交差する運命   作:門の主トルネ

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「あなたはただ特別でいたいだけなのですか?そのためだけに今まで命を奪ってきたのですか?」__レジルのゴースト__


片羽の乙女

トリニティ郊外_

 セイントたちはマイカの先導のもと、中心地に比べていくらか人の少ない場所を歩いていた。ユメはもちろん、そのなかにはレジルの姿も存在する。

 

 アビドスでの一件の後、レジルの処遇についての話し合いや彼の破損したアーマーの修理などの必要が出てきた。また、アーマーを鍛え直すのであればセイントのものも生徒と接するのにはいささか危険な腕の棘を外しつつ改修しようなどの話も出ている。

 ルナが言うにはそれが可能な元ゴーストの生徒が百鬼夜行にいるそうなのだが、マイカがそれよりも前に紹介しなければならない人がいると予定を取り付けてきたのだ。

 

 今後のことを考えればレジルの力は必要だ。そして元ゴーストの生徒との連携も欠かせない。レジルもそのことは理解しているためかこの誘いには乗ってきた。だがその時、マイカがレジルには絶対に来いとわざわざ念を押したことがいささか気になっていた。

 セイントはまだあの世界でレジルが、ドレドゲン・ヨルがしたことを聞いていない。もしかすれば彼の生前に関わった可能性のある人物なのではないかと予想は立てられたが、であれば今回の紹介はともすればレジルの断罪の機会にもなりえてしまうとも考えられた。

 レジルもそれを理解しているのか、歩いている時の彼は静かだ。罰を受け入れる覚悟はあるのだろう。その様子をユメは心配そうに見守っている。

 

「ここだ」

 

 そう言って立ち止まったマイカの前にあるのは、少し古びた小さな教会だ。年季こそ感じるが、しっかりと手入れをされているだろうその姿には美しさも感じる。

 

「…神に懺悔しろとでも言うつもりか?」

 

 レジルはようやく口を開いた、確かに舞台としてはうってつけ、というよりは整えられすぎている感じすらする。しかしマイカは静かに首を振った。

 

「違うな、でもお前は自分の行いを話さなきゃいけない」

 

 マイカは平坦にそう言った。セイントはレジルに過去を問い詰めるつもりはなかった。彼を責めることができるのは、裁くことができるのは当事者のみなのだから。マイカもそれは理解しているようだが、それでもこの場を用意したのはその時が来たということに他ならないのだろう。

 

 ガチャリとマイカは少し扉に手をかけて脇へと下がり、レジルを見つめる。

 

 一瞬の沈黙の後に、レジルはその教会に足を踏み入れた。セイントたちはいくらか間隔を空けてその後をついていく。

 

 そこに広がるのは聖堂だ。それは静粛で神聖なる空間、外から見た大きさなど気にならぬほどに神秘的な雰囲気を醸し出している。会衆席には今は誰も腰掛けておらず、その静けさに拍車をかけいる。

 視線の先、中央に真っすぐ伸びる通路の向こうにある祭壇の前、至聖所に1つのシスターがいた。

 

 その姿は美しかった。

 

 窓から差し込む光が祈りを捧げる彼女の背に光を落とし、彼女の携えた白の翼を輝かせているようだった。

 左翼しかない翼は折りたたまれていても大きさが分かる。広げれば2mを超えてしまいそうなそれの羽はどれも艷やかだ。

 

 まるで天使だ、彼女を見たものはそう幻視してしまうほどだ。そしてレジルは彼女が自身の罪を裁くために神から遣わされたのかとぼんやりと考えた。

 

 しかし、そうではないこともすぐに分かった。

 

 セイントも少女に対して同様の印象を持ったが、その頭にあるヘイローの形によって彼女が元ゴーストの生徒であることと判断した。この世界においてヘイローの細かな差異というのは認識できないものだったが、何故かセイントとレジルに判別できた。であればレジルも彼女がどんな存在かは認識したはずだ。そう思って彼を見れば、その様子が少しおかしかった。

 

 レジルは、震えていた。

 

 多くの敵と戦ってきた歴戦の戦士である彼は、まるで恐れをなしたかのようだ。

 

「おま…えは…っ」

 

