できるだけ、勢力の扱いが不公平にならないようにしたいですが、場合によっては割愛される勢力もあるかも…(-_-;)
◇招待道中(旧地獄編)〜カヒライス〜
「カヒ……地獄に行ってちょうだい…」
その日は、メイド長の衝撃的な一言から始まった。
実質的な死刑宣告である。
「メ、メイド長…私……メイド長を怒らせることをしましたかぁ〜」
私にできることはもう、泣きながら命乞いをするしかない。
この涙はもしかして、死期が迫った私が、自分自身のために流す涙だろうか?
しかし、そんな私の必死な思いとは裏腹に、メイド長はきょとんとした表情。
「何を言ってるの?招待状を旧地獄の地霊殿に届けてほしいのだけど…?」
「へ?」
な、なんだ……紛らわしい言い方をするからてっきり……って、メイド長笑ってません?
「メイド長……まさか…」
ジト目で訴えると、メイド長の肩が小刻みに震えだした。
やっぱりこの人、勘違いするように、わざと紛らわしく言いやがりましたよ!?
「ご、ごめんなさい…まさか泣きまで入るなんて…」
全く…泣き妖精の涙はただの涙じゃないんだから、安易に泣かせないでほしいわ…。
これでまた、メイド長に死期が迫っているなんてことになったら、まだ回復半ばのお嬢様に報告しなくてはならないんだから、最低でもお嬢様が完治するまでは死期は感じずにいたい。
まあ、それをメイド長に言うわけにもいきませんけどね…。
ともあれ、やって来ました旧地獄!
途中で土蜘蛛のヤマメさんに、糸でグルグル巻きにされたり、釣瓶落としのキスメさんが落ちてきたり、パルスィさんの妬ましさ満載の愚痴をパルパルと聞かされたり、来るだけで疲れた……もう帰りたい…。
ですが、本番はこれからです。
ここ、旧地獄を管理する“古明地さとり”さんと、鬼の筆頭、“星熊勇儀”さんに招待状を渡すのが今回のミッションですが…。
さとりさんはともかく、勇儀さんは鬼ですよ?
妖怪の中でも伝説級なんですよ?
私みたいな妖精が、まともに取り合ってもらえるかどうか…。
そんな事を考えながら歩いていたのが悪かったようです。
足元に転がっていた石ころに気づかず、思いっきり踏みつけてしまった結果。
「はわわわわわっ!!?」
バランスを崩した私。
私が倒れこんだのは茶屋の長椅子。
不運だったのは、その長椅子の端に、今まさにお客に出すはずだった熱々のお茶が載っていたこと。
さらに不運だったのは、私が倒れこんだことで、長椅子がシーソーのようにお茶を跳ね上げたこと。
さらにさらに不運だったのは、そのお茶が飛んでいった先に、強面の鬼がいたことだ。
「熱ちゃぁぁっ!!!」
流石の鬼も、熱々のお茶の不意打ちには弱かったようです。
「あ、兄貴ぃ!?大丈夫ですかい!!?」
何か舎弟っぽい鬼も何人か…。
そして、その全員が私を見ましたよ。
あ、これ人生終わったかも…。
「おいこら!妖精の分際で、ワシらに茶をひっかけるなんざ、いい度胸じゃねぇか!?」
ひぃっ!?まさに言葉通りの鬼の形相!
「ご、ごごご…ごめんなさいぃぃ…!」
私の必死の謝罪も、一度火がついた鬼には通用しません。
地獄での揉め事の解決策はただ一つ。
力でねじ伏せる以外はありません。
つまり、力など皆無な私はデッドエンドというやつで…。
「この落とし前、どうつけてくれるんだ?その腕一本、引っこ抜いてやろうか?」
あわわわわ……も、もう、鬼さん達は殺る気満々じゃないですかヤダーッ!
こんなとき、か弱い妖精ができることは一つ…。
「逃げるんだよぉぉっ!」
「あっ!てめぇっ!!」
脱兎の如く逃げ出した私を、地響きをたてながら追いかけてくる鬼御一行様。
つ、捕まったら殺られる!!
もう無我夢中で逃げ回りますが、後ろの鬼さん方もなりふり構わず追いかけてきます。
道端の露店やら置いてあった荷車やらをぶっ飛ばしながらなので、周囲は阿鼻叫喚の地獄に…。
地獄にあって地獄を見るとは思わなかったぁ!
もうとにかく必死に逃げていると、道の端に小さな影が…。
「なっ!?」
子供だ。
それもまだ状況が理解できないほどに幼い。
頭の小さな角から、鬼の子でしょうが、その瞳は純粋で、追われている私や、それを追う鬼達を、珍しげに見つめてくる。
正直言って、かわいい〜!!
ですが…ですがそこにいては危ないです!
後ろの鬼さん達に踏み潰されてしまいます!
私が抱えて逃げようにも、流石は鬼の子。
私が抱えるには大きすぎます。
たぶん、押してもビクともしないでしょう。
こ、この子のお母さん!お母さ〜〜ん!!
姿が見えない……し、しかたがない!!
