交差する運命   作:門の主トルネ

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出会ったあの日を思い出す


幕間
追想─運命が交わったあの日


先生として初仕事を終えた後、セイントとユメはソファに腰掛けて向かい合っていた。

 

「なんか、皆に色々とお世話になっちゃいました…」

 

ユメはゆったりとした真新しいジャージを身にまとい、どこか落ち着かない様子だった。

ユウカ達にユメの境遇を教えたあと、彼女たちはユメをシャワーに押し込み、身の回りの物を用意してから、「何か困ったことがあったら連絡するように」とモモトークと呼ばれるアプリの連絡先を押し付けて帰っていった。

丁寧に、まだ端末を持っていないユメのために皆で紙に連絡先を書いて、である。

 

「なんか、会ったばかりなのに申し訳ないですぅ…」

 

そんなことがあったものだから、結局直ぐに皆は自分達の組織に戻らなくてはならなくなり、セイントとはそこまで話が出来ずに終わったが…それでもセイントは満足していた。

 

「好意は遠慮することなく受け取っておくといい。彼女たちは、きっとユメを友と認めたのだ。」

 

「友のためには見返りなど求めないだろう?」といいながらユメを見やる。

 

「友達…えへへ、なんだか嬉しいです。」

 

そう彼女は照れたように言う。実際、突然現れた刺々しいアーマーを纏う大男であるセイントだけでは、彼女たちと上手くコミュニケーションが取れなかったかも知れない。

隣にユメが立っていてくれたことで、雰囲気が和らいだのは確かだろう。そして、ユメがセイントの事情を考え、怒りを顕にした様子も彼女の思いやりと優しさを示していた。

彼女のそんな所に、皆は惹かれたのかもしれない。

 

「友の存在は貴重だ。これからの未来、その繋がりが大きな助けになることが必ずやってくる。大切にするといい。」

「はい!」

 

ユメは一旦シャーレで生活をすることとなった。

生活に必要なものはユウカ達がある程度揃えてくれた上に、リンが連邦生徒会からシャーレに回す予算からユメの端末を買っても良いとの許しも得た。経費として申請はしてほしいらしいが、とにもかくにもありがたい。

 

「明日、端末を見に行くとしよう。モモトークは何故かシッテムの箱にも入れられるようだ、私の方からユウカにどのような物が良いか聞いておこう。」

「何から何まですみません…端末を買ったら私からもユウカちゃんにお礼を言いますね!」

 

明日以降の予定を少し相談し、それが終わるとユメは少しリラックスしたようにソファへと体を沈める。

 

「…なんだか、こんなふうにゆったりと休むのは初めてです。」

「落ち着かないか?」

「いえ、そうじゃないんですけど。ここがキヴォトスで、セイントさんと一緒にいるって考えると不思議で。」

 

「あ、でも快適で溶けそうです…」と少しだらしのない顔になっているユメの言葉には、セイントも同意した。

ユメに出会ったあの日、彼女を元いた世界に返すと約束をした日には、この様な事態に巻き込まれることまでは予想をしていなかった。

 

あの日、ユメと出会ったことは、運命なのかもしれない。

 

セイントはそうどこかで考えながら、あの日を思い返す──

 

 

 

 

 

砂漠のベックスポータルを抜けた先は、セイントが転移する前にいたシミュレーション空間だった。

見覚えのある景色であることに安堵し、周囲を見渡す。転移前に目を付けておいた洞窟を発見すると、少女を抱えてそこへと移動する。

 

「ゴースト、手当の道具をだせ」

「わかりました。…昔の名残で難民用の物資を持っていて良かったですね。」

 

ゴーストの言う通り、幸運だった。ベックスのシミュレーション空間では基本的に誰かと会うことは有り得ない。実際セイントは数百年間の探索において誰かと会うのは初めてだった。

それでもエクソである彼が人間用の物資を持っていたのは、かつての戦いで幾度となく難民を保護し防壁のある地域まで導いていた経験があったからである。

 

セイントは少女の頭に付いた血を拭い、傷跡を手当する。処置を終えて、他の傷がないかをゴーストに確認をとる。服の内側に怪我などがあれば処置をしなくてはならないが、相手は年頃の少女だ、必要もないのに服を脱がせたりなどはしない。

 

「待ってください、再度スキャンします。…おや?」

「どうした?」

 

いえ…と少し考えたそぶりをするとゴーストは続ける。

 

「先ほどスキャンしたときには打撲などがあるように思ったのですが、勘違いだったのでしょうか?ですが頭の傷も、血の出方の割には小さかったような……」

 

ゴーストは少し悩んでいるようだったが、怪我がないことに越したことはない。一先ず安心して次の行動を考える。

 

「そうか、であれば周囲の警戒を頼む。またベックスが現れないとは限らないからな。」

「わかりました、任せてください。」

 

ゴーストは答え、洞窟の入口まで浮遊していく。

それを見送った後に、セイントは改めて少女をみた。

 

見たところ10代だろうか、セイントにしてみればどこか幼さの残った顔立ちは、どこか東邦の顔立ちのように感じられた。確か日本という国をルーツにしたガーディアンにその様な人物がいたことを思い出す。

服装についても、セイントにとっては見覚えのないものだったが、なにせ数百年人と会っていない。多少の変化はあるだろうと納得をする。

 

そんなことを思っていると、何かが点滅するのが見えた。

 

「なんだ?」

 

それは少女の頭上に徐々に浮かび上がってくる。黄色に輝く輪、そしてその中心に太陽を模した模様が浮かび上がる。見たこともない現象だった。

しかし、その疑問について思案するよりも前に、少女の口から声が漏れ、瞼が開いて行くのが見て取れた。

 

