東方涙精潭   作:サラム

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 この“招待道中”もそろそろ切り上げたくなりますが、訪れてない勢力の方々もいますしね…(--;)
 できるだけ、勢力の扱いが不公平にならないようにしたいですが、場合によっては割愛される勢力もあるかも…(-_-;)


第28話 〜招待道中(旧地獄編)〜

◇招待道中(旧地獄編)〜カヒライス〜

 

 

「カヒ……地獄に行ってちょうだい…」

 

 その日は、メイド長の衝撃的な一言から始まった。

 実質的な死刑宣告である。

 

「メ、メイド長…私……メイド長を怒らせることをしましたかぁ〜」

 

 私にできることはもう、泣きながら命乞いをするしかない。

 この涙はもしかして、死期が迫った私が、自分自身のために流す涙だろうか?

 しかし、そんな私の必死な思いとは裏腹に、メイド長はきょとんとした表情。

 

「何を言ってるの?招待状を旧地獄の地霊殿に届けてほしいのだけど…?」

 

「へ?」

 

 な、なんだ……紛らわしい言い方をするからてっきり……って、メイド長笑ってません?

 

「メイド長……まさか…」 

 ジト目で訴えると、メイド長の肩が小刻みに震えだした。

 やっぱりこの人、勘違いするように、わざと紛らわしく言いやがりましたよ!?

 

「ご、ごめんなさい…まさか泣きまで入るなんて…」

 

 全く…泣き妖精の涙はただの涙じゃないんだから、安易に泣かせないでほしいわ…。

 これでまた、メイド長に死期が迫っているなんてことになったら、まだ回復半ばのお嬢様に報告しなくてはならないんだから、最低でもお嬢様が完治するまでは死期は感じずにいたい。

 まあ、それをメイド長に言うわけにもいきませんけどね…。

 

 ともあれ、やって来ました旧地獄!

 途中で土蜘蛛のヤマメさんに、糸でグルグル巻きにされたり、釣瓶落としのキスメさんが落ちてきたり、パルスィさんの妬ましさ満載の愚痴をパルパルと聞かされたり、来るだけで疲れた……もう帰りたい…。

 ですが、本番はこれからです。

 ここ、旧地獄を管理する“古明地さとり”さんと、鬼の筆頭、“星熊勇儀”さんに招待状を渡すのが今回のミッションですが…。

 さとりさんはともかく、勇儀さんは鬼ですよ?

 妖怪の中でも伝説級なんですよ?

 私みたいな妖精が、まともに取り合ってもらえるかどうか…。

 そんな事を考えながら歩いていたのが悪かったようです。

 足元に転がっていた石ころに気づかず、思いっきり踏みつけてしまった結果。

 

「はわわわわわっ!!?」

 

 バランスを崩した私。

 私が倒れこんだのは茶屋の長椅子。

 不運だったのは、その長椅子の端に、今まさにお客に出すはずだった熱々のお茶が載っていたこと。

 さらに不運だったのは、私が倒れこんだことで、長椅子がシーソーのようにお茶を跳ね上げたこと。

 さらにさらに不運だったのは、そのお茶が飛んでいった先に、強面の鬼がいたことだ。

 

「熱ちゃぁぁっ!!!」

 

 流石の鬼も、熱々のお茶の不意打ちには弱かったようです。

 

「あ、兄貴ぃ!?大丈夫ですかい!!?」

 

 何か舎弟っぽい鬼も何人か…。

 そして、その全員が私を見ましたよ。

 あ、これ人生終わったかも…。

 

「おいこら!妖精の分際で、ワシらに茶をひっかけるなんざ、いい度胸じゃねぇか!?」

 

 ひぃっ!?まさに言葉通りの鬼の形相!

 

「ご、ごごご…ごめんなさいぃぃ…!」

 

 私の必死の謝罪も、一度火がついた鬼には通用しません。

 地獄での揉め事の解決策はただ一つ。

 力でねじ伏せる以外はありません。

 つまり、力など皆無な私はデッドエンドというやつで…。

 

「この落とし前、どうつけてくれるんだ?その腕一本、引っこ抜いてやろうか?」

 

 あわわわわ……も、もう、鬼さん達は殺る気満々じゃないですかヤダーッ!