私は急停止し、鬼達に向き直る。
鬼達は私が止まったのを好機と、猛然と迫ってきた。
「このまま蹴鞠みたく蹴り飛ばしてくれるわぁ!!」
迫る鬼。
ですが、後ろの子供を守るためには避けるわけには…。
あ〜…せめて一回休みで終わればいいなぁ…。
「うおらぁぁぁっ!!」
完璧なフォームで蹴り出される鬼の脚。
巨木のような脚が、振りだされる光景に、私の身体がバラバラになりながら宙を舞う様子が想像できた。
どうやら、私はここまでのようです。
これを受ければ、一回休みでは済まないでしょう。
ああ……メイド長…すいません…。お嬢様……メイド長をお守りする役目、果たせず申し訳ありません…。
走馬灯が脳内を駆け巡り、鬼の脚が私の身体を打ち据えると思われた瞬間、私は目を閉じ、覚悟するしかなかった。
《バキィッ!!》
何かが激しくぶつかる鈍い音。
私が蹴り飛ばされた音だろうか?
流石は鬼の一撃。
痛みも何も感じる間もなく終わりました。
そう思ってました。
鬼の呻き声を聞くまでは。
「あ、姐さん…!?」
鬼達が動揺する声。
恐る恐る目を開けてみると、目の前には筋肉隆々な鬼の脚。
こんなので蹴り飛ばされたら、私の身体が残るかすら怪しいものです。
そんな、私を蹴り飛ばすはずだった脚が、私の目の前で止まっていました。
鬼が自分で止めたのではありません。
白く、鬼の脚に比べれば細い、しかし力強い脚が、鬼の脚を受け止めていました。
その脚を辿って視線を上げれば、鬼達が姐さんと呼ぶ人物の姿が…。
「妖精一人に、鬼がよってたかって…情けないねぇ…」
あんなゴツい鬼の蹴りを受け止めたのに、当の本人は涼しい顔だ。
片手に大きな赤い杯を持ったまま、強面の鬼相手に物怖じひとつしない。
彼女の額を見れば、それも納得だ。
赤い立派な一本角。
星マークが入っているのが特徴的だ。
そして、メイド長に教えてもらった招待客の特徴と合致する。
彼女こそ、語られる怪力乱神“星熊勇儀”さんだ。
「で、この騒ぎは何なんだい?」
かつて妖怪の山で、鬼の四天王の一人とされていた勇儀さんの前では、流石の鬼もおとなしい。
「そこの妖精が、俺に茶をひっかけてきたんで…つい…」
ゴツい手で私を指差し、鬼が事情を話す。
「それは、妖精がわざとやったのかい?」
「い、いや……そういう訳じゃ…」
「それについて、妖精は謝ったのかい?」
「へ、へぇ……震えながら…」
勇儀さんはため息を一つ吐くと、
「なら、この話はもう終わりだ。とっとと帰んな」
鬼達を追い払うように手を振った。
しかし、これには鬼達も食い下がった。
「俺達は許すなんて一言も…!」
鬼が全部言い終わる前に、勇儀さんが手で制する。
「じゃあ、許せないから…どうするんだい?」
飄々とした態度はそのままに、眼は鬼を睨み付けながら、勇儀さんは問う。
鬼達は蛇に睨まれた蛙のように、固まってしまった。
「この前の宴会で…酔っぱらってアタシの胸を揉んだのは、誰だったかねぇ…」
意地の悪い表情を浮かべる勇儀さんと、視線を泳がせる鬼。
「あん時は笑って許したけど…あんたらの流儀でいくなら、そのことも清算しないとねぇ…」
ポキポキと指を鳴らしながら、凄まじい闘気を放つ勇儀さん。
「わ、わかった!わかったから姐さん!!どうか勘弁してくれ!!」
今度は鬼達が平謝りする番だった。
そんな鬼達を見ながら、少しつまらなそうな表情の勇儀さん。
すごすごと退散する鬼達を尻目に、私の方に向き直った。
「すまないねぇ、頭に血が昇ると歯止めが効かない連中でさ」
身長差があるから、わざわざ中腰になって話してくれる勇儀さん。
あわわわ…も、申し訳ないです…。
「それにしても…鬼を前に、子供を守ろうと身体を張るなんざぁ見上げた心意気だ。気に入ったよ」
私の頭にポンと手をのせる勇儀さん。
うわぁ…大きくて温かい手だわ…。
と、そこへ…大柄な鬼のおばさんが慌てて走ってきた。
鬼の中で大柄な方なので、走ると振動が…。
「あんた、こんなところまで一人で…!危ないでしょ!!?」
どうやら、鬼の子の母親らしい。
「あ、勇儀さん…。うちの子が何かやらかしませんでした?」
おばさんは恐縮そうに勇儀さんに会釈をすると、そう訊ねた。
「鬼の衆に轢かれかけたけど、そこの妖精が助けたよ」
大したことでもないとばかりに、さらりとそう答える勇儀さん。
しかし、おばさんにとっては一大事だったようで…。
「まあぁっ!?ありがとう!ありがとうねぇ!!」
