大鎚太陽堂でアーマーの洗浄をした後に、今日の作業はこれまでとしてユメの達はアヤメの案内で百鬼夜行を少しまわり、宿で一晩を過ごすことになった。ちなみに、その際のセイントとレジルは与えられた予備のアーマーを身につけており、細身のそれは普段よりは幾らか威圧感をやわらげていた。
百鬼夜行を案内されていくつかわかったことは、この街観光業が盛んらしい。案内された甘味処や食事処はどれも美味しく、見たところ土産物も多く取り扱っているようだ。仕事で忙しくしているリンちゃんに何を買って行こうか、と既にユメが考え始めるくらいには魅力的なものが多い。
そして街以外にもわかったことがある。それはアヤメが想像以上に住民たちに顔が広いということだ。行く先々では「アヤメちゃん!」と声をかけられ、アヤメもそれに笑顔で対応する。彼女は自然な流れで相手と近況を語り合い、その流れで皆アヤメに大小様々な相談をもちかけていた。
随分と頼りにされているようだとユメは感心したが、同時に初めて会ったときから感じている違和感のような物が頭の片隅から離れなかった。
翌朝、ユメは身支度を整えて隣の部屋のセイントたちを訪ねた。中から出てきたのはいつもとは違う様相の彼らなので少しばかり変な感じもするが、快活な挨拶がとんできて安心する。
セイントとレジルは連絡をとったマイカたちから送られてきたデザイン案などとセイントたちのアーマーに残っていた向こうの世界の装備のデータを照らし合わせながら、どの様な装備を鍛え上げるかの相談を夜通ししていたようだ。理由はわからないがレジルもアロナと会話ができたため、装備データの吸い出しをしたまま一緒に相談に加わっていたらしい。序盤こそ参加していたが、ユメは眠気に負けてしまったためその後の話はわからない。
「えっと、今日は基本的に太陽堂でデザインのすり合わせでしたっけ?」
「そうなるだろう。いくつかの案が出たが、実際にどんなものが作れるかは改めて相談しなくてはならないからな」
基本的な装備の鍛え上げはコヅチがやるが、それまでの設計はセイントたちも要望出さなければならない。今日はそれが終わるまでは太陽堂に籠ることになるだろう。
そう話をしながら宿の受付に降りる。昨日の話だと朝にアヤメが迎えに来るということだったため、待合スペースで待たせてもらおうとしたのだ。しかし、そこには既に先客がいた。アヤメだ。
彼女は2人がけの椅子の端に身を沈め、銃を抱きしめながら眠っていた。どこかその眉間に皺が寄っていると思うのは気の所為ではないだろう。
今思えば、昨日の案内の最中も色々な頼まれごとをしていた。その場では案内の途中だと断っていたが、後で手が空いたら手伝うとも毎度人々に伝えていた。
もしかして、彼女は3人を見送った後にそれら全てを解決してきたのだろうか?
それに、昨日の彼女とコヅチとの会話にも気になる点はあった。そもそも1週間の予定を急に決められることは迷惑であるという前提は置いておくとして、彼女はそれが難しい事情または立場にあるかのような口ぶりだった。加えて彼女が言いかけていた言葉もそれを助長させた。
「でも、私がやらなきゃ」
あれは彼女の責任感と立場から来るものだ、と言われてしまえばそれまでだ。しかしこの短い間で見せた彼女の印象はどこかアンバランスだ。
初対面、コヅチと共に挨拶を交わした彼女はどこか静かで、言ってしまえばダウナーな雰囲気だ。
コヅチが急な提案をした時の怒った様子はどこか乱雑さを秘めていた。
街の人々と交流するときは、常に笑顔を絶やさなかった。
そして目の前の彼女は、疲れた様子で眠っている。
どうしても、ユメには放ってはおけなかった。セイントに顔を向ければ、ユメの考えを察してくれたのか彼は頷く。
「我々は先に行っていよう、ゆっくり来るといい」
「ありがとうございます、セイントさん」
「気にするな」とセイントは手で制しながらレジルと共に宿を後にする。ユメはそれを見届けてから、アヤメを起こさないようにゆっくりと近くの席に腰掛けた。
変わらず彼女の眉間には皺が寄っており、銃を抱きしめる手には力が入っている。これでは眠っていても疲れは取れない、無限の森でベックスと戦って数日間に自分もこうだったと懐かしむ。そういえば、その時はいつもセイントが手を重ねてくれたおかげで不安が和らいでいたな、と思い返す。
