まあ、序盤を書いてたときは仕事もまだ楽でしたからね……それでも世間一般と比較すれば休みもない仕事ですが…;
書く時間がほしいわ…;
◆竹林のもこたん 〜フランドール・スカーレット〜
さわさわと、優しい風に笹の葉が静かに音をたてる竹林。
迷いの竹林と呼ばれ、一度入れば奥へ分け入るのはおろか、元の場所へ戻ることすら困難な竹林。
その入り口に、藤原妹紅の住居兼炭焼き小屋はあった。
《カコーン…》
器用に手斧で竹を割り、並べてゆく妹紅の作業風景をついつい眺めていると、妹紅はこちらを振り返りもせずに、
「何か用か?」
と、ぶっきらぼうにそう訊いてきた。
「音も立てなかったのに、よく気配がわかったね?」
首にかけた手拭いで額の汗を拭い、妹紅が振り向いた。
そこで気配の正体が私だと認識したのか、少し不思議そうな顔をした。
「なんだ……紅魔館の…」
先日、偶然だけど顔を合わせたきり…まだ自己紹介もしてなかったね。
「フラン…フランドール・スカーレットよ」
握手をしようと手を差し出すと、妹紅は西洋式の挨拶に馴れていないのか、一瞬固まったけど自分の手を見てまた止まる。
手に炭でも付いていたのか、手拭いで手を拭うと今度こそ私の手を握った。
「……妹紅だ…」
少し照れ臭そうに自己紹介する妹紅。
「よろしくね、“もこたん”」
私が笑顔でそう言うと、妹紅は派手にずっこけた。
「そ、その…“もこたん”はやめろぉっ!!」
顔を真っ赤にして怒る妹紅。
「ふぇ?人里の子供たちが、妹紅のことをそう言ってたから…」
ここに来る少し前、当初の目的(?)通りに人里で遊んでた時に、ここまでの道を地元の子に尋ねたら、妹紅のことをそう言ってたのよね…だから、親しみを込めたニックネームだと思ったんだけど…。
「くっ……慧音の奴…あれほど子供らにそう呼ばせるなと言っておいたのに…」
もこたん…もとい、妹紅は悔しそうにそう呟いた。
「で、お前は何の用だ?」
少し不機嫌そうな妹紅に訊かれ、永遠亭まで行きたいと言うと妹紅は少しめんどくさそうな表情。
「永遠亭まで、患者を案内するのは構わないんだがなぁ…」
不器用だけど親切な人だと聞いていたんだけど、やっぱりもこたんと呼んだのは不味かったかな?
と、私はお姉様から手紙を預かっていたことを思い出して、ポシェットから取り出した。
「あの……これ…お姉様から…」
「ん?」
妹紅に手紙を差し出すと、妹紅は怪訝な表情を浮かべながらそれを受け取って、封を開けて読み始めた。
その表情から、何て書いているのかはわからなかったけど、一通り読み終えた妹紅はため息をひとつ。
「わかったよ、案内してやる…」
そう言いつつ、もんぺの土埃を払いながら立ち上がる。
「ただ、その大量の荷物はここに置いていけ」
妹紅は、散々遊び回っただろうという私の出で立ちを見て、肩をすくめた。
◆珍客の訪れに… 〜藤原妹紅〜
迷いの竹林……空を飛べる者が多く存在する幻想郷の中で、ここだけはどういうわけか方向感覚を狂わされ、迂闊にその上空を飛ぼうものなら元の場所に戻されてしまう。
故にその竹林の中心にある“永遠亭”へは陸路でなければ近づけない。
おそらくは、月の住人の追跡を恐れた“八意永琳”が何かしたのだろうが、月の技術については専門外だ。
だが、長年……それこそ気の遠くなる年数をこの竹林で隠れ暮らしてきた身には、もう庭同然。
目を瞑ってでも永遠亭にたどり着ける。
しかし、永遠亭の連中が起こした異変以降、永遠亭の存在は、そこに暮らす薬師“八意永琳”の秀でた医術とともに幻想郷中に知れ渡ることとなった。
その医術にすがって、病や怪我の治療を求める者が後を絶たず、迷いの竹林はそうした人間を遭難させ、入り口まで逆戻り、あるいは死なせてきた。
それを見かねて……まあ、不死であることから人間に忌み嫌われて竹林に隠れ住んでいた身の自分でも驚くべきことだが…竹林の案内をしたところ、大層喜ばれてしまった。
それからというもの、“永遠亭に行きたければ妹紅を頼れ”という話が広まってしまい、人里の医者に匙を投げられた患者が、藁にもすがる思いで竹林に…そこを熟知している私のもとに訪れるようになってしまった。
最初こそ面倒だったが、訪れる者たちが、時には大量の食料、時には目も眩む大金、時にはその身を差し出しても良いから案内してくれと、その必死な様子に根負けしてからは、無償で案内をしている。
無論、それ以前でも、差し出されたものを受け取ったことはただの一度も……ああ、いや…一度だけ…幼子が親の病気を見てもらいたいからと、一生懸命作ったであろう少し歪んだ折り鶴を渡してきたことがあったが……それだけはありがたくいただいたな…。 その折り鶴は、今も戸棚の上に飾ってある。
そんなことを思い返していると、ふと背中に視線を感じた。
長年生きていると、何となくそんな感覚も覚えてしまうのは、やはり常人が一生で積む経験を一人で何人分も積んでしまう故だろうか?
