交差する運命   作:門の主トルネ

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「例えば…奴の行いが正しかったとしたら、どうだろうか」__シン・マルファー__


ドレドゲン

「全ては、希望のためだった」

 

 レジルから発せられた言葉は、暗黒を振るっていた事実からは考えられない言葉だ。しかし、その返答はレジルのゴーストだった彼女にとっては想定できたもののようだった。

 

「…以前も、そう言っていましたね」

 

 彼女は以前にもその言葉を聞いていた。彼と別れる直前、最後の会話で。あの時のレジルは暗黒に染まっていた。彼が望んでそうなったかは分からずとも、その思考が歪められていたのだと思っていた。信じたかった。

 しかし、暗黒に汚染されていない彼も、同じ答えを返してきた。その事実が悲しくもあるが、今は何よりその真意を聞きたかった。

 

「そうだ。俺は暗黒を身にまとうことで気がついた。あの力は発端こそハイヴの魔女の囁きだった。しかし、同時に俺の内側に、そして宇宙のすべてにこれが存在していることに」

 

 それは、光を信じる者にとっては受け入れがたい話だ。しかし、向き合わなければならない考えでもあった。

 人類は多くの脅威を暗黒の手先だと考えてきた。しかし、人類のものに来たエリクスニーは光をただ奪いに来たわけではなかった。かつて繁栄をもたらしたトラベラーを、信ずる神を追いかけてきただけだった。であるなら、その他の脅威は?カバルは?ベックスやハイヴは?彼らは人類と敵対こそしたが、本当に暗黒の手先だったのだろうか?

 

 答えは、わからない。人類は彼らをただ敵だと断じてきたのだから。

 

 セイントたちには暗黒の本質も、ましてや自身が信ずる光の本質もわかっていないのだ。

 

「皆、俺が暗黒に堕ちたと言った。確かにそれは否定できないだろう。俺の行いは破滅的なものだった。しかし、それだけではない」

 

「これは、意思の力だ」

 

「精神を持つもの全てに宿る、宇宙の一部だ」

 

 それこそが、暗黒に身を任せたレジルが得た知見だった。暗黒は確かに自身の思考を歪めたかもしれないが、その根本を大きく変えたわけでもなかった。

 

「俺は人々が希望をもつ瞬間を、それが大きくなる瞬間を見つけた。失いたくないほどに大切なものを持った時、それは生まれた」

 

 人類であれば子が、未来が生まれた時に新たな希望を見出した。それはセイントたちにも理解ができた。しかしそれが大きくなる時を、レジルは見つけてしまった。

 

「そして希望が大きくなる時は、それが脅かされた時なのだ。新たな脅威に襲われた時、傷を負った時、痛みや叫びは俺達を強くした」

「意思が、全てを焼き尽くすほどに燃え上がり、力に変わる」

 

 それは、なんと残酷な答えなのだろうか。しかし、信じたくなくとも否定できないのも確かだった。かつてエリクスニーが地球に現れる前は、人類の間でも派閥の争いなどが絶えなかった。レジルの導きがあったからだとしても、人々は脅威の前に団結した。ガーディアンは強くなった。

 だがそれでは…と、この場にいる全員が内心で反論しようとすれば、それと同じ考えをレジルも抱いたと続けた。

 

「しかし、その真実は危ういものだ。その論理に基づけばいずれ自身で他者を、大切なものを傷つけることになるからだ。目的と手段が逆になる」

 

 彼の言う通りなのだ。もしその真実を元に行動してしまえば強くはなるが、守りたいものを見失う可能性がある。レジルもそれがわかっていた。理解した上で、彼は行動したのだ。

 

「だからこそ、俺は希望を生むために進むと決めた。新たな炎を生むための脅威に、人類を蝕む奈落の影になるとな」

 

 それこそが、彼がレジル・アジールからドレドゲン・ヨルに生まれ変わった理由だった。

 

「俺はガーディアンでありながら暗黒の力を振るった。飾りだったハイヴの骨はローズと組合わさり、光を食らう棘(トルン)となった」

「俺は、それでまず1人のガーディアンを殺した。英雄パハニンをその銃弾で蘇生できない最後の死に追いやった」

 