記憶と同じように、彼女に近寄って握りしめている拳に手を重ねた。起こさないか少心配だったが、上手くいったようで彼女の手が少しばかりほどけた。その時滑り落ちそうになった彼女の銃を受け止め、静かに机に置く。
これで少しは休まるかと安心して席に戻ろうとすれば、服の裾を引っ張られる感触があった。見れば手持ち無沙汰になったアヤメの手がユメの服をつまんでしまっている。
ユメはその様子に微笑むと、彼女の隣に体を下ろした。つまんでいる手に自身の手を添え、硬い椅子の肘掛けに乗せられてる頭をそっと自身の肩にくるように動かす。体が動いたことに違和感を感じたのかアヤメは少し身じろぎをしたが、すぐにすぅすぅと寝息を立て始めた。いくらか眉間の皺も薄くなっている気がする。
「おやすみ、アヤメちゃん」
いくらかの時間が過ぎた。アヤメが起きるのを待ちながらスマートフォンで百鬼夜行のことを調べていたユメは、調べ物も一段落してしまったため電源を落としてスマホを机に置く。その時、アヤメの銃が目にとまった。
見た目はこの百鬼夜行に来てからいくつか見た銃にているが、よく手入れされていて綺麗な銃だ。銃身の鉄は艶やかに光り、どこか一線を画した雰囲気を醸し出している。また、銃床も美しい青に染められており、そこには花の意匠が刻まれている。それは見ればアヤメの羽織に描かれているものとおなじだな、と思っていれば、隣から声が聞こえてきた。
「ん…あれ、寝ちゃってた…?」
「おはよう、アヤメちゃん」
寝起きでボーッとした様子の彼女に静かにそう告げれば、彼女は一瞬呆然としてから慌てだす。
「え、ユメ?…嘘、今何時!?」
がばりと起き上がって部屋にあった時計を確認した彼女は、既に昼前に差し掛かってしまっているっことに気づいたのだろう。サァッと顔を青くしてユメに頭を下げた。
「本当にごめん!迎えに来るって言ったのに、っていうか先生たちは!?」
鬼気迫るような彼女を諌めつつ、ユメはゆっくりと現状を説明した。
「心配しないで、場所も分かってるしセイントさんたちには先に行ってもらったよ」
気にしないように「よく眠れた?」と少し茶化すようにユメは言うが、それでもアヤメは申し訳なさを隠さない。それどころか重大な失敗を犯してしまったかのような様子だ。俯き気味の彼女になんと言っていいか分からず、ユメは切り替えるように促した。
「それじゃあ、セイントさんたちの所に行こっか!」
そう言えば、彼女は小さく頷いてくれた。少し心配だったが、一旦はセイントたちと合流することを優先することにする。宿を出ればアヤメは昨日ユメたちを案内していた時の笑顔を浮かべる。どこかそれに影がある様に見えるのはユメの気のせいなのか、判断することはできなかった。
太陽堂の作業場をに顔を出してみれば、なにやらセイントたちは真剣に話し合いをしているようで、ユメとアヤメはその様子を一旦声をかけずに見守ることにした。
「今後の立場を考えれば派手すぎず、それでいて目立つ物がいいだろうということだ、それは配色でどうにかなるだろう」
「棘とか無しでいくなら…イメージとしては堅牢な壁のほうがいいか?それとも機動力重視か?」
「できれば両立させたいが、胴と肩を少し厚くして他を可能な限り薄くしたい」
そこにあるのは真剣な面持ちの職人と戦士の姿だ。理想の装備を作るために互いに一切の妥協のないようにしているのが伝わってくる。広げられた図面はユメには少し難しかったが、アヤメはなんとなくそれを作ることの難しさがわかっているようだ。
「すごいね、全身装備なんてただでさえ大変なのに、これを全部手作業か…」
「そんなに?」
「そんなに、可動域も多いけど干渉させないようにしないとだけどこの装備は装甲が多い上に厚いから余計だよ」
そういうアヤメは今セイントたちが装備している装備を見ながらぼやく。セイントとレジルの繕う装備はそれぞれダストウォーカー、AOSクリプトというものでかつての世界でバンガードの配給またはクルーシブルハンドラーからの勝利報酬とされていた装備だ。しかし元々はハンター向け装備であり、装甲は少なめで機動力重視の設計となっているもののようだ。
「アレだって急に言われたのもあるけど大変だったよ。これを1週間でやろうって言えるのはコヅチだけでしょ」
「う〜ん、でもそれはアヤメちゃんが手伝ってくれるってことも見越して何じゃないかな?あの装備だっていい出来だってセイントさんたちも言ってたでしょ?」
