交差する運命   作:門の主トルネ

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解決

「さて、ようやく着いたな」

 

巡航戦車を破壊し、息を吐いたセイントにユメたちが合流する。

 

「お疲れ様です、セイントさん。『光』はどうですか?」

「少し力が抜けたような感覚があるな、連発はできないだろう。使いどころは考える必要がある。」

「わかりました、でもそれくらいで済んで良かったです。」

「心配をかけたな。」

 

そんな二人の会話をユウカたちは見守り、落ち着いたところで声をかけた。

 

「えっと、さっきの盾…みたいなのは?それに『光』って何のこと?」

 

その言葉にセイントは思案する。どこから話したものかと悩んでいると、リンからの通信が入ってきた。

 

『シャーレ周辺地域の無力化を確認、お疲れ様でした。私ももうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう。』

「ああ、わかった。」

 

まだやるべきことは残っているようだ。彼女達の疑問は事が終わってから答えることにする。

 

「まだやるべきことがあるようだ、君たちはユメと共に入口付近で警戒にあたってくれ。疑問には後で答えよう。」

「ええ、わかりました。」

 

了承したのを確認すると、ユメに彼女達を任せ、建物の地下に向かっていく。

その道中で更にリンからの通信が入った。どうやらこの騒動を起こした主犯についての情報のようだ。

 

『今回騒動を起こした生徒はワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱走した生徒です。似たような前科がいくつもある生徒なので、気を付けてください。』

 

どうやら話を聞くに和装で黒髪、特徴的な狐面で素顔を隠している生徒らしい。

この様な大きな事件を起こしたのも学生なのだというからこの世界はわからない。自分の知る常識が通じないことにため息をつくも、思えばユメに出会った時の彼女も相当に困惑していたのを思い出す。

 

常識が変わるというのは、思っていた以上に大変だ。

そんなことを思いながらヘルムを脱ぐ。

 

そこには『2つの白いカメラアイを備えた、ロボットの顔』があった。

 

彼はヘルムを片手に携え、地下への道を進む。

そうして地下室にたどり着いた時、そこには一人の少女がいる。

 

「うーん……これが一体なんなのか、まったくわかりませんね。これでは壊そうにも……」

 

何かをぶつぶつと呟く少女の特徴は、先ほどまでの騒動の主犯として伝えられたものと合致していた。

 

──無力化すべきか

 

そう思いながら近づく、すると彼女もこちらの方に気づいたようだ

 

「……あら?」

 

こちらに振り向く瞬間に距離を詰める。焦った彼女は先端に刃が付いた銃をこちらへと向けようとするが、それをすぐさま片手で押さえる

 

「ッ!!」

 

遅れを取ると思わなかったのだろう、彼女は予想外に体の動きを抑えられたことでつんのめり、その仮面が床へと落ちる。

その素顔には驚愕と、少しの恐怖が浮かんでいた。

 

「おいたが過ぎたようだな?」

 

セイントはそういうと右手に持ったヘルムを掲げる。無機質な機械の目でこちらを見透かし、それを振り下ろさんとしている様子にワカモは痛みに備え、目をきゅっと瞑る。

 

…待てども一向に痛みはやってこなかった。

 

恐る恐る目を開くと、硬いヘルムをコツンとおでこに当てられる。

「きゃっ!」

 

小さな悲鳴が地下室を反響する。すると抑えられていた銃を持った手がするりと解放された。

 

現状がわからず困惑しつつ前を見ると、こちらを見つめる機械の顔がある。無機質なのにどこか困った様子が伝わってくるのが不思議な感覚だった。

 

「全く、この世界ではこの様な事が日常茶飯事なのか?」

「あの…えっと…?」

「今回の騒動は君が起こしたと聞いた、何が目的かは知らないが…」

 

そう言いつつセイントはしゃがみ込む。その手には外れて床に転がったワカモの狐面があった。

 

「キミのような少女が、あまり誰かを困らせるような非行に走るべきではない」

 

予想外に、そのような優しく諭すような言葉が紡がれた。

それに対してワカモは狐面を受け取り、かたまってしまう。

 

「うん?どうした?」

 

セイントがそう言って再度少女の様子を確認しようとする。地下室は薄暗いが、その表情が少し赤く染まっているような──と思った時。

 

「し、し……失礼いたしましたー!!」

 

ワカモは素早く狐面を顔に付け、生娘のような声を上げながら一目散に逃げ出した。

地下の暗闇に一瞬で溶け込み、直ぐに気配はいなくなる。どうやら逃走はかなり得意らしい。

 

一体何が目的だったのかと顎に手を当てていると、リンが地下室へと入ってくる。

 

「えっと、先生…で、よろしいでしょうか?」

 

そういえば彼女にもまだ素顔を見せていなかった。

 

「ああ、私だ。素顔を見せていなくて悪かったな」

「いいえ、少し予想外でしたが、問題ありません。それよりも…」

 

