ゲーム開発部にアリスが受け入れられて一夜明け、セイントは再びゲーム開発部と合流していた。
昨日部室を後にしてユウカと合流して在校生のデータを確認したところ、「天童アリス」という生徒のデータが存在している事を確認した。その生徒についてユウカもノアも覚えがないと訝しんだが、セイントが事情を説明すると頭を抱えつつ納得した。登録手段がハッキングである点は問題ではあるが、アリスを放って置くこともできないからと生徒としての所属については一旦様子見をするとのことだ。
さらにゲーム開発部に所属することについては新たなトラブルを懸念してはいたものの、楽しそうにゲームをしていたということを聞けばそれも許容していた。つくづく彼女は優しく面倒見が良いとセイントは感心したものだ。
アリスが所属したことによってゲーム開発部の部員人数問題は解決したが、廃部の危機から脱したわけではない。部として見合った成果が出せない場合、このまま廃部になってしまうことは彼女たちも理解しているようで、現在は持ち帰ったG.Bibleと思われるデータをヴェリタスという集団に解析してもらっているところらしい。
解析が終わるまでの間に、アリスが今後キヴォトスで生活をするには武器が必須であるということを踏まえ、モモイ先導のもと皆でマイスターと呼ばれる技術者がいるエンジニア部を訪ねていた。
「……なるほど、大体の話は理解したよ」
部室にいたのは長い紫髪を携えた3年生の白石ウタハに、犬耳とゴーグルが特徴的な猫塚ヒビキと涙のような意匠が施されたメガネをかけた豊見コトリの1年生2人であり、彼女たちはセイントたちの来訪を歓迎してくれた。
初対面のセイントたち3人と簡単な自己紹介を済ませた後に、モモイがアリスについての事情を説明すると、ウタハは少し考えた素振りを見せた後に微笑んだ。
「新しい仲間のための、新しい武器。それにエンジニア部を選んでくれたのはこちらとしても嬉しい限りだね」
そうどこか誇らしげに語る彼女と、うんうんと頷く2人を見るに、彼女たちは自身のエンジニアとしての腕に自身を持っているらしい。そして自分たちを選んでくれたことにたいしても嬉しいのだろう。そのまま彼女たちは頷き合うと、モモイたちへと協力を申し出てくれた。
「いいだろう。そちらにまとめてある私たちの試作品の中からであれば、好きなものを持っていくといい」
その言葉を聞いてモモイたちはパァっと笑顔を浮かべて彼女たちへと感謝の言葉を告げ、アリスを試作品がまとめられた場所へと引っ張っていく。ヒビキとコトリがそれに付いて行き、試作品を見繕う手伝いをするようだ。
その様子を微笑まし気に見守るウタハへセイントたちは近寄り、話しかける。この部の長である彼女に改めて礼を言うと同時に、同学年のユメとアヤメが交流できればと考えた。
「ウタハよ、彼女たちの力になってくれて改めて感謝する」
「気にすることは無いよ、先生。可愛い後輩たちの頼みなら、答えたいのが先輩というものさ」
そうだろう? と同意を求めるようにウタハは2人を見る。視線を受けたユメ少し苦笑いをしつつも、それを肯定する。
「そうだね、ついつい助けたくなっちゃうのはわかるよ」
そう笑う彼女だが、その内心は複雑だった。ホシノたちのようなアビドスの生徒は後輩にあたるのだろうが、記憶がないので実感があるかと言われれば悩んでしまう。とはいえ、彼女たちを助けたくなる気持ちは本物のため、ウタハの言葉を肯定できた。
そうしながらも、ユメはちらりと並び立つアヤメを見る。彼女もまた後輩を持つ身だが、同じく抱えているものがあるからだ。様子を見つつ話を逸らそうかと考えた時、少し目を細めて考えにふけていた彼女も口を開いた。
「……ま、そうだね。結局なんだかんだ世話を焼きたくなるよ」
その言葉にはほんの少しの自嘲が含まれてるのを感じたが、それ以上にうっすらと浮かべられた優しい笑みが、本心であることを教えてくれた。まだ百花繚乱を離れて長くはないが、少しずつ気持ちを整理し始めたらしい。
