「あ、セイントさん!」
地下からリンと共にロビーに上がると、ユメが声をかけてくる。
どうやら地下にいる間に新たな襲撃はなかったようだ。
これ以降の問題は起きないと判断し、皆を集めることにした。
「先生ってロボットだったんですか⁉」
ヘルメットを脱いでいたため、素顔を見られた生徒たちからはそう驚かれる。
「そうだ、正確にはエクソというのだが、そこまで珍しいのか?こちらの世界では機械の人間もいると聞いていたのだが」
「いえ、そうではないのですが…」
「あまり見たことのないタイプだったので、私のいるミレニアムにはそういった人は多いですけど、それでも先生のような人は見たこと無いですね」
この様子を見るに、彼女達にはまだまだ聞きたいことがある様子だった。しかし、それよりも先にやるべきことがあるだろう。
「であれば後ほど質問には答えよう。先ずは伝えるべきことがある」
そう言ってリンを見る。
彼女は頷くと口を開いた。
「先生のおかげでサンクトゥムタワーの制御権を取り戻すことが出来ました。変わらず連邦生徒会長の居場所はわからないままですが、騒動は一旦沈静化に向かうでしょう。皆さんも、ご協力に感謝します」
その言葉を聞いて、皆はほっと一息ついた後に、自身の所属する組織などに確認の連絡を取り始める。
「サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」
「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど……すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは担当者に任せます」
「とりあえずはひと段落ですね、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
どうやら一連の件を解決したことで多少なりとも名が通るようになるかもしれないらしい。「光栄なことだ」と笑い飛ばしてみれば、ユメは苦笑いを浮かべていた。
その様子を、ユウカは興味深そうに見ていることに気が付いた。
「どうしたユウカ、私の顔に何かついているか?」
「あ、いえ!すみません。ロボットなのに表情が伝わってくるというか、やっぱり私が知っているような人達とは違う気がして…」
どうやらこの世界の機械と私のような機械(エクソ)は大きく異なる存在らしい、彼女の疑問に答えるには少し長い話になるため、セイントは移動を提案した。
「立ち話もなんだ、場所を移そう。リン、確かシャーレのオフィスがあるのだろう?」
「ええ、ご案内します。皆さんもお時間があるのならどうぞ。今後先生と関わることで来る機会があるかもしれません」
再びリンが先導する形で建物内を移動する。
案内された扉には「空室。近々始業予定」と書かれた紙が貼られていた。
「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」
ユメが物珍しそうに周囲を見渡す、私もだが、彼女がこのような施設をその目で見るのは
「そして、ここがシャーレの部室です」
案内された部屋には長机とモニターが並び、オフィス然とした部屋だった。
「ここで、先生の仕事を始めると良いでしょう」
「ふむ、先生としての業務には何がある?」
そう疑問をぶつけると、思いもよらない返答が返ってくる。
「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません」
その言葉に全員が驚愕する。権限に見合っていない存在のように思えるが、リンがそのまま言葉を紡ぐ。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です。……面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特には触れていませんでした」
「それってつまり、先生が何でもやりたいことをやっていいってことじゃ…」
ユメが思ったことを口にする。言ってしまえば丸投げのような状態だった。
「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
「つまりは自由に各地で起きている問題の解決に当たれるというわけだな!いいではないか!」
セイントはそう豪快に言ってのけた。
「いいんですかセイントさん⁉元の世界に戻る方法を探す必要だって…」
セイントが『先生』の役割を始めてしまったなら、早々元の世界に帰ることは出来なくなってしまう。彼女はそれを心配しているのだろう。
「気にするな、ユメ。元の世界に帰る手段がすぐに見つかるとは限らない。であるならばこの世界に腰を据えてできる事を成すのが建設的だ」
それに、とセイントは続ける
「キヴォトスに来れたからといって、まだユメを元の居場所に帰せてはいない。であるならば、先ずはそれを解決するべきだ。言っただろう?タイタンの価値は約束を守ることで決まると」
そう言い頭を撫でてやると、どこか申し訳なさそうな雰囲気はあるが、ユメは嬉しそうに微笑んだ。
「あの…ちょっと気になっていたんだけど」
ユウカが申し訳なさそうに声を挟む、少し彼女たちを置いてきぼりにしてしまっていたかもしれない。
「先生は外の世界から来たばかりなんですよね?なのにどうしてユメとはそこまで親しげなんですか?」