 こんなとき、か弱い妖精ができることは一つ…。

 

「逃げるんだよぉぉっ!」

 

「あっ!てめぇっ!!」

 

 脱兎の如く逃げ出した私を、地響きをたてながら追いかけてくる鬼御一行様。

 つ、捕まったら殺られる!!

 もう無我夢中で逃げ回りますが、後ろの鬼さん方もなりふり構わず追いかけてきます。

 道端の露店やら置いてあった荷車やらをぶっ飛ばしながらなので、周囲は阿鼻叫喚の地獄に…。

 地獄にあって地獄を見るとは思わなかったぁ!

 もうとにかく必死に逃げていると、道の端に小さな影が…。

 

「なっ!?」

 

 子供だ。

 それもまだ状況が理解できないほどに幼い。

 頭の小さな角から、鬼の子でしょうが、その瞳は純粋で、追われている私や、それを追う鬼達を、珍しげに見つめてくる。

 正直言って、かわいい〜!!

 ですが…ですがそこにいては危ないです!

 後ろの鬼さん達に踏み潰されてしまいます!

 私が抱えて逃げようにも、流石は鬼の子。

 私が抱えるには大きすぎます。

 たぶん、押してもビクともしないでしょう。

 こ、この子のお母さん!お母さ〜〜ん!!

 姿が見えない……し、しかたがない!!

 私は急停止し、鬼達に向き直る。

 鬼達は私が止まったのを好機と、猛然と迫ってきた。

 

「このまま蹴鞠みたく蹴り飛ばしてくれるわぁ!!」

 

 迫る鬼。

 ですが、後ろの子供を守るためには避けるわけには…。

 あ〜…せめて一回休みで終わればいいなぁ…。

 

「うおらぁぁぁっ!!」

 

 完璧なフォームで蹴り出される鬼の脚。

 巨木のような脚が、振りだされる光景に、私の身体がバラバラになりながら宙を舞う様子が想像できた。

 どうやら、私はここまでのようです。

 これを受ければ、一回休みでは済まないでしょう。

 ああ……メイド長…すいません…。お嬢様……メイド長をお守りする役目、果たせず申し訳ありません…。

 走馬灯が脳内を駆け巡り、鬼の脚が私の身体を打ち据えると思われた瞬間、私は目を閉じ、覚悟するしかなかった。

 

《バキィッ!!》

 

 何かが激しくぶつかる鈍い音。

 私が蹴り飛ばされた音だろうか?

 流石は鬼の一撃。

 痛みも何も感じる間もなく終わりました。

 そう思ってました。

 鬼の呻き声を聞くまでは。

 

「あ、姐さん…!?」

 

 鬼達が動揺する声。

 

 恐る恐る目を開けてみると、目の前には筋肉隆々な鬼の脚。

 こんなので蹴り飛ばされたら、私の身体が残るかすら怪しいものです。

 そんな、私を蹴り飛ばすはずだった脚が、私の目の前で止まっていました。

 鬼が自分で止めたのではありません。

 白く、鬼の脚に比べれば細い、しかし力強い脚が、鬼の脚を受け止めていました。

 その脚を辿って視線を上げれば、鬼達が姐さんと呼ぶ人物の姿が…。

 

「妖精一人に、鬼がよってたかって…情けないねぇ…」

 

 あんなゴツい鬼の蹴りを受け止めたのに、当の本人は涼しい顔だ。

 片手に大きな赤い杯を持ったまま、強面の鬼相手に物怖じひとつしない。

 彼女の額を見れば、それも納得だ。

 赤い立派な一本角。

 星マークが入っているのが特徴的だ。

 そして、メイド長に教えてもらった招待客の特徴と合致する。

 彼女こそ、語られる怪力乱神“星熊勇儀”さんだ。

 

「で、この騒ぎは何なんだい?」

 

 かつて妖怪の山で、鬼の四天王の一人とされていた勇儀さんの前では、流石の鬼もおとなしい。

 