彼女たちの返答を受けたウタハは聡いようで、すこし含みがあるのを感じ取ったようだが、それを口には出さずに同意を得られたことに満足した様子で頷いてくれる。きっとこういった自然な気遣いができるからこそ、モモイたちのような他部活の後輩からも慕われ、頼られるのだろうなとセイントを含めた3人は納得した。
「実は君たちのことを事前に聞いていてな、いずれ尋ねるつもりだったのだ」
話がひと段落したところで、セイントは本題を告げた。モモイたちの付き添いで訪れたのは本当だが、それがなくてもミレニアム滞在中にエンジニア部を訪ねる予定だったからだ。その理由はウタハも分かっているようだった。
「ああ、装備の組み込み機器のことだろう?」
それは、新たに改良を加えたセイントのアーマー内部にあるいくつかの装置についてだった。セイントやレジルのようなガーディアンのアーマーはただ堅牢なだけの代物ではない。内部には通信装置やディスプレイなどのコンピューターが備わっている。百鬼夜行でアーマーに手を加える際に、どうしてもそれらの調整も必要だった。そして、その装置はアーマーを鍛え直してくれた鍛屋コヅチが作ったわけではなく、彼女の知り合いがいるというこのエンジニア部に依頼をしたとのことだった。セイントはその製作者に会いに来たのだ。
「彼女ならそろそろ戻ってくるはずだよ。それまでは……「ま、待って!」」
その時、ヒビキの焦るような声が聞こえてきた。視線を向ければ、なにやら大砲と言えそうなほどの大きな武器を掲げたアリスの姿が目に入る。彼女はワクワクしたような、それでいて覚悟を決めたような表情をしつつ、引き金に指をかけていた。
「……っ、光よ!!」
その言葉とともに引き金が引かれる瞬間、セイントは危険を察知してドーンウォードを展開した。銃弾そのものに対処するのではなくその二次被害が皆に及ばないようにとの判断だ。紫のベールが展開される始めるのと同時に、アリスの持つ武器の銃口が輝く。やはり銃撃は止められないかと考えた時、部室の奥から1つの影が素早くその銃口の前に躍り出た。
ーー閃光。
もはや個人でもつ火器としてはあまりにも桁違いな威力の弾丸が発射される。轟音と共にそれは射線上にあるものを部室の天井まで押しやった。しかしその影は銃弾を受けながらも器用に天井に着地し、その弾丸を正面から受け止めきった。
バキィッ!!
そんな何かが壊れる音と共に閃光が収まる。それにあわせて、1人の人影が天井からくるりと身を翻しながら地面へと降りてきた。セイントはドーンウォードを解き、それを注意深く観察する。
「……一撃で壊れたか、最軽量だとこんなもんか」
それは、大きめのボストンタイプの眼鏡を直しつつ、大きく破損した盾と思われるものを眺めている、ゴーストの形をしたヘイローを持つ少女だった。目にかかるほどに長く、全体的にも少し雑に伸ばされた黒髪と、吸い込まれそうなほどに黒い瞳の彼女は、面倒くさそうなため息をつきながらこちらに近づく。
「まさか、スーパーノヴァが実際に撃たれるとはね。イージスのテストには役に立ったけど、もう少しで天井が吹き抜けになってたよ?」
あまりに破壊力のある銃撃とセイントが展開したドーンウォードによって唖然としていた1年制の面々がハッとして慌て出す。アリスも彼女の口調が淡々としたものだったからか、なにかまずいことをしたのかと少しオロオロとしていた。そこにウタハが助け舟をだす。
「すまないね、どれか武器をあげるからと一通り触ってもらってたのさ。まさか『光の剣:スーパーノヴァ』を扱える者が現れるとは思わなかったよ。これでようやくこの子が日の目を浴びるというわけさ」
その言葉は、暗にその銃をアリスに渡すと言っているようなものだった。それにヒビキとコトリは驚いた声を上げたが、使用データがとれると納得し、アリスが使いやすいように手を加え始める。その様子にアリスの瞳はさらに輝き始めた。