と、私をハグしてきた。
ハグはいいけど、相手は鬼だ。
それもヘビー級の。
豊満なおばさんの胸の中で、殺人的な力のハグに、今度こそ私は三途の川を見た気がした。
◆面白いやつ 〜星熊勇儀〜
最初は、妖精もろとも殴り飛ばして、子供だけ助けるつもりだった。
何にせよ、地底で騒ぎを起こした以上、そのツケは払わせるのが地獄の流儀だ。
鬼どもはアタシに一発殴られたくらいじゃ死にはしないだろうが、妖精は違う。
だが、妖精の一人や二人死のうが、鬼には関係ない…。
そう思ってたんだが…。 あの妖精が子供を守ろうとする姿に、アタシも少しばかり熱くなった。
鬼という、途方もない暴力の塊を相手に立ち塞がった妖精。
その一方で、アタシが少し脅せば引き下がる最近の鬼ども。
鬼達の腑抜けぶりを嘆く一方、この妖精は死なすには惜しいと思った。
だから助けた。
それだけだ。
何とも鬼らしい単純明快な理由で命を長らえたことなど、目の前の妖精は知る由もないだろう。
「お前さん、名前は?」
さすがに助けた以上、妖精と呼ぶのも変なので名を訊ねる。
「申し遅れました、私は紅魔館のメイドでカヒライスと申します。カヒとお呼びください」
恭しくスカートの裾をつまんでする挨拶の作法は、確かに紅魔館の咲夜と一緒だ。
まあ、服装もほとんど一緒だから、そうだとは思ったが…。
「で、その紅魔のメイドが、この地獄に何の用だい?」
「あ、はい!実はこの度、紅魔館で宴を催すのですが、星熊様と古明地さとり様をご招待したく…」
「ああ、勇儀で良いよ。様もいらない。アタシ等の他には誰が来るんだ?」
酒盛りなら喜んで参加したいが、アタシは鬼だ。
余計なトラブルの種となって、酒宴をぶち壊すのは粋じゃない。
カヒがリストらしい紙で確認する。
人里の代表者、命蓮寺、白玉楼、地霊殿、守矢神社、妖怪の山、永遠亭…。
「幻想郷の主だった勢力は全部呼ぶのか…」
そこまでデカい酒宴なら、鬼のアタシが出張るのも正直気が引ける。
……と、こんな気を使うようなことを考えている時点で、アタシも他の鬼と同じ腑抜けになっちまったのかね…。
「あと、博麗神社の“博麗霊夢”さんと“伊吹萃香”さんも…」
………前言撤回。
「博麗の巫女も来るのかい!?」
たぶん、アタシは大分勢いよく食いついたんだと思う。
カヒは口許をひきつらせて、「え…ええ…」とだけ答えた。
「あいつが来るとなりゃ、出ないわけにはいかないねぇ…」
博麗霊夢の名を聞いたからには、腑抜けたと嘆いてなんぞいられない。
あいつはアタシが認めた“強者”だ。
さとりのペットが起こした異変のときに手合わせしたが、まあヒラヒラとアタシの攻撃をかわしたあげくに、夢想封印とかいう鬼も認める極悪な技で、アタシから勝利をもぎ取っていった。
負けはしたが、実に気持ちのいい戦いだった。
先代の巫女に負けず劣らず、アタシを熱くさせてくれた。
勝っておきながら、決して傲らず、素っ気なく去っていったところも好感が持てる。
できれば、もう一度手合わせ願いたいが…あいにく、地底から頻繁に出られない立場なので歯痒く思っていた。
萃香など、同じ四天王でありながら、ちゃっかり博麗神社の居候になってやがるし…。
そんなときにこんな話が舞い込んでくるとは、渡りに船だ。
さとりも来るなら、公明正大に地上に出られる。
アタシに断る理由などあろうはずがない。
「いいだろう。アタシも参加させてもらうよ」
そう快諾したとき、たぶんアタシは我ながら素晴らしい笑顔を浮かべていたんだろう。
カヒは呆気にとられた表情だったが、すぐに気を取り直し、恭しく招待状をよこす。
「ふふ……楽しみだねぇ…」
あと二週間足らず…。
再び博麗の巫女と相対するまでの二週間が、アタシには何百年か先のように待ち遠しかった。
◇さて、次は… 〜カヒライス〜
何だか、難しい顔をされてた勇儀さんが、博麗霊夢さんの名を出した途端に目の色を変えましたね…。
何かあるんでしょうか?
はっ……!?まさか、霊夢さんに片想い!!?
そんな百合百合な展開に………なるわけないか…。
すぐピンク色に染まりやすい自分の脳内に自己嫌悪しながら、私は勇儀さんと別れ、もう一つの目的地に向かう。
向かう先は旧地獄の最も奥……“地霊殿”だ。
勇儀さんは良い女。
異論は認めない。
なんて、私のイメージはそんな感じ(^^;
思いの外長くなり、勇儀とさとりを一話でまとめられなくなってしまいました(--;)