「そこの妖精が、俺に茶をひっかけてきたんで…つい…」

 

 ゴツい手で私を指差し、鬼が事情を話す。

 

「それは、妖精がわざとやったのかい?」

 

「い、いや……そういう訳じゃ…」

 

「それについて、妖精は謝ったのかい?」

 

「へ、へぇ……震えながら…」

 

 勇儀さんはため息を一つ吐くと、

 

「なら、この話はもう終わりだ。とっとと帰んな」

 

 鬼達を追い払うように手を振った。

 しかし、これには鬼達も食い下がった。

 

「俺達は許すなんて一言も…!」

 

 鬼が全部言い終わる前に、勇儀さんが手で制する。

 

「じゃあ、許せないから…どうするんだい?」

 

 飄々とした態度はそのままに、眼は鬼を睨み付けながら、勇儀さんは問う。

 鬼達は蛇に睨まれた蛙のように、固まってしまった。

 

「この前の宴会で…酔っぱらってアタシの胸を揉んだのは、誰だったかねぇ…」

 

 意地の悪い表情を浮かべる勇儀さんと、視線を泳がせる鬼。

 

「あん時は笑って許したけど…あんたらの流儀でいくなら、そのことも清算しないとねぇ…」

 

 ポキポキと指を鳴らしながら、凄まじい闘気を放つ勇儀さん。

 

「わ、わかった!わかったから姐さん!!どうか勘弁してくれ!!」

 

 今度は鬼達が平謝りする番だった。

 そんな鬼達を見ながら、少しつまらなそうな表情の勇儀さん。

 すごすごと退散する鬼達を尻目に、私の方に向き直った。

 

「すまないねぇ、頭に血が昇ると歯止めが効かない連中でさ」

 

 身長差があるから、わざわざ中腰になって話してくれる勇儀さん。

 あわわわ…も、申し訳ないです…。

 

「それにしても…鬼を前に、子供を守ろうと身体を張るなんざぁ見上げた心意気だ。気に入ったよ」

 

 私の頭にポンと手をのせる勇儀さん。

 うわぁ…大きくて温かい手だわ…。

 と、そこへ…大柄な鬼のおばさんが慌てて走ってきた。

 鬼の中で大柄な方なので、走ると振動が…。

 

「あんた、こんなところまで一人で…!危ないでしょ!!?」

 

 どうやら、鬼の子の母親らしい。

 

「あ、勇儀さん…。うちの子が何かやらかしませんでした?」

 

 おばさんは恐縮そうに勇儀さんに会釈をすると、そう訊ねた。

 

「鬼の衆に轢かれかけたけど、そこの妖精が助けたよ」

 

 大したことでもないとばかりに、さらりとそう答える勇儀さん。

 しかし、おばさんにとっては一大事だったようで…。

 

「まあぁっ!?ありがとう!ありがとうねぇ!!」

 

 と、私をハグしてきた。

 ハグはいいけど、相手は鬼だ。

 それもヘビー級の。

 豊満なおばさんの胸の中で、殺人的な力のハグに、今度こそ私は三途の川を見た気がした。

 

◆面白いやつ 〜星熊勇儀〜

 

 

 最初は、妖精もろとも殴り飛ばして、子供だけ助けるつもりだった。

 何にせよ、地底で騒ぎを起こした以上、そのツケは払わせるのが地獄の流儀だ。

 鬼どもはアタシに一発殴られたくらいじゃ死にはしないだろうが、妖精は違う。

 だが、妖精の一人や二人死のうが、鬼には関係ない…。

 そう思ってたんだが…。 あの妖精が子供を守ろうとする姿に、アタシも少しばかり熱くなった。

 鬼という、途方もない暴力の塊を相手に立ち塞がった妖精。

 その一方で、アタシが少し脅せば引き下がる最近の鬼ども。

 鬼達の腑抜けぶりを嘆く一方、この妖精は死なすには惜しいと思った。

 だから助けた。

 それだけだ。

 何とも鬼らしい単純明快な理由で命を長らえたことなど、目の前の妖精は知る由もないだろう。

 