「しかし」
そうウタハは区切ると、不敵な笑みを浮かべてアリスたちに言葉を続ける。
「その武器を扱う『資格』がアリスにあるのか、それを得ることができるのか、証明の為の試練を受けてもらおう」
その言葉とともに、試験場と思われるスペースにコトリとヒビキたちがドローンなどを展開し始める。実際にアリスが銃を扱えるのかという確認もあるだろうが、アリスがゲームの勇者のように振る舞う姿に合わせているのだろう。ずいぶんと気のよい集団だとセイントは感心するが、先ほどの少女は頭痛でも起きているかのように頭に手を当てる。普段から苦労をしてそうな彼女は、この流れが止められないと判断し、先ほどの騒動を踏まえてアリスに一言だけ言葉をかけた。
「アリス、だっけ?」
「は、はい!」
話の流れが変わったためか油断していたアリスは、再び怒られるのではないかという不安な表情を浮かべる。セイントは止めようかと迷ったが、確かに危険だったため注意は必要だろうと彼女の言葉を持った。その彼女は少し「あ〜……」と頭を掻いてから声を発する。
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」
「……へ?」
怒られると思っていたアリスは、予想外の言葉にぽかんと口を開ける。その様子を見て彼女はニヤリと笑い、言葉の先を続けた。
「勇者なら、力の使い方を考えること。その剣は、強いよ」
アリスに扱えるのか?と少し試すような言葉の意味を理解したのが、アリスは覚悟を決めたように銃を強く握る。
「はい!勇者として、使いこなしてみせます!!」
そう言って、アリスは試験場へと駆けていった。騒動が起きる前にはいなかった彼女だが、ウタハたちの振る舞いからアリスがどのような子かを判断し、それとなく危険なことをしないように注意したのだろう。雰囲気には表れづらいが、彼女もウタハに似て気配りができる人だろうとセイントは思った。
「はじめましてだな、優しい少女よ。君の名を教えてはくれないか?」
ウタハたちにアリスを任せ、セイントは少女に声をかける。かつてゴーストだった少女であれば面識があるのかもしれないが、セイントは少なくともこの世界で生まれ変わった少女とは初対面だ。今の彼女と向き合うために、改めて少女について教えてもらう必要がある。
その言葉を受けた彼女は、やめてくれと言わんばかりにため息を吐いて答えた。セイントはからかって言ったわけではないと分かっているあたり、少女はセイントを知っているようだ。
「日々乃アリカ、エンジニア部の2年生だよ。プラエディスってウォーロックのゴーストだった」
彼女のガーディアンの名前には聞き覚えがあった。はるか昔の記憶だが、それでもセイントはかつての戦友を忘れはしなかった。
「懐かしい、大いなる狩りにも参加していたガーディアンだな?」
そうセイントが聞き返すと、アリカは少し驚いたように目を開き、そして穏やかに笑った。
「そうか、セイントは彼を覚えているんだな」
「もちろんだ。ともに肩を並べた者の名前を忘れていたとすれば、それは設計ミスだろう」
そんな風に言ってのけるセイントに、アリカはどこか嬉しそうだった。アハンカーラの討伐作戦である大いなる狩りは、はるか昔の出来事だ。それを覚えてもらえていたことが彼女にとっては嬉しかったのかもしれない、そうセイントたちは判断した。
「昔の話だから盛り上がる思い出話はないけど、よろしく、『先生』」
「ああ、こちらこそよろしく頼む、アリカよ」
そう言って固い握手を交わす。彼女はかつての世界についてを語ろうとはしていない。セイントもそれを無理に聞き出そうとはせずに、今の彼女との関係を築くことにした。最期の死の記憶など、今を生きるのには重要なものではないからだ。
