前回の話で不明になっていることを少しは解決できるかなと思います。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
良く通る声が室内に響いた。
青色の髪色をした少女が、眉をしかめながら詰め寄ってくる。
それを見たリンはため息をついている。様子を見るに厄介ごとなのだろう。
「…うん?えっと、隣の人…は?」
若干引き気味に、もはや怯えながら少女はそう問う。
それはそうだろう、セイントの見た目は大男と言って過言ではない。刺々しいアーマーを纏ったその巨躯は2メートルを超える背丈だ。年頃の少女に物怖じせずに相対するのは難しいだろう。
そう思っていると声が続く。
「主席行政官。お待ちしておりました」
スナイパーライフルを携えた黒髪で長身の少女が歩み寄り、それに続けてブロンドの眼鏡をかけた少女が続く。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
『連邦生徒会長』
先ほどリンと出会ってから幾度となく聞いた名詞だ。
このキヴォトスにおいて相当重要な立場の人物なのだろう。
丁度その人物についてこちらとしても詳細を聞きたいところだったと思い、セイントとユメもリンの顔を見る。
その顔にはありありとした苛立ちが浮かんでいた。
その表情を見るに、これまでもそれに関する問題に散々悩まされてきたのだろうことが伺える。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、そしてその他時間を持て余している皆さん」
完全に棘のある言葉を吐いてしまっている。
その様子にユメは完全に情けない顔をして引いている。
場の空気が一瞬、冷たくなる。
セイントはリンを見た。
ヘルムの奥のその表情は見えないが、その奥からとても穏やかでそれでいて諌めるような声が聞こえてくる。
「やめるといい。来客に、少なくとも敵でもない者に向ける言葉ではないだろう。」
リンがハッとしたように目を見開き、肩の力を抜いた。
「……そうですね。ごめんなさい。」
「皆も、少し落ちつくといい。君たちのような子にしかめっ面は似合わないぞ。」
その巨躯に似合わない声色と台詞に皆が毒気を抜かれる。
「我々にも事情があり、聞きたいことが山ほどある。だが相手の事情を慮ることを忘れてはならない」
「えっと、その…ごめんなさい」
一番に声を上げていた青髪の少女が頭を下げる。
セイントはその様子を見て頭を上げさせる。
「気にすることはない。反省し、次に活かすといい」
そう言って彼女の肩を優しく叩く。
その様子にユメはほっと息を吐くと、声を上げる
「えっと、まずは連邦生徒会長に聞かなきゃいけない問題が起きているんですよね?それを一つずつ聞いて解決していきませんか?」
その言葉にそこにいる全員が顔を見合わせる。
誰から声を上げるかと皆が思案していたところ、リンが声をあげる。
「とはいえ、ここに訪れた皆さんの用事は、現在キヴォトス各地で起きている問題の責任を問うために…でしょう?」
そういうリンは、ここにいる少女たちが何のために来ているのかをある程度予測しているようだった。
その言葉を受けて、彼女たちは順々に現在発生している問題について話し始める。
「今この瞬間も、数千もの学園自治区が混乱に陥ってる。この前はうちの学校の風力発電がシャットダウンしました」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
「スケバンのような不良が、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
…頭が痛くなるような言葉ばかりが出てくる。ユメからキヴォトスの大まかな常識については聞き及んでいたが、現在の治安は予想の数段上を行くほど悪いようだ。ユメもキヴォトスについて
「そんな状況になってるんですか⁉というか2000%ってなんですか⁉」
「でも、実際にそういう現状になっているんです。本来であれば連邦生徒会長を主軸に連邦生徒会が事態の収束に動くべきなのに、事態の解決はおろか連邦生徒会長は何週間も姿を現さなかった。それが、私たちがここに来た理由です。」
皆の意見を代弁するように青髪の少女は言う。確かにこのような事態において、この世界の政府機関である連邦生徒会の長が姿を現さないのは問題だ、民を率いる立場であるのであれば、声をあげて導くのが務めと言える。
しかし言葉への返答は、予想外のものだった。
「連邦生徒会長は今、席におられません。正直に言いますと、行方不明になりました」
淡々と告げられた事実は、その言葉に収めるにはいささか問題が多すぎるように思えた。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
サンクトゥムタワーというのがどれほどの役割を持つものかはわからないが、少なくともこの世界の最高機関に行政権がないのは大問題である。
「認証を迂回できる方法を探してきましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか?」
リンの視線が、ゆっくりとセイントに向けられる。
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「……私がか?」
