうせお前たちの感性は古臭い!」

 

 こうし百鬼夜行での短くも騒がしい1週間が始まった。




 新章突入、これは紡ぎ出された出会いの物語

 オリジナル生徒、サンブレーカー最後の執政官ウロスのゴーストこと鍛冶コヅチが登場です。そして彼女の鍛冶場には七稜アヤメの姿もあるようです。そして、レジルが請け負った新たな立場とは…?
 本来のストーリーとは少しずつですが、確実に生まれてきたズを楽しんでいただけると幸いです。

 Destinyネタ解説
■サンブレーカーズ
 サンブレーカーとはゲームで使用できるタイタンの能力(サブクラス)の一つです。ゲームプレイとしては炎をまとった小型のハンマーや大鎚を振り回し、敵を粉砕していくタイタンらしいクラスといえるでしょう。初代DestinyのDLC『降り立ちし邪神』にて追加されたものです。
 今回の話で書いた説明がほとんどで、それを操るタイタンの一団「サンブレーカーズ」についての言及はDestiny本編では思ったよりも少ないです。彼らは戦場に生き、炎を絶やさず、そして新たにその炎に触れるタイタンを受け入れて育てていたと思われます。
 サンブレーカーズはそもそもシティの外で活動する傭兵集団ではありましたが、シティとの折り合いは悪かったようです。かつてザヴァラがバンガードの代表としてサンブレーカーズと契約をしようとした時にその内容で衝突があって以降、彼らは正式にバンガードと協力することはなくなってしまいました。
 とはいえ所属する戦士が民を守ることを投げ出したわけではなく、その後に生じたシティの防衛戦「トワイライト・ギャップの戦い」ではサンブレーカーズの一員であるリュウ・フェンがシャックスらと共に勝利の突破口となる活躍を見せました。
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