操作は落ち着いて、確実にね(-_-;)
◇ メイド長と私 〜カヒライス〜
「はあぁ……」
大図書館で、お嬢様の“お願い”という名の命令を受けた翌日。
日常業務の庭の清掃中です。
庭と言っても、もう公園?「紅魔公園」とかいって、一般開放したらバカップルの巣窟になるんじゃね?っていうレベルの広さである。
さすがに私一人ではなく、複数の妖精メイドが作業中だけど、たぶん、今日一日は庭の清掃だけで終わってしまうだろう。
メイド長の監視だなんて、やってる暇もないわ。
内心、げんなりとしてしまったのが掃除にも出てしまったのだろうか?
「掃除に身が入っていないわよ?」
突然、背後から声をかけられ、魂が口から飛び出るかと思った。
マンガとかで、口から白いのが出てる、あんな感じである。
「メ、メイド長…いきなり背後からの登場は、心臓に悪いです」
まったくもって心臓に悪い。まさか私の、今現在の最大のミッションのターゲットであるメイド長に、急に声をかけられれば驚きもする。
「あら?別に気配も消してなければ、能力も使ってないわよ?」
なんということでしょう。どうやら、普通に歩いてきたメイド長の気配もわからないほど、上の空だったらしい。
「何か考え事でもしてたのかしら?」
ええ、貴女のことを考えてました…なんて、変な誤解を生むから言わないけど……。 お嬢様の“お願い”については他言無用だし…どう説明すれば…。
「まあ、いいわ……それより、私と一緒に来なさい」
言いにくいのを察したのか、さらりと話題を変える…さすが、できた方だわぁ……。
「あの…どちらへ行かれるんですか?」
メイド長に呼び出されるなど、仕事でよほどのポカをやらかさない限りはないと思うけど、一応恐る恐る訊いてみる。
するとメイド長、私のことをジィ〜〜〜……っと見てくる。それも超至近距離で……。
あ、あの……メイド長……顔…近い…近いですよぉ…!?
「貴女……綺麗な顔立ちしてるわね……」
「ふへぇっ!?」
へ、変な声を出してしまったが、これはもしや…百合ですか!?百合百合な展開ですかぁ!?
などと、頭の中はパニック状態。
しかし、超美人なメイド長から「綺麗な顔立ち」とか言われちゃうと、女の子としては照れちゃうなぁ…デヘへ…。
「貴女はオールワーカーから、パーラーに格上げよ」
「……はい?」
またしても変な声が出た。
オールワーカーというのはメイドの格付けの中でも下、言わば雑用係であるが、メイド長が言った“パーラー”とは“パーラーメイド”のことで、役割は接客が主である。
接客担当なので、見栄えがするように支給されるメイド服はフリルのあしらわれた優美なものになり、任せられるメイドは容姿端麗で礼儀作法は完璧という、正にメイドの中のメイド、メイドの花形である。
そんなパーラーに、自分が選ばれた?嘘でしょ?
「わ、私がなぜ…?」
当然の疑問を口にするが、メイド長は特に気にする様子もなく、
「お嬢様が、私に補佐役のメイドを付けると……で、貴女を指名したのよ。お嬢様のことだから、貴女の運命でも見えたのかしらね……」
レミリアお嬢様の仕業ですか…。
昨日のお嬢様たちとの会話を、ふと思い出す。
◇ 大図書館で何があったか 〜カヒライス〜
そのとき私は、お嬢様の“お願い”の意味を理解できなかった。
「メ、メイド長を監視って……あの…メイド長に不穏な動きでも……?」
つい陰謀めいたことを想像してしまうが、お嬢様は首を横に振って否定する。
「あの娘が私に危害を加えるなんて、万にひとつもあり得ないわ…。それに、仮にそうだったなら、貴女でなくとも監視はできるでしょ?」
ま、まあ…メイド長はお嬢様に心底心酔してるからなぁ…。
「貴女には、咲夜の“命”の監視をお願いしたいの…」
命…?メイド長の?