彼女は机から何かを取り出し、それを確認する。そしてそれをこちらへと差し出してきた。

 

「……受け取ってください」

「この端末は?」

「これは連邦生徒会長が『先生』にと残したもの、『シッテムの箱』です。」

 

端末を受け取り一目見た後に再度説明を促す。

 

「普通のタブレット端末に見えますが、実は私にも正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明」

「それは、信頼できるものなのか?」

「わかりません、連邦生徒会長はこの『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

リンはそう言って口を噤む。おそらくは先に話していた『サンクトゥムタワー』なるものの制御権を取り戻す最後の方法なのだろう。そして、連邦生徒会が行政権を取り戻す最後の希望でも。

 

リンやユウカたち、この世界の住人が陥っている混乱をこの端末一つで解決できるものなのかと疑問に思わなくもない。そして、その役割を与えられたのが何故自分なのかも。

 

しかし、やることは決まっていた。

 

「…………では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています。」

 

そう言って、彼女は部屋の隅に控えるように立つ。

 

それを確認した後に、端末を起動する

 

端末の画面はすぐさま点灯し、そこにはパスワードを入力を促す表示があった。

 

パスワード、本来セイントはそんなものを知らないはずである。

この世界のことも、この『シッテムの箱』のことも詳しくなどない。

 

それでも、思い当たる言葉があった。

 

この世界に渡って来た時にみた夢のような、どこか朧気で、しかし確かな言葉。

 

 ──我々は望む、七つの嘆きを。

 ──我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

誰の、どのような意味かもわからない言葉を、無意識に入力する。

これも、自分に与えられた役割だとでも言うのだろうか。

 

──『シッテムの箱』へようこそ、セイント先生

 

──生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムのA.R.O.N.Aに変換します

 

 

瞬間、眩い光がセイントの意識を飲み込んだ。

 

すぐに意識は晴れ、画面を見る目に飛び込んできたのは見慣れない教室だった。

壁面は崩れ、透き通った青空と海が見渡せ、床にも水が張っているかのように青が反射する。

 

その教室にある机を使って、一人の少女がうつ伏せで居眠りをしていた。

 

「くううぅぅ……Zzzz」

 

謎めいた少女の口からは何とも気の抜けた声が聞こえてくる。

 

「むにゃ……カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」

 

何とも可愛らしい寝言だ。

このような事態でなければそのまま寝かしたままでいたいほど、幸せそうな寝顔だった。

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

 

しかし、この『シッテムの箱』と深く関わりがあると思われる彼女をそのままにしておくこともできなかった。

 

「すまないが、起きてくれ」

 

トントンと彼女の肩にあたる部分を叩き、声を掛ける。

 

「むにゃ……んもう……ありゃ? ありゃ、ありゃりゃ……⁉え?あれ?あれれ?」

 

幸いなことに、彼女は直ぐに目を覚ました。寝ぼけて混乱しているのであろう、少しずつ周囲の状況を見まわし、セイントと目が合って、意識を覚醒させ始めた。

 

「セ、セイント先生⁉」

 

彼女は間違いなく、セイントの名前を呼んだ。

 

「この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか、本当にセイント先生……⁉」

「ふむ、どうやら私のことを知っているようだな」

 

「うわ、わああ⁉もうこんな時間⁉落ち着いて、落ち着いて……えっと……その……あっ、そうだ! まず自己紹介から!」

 

少女はわたわたと慌てふためいていたが、いくつか深呼吸をしてこちらに向き直り、再び口を開く。

 

「私はアロナ!この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれからセイント先生をアシストする秘書です!」

 

メインOS、システムの管理者、そして秘書。

つまるところ、彼女は『先生』を助けるために存在するAIのようなものなのだろうか。

 

「やっと会うことができました!私はここでセイント先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

『先生』であるだけでなく、間違いなくセイントを待っていたと、彼女はそう言った。

 

「私を、このセイント14を待っていたのか?君は私を知っているのか?」

「えっと、はい!他の誰でもない、シャーレにくるセイント先生を待っていました!」

 

この答え方を見るに、彼女には『先生』としてここに訪れるのがセイントであると確信していたのだろう。そしてAIのようであることを推測するに、そうなることを最初から定義されていたのかもしれない。であれば、彼女の根幹にある定義を揺らがせるようなことを聞くのは野暮だろう。

 

「であればよろしく頼む。長い間待っていたというにはいささか眠りこけていたようだがな?」

「あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたこともあるけど……とにかく!よろしくお願いします!」

 

少し意地の悪いことを言って笑って見せると、彼女は恥ずかしそうに照れた後にこちらへ屈託のない笑顔を向けてくる。

 

「まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……これから先、頑張って色々な面でセイント先生のことをサポートしていきますね!」

 

