交差する運命   作:門の主トルネ

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「彼らにとって現実とシミュレーションに違いはない。内側と外側は同じであり、両者は一致させなければならない。」__クロビス・ブレイ__


問題児

 

 黒崎コユキと少女は名乗った。

 

 この少女こそが今回ミレニアムにセイントたちが訪れた目的の1つだ。彼女はすごく言いづらそうにしたユウカ曰く、ミレニアム最大級の問題児らしい。先進的な発明が生まれると同時に、ミレニアムでは日々突飛なアイデアが形になり、時には屋根や建物が吹き飛んだりなどのトラブルが起きることは日常茶飯時という。そんな生徒たちが多くいる中でもコユキが最大級とされる理由は、その被害の発見が困難であることに加え、見つかりにくいにもかかわらず被害がとんでもなく大きいことだ。どれだけ強固なセキュリティを実装したとしても、彼女はそれを傷害とも思わずに潜り抜けてしまう。それによって守られている情報などをよく彼女は持ち出してしまう。特にユウカが頭を抱えるのはセミナー保有の予算などを着服してしまうことのようだ。何度注意してもすぐイタズラをする、と愚痴っぽくこぼしもしてきた。

 

 しかし、ユウカがセイントたちに彼女を紹介したのはそのイタズラなどにお灸を据えてほしい、などではない。何があったのかは聞けていないそうだが、ある日普段はなるべく仕事から逃げるために寄り付かないセミナーの部屋に訪れたコユキが、涙を流しながらユウカとノアに抱きついてきたらしい。

 詳しく理由を聞こうとしても口ごもり、どうしたものかと考えた時にコユキのほうから「先生」の名を口にしたのだそうだ。それにユウカが反応を示したところ、コユキは知り合いならば会わせてほしいと頼み込んだのだという。

 

 なぜコユキがセイントのことを知っているのか、会いたい理由は何かはわからなかったが、セイントはすぐに会ったほうが良いと判断しミレニアムへとやってきた。こうして部屋の隅に設置されているソファーで向かい合ってみても、彼女はどこか不安そうに視線を左右に動かしている。本来なら自分から読呼んだ手前、コユキに話をするようにユウカなら言うのだが、隣に座り心配そうに寄り添うにとどまっている。

 

 「コユキちゃんは、どうして先生と会いたかったんですか?」

 

 少しの沈黙の後に、同じくコユキの隣に腰かけていたノアが優しく問いかけた。記憶力に自身のある彼女にとっても、コユキが先生を頼ったことは疑問だった。先生の存在自体はすでに話題にもなっているため知っていたとしてもおかしくはない。とはいえ、わざわざ呼びつけて頼るようなことをコユキがするとは思わなかったのだ。

 ノアはこれまでもユウカから先生やユメについての話を世間話として聞いたことは何度かあったが、そのほとんどは業務をするこのセミナーの部屋でされた会話であり、コユキはその場に居なかった。子供のような行動を多くするとはいえ、コユキは見ず知らずの誰かにまで直ぐに信頼するというわけでもない。それなのに何故先生を名指しで呼んだのか、ノア自身も知りたいと考えていた。

 

 「先生、は……」

 

 両の手を膝できゅっ、と握りながらそうこぼすコユキに、傍の2人は安心させるように自身の手を重ねる。それが伝わったのか、少し落ち着くように息を吐いた後、コユキは言葉を続けた。

 

「先輩たちを、助けようとしてくれるから、です」

 

 その言葉に、皆が少し呆けてしまった。しかし、セイントは落ち着いていた。彼女の考えを肯定し、自身の在り方を伝える。

 

「無論だとも、ユウカもノアも私の大切な生徒であり、守るべき子供たちだ」

 

 そう頼もしく頷くセイントに、コユキは嬉しそうに、安堵したような表情をする。それを見て、セイントは更に言葉を続けた。

 

「同時に、君も私が守るべき生徒だ。君が2人について心配するような出来事があったのなら、不安があるのなら、どうか教えてはくれないだろうか」

「私は君の、黒崎コユキの力になりたいのだ」

 