そう問うてみれば、アヤメはどこか難しそうな、複雑な表情をする。その理由が知りたいが、どこまで踏み込むべきかを考える。その時、セイントたちの声が聞こえた。どうやら少し話の流れが変わったらしい。
「ここじゃ向こうと素材が違うんだっての!向こうみたいに叩けば鉄が鍛えられるってわけじゃない」
「ほう、それは興味深い。だが工夫をすれば強く、そしてしなやかにできるのであろう?かつて鉄を打った者として、そしてそれを使うものとしては知っておきたいな」
「へぇ、なら少しやってみるか?炉を作ったアンタならできるかもな」
どうやら話が脱線しているようだ、この世界の鍛造技術にセイントの興味が向いてしまったらしい。思えば彼も武器への愛着や造形が深い、その好奇心も当然のものだろう。しかしそういっている場合なのか?と疑問に思えばレジルが口を開く。
「…今はそんなことより装備だろう。俺達が鉄を叩いても仕方がない」
ユメの期待通り、レジルは話の軌道修正を図ってくれた。しかし、彼女はある大切な一点を忘れていたことを痛感する。
「まったく、これだから鉄を叩いたことのない奴は…自分の装備を作るのに汗水垂らす苦労を知らないから困る」
「仕方あるまい、レジルは戦いでもあまりハンマーを使わなかっただろう?悲しいことにこの素晴らしさを知らんのだ」
コヅチとセイントはわかりやすくレジルを煽った、それももう見え見えの。
ユメはレジルに出会ってから少し経つが、初めて関わった作戦でも自ら布石をうって事に備えた彼は冷静な人物だと思っていた。だからこんな単純な挑発に乗ることはないだろうと安心していた。しかし…
「俺の炎が鉄を鍛えられないと言うつもりか?」
悲しいかな、彼もまた
コヅチとセイントが「そうこなくては」と豪快に笑い、鉄火場へと足をむけはじめた。彼らは先ほどまでの装備の相談はどこへやら、ただただ鉄を叩く気満々のようだった。
唖然としていたユメとアヤメだったが、アヤメが我に帰った。
「は?…え、ちょっとアンタら!?」
しかしその声もさらに大きなセイントたちの声にかき消される。
「鉄を叩くのは力任せとはいかんぞ?お前にできるか?」
「言っていろ、寧ろここでの繊細な作業こそお前には向かないいだろう」
「よく吠えるじゃないか、鉄を真っ二つにしたら大笑いしてやる!」
あ、だめだ。とユメは察した。元ゴーストとはいえコヅチはパートナーの影響をモロに受けたのか思考はタイタンと変わらない。それが3人集まってしまえば手をつけられるはずもないのだ。
「アヤメちゃん…諦めよう」
ぽんっと肩に手を置きながら首を振るユメに、アヤメは「本当にそれでいいのか?」という気持ちが書かれた顔を向ける。
「もうああなったら暫く止まらないし、放っておこう?」
そう言うユメは笑顔だが、どこか冷酷な怒りをはらんでいるような気がした。「え、あ…うん」とアヤメはおずおずとそれに従う。
「それじゃ、丁度お昼どきだし何か食べよ!オススメのお店あったら教えてほしいな!」
「3人のことは知りませーん」と言ってのけるユメにもアヤメは少し呆気にとられる。コヅチにもだが最近やけに振り回されているような気がするなと頭によぎったが、どこかそれも悪くないと思う自分がいることにも気づいた。
その事実に嘆息しつつ、まあいいかと一旦考えることはやめることにした。
「じゃ、バカ3人はほっといてゆっくりできるとこに行こうか」
幕間は3話ごとのストーリーでまとめられたらと思っていましたが、無理そうです()
セイントはここまで先生であり戦士、年長者の側面を大きく書いていましたが、彼はユーモアもある人間ですし気がしれた仲であれば皮肉やブラックジョークも言ったりします。
前書きのセリフはサラディンと呼ばれる英雄的なタイタンに向けて放った言葉で、狼の紋章を掲げる鉄の豪傑と呼ばれる一団の一人だった彼が回りくどい説教をしてきた時の返しです。古いタイタンたちの話をもし生徒たちが聞いたら冷や汗を垂らすかもしれません。
というより、destiny本編のネームドタイタンたちの仲がギクシャクしすぎなんですよね、全員頑固で譲らないせいでオマエら本当に…って思うこともしばしば
活動報告更新してラフ絵などをポイポイ投げ始めました、お暇でしたら覗いてやってください