 それこそが、ドレドゲンの忌まわしき物語の始まりだった。クルーシブルで不敗のチャンピョンだった男がガーディアンを殺した事実は、同胞たちに衝撃を与えた。

 

「ドレドゲンの名はそうして広まっていった。悪行を重ねれば、暗黒に染まったガーディアンの末路として語られた。そして、人々の脅威となった」

 

 これこそが、ドレドゲン・ヨルの真実だった。人類に希望を与える英雄の願いが、暗黒によって叶えられた姿。

 

「その行いの末に、俺は新しい炎になりえる火種を見つけた。特別な存在だと確信できた。だからこそ、俺はそいつから、シン・マルファーから全てを奪った。故郷であるパラモンを、父と慕ったジャレンを」

「そして、ヤツはドレドゲン・ヨルの期待通りに強くなった。その復讐の炎は俺の暗黒を消しされるほどのものとなった」

 

 自身の願いが叶ったと語る割に、彼の顔に浮かぶのは苦痛にまみれたような、同時に憤怒の表情だった。

 

 「ヤツのゴールデンガンが、俺を貫いた。怪物を打ち倒す英雄が生まれた、その誕生こそがドレドゲン・ヨルの終わりだ。そして、人類とガーディアンに与える啓発となる」

 

 彼が大きな罪を犯してまで行ったことは、後の人類やガーディアンへの教訓となる。彼はそこまでを見越していた。

 

「俺に言わせれば、暗黒と光に大きな違いはない。2つは表裏一体であり、人類は間違いなく暗黒と向き合う時が来る」

「しかし、暗黒は強大だ。その性質を理解し、自身を強く持たなくてはたちまち食い殺される。それこそ、レジル・アジールのように」

「だからこそ、暗黒に溺れた末路を知らしめる必要があった。同時に、暗黒に呑まれた脅威が生まれた時に新たな希望が、英雄が誕生してそれを打倒するという未来を示さなければならなかった」

 

「そしてドレドゲン・ヨルは最後の一押しをして、死んだのだ」

 

 彼はまるで劇を終えたかのように、息をついた。確かにそれは壮大な物語だと言える。英雄の死、その影から生まれた後に怪物と呼ばれる男の一生は、皆にとって想像を絶するものだった。怒りをぶつけるべきか、悲しむべきかもわからない。沈黙に包まれた教会で、語り終えたレジルはどこか達成感を感じてるようにふるまいながら目線の先の少女に言葉をかける。

 

「これが、あの世界で死んだ男の話だ。これがヤツの、俺の終わりだ」

 

 彼女はどんな表情をしているのだろうか、彼女にとってこの真実は受け入れがたいもではないか、そうここにいる全員が考えていた。レジルも同じだ。自身をガーディアンとしたことを後悔しているかもしれないとまで想像した。

 しかし、彼女の表情は違った。怒りはあるかもしれない、けれどその矛先はレジルには向かっていなかった。己の心臓を掴むように胸に強く爪を立て、自分自身を責め立てている。

 

「ああ、彼らの言う通りでした…」

 

 そう苦しげにこぼしたあと、彼女は1つ深呼吸をして脱力する。そして再び口を開いた。

 

「ドレドゲンの物語は、まだ終わっていません」

 

 その言葉に皆が訝しんだ。レジル本人が言うのだからドレドゲン・ヨルは間違いなく死んだはずだ。その疑問に答えるように彼女は続ける。

 

「ドレドゲン・ヨルの死後、英雄が凶行に走った原因を2人のガーディアンが調査しました。ザイア・オルサとテベン・グレイです」

「彼らはあなたを研究し、いくつかの考えを持ち始めました。ドレドゲン・ヨルが大義のために数えきれない人々の人生を犠牲にしていたとしたら?復讐という名の大義名分を与えて英雄を生み出そうとしていたとしたら?」

 

「人類に、希望を与えようとしていたとしたら?」

 

 レジルは、驚愕に満ちた表情でうろたえている。しかし彼女の話は止まらなかった。

 

「彼らはそれを理解しました。ドレドゲン・ヨルの行いは未来への警鐘であり、人類の未来を示すものであると。そしてその物語は正しくガーディアンの教訓となりました」

「しかし同時に、彼らはその教訓を人類に与え続けるべきだと、考えました」

「ザイア・オルサはドレドゲン・ベイルに、テベン・グレイはドレドゲン・ベインと名を変え、他数人の同士たちと『ヨルの影』を結成しました」

 