 そう言えば、彼女は少し困ったようなそぶりを見せた。しかし、それは言えないといった様子ではなく、どう説明すればよいかわからない、といった雰囲気だ。ならば時間をかけて一緒に整理をするべきなのだろう。ちらちと横を見ればアヤメと目が合い、彼女もその意図をくみ取ってくれたようでこの先の音頭を取ろうと口を開こうとした。

 

 その時だった。

 

『先生、気をつけてください!何かは分かりませんが、この場所に皆さん以外の誰かがいます!』

 

 アロナが何かに気が付いたようにセイントへと警告を発する。この場にはアロナの声を認識できるものはセイントしかいないが、その緊急性を感じ取ったセイントは皆には伝わらないとわかりつつもその場でアロナに現状の確認をした。

 

「アロナ、敵がいるというのか?場所は⁉」

 

 セイントのその声に皆は驚くがそれを気にすることはなく周囲を見回す。声を聞こえないながらもセイントとユメからアロナの存在を伝えられていたアヤメも即座に周囲の警戒を始めた。

 

 しかし、この部屋のどこにも人影などは存在していない。それを疑問に思った時に、再びアロナの声が聞こえた。

 

『わかりません、そもそもこれは生体反応……?場所は、コユキさんの上着のポケットです!!』

「コユキのポケットの中だと?」

 

 あまりにも何かがいるとしてはおかしな場所を伝えられ、セイントの口から疑問の声が上がる。自身のポケットなどと急に言われたコユキも何事かという表情だ。

 

「コユキ、あなた何か変なもの持ってないでしょうね?」

 

 ユウカがそう問えば、コユキは心外だと首をブンブンと音が聞こえそうなほどの勢いで左右に振った。

 

「ちょっ、もってません!!スマホだけですよ!?」

 

 そう言って彼女が慌ててポケットに手を突っ込んで取り出したのは、何の変哲もないスマートフォンだ。見たところ画面もついておらず、不審な点はない。しかし、取り出されたそれを確認したのか、アロナが『それです!!』と大きな声を挙げている。ここまでの反応を示すからには何かあるのは確実なのだろうとそれを見つめ、コユキに一度見せてもらえるように頼もうとしたときだった。

 

『謝罪:この場に混乱をもたらす意図はなかった。状況の説明をする機会を要求する』

 

 突如、コユキのスマホが独りでに起動し、明滅しながら機械音声を発した。この場において何度目かの驚愕が走る。しかし、コユキは何か心当たりがあるようだった。

 

「シグマ……?」

 

 彼女が呟いた名前はこの声の主のことだろうか?そう全員が疑問に思ったと同時にその声が返事をした。

 

「肯定および補足:私はコユキにシグマと呼ばれている者。以前より彼女とは友人に似た関係を築いている」

 

 かなり怪しい存在としか言えないシグマは、コユキの友人なのだと言う。その言葉に勢いよくユウカはコユキに顔を向けて問い詰めた。

 

「ちょっとコユキ!? このAIみたいなやつが友達!? ハッキングされてるじゃない!!」

 

 ユウカの言う通り、シグマの話し方はどこか機械的でAIだといえば納得してしまいそうなものだ。加えて、ミレニアムという最先端の学園の生徒、しかもその生徒会であるセミナーに所属する生徒の端末がハッキングされているのであれば一大事だ。とはいえ、今は彼の説明を聞かなければ何も進展しない。そう判断したセイントはユウカをなだめ、シグマに説明を促した。

 

「落ち着け、ユウカ。先ずは話を聞いても遅くはないはずだ。シグマよ、何故我々の話を盗み聞きしていた?」

 

 そう問いかければ、場を取り持ってくれたセイントに対して「感謝を表明する」と礼を述べ、説明を続けた。

 

『前提:私はコユキとオンライン上でのやりとりをしている。しかし、先日のコユキが私との会話を終えるときにバイタルが不安定な状態であると判断した。その際の経緯を踏まえ、セイント14へ接触を図ることは予測できていた。彼女の精神的な不調には私にも原因があると判断し、この会合でそれが解消されるかを確認するつもりだった』

 