「何か用か?」
背後も見ずにそう問う。
敵意や殺気を感じなかったが、物音一つしなかったし、急に振り向いて相手に思わぬ反応をされても困る。
事前に、相手の存在に気づいていることを示しながらゆっくり振り返る。
「なんだ……紅魔館の…」
手拭いで汗をぬぐいながら、その意外な珍客に思わず声をあげた。
彼女とは一度会っている。
人里で……ヴァンパイアハンターに絡まれていた、レミリア・スカーレットの妹の……。
「フラン…フランドール・スカーレットよ」
と、手を差し出すフラン。
一瞬、何のことかわからなかったが、これが西洋式の挨拶だと慧音から聞いたのを思い出して、こちらも手を差し出そうとして……手に付いた炭汚れが気になった。
これでも、昔は私もいい所のお嬢様だったんだが……今差し出されているフランの小さくて真っ白な手と、炭に汚れて傷もいくつかある私の手を比べると何だか気後れしてしまう。
とりあえず、手拭いで手を拭うとその手を握った。
「……妹紅だ…」
本当は藤原という姓もあるが、今はこの姓に何の権力もない。
かつて栄華を誇った豪族、藤原氏が衰退してから千年ほどが経過した今では、私もただ名前だけで名乗ることの方が多いくらいだ。 とはいえ、ずっと竹林に隠っていた私だ。
名乗る相手も、名を呼ぶ者もない日々の方が多かった私にとって、自身がどう呼ばれようとあまり気にしなかったのだが…。
「よろしくね、もこたん♪」
初対面ではないにしろ、初めて会話をした相手に、その呼び名を使われるのは予想外だった。
思わずずっこけてしまったぞ。
恐らく、顔は真っ赤になっていただろう私は抗議の声をあげるが、当のフランはわかっていない様子。
無理もない。
フランにその呼び名を教えた子供らや、その教育者である慧音も知らないことだが、最初に私をそう呼び始めたのは私の天敵、蓬莱山輝夜なのだ。
元々私をからかう意味で呼び始めた名だけに、そう呼ばれると無性に腹が立つ。
その苛立ちが、何か用かと尋ねた声色に少し出てしまったようだ。
フランは少し苦笑いを浮かべて、永遠亭に行きたいと言ってきた。
まあ、私を尋ねる者の用など、それしかないんだが…。
しかし……もこたんという呼び名のせいで、輝夜のことを思い出した私としては、あまり気が乗らない。
そんな私の様子に、フランは思い出したようにポシェットから一通の封書を取り出した。
「あの……これ…お姉様から…」
遠慮がちに差し出してくる仕草が姉のレミリアの傲岸さとは対称的に見えて、少し大人げなかったことを反省しつつ封書を受け取った。
綺麗な字だったが、内容はレミリアらしく傲岸不遜な書面で、フランの案内と永遠亭でのお守りをやれということだ。
人に頼み事をするような手紙ではないが……続けて書かれていた内容は、そんな無礼さを大目に見るに値する内容だった。
“謝礼として、紅魔館で竹炭を定期購入する”
人と関わりを持つ生活に戻ってからというもの、やはり先立つものは必要で……始めたのが竹炭を作って売ることだった。
材料は周りに有り余るほどあるからな。
とはいえ、決して売り上げは芳しくなく、屋台をやってるミスティアが買っていくくらいだったが…。
紅魔館は大所帯…定期購入されれば私の生活も安定する。
実を言うと最近は実入りが少なく、食うのにも困っていたところだ。
別に不死である以上は食わなくても良いんだが、空腹感を抱えていては力が出ない。
ひとまず、生活に目処が立ちそうな条件に、安堵のためいきを洩らすと、私は引き受ける旨をフランに伝える。
と、そこでフランの出で立ちが気になった。
いや、最初の一目で気にはなっていたが…。
「ただ、その大量の荷物はここに置いていけ」
買い物袋をたくさんぶら下げ、たぶん付け方も見よう見まねだっただろう髪飾りをいくつも髪に付けた、お世辞にもオシャレとは言えない姿に、私は少し呆れてそう言った。
確か、今日は人里では市がたっていたはず、恐らくそこで遊んできたであろうことは明白な姿で永遠亭に行くつもりだったのだろうか?
しかも、袋の中は何だかよくわからない品物ばかり……市で言葉巧みに売りつけられたなら、とんでもない世間知らずだ。
レミリアに頼まれなくとも不安で仕方がない。
レミリアもよく使いに出したものだ…。
とはいえ、おかげで私の食いぶちが確保できそうなのだから、むしろ歓迎すべきだろうか?
まあ、それもこのお使いが穏便に終わればの話だ。
どうか面倒なことになりませんようにと、フランに聞こえないように呟き、私は出かけ支度を始めた。
もこたんINしたお!
………いや、妹紅が出たときはお約束のフレーズらしいので;
さて、次回はようやく永遠亭が書けるかしら?