健気で可愛らしい少女だと思った、彼女は続けて「生体認証を行います!」と告げてくる。

形式的なものらしいが、彼女にとっては必要なものらしい。曰く、指と指を合わせ、その後アロナが指紋を確認することで達成されるものらしいのだが…

 

「アロナ、見ての通り私は機械の体のだ。アーマーを外したとしても指紋は私にはなくてだな…」

「はっ⁉そうでした⁉」

 

アロナはあわあわと慌てふためく、そしてそのまましょんぼりとしてしまった。

 

「うぅ、これじゃあ私のいる意味が…約束みたいで良いなって思っていたのに…」

 

その様子にセイントは考える。

「ふむ、約束か」

 

セイントはアロナの前にかがみ、指を差し出してくる

 

「約束をするのであれば、そんな形式などは必要ない。ここで、私達だけの約束をしよう」

「え…、いいんですか⁉」

 

アロナの顔がパァっと明るくなる。

 

「もちろん、このセイントは約束を裏切ることは決してない。君と共に、『先生』としての責務を全うすることを誓おう。」

「はい!それじゃあ私は、精一杯先生をサポートすることを約束しますね!」

 

お互いの指を突合せ、誓いを告げる。傍から見れば生体認証の役割など果たしていないそれに意味はあるのかと問われるのかもしれないが、少なくともセイントにはアロナを笑顔にするだけの価値はあった。

 

「ではアロナ、早速だが私を助けてはくれないか?君の力が必要なのだ。」

 

セイントは、ここに至るまでの経緯を話した。

 

「なるほど…先生の事情は大体わかりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなったんですね……」

「そうだ、アロナは連邦生徒会長について何か知っていることはあるか?」

 

アロナは申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女がどうしていなくなったのかも……。お役に立てず、すみません」

 

「ですが…」と彼女は続ける

 

「サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです。」

「おお!そうか!であれば直ぐに解決を頼みたい」

「はい! 分かりました。それではサンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

 

機械が駆動をする音が聞こえてくる。サンクトゥムタワーで何か動きがあったようだった。

 

「……サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」

 

アロナが目を開いて告げてくる。

 

「先生、サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります。」

 

今この短時間で、彼女は誰もアクセスできなかった権限にアクセスし、それを回収して見せた。

もとより権限があったのかは謎だが、彼女の優秀さを称えるべきだろう。

 

「素晴らしい!アロナ、君は優秀だな。」

「えへへ、ありがとうございます!これで今のキヴォトスは、セイント先生の支配下にあるも同然です!」

 

…さらりととんでもないことを言ってくる彼女の情緒は、まだ幼いのかもしれない。

セイントがどうしたものかと悩んでいると、アロナが提案をしてくる。

 

「先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。」

「そうか!であればやってくれ!」

 

そう答えると、アロナは改めて聞いてくる。

 

「でも……大丈夫ですか? 連邦生徒会に制御権を渡しても……?」

 

セイントは少し考える。それはこの世界における大きな影響力を自ら手放すということだ、アロナはそのことが気になっているのだろう。しかし、セイントの回答は決まっている。

 

「ああ、構わない。もとより私はこの世界の外から来た身だ、この世界の大切なものは、この世界の住人が持つべきものだ。」

 

「それにな…」とセイントは続ける

 

「そのような重荷はたった一人で抱え込むべきものではないのだ。互いに団結し、支え合うのが我々人類の強みなのだから」

 

そう言って、セイントはアロナの頭を撫でる。アロナは不思議そうな顔をしたが、撫でられたことに目を細めた後、ハッとしたように答える。

 

「では、これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

その言葉に頷くと「後はお願いしますね、先生!」と声をかけてくる、シッテムの箱でできることはここまでのようだった。

意識を画面の外に戻すと、リンの声が聞こえてくる。

 

「はい……はい……分かりました。」

 

連邦生徒会との連絡だろうか、いくつか言葉を交わすと通信を切り、こちらへと視線を送ってくる。

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。」

「そうか!それは良かった!」

「お疲れさまでした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

 

リンはこちらに対して頭を下げてくる。

 

「気にするな!私とて自分にできることをしたに過ぎない、現にこの『シッテムの箱』とやらがなかったら何も解決はできなかったのだからな」

 

「暴徒の鎮圧であれば得意分野なのだがな」と豪快に笑って見せるセイントに、リンはクスリと笑みをこぼす。

 

「さて、『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目はここまで…いえ、まだ残っていました」

 

 

リンは少し肩の荷が下りた様子で告げる

「連邦捜査部「シャーレ」の案内と、彼女たちに一言くらい、お礼を言ってもいいかもしれません」

いたずらっぽく告げるその姿に、彼女の年相応な一面を見た気がした。




誰か私にワカモを教えてください。
チュートリアル編が終わらないのはバグでしょうか?次こそはセイントが皆の疑問に答えながら交流を図っていく回になります…!
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