「……要するにネッ友のコユキが心配だからハッキングしたってことだよね?」

 

『肯定:人間的な感情表現をするのであれば、それが適切なものだろう』

 

 回りくどい言い回しをアヤメがまとめれば、あっさりと肯定するその声に皆が崩れ落ちそうになる。ハッキングなどという方法さえ取らなければこんな騒ぎになることはない理由のために、ユウカたちは呆れて肩を落とした。しかし、シグマの発言を聞いていたノアにはまだ気になることがあった。

 

「シグマさんは、コユキちゃんに元気がなかった理由に心当たりがあるんですね?そしてそれに先生が関わることも。どうしてでしょう?」

「まって下さい、それは……っ」

 

 そのノアの問に真っ先に反応したのはコユキだった。彼女はまるでシグマを庇うかのように声を上げたが、徐々にすぼんでいく。その様子を確認したためか、シグマは再び声を発した。

 

『要求:可能な限りの経緯の説明を約束する。代わりにコユキに対しての追求は控えてほしい』

「良いだろう。このセイントが約束する」

 

 その言葉に皆どうしたものかと考えるが、ここはセイントが音頭をとり、それを承諾する。それに満足した様子を示すと、シグマはさらなる説明を開始した。

 

『序:私とコユキの関係は、はじめにネットワーク上に築いた私の拠点に彼女が侵入したことから始まる。詳細は省くが、私はネットワークという海に高速かつロックが厳重な船を持っている。本来であれば誰かが船を発見したとしても、扉を開けようとしている間に振り落とすことが可能だ。しかし、彼女は私の船を発見したと同時に内部へと侵入し、私と接触をした。彼女の能力に興味を抱き、コミュニケーションを取り始めたのがきっかけだ』

 

 はじめに、シグマはコユキとの交流のきっかけを教えてくれた。それはコユキがシグマの領域に不法侵入したというもののため、ユウカは呆れながらジト目でコユキを見る。コユキは焦ったように視線を泳がせるが、シグマの念押しもあってかユウカがそれを責めることはなかった。皆がそれに納得をした所で、シグマの話は続く。

 

『破:我々は何時も通りの会話を行っていた。しかし、コユキが私の持っているロックされたデータに興味を示したのだ。私が見るべきではないと説明もなく告げたためにコユキの好奇心をくすぐったのだろう、そのまま悪戯心でそれを覗いてしまった。無論、セキュリティは意味をなさなかった』

『それはリアルタイムで更新され続けるシミュレーションデータだった。一目見ただけでは数字の羅列であり、コユキにもその意味は分からなかっただろう。拍子抜けしたかもしれない。しかし、外部からの予想外のアクセスにより、データがいくつか書き換わった。私がそのことを教え、何のシミュレーションをしていたのかと問われたために、彼女にもわかりやすいようにデータを視覚映像に変換して共有した。それが間違いだった』

 

 コユキは子供のように好奇心旺盛だ。それをユウカとノアはよく知っていたし、コユキでなくても隠されたものは暴きたくなるというのが人の性だ。そして、少なくとも電子的な秘匿はコユキには効果をなさない。正直、コユキを知る者であればシグマの語ったことは何時もの出来事と何らかわりがないものだった。

 

 そのデータの内容を知るまでは。

 

『急:そのデータはキヴォトスの未来を予測するシミュレーションだった』

 

『コユキの介入によってデータが書き換わり、シミュレーション内での未来が変わった。ミレニアムを中心としてキヴォトス全土に及ぶ崩壊が始まった』

 

『私はそれを共有してしまった。コユキが見たものは、抵抗虚しく倒れていくセイント14たち』

 

『早瀬ユウカと生塩ノアが死ぬシミュレーション結果だ』




シグマとはいったい何者か、コユキの能力の真髄とは?



この更新までの間に、大きな発表がありました。
それについては長くなるため活動報告に書きましたが、今後も小説の更新は続けていくので楽しみにしていただけると幸いです。
皆さんも、ブルーアーカイブのストーリーを存分に楽しみましょう。
そして、二次創作などのコンテンツも余すところなく、全力で味わいましょう
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