セイント自身も、連れ立つユメも寝耳に水だ。
リンは更に言葉を続ける。
「説明が遅くなり申し訳ありません。『先生』、あなたは連邦生徒会長が失踪前に特別に指名した人物です。」
「…それはどうやって私を選び抜いたのだ?ここへと招かれた手順も、キミたちですら知り得ない方法で行われているとみえる。それは私にとっても同様にな。」
セイントの言葉にリンは首を横に振る。
「私にもわかりません、ただ連邦生徒会長があなたを新しく立ち上げた、ある部活の担当顧問としてお呼びしたことは分かっています。」
リンはそう言い、一呼吸おいてから説明を続ける。
「連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です。」
セイントは腕を組み、考える。
つまるところ自身がいた世界のバンガードのような立ち位置の組織なのだろう。武力を持ち、その世界の住人に対して一定以上の影響力があり…その存在が、平和(治安維持)に大きくかかわるところまで含めて。
差異があるとすれば、シャーレの顧問という「先生」個人に対してあまりにも大きな責任があるという点だろうか。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下にシャーレの権限を行使するための「とある物」を持ち込んでいます。」
一通りの説明が終わったのか、リンは改めてセイントを見る。
「キヴォトスの正常化のため、先生をそこにお連れしなくてはなりません。」
つまるところ、セイントはこの世界の混乱を正すために『先生』として呼ばれたということだ。それがどうしてベックスのテレポートによるものなのかは依然としてわからないが、少なくともリンの、この世界の事情としてはそうなのだろう。
だがそれはあまりにも──
「ふざけないでください!」
思考をユメの声が遮る
リンの言葉を受けて、「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……。」などと話していた他の少女たちも何事かとユメを見る。
先ほどまでの様子と違ってユメの顔には怒りの感情が滲んでいた。
「急にセイントさんを呼び出して、相手の事情も考えずにそんな役割を押しつけて、あまりにも身勝手じゃないですか!」
その言葉にリンは目を見開いた。周囲にいた少女たちも、リンの言う通りセイントが「先生」となることで問題が解決するという方向で物事を考え、セイントの意思や事情などを考えていなかった。
「セイントさんはこの世界の住人じゃありません、キヴォトスの外から来た人です!元の世界での役割があります!目的が…やるべき事があるんですよ!」
周囲の少女たちは罰が悪そうに目を伏せる。確かに身勝手だったと、反省しているのが見て取れた。
「確かに大変な事態なのかもしれませんが、それでも「もういい、ユメ」っセイントさん…。」
改めて、ユメは優しい子だと思った、他人の理不尽に憤りを感じ、言葉にする強さも、最近は身につけてきたようだった。
セイントは両の手を開き、バンッ──と手を大きく叩くと話を始める。
「先ほどユメが言っていた通り、私はこのキヴォトスの外の世界から来た人間だ。それが何の因果かこの場所に招かれたのは確かだ。そしてそれは私が望んだものでもないことも。」
セイントの言葉が事実なのであれば、セイントが急遽押し付けられるようになった『先生』という役割などを担う必要はない。しかしそうなれば、現在キヴォトス各地で発生している混乱は解決しないままになってしまう。
少女たちの顔に影が差したその時
「だが、それでもその『先生』という役割をやり遂げて見せようではないか。」
その言葉に、少女たちが顔を上げる。ユメが慌てて止めに入る。
「ちょっと、セイントさん!そんなことをしてたらオシリスさんのことも、ゴーストちゃんだってはぐれたままなんだよ⁉」
ユメは私の事情も、それに対する思いも分かった上で心配をしてくれている。優しい娘だ。
それをなだめるように頭を優しくなでつつ、他の少女たちに向き合う。
「少なくとも、今私が『先生』として立ち上がらない限り、君たちの世界の混乱が続くのだろう。
ただでさえ銃火器が蔓延る世界だと聞く、思っている以上の被害も出ているのかもしれない」
だが──と小さくこぼしながらセイントは続ける。
その拳を強く握り締めて胸に当て、彼の信念を伝えるべく。
「そんな状態で頼るべきものもなく、今後に憂いしか残らないような状況をこのセイントが許さん。」
それは、かつて人類を守護するバンガードとして立ち上がったときの責任に似ていた
「君たちは若いながらによくやっているとも。自分にできる範囲のことをしっかりとこなそうとしていることは、先ほどまでの様子で十二分に伝わってきた。だが、いささか君たちのような多感な少女たちにだけ背負わせるのは間違っていると言えよう。」
セイントは堂々と、まるで宣言するように伝える
「……この名を、刻んでおくといい。」
「私はセイント14、『先生』として──シャーレに向かい、このキヴォトスの混乱を必ず正す。」
本当はチュートリアルの戦闘描写まで書く予定でしたが断念、意外と長くなってしまった…
ユメは原作とは少し性格の面で変化が起きているようです。
未だ描かれていないセイントとユメが共にいたという1ヵ月間、一体どのようなことがあったのか、こちらも期待していただけると幸いです。