セイントにならい、ユメとアヤメも自己紹介をする。コヅチやマイカをはじめとした元ゴーストの生徒から事情を聞いているらしく、黄昏に侵食されているアヤメの体についても、症状の改善に協力してくれるそうだ。
「ありがとね、コヅチ」
「お礼は治ってから聞きます。エンジニアだから役に立てるかはわからないですが」
アヤメの感謝にそう答えたアリカは少しだけ微笑んで握手を交わす。アヤメの症状だけでなく、今後もし暗黒の脅威が迫った時にも互いに協力はできるだろう。そして、そのやりとりが終わるのを見守っていたユメがアリカの名を呼ぶ。見れば、彼女は両手を広げて微笑んでいる。その表情は何かをねだる子犬のようにも見えて、アリカは少しだけ照れたようにため息を吐いた。
「うん、いいですよ」
その言葉をきいて、ユメは小さく微笑んでからアリカをその両腕で包みこんだ。
「会えてうれしいよ、アリカちゃん」
彼女が元ゴーストの生徒に出会う時恒例の、彼女なりの労いと称賛にアリカはどこかくすぐったそうにしているが、嬉しそうだ。しばしの後に、その抱擁が解かれる。その際にアリカがユメに声をかけた。
「ユメ、実はあなたに渡したいものがあるんです」
「私に?」
その言葉にユメは首をかしげた。しかしアリカはそれを気にせず、部室の端に立てかけてあったものを手に取り、ユメへと差し出した。
「これを、ユメは盾を使っていたと聞いたので、試作品の1つですが……」
両手で抱えられる程度のそれをユメが手に取ると、それは大きさ以上の重さを感じる。裏側にはショットガン用のホルダーとトリガー付きのグリップがある。それを握れば、盾が瞬く間に展開されてユメの体を覆い隠すほどの大きさへと変貌した。
「未展開では強度の高いミニシールドとして、展開した場合強度そのものは低下しますが、バッテリーのエネルギーを使用して表面に薄いバリアを張っているので問題なく攻撃を防げるでしょう」
展開機構に驚いていると、アリカはその仕組みについて説明をしてくれる。片手で扱えるギリギリの重さになってしまったと彼女は語るが、それでもかなり上質な装備だった。
「すっごく嬉しいけど、なんで私に?」
そう問えば、彼女は「たいしたことじゃない」といいながら、理由を告げた。
「マイカを助けてくれたから。それに、みんながユメに助けられてるから、そのお礼です」
アリカはまっすぐユメの目を見つめてそう言った。それにはユメがゴーストたちの過去を肯定してくれたことへの感謝と、彼女の仲間たちへの強い思いが込められているのがわかる。盾とともにそれを受け取ることにした。
「…うん、わかった。使わせて貰うね」
「よかった。また感想を聞かせてください、参考にしたいので」
「わかった、約束だね」
ユメが新たな絆と、その印を受け取った時。試験場から聞こえていた戦闘音が鳴り止んだ。見ればアリスがまばゆいほどの笑顔で喜んでおり、彼女もまた勇者としての印を手に入れたことがわかる。セイントたちはその様子に少し笑うと、彼女たちの検討を称えるために歩き出す。
近づく自分たちに気づいて大きく手を振るアリスに手を振り返しながら、視界の隅にアリスを見て何かを考えるウタハがいることを、セイントは見逃さなかった。
アリスが勇者の印を手に入れた時、ユメも自身の歩みの印を手に入れる
新たな元ゴースト生徒「日々乃アリカ」が登場しました。オリジナルの生徒が増えてしまって少し混乱させてしまうかと思いますが、彼女たちのことも好きになってもらえるように精進するつもりです。
パヴァーヌは後の2章を含めた設定を考えるのに時間がかかってしまい、更新が遅れてしまいました。今後も更新には少しばかり時間をいただく可能性があります。楽しみにしていただいてる方には申し訳ありません。
代わりにではありませんが、本筋から少しずれた日常的な話などのアイデアも書き溜めていますので、閑話としてそちらを投稿する可能性もあります。
合わせて楽しみにしていただけると幸いです。