「お前さん、名前は?」

 

 さすがに助けた以上、妖精と呼ぶのも変なので名を訊ねる。

 

「申し遅れました、私は紅魔館のメイドでカヒライスと申します。カヒとお呼びください」

 

 恭しくスカートの裾をつまんでする挨拶の作法は、確かに紅魔館の咲夜と一緒だ。

 まあ、服装もほとんど一緒だから、そうだとは思ったが…。

 

「で、その紅魔のメイドが、この地獄に何の用だい?」

 

「あ、はい!実はこの度、紅魔館で宴を催すのですが、星熊様と古明地さとり様をご招待したく…」

 

「ああ、勇儀で良いよ。様もいらない。アタシ等の他には誰が来るんだ?」

 

 酒盛りなら喜んで参加したいが、アタシは鬼だ。

 余計なトラブルの種となって、酒宴をぶち壊すのは粋じゃない。

 カヒがリストらしい紙で確認する。

 人里の代表者、命蓮寺、白玉楼、地霊殿、守矢神社、妖怪の山、永遠亭…。

 

「幻想郷の主だった勢力は全部呼ぶのか…」

 

 そこまでデカい酒宴なら、鬼のアタシが出張るのも正直気が引ける。

 ……と、こんな気を使うようなことを考えている時点で、アタシも他の鬼と同じ腑抜けになっちまったのかね…。

 

「あと、博麗神社の“博麗霊夢”さんと“伊吹萃香”さんも…」

 

 ………前言撤回。

 

「博麗の巫女も来るのかい!?」

 

 たぶん、アタシは大分勢いよく食いついたんだと思う。

 カヒは口許をひきつらせて、「え…ええ…」とだけ答えた。

 

「あいつが来るとなりゃ、出ないわけにはいかないねぇ…」

 

 博麗霊夢の名を聞いたからには、腑抜けたと嘆いてなんぞいられない。

 あいつはアタシが認めた“強者”だ。

 さとりのペットが起こした異変のときに手合わせしたが、まあヒラヒラとアタシの攻撃をかわしたあげくに、夢想封印とかいう鬼も認める極悪な技で、アタシから勝利をもぎ取っていった。

 負けはしたが、実に気持ちのいい戦いだった。

 先代の巫女に負けず劣らず、アタシを熱くさせてくれた。

 勝っておきながら、決して傲らず、素っ気なく去っていったところも好感が持てる。

 できれば、もう一度手合わせ願いたいが…あいにく、地底から頻繁に出られない立場なので歯痒く思っていた。

 萃香など、同じ四天王でありながら、ちゃっかり博麗神社の居候になってやがるし…。

 そんなときにこんな話が舞い込んでくるとは、渡りに船だ。

 さとりも来るなら、公明正大に地上に出られる。

 アタシに断る理由などあろうはずがない。

 

「いいだろう。アタシも参加させてもらうよ」

 

 そう快諾したとき、たぶんアタシは我ながら素晴らしい笑顔を浮かべていたんだろう。

 カヒは呆気にとられた表情だったが、すぐに気を取り直し、恭しく招待状をよこす。

 

「ふふ……楽しみだねぇ…」

 

 あと二週間足らず…。

 再び博麗の巫女と相対するまでの二週間が、アタシには何百年か先のように待ち遠しかった。

 

 

◇さて、次は… 〜カヒライス〜

 

 

 何だか、難しい顔をされてた勇儀さんが、博麗霊夢さんの名を出した途端に目の色を変えましたね…。

 何かあるんでしょうか?

 はっ……!?まさか、霊夢さんに片想い!!?

 そんな百合百合な展開に………なるわけないか…。

 すぐピンク色に染まりやすい自分の脳内に自己嫌悪しながら、私は勇儀さんと別れ、もう一つの目的地に向かう。

 向かう先は旧地獄の最も奥……“地霊殿”だ。

 

 

 

 




 勇儀さんは良い女。
 異論は認めない。
 
 なんて、私のイメージはそんな感じ(^^;
 思いの外長くなり、勇儀とさとりを一話でまとめられなくなってしまいました(--;)
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