 声は微かで、とぎれとぎれだ。それでもこの静かな空間の先にいる彼女には確かに届いた。

 

 彼女はゆっくりと立ち上がって振り返る。

 

「待っていました」

 

 体をこちらに向けても、遅れて動いていく翼が彼女の上半身を隠す。

 

「お久しぶりですね」

 

 どんな表情でその言葉を紡いだのかをうかがうことはできない。それでも、顔が見えなくとも、レジルには彼女が誰かが分かった。誰よりも共に過ごした存在なのだから。

 

「ゴー、スト」

 

 そう呼ばれた彼女の表情が見えれば、それは歪んでいた。それは嬉しそうでありながら、悲痛に満ちたものだ。

 

「あぁ、あなたは私が誰かわかるのですね。わかって、くれるのですね」

 

 セイントもユメも、その言葉で理解した。彼女は生前にレジルのパートナーだったゴーストであるということだ。しかし、そのその再会を2人は手放しに喜ぶことはできないようだ。

 

「何故だ、お前はあの場所にいなかったはずだ。あの時…」

「あなたが、シン・マルファーに殺された時、ですか?」

 

 ゴーストに遮られ、レジルは言葉を詰まらせた。それは最後の死になるはずだった瞬間で、ドレドゲン・ヨルの終わりのはずだった。その場には彼のゴーストはいなかった、はずなのだ。しかし彼女は、その顔に怒りを浮かべて彼に告げた。

 

「私が、あなたのそばを離れると、本当に思っていたのですか…?」

 

 その言葉で、レジルの顔は絶望に染まったかのようだった。自身の犯した過ちが、彼の目の前にある。目の前の彼女こそ、レジルの過去そのもの。

 

「あなたが何故この世界にいるのかは気にはしません。しかし、あなたがあの世界で何を思っていたのか、そしてこのキヴォトスで何をするつもりなのかを、私は知りたい」

 

 この場は1つの懺悔室であり、彼女はレジルに問うている。今ここで、痛悔するか否かを。罪を告白し、自身のあり方を今一度示せと告げているのだ。

 

「あなたは今も、ドレドゲン・ヨルなのですか?それとも、レジル・アジールなのですか?」

 

 その2つの名を名乗った男は、一体何を思い、何を成そうとしたのだろうか?それは、彼にしかわからないものだ。彼はそれを、語らなければならないのだ。

 

「レジル・アジールという男は、英雄と呼ばれた」

 

 少しの沈黙の後、彼は語りだした。それはある男の長い一生を整理するかのように。

 

「だがその英雄は、常に恐れを抱いていた。守るべき故郷が、シティという宝が失われる恐怖に怯えていたのだ」

「シティを守るためなら、何をするのも厭わなかった。自身の死すら、手段の1つだった。」

「人類を団結させるためエリクスニーを、フォールン(略奪者)という敵に仕立て上げた。ガーディアンが力を振るう理由を作り上げた」

 

 彼はその後、エリクスニーとの長い戦いに身を投じた。時には自身の死体を囮として彼らの基地を破壊したこともある。

 ガーディアンはゴーストによって生き返ることができる。しかし痛みを感じないわけでもなければ、強すぎる暗黒に飲まれればそれも叶わないこともあるのだ。しかし彼はそれすら手段とした。

 

「人類を脅かす存在を、自身の恐怖の元凶を破壊することに躍起になっていた。月に向かった時もそうだった」

「それが、英雄の死の始まりだった」

 

 その言葉に、彼女は目を伏せた。そして、レジルに懇願するように問う。

 

「ええ、あなたと共に月に行ったことを今でも覚えています。発見したハイヴの扉、闇が広がるそれの前で、あなたに置いていかれた時のことを。あなたが二度と戻らないのではないかと、ずっと不安でした。だから再びあなたが姿を見せた時、本当に安心したんです」

「でも、その時のあなたは、扉に入る前とは違っていた」

 

「教えてください。あの時、あなたに何があったんですか…っ!?」

 

 彼女は涙をこらえていた。それは彼女がレジルと道を分かつまで、彼が死ぬまでついぞ伝えられなかった真実。それを彼女は求めていた。

 レジルは深く息を吐くと、遠くを見つめながら語りだした。

 