「気が付いたか?」

 

「え…ここは…、ひぃん⁉だ…誰⁉」

 

当たり前の反応である。気がついたら刺々しいアーマーを纏った大男が、自分を覗き込むように見ていたのだ。客観的に見ても恐ろしいだろう。

「すまない」と手を上げながらセイントは数歩移動し、近くの岩に腰を下ろす、

 

「頭の傷は手当をしたが、痛くはないか?他にも体に異常はないか?」

 

そう言われて、少女は自分の頭に包帯が巻かれていることに気付く。

現状については混乱している様子だが、手当をしたことは理解してもらえたようだった。

 

「そういえば、私、赤い眼の機械に襲われて…吹き飛ばされて…」

 

ゆっくりと思案する彼女を見守ると、何かを思い出したように目を開く。

 

「そういえば、あの時紫色の光が…貴方が助けてくれたんですね!」

 

あの時の光景を見ていたらしい彼女は、驚きと感謝の声を上げつつ、こちらに頭を下げてくる。

それを「気にするな」と制し、今の現状の整理をしなければならないと彼女と話す姿勢を取る。

そんな中で素顔をさらさないのは不安だろうと思い、セイントはヘルムを脱ぐ。

 

「え…ロボット?」

「エクソを見たことがないのか?」

 

そう呟く彼女に疑問に思ったが、今はまず自身の素性を話すことにした。

 

「私の名はセイント14、タイタンだ」

「えっと…梔子ユメ…です…。」

 

彼女は俯いていて、どうにも歯切れが悪い、というよりは何か困惑し、怯えているような様子だった。

セイントは再び動き、彼女の前に膝をつく。目線を合わせ、できるだけ安心させるように声をかけた。

 

「落ち着け、ゆっくりでいい。何か困っていること、辛いこと、分からないことがあるのであれば話してくれ。このセイントが力になる事を誓おう。」

 

その言葉に、彼女は顔を上げる。その両目には今にもこぼれそうな涙が溜まっている。

その口が震え、小さく声をこぼす。

 

「名前以外、何にもわかんなくて…どうして、砂漠にいたのかも…ここはどこですか?エクソって、タイタンってなんですか?なにも…何にもわからなくて…っ」

 

ポロポロと涙と共に零れ落ちた言葉は、彼女の悲しみと不安を表していた。

何ということだ、察するに、彼女は戦闘で出来た怪我の影響か、それより以前の記憶がないらしい。

現状も、自身すらについても分からない状態で、怪我をして見知らぬ土地にいる。それは何と恐ろしいことなのだろう。セイントには想像もつかなかった。

 

「ユメ、私に任せろ。」

 

「え…」と呟いて、ユメという少女はセイントを見やる。セイントは彼女の頭を優しく撫で、宣言をする。

 

「言っただろう、君の力になると。タイタンとは、人を守る事を生業とする者のことを指す。そして、タイタンの価値は約束を守ることで決まるのだ。私に、約束を守らせてはくれないか?」

 

「誓いを守れなければ、私はタイタンを名乗れなくなってしまう」などと、おどけた調子で続けるセイントにユメは迷いをぶつける。

 

「本当に…助けてくれるんですか…?」

 

セイントは胸に手を当てて答える。

 

「ああ、約束だ。」

 

再度立てた誓いの言葉、その言葉にユメは再び涙を流す。未だ悲しみと不安もあるだろうそれには、少しの安堵も混ざっていった。

コツンと、セイントの胸当てに頭を預け、弱弱しい言葉を紡ぐ。

 

「私…思い出したいです、知りたいです。自分が何なのか、どこにいたのか。帰る場所があるなら…帰りたい。」

 

何もかもを無くしてしまった、彼女の願い。その小さな、壊れてしまいそうな願いごと、セイントはユメを包むように手を回した。アーマーの刺が彼女を傷つけてしまわないように、ゆっくりと、丁寧に。

 

優しく頭を撫で、背中をさすれば、ように嗚咽を漏らす。

セイントは落ち着くまで、彼女の側で見守っていた。

 

 

 

しばらくすると、落ち着いたのかユメが顔を上げる。

その目は真っ赤に腫れ、くしゃくしゃになっていたが、どこかスッキリした様子だった。

 

「すみません…ありがとうございました。」

 

恥ずかしそうにする彼女は、そうお礼をいいながらはにかむ。

 

「遠慮するな。それに、笑っていたほうが君はいい。」

 

その言葉にユメはさらに恥ずかしくなってしまったようで、顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「あの…そろそろ良いでしょうか?」

 

 

そう遠慮がちな声が、洞窟に響く。

ユメは驚いたように顔を上げるが、セイントは聞き馴染んだ声に落ち着いて対応した。

「ゴースト、戻ったか。」

「とっくに戻っていましたよ!その…少し入りづらかったので…」

 

どうやら気を利かせてしまったらしい。

とはいえこの様子であれば、周囲に特に問題はなかったのだろう。

このまま落ち着いて会話が出来ると判断し、ユメにゴーストを紹介しようと彼女を見ると、その瞳がキラキラと輝いていた。

 

「か…」

 

どうしたのだろうとゴーストと共に見守っていると、

 

「可愛い!」

 

 

「…ハイ?」

 

ゴーストの間の抜けた声が、洞窟に反響した。




ゴーストってかわいいんですよ。セイントのゴーストはどんな性格なのか詳細な描写がないので、今回はDestinyの主人公のゴーストをモデルに書いています。

ユメ先輩の記憶の設定が少し緩くなるのはゆるして…

投稿頻度落ちるかもと言いながら暇があれば常に描き続けていますまる。

本当はもっと書いたんですが、長くなりすぎるので分けてます。
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