ユウカのその疑問は皆も等しく持っているようだ。
それにユメは困ったように答える。
「実は、1ヶ月くらい前に怪我をしている所をセイントさんに助けられて、それ以来ずっと面倒を見てもらっていたんです」
皆がその答えに驚愕する。セイントの世界にいた理由はまた別にあるのだが、間違ったことは言っていなかった。
「ちょっと、それ大丈夫なの⁉」
ユウカが心配と驚きが混ざったような表情でユメに詰め寄る。
「ひぃん、ち、近づかないでください…さっきまでは緊急事態でしたけど、その、匂いますし…」
その言葉にユウカの動きがピシリと止まる。
改めて見てみれば、着ている服は汚れていて、髪の毛もパサついている。
白い肌にもカサつきが見え、しっかりとした手入れができていないのが見て取れた。
ユウカが勢い良くセイントを睨む、そこには鬼の形相が浮かんでおり、年頃の女の子にどのような生活をさせたのだと今にも雷が落ちそうな様子だった。
しかし、そこでユメが待ったをかける。
「セ、セイントさんを責めないでくださいぃ、向こうの世界の状態もありましたし、セイントさんに迷惑をかけてしまったのは私ですからぁ!!」
その言葉を聞き、ユウカは一旦その怒りを抑える。しかし、新たに気になる問題が浮上した。
「その、外の世界とはそんなに環境が悪いのですか…?」
当然だろう、日々を普通に生活をしていてその様な状態になることはキヴォトスではあまりない。
「外の世界。君たちの言うそれが、どの様な認識なのかはわからないが、少なくとも私のいた世界の人類は危機に瀕していた」
あまり語ると長くなると前置きをして、セイントは言葉を続ける。
「簡単に言えば侵略戦争のようなものだ、人類はかつて繫栄をしていたが、侵略者によって多くを奪われた。私はそんな中で、人類を守るために戦っていた」
絶句。彼女たちの想像できないことが、自分たちのいない世界では起こっている。
「本来であれば我々が守護する場所ではもう少しまともな生活をさせてあげられただろう。しかし私は任務でそういった場所から離れていたからな…」
そうセイントは申し訳なさそうに告げる。対してユメは「気にしないでください」とフォローするが、周りの皆は2人はどれほど壮絶な毎日を過ごしていたのだろうと夢想してしまう。
「あ、皆も気にしないでね?こうやってキヴォトスには帰ってこれたんだから!」
そうユメ本人に言われてしまえば黙ってしまうしかない。
「でも、それなら元居た所に帰らなくていいんですか?」
ハスミがもっともな意見を出す。違う世界にいたならいざ知らず、このキヴォトスに帰って来たのであれば、元の場所に帰るのが道理だった。しかし、その言葉にユメは困ったように返答をし、更に皆を驚愕させる。
「えっと、実はセイントさんに助けてもらった以前の記憶がなくて…キヴォトスの何処に住んでいたのかも分からないんです」
「だからシャワーに入れてないのも本当は1ヶ月以上なのかも…」なんて呟くものだから、これ以上黙っていられなかった。
「そんな大事なことを、なんでもっと早くに言わないのよ!!」
「ひぃん⁉」
ユウカが真っ先に爆発した。
「リン行政官!このシャーレにシャワーとかないの⁉」
「あります、こちらです」
リンが案内を始め、ユウカがユメを引っぱっていく。
「一旦モモトークを交換しませんか?ユウカは脱いだ服のサイズを送ってください」
「そうですね、私達が服を買ってきますので連絡先は交換しましょう」
ハスミとチナツが後に続く。
「なら私はいくつか化粧品を買ってきましょう。近場で買うので高級なものは買えませんが、まずは種類をそろえた方がいいですし」
スズミも言われるまでもなく動き出す。
「ちょ、ちょっと皆?そんなことしなくても大丈夫だよ⁉」
「「「「いいから(ですから)!!!!」」」
「ひぃん!!」
皆の圧に押されてユメが通路の向こうに消えていく。
どうやらユメのことが放っておけなくなったらしい、一日苦楽を共にして絆が生まれたのだろうか、妙な連帯感が生まれていた。
セイントはその様子を微笑ましそうに見守る。
少なくとも、彼女に年の近い友達ができたように見えて良かったと安心しながら、今日の出来事を振り返る。
すると、アロナが声をかけてくる
「あはは……なんだか慌ただしい感じでしたが……ある程度、落ち着いたみたいですね。お疲れ様でした」
「そうだな。アロナもよくやってくれた」
「はい!でも本当に大変なのは、これからですよ?」
どういうことかとセイントは首をかしげる。
「これから私たちは一緒に、キヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決していくのです……!」
確かにそうだ、なし崩しとはいえ、セイントは『先生』になったのだから、これから様々な問題に直面していくことになるのだろう。
「単純に見えても決して簡単ではない……とっても重要なことです」
だが、セイントは既に選択をした。
「キヴォトス、そしてシャーレをよろしくお願いいたします、先生」
「もちろんだ、任せておけ!」
セイントは胸を張って、そう答えたのだった。
想定していたところまで書き終えた…ッ!
スタートダッシュは上手く出来たと思いたい。しかし、それにより今後のシナリオがノープランになってしまったので、今後はもう少し更新頻度が控えめになると思います。