「俺はハイヴの魔女に導かれた。名をキシリオール、終焉を囁くもの。ヤツは俺に告げたのだ、光は砕け散り、いずれ己の罪に苛まれることになるだろう。とな」

「止まらずに、囁く魔女を追った。ライフルで迫る敵を打ち、弾がなくなってからは銃身でいくつもの頭蓋骨を砕いた。直ぐにボロボロになったそれを捨て、そこからはローズを使った」

 

 彼はそう言って手元のハンドキャノンを、ローズを見た。それはシンプルで洗練された銃だが、同時に目立った特徴のないものだ。このハンドキャノンで多くの戦果をあげたのは間違いなく使い手であるローズの腕によるものだろう。その銃は名前に反して棘はなかった。

 

 なかったはずだった。

 

「そうして、出会った。重い足音と共に闇からやってきたキシリオールの伴侶、ハイヴのナイトに」

 

 それは、彼を決定的に変えた出会いだった。ハイヴという未知の悪魔と、その力との戦いが彼を変えたのだ。

 

「自身と同化した骨のアーマーを身にまとったナイトは、悠然と俺の前に立って戦いを挑んできた。その様は名の通り騎士のようであり、英雄のようだった」

 

「俺達は、正面から戦った。暗闇の中で互いをぶつけ合い、どちらかが死ぬまでな。そして、俺が勝った。魔女は逃がしたが、悪魔を砕いたのだ」

 

 月の暗闇で起こった死闘を彼は語った。それは彼の確かな戦果のように聞こえたが、その裏には隠された真実があったようだ。同時に彼は自身の拳を強く握りしめた。グローブが軋む音が静かな境界に響き、彼の怒りと後悔、そして激情を示していた。

 

「俺はあのナイトに感服したのだ、敵だとしてもその強さに敬意はらった。同時に、その強さを求めたのだ」

「扉に戻り、お前とハイヴの脅威をバンガードに伝える相談をしながら、俺は倒したヤツの骨をローズに組み込んだ。悪魔を倒した証明として、トロフィーのようにな」

「それから俺は、ハイヴを倒してはその骨をローズに飾った。それは俺を強くしていった。その力の意味を理解しながら、俺は力を求め続けた」

 

「…その力が、暗黒だったのですか?」

 

 彼女は震えながら聞いた。その震えは怒りなのか悲しみなのか、セイントたちには推し量れなかった。しかしレジルは静かに、冷静にそれを肯定した。

 

「そうだ」

 

「……っ」

 

 それに、彼女は悔しそうに唇を噛んだ。うつむいた顔はあまり表情が伺えないが、その口が震えているのはセイントたちにもわかった。レジルはそれに構わず続けた。

 

「俺はハイヴを倒しながらその力の本質について理解しようとした。そのために戦い、強っくなり、恐怖に震えたレジル・アジールという存在を捨てた。そうして生まれたのが、ドレドゲン・ヨル(奈落の底)だ」

 

「ええ、知っています。そうしてあなたは人々の命を奪い始めました、暗黒をふるい始めました。私は、あなたを止められなかった…!」

 

 その悲痛な叫びを、彼は聞き届けた。同じくそれを聞いたセイントたちは、それを信じたくはなかった。ユメは短い付き合いながら共に仲間を助けた彼がそんな非道な人間だとは思えなかった。セイントは英雄の、戦友の過去を今すぐにでも問いただしたかった。しかし、彼女の叫びはそれが真実なのだと物語っている。

 

「…もう一度、聞きます。あなたは何故、あんなことをしたんですか!?」

 

 それはかつての世界で袂を分かつ前に、彼女が彼にした問いだった。それを受けて、レジルは深く息を吸った。

 

 そして吐き出された答えは、セイントたちの思いもよらないものだった。

 

「全ては、希望のためだった」




 レジル・アジール。かつての英雄の軌跡を、ドレドゲン・ヨルという存在を紐解いていきます。これはDestinyの世界のなかでもかなり重要なトリビアです。私の独自の解釈を多分に含みますが、このキヴォトスにいる彼が何を考えているのか、何を成すのかが示せる話にしていきたいです。
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