「深淵の力を振るうガーディアンたち。恐怖の象徴として彼らは行動を開始しました」

 

 それは忌まわしき真実に到達した者たちによる、新たなドレドゲンの物語。称えれるべきではない行為を引き継ぐということ。ともすれば必要悪といえるものかもしれないが、それでも忌むべきものであり、許してはいけないものだ。

 

 そして、レジル自身も他者にそれを望んではいなかった。自身の行いは間違いなく悪であると理解しているからだ。

 

「馬鹿な、そうなってはいけないという警告だと理解しているはずだ!むやみに行ってはいけない、場合によっては犠牲が多くなる!!」

「そしてそれをヤツが、シン・マルファーが許すはずがない!!」

 

 彼は初めて声を荒げた。独善的かもしれないが、それでも他者を堕とさないためのドレドゲン・ヨルの行動が無駄になると考えたからだ。そして、そのような脅威が現れた時にそれらを排除する希望を、英雄を作り出したのだから。

 そしてその考えは機能していた、と彼女も肯定した。

 

「そうです。ヨルの影をシン・マルファーは許さなかった。暗黒の力を振るうガーディアンは彼に、ゴールデンガンの男に死ぬまで狙われることになる。という話が広まりました」

 

 レジルの思惑通りに、英雄は行動しているようだった。「ならば…」とレジルが言葉を漏らした時、彼女はそれを遮った。

 

「『終わりなどない』」

 

 その言葉に、レジルは体を強張らせた。その言葉は彼が死の間際にこぼしたものだ。それを聞い人間は、1人しかいないはずなのだ。

 

「あなたがシン・マルファーに残した言葉です。彼はこの言葉を忘れていません」

「なぜ…ヤツに会ったのか…?」

 

 彼女はその問いには答えず、続ける。

 

「彼は暗黒を討ち滅ぼす英雄の必要性も理解していました。そして同時に、暗黒への理解が人類には必要だとも分かっていました、あなたと同じように」

「だからこそ、暗黒へ足を踏み入れるガーディアンが必要でした。暗黒への理解を深めるきっかけを作り続け、人類が知見を得られるようにした。そしてもし、暗黒に踏み込み過ぎたものがいれば英雄の炎がそれを焼き付くす」

「そのイタチごっこが続くように、彼は仕向けたのです」

 

 これこそが、ドレドゲン・ヨルの想定を超えた出来事だった。自身への復讐を成し遂げた英雄が自身を理解することなど考えもしなかったからだ。

 

「わかりませんか?」

 

 彼女はレジルに聞いた。彼はもう気づいているそれを突きつけるために。レジルはそれをあり得ないと否定したかったが、彼女は事実を突きつけた。

 

「『ヨルの影』を率いるザイア・オルサとは、シン・マルファーなのです」

 

 それはドレドゲン・ヨルが生み出した英雄がレジル・アジールと、ドレドゲン・ヨルと同じような茨の道を歩み始めたということ。レジル自身が外道とする道へ彼を導いたということだ。

 

 この教会では、レジルが秘めていた真実を語るものだと皆が思っていた。そして彼は断罪されるのだと。しかし違う。今この時は、彼に真実を突きつける時なのだ。彼が犯した過ちの本当の罪を、未来に残してしまった遺産を彼に教える時なのだ。

 

「これが、貴方が残した希望ですよ。ドレドゲン・ヨル」




 レジル・アジールが、ドレドゲン・ヨルが残した爪痕は、彼が想定したように働き、そして化膿して病となった。

 Destiny世界においてドレドゲンとシン・マルファー(後にゴールデンガンの男と呼ばれる)のトリビアはゲームをプレイするだけでは深く知ることのできない複雑なものです。いくつもの伝承をつなぎ合わせることでようやく見えてくる話であり、私自身も把握していない物語があるかもしれません。
 ここでは私なりの解釈をSSを通して伝えさせていただいた形になります。わかりやすいように噛み砕いたつもりですが、いまだ難解なのは申し訳ありません…
 次回でこのレジルの告解の話は終わりを迎える予定で、時系列としてはその後に先に投稿した百花繚乱での話に繋がる想定となっています。もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
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