「なぜ…そんな……?」
当然の疑問を口にするがレミリアお嬢様は少し寂しそうな顔をして、ため息をひとつこぼした。
「あの娘はね…どんなに言っても吸血鬼化してくれないの。蓬莱人になることも拒んだわ……限られた命を生きることを選んだの…」
書斎机に寄りかかり、大図書館の天井を見上げる。
「だったら…せめて天寿は全うさせてあげたいのよ……だからね…」
そこで言葉を区切り、眼を瞑る。
そして再び開いた時、その瞳は決意の色を帯びていた。
「咲夜を害する全てを駆逐してやるわ……貴女が感じ取れる咲夜の死の運命を、私がねじ曲げる」
無茶苦茶な論理だ。
いくら運命を操る能力を持つお嬢様でも、はたして可能なことなのだろうか?
そんな私の心配を察したのか、パチュリー様が補足する。
「ねじ曲げられるのは、あくまでも事前に策が打てる場合のみよ…。例えば、咲夜が殺される運命なら、咲夜を殺す前に相手を始末する。咲夜が事故に遭うなら、事故の要因を排除する。病気だったら、永遠亭の永琳に先手を打たせるわ…。でも、寿命だったら……それが咲夜が天寿を全うしたということ…そうなれば、私たちは見送るしかないわ…」
お嬢様だけでなく、パチュリー様からも並々ならぬ意思を感じる…それほどまでにメイド長の信認は厚いのだろう。 しかし一つ、ここで疑問が生じる。
運命を見ることができるお嬢様がいれば、私の死を悟る能力までは必要ないのでは?
そのことを訊いてみると、お嬢様はバツの悪そうな顔で頬を掻いた。
「咲夜は見づらいのよ…たぶん、あの娘の時間を操る能力が関係しているんだろうけど……時間軸がバラバラで、乱丁や落丁だらけの難解な学問書を読むようなものよ」
「だからこそ、確実に死を悟れる貴女の能力が必要と……理解してもらえたかしら?」
パチュリー様の言葉で、一応、必要とされて呼び出されたのは理解した…。
簡単に言ってしまえば何のことはない。
私が“センサー”で、お嬢様たちが“トラブルシューター”として動き、メイド長を保護するわけだ。
方法はわかったが…お嬢様たちのような人外の極みにいるような方々が、信頼されているとはいえ、使用人の人間にここまで入れ込むのは何故だろう?
「……お嬢様方にとって、メイド長はそこまで大事なんですか?」
そう訊くと、一瞬お嬢様の表情が不機嫌になるが、すぐに納得したように剣呑とした色を消した。
「確かに……私のような人外にとっては、人間はとるに足らない存在よ……だけど、咲夜は…“十六夜咲夜”だけは別よ」
お嬢様はきっぱりと言い切った。
「あの娘の“十六夜咲夜”という名は、私がつけたの。月夜に咲き誇る花となれと願ってね…だから、私にとって、あの娘は自分の娘同然なのよ……子が道半ばで命を落とす運命を…受け入れられる親があるものか……」
最後は吐き捨てるような、本当に受け入れがたいと言わんばかりの物言いである。
自然の中で生じる妖精とは違い、家族を構成し、絆で結ばれる関係というのがわかりづらいが、お嬢様はそれを大事にしていることは理解した。
「……わかりました…。そのお役目、お受けします…」
まあね、理解した以上はやりますよ?
能力詐称を免責してもらったこともありますし…。
「受けてくれてありがとう……ついては、貴女が咲夜を見張りやすいように、手は回しておくから」
お嬢様が最後に言った、この言葉が気になりはしたが……。
◇ 再び紅魔館庭園にて 〜カヒライス〜
まさかここで繋がるとはね〜。
長ったらしい回想終了。
なんかどっと疲れた…。
まあ、どうなるかわかんないけど……やってやりますよ……。
そんなわけで…一生ついていきますよ、メイド長♪
話中のメイドの役職などは、ヴィクトリアンスタイルを採用しております。
ちなみに参考にさせていただいたのは、メイドを描いた漫画としては真面目な良作だと思う「英國戀物語エマ」から。