東方涙精潭   作:サラム

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 今回はちょっと詰まりましたね。
 読みにくい文章になっていなければいいのですが…(--;)


第9話 〜人間というもの〜

◇紅魔館の門前にて 〜カヒライス〜

 

 

 あれから一週間後、私は再び紅魔館の門の前にいる。

 先週、野菜を届けてくれたお爺さんに再び会うために。

 私が泣いた以上、もうあのお爺さんの先が長くないのは確実だと思う。

 会えばまた、先週と同じように泣くのはわかっていたが、無作法なままにしておくのは良くはないと、メイド長なら言うだろう。

 とにかく、泣きながら詫びることになるだろうが、放っておくよりはマシだろうと、今日は志願してここに来た。

 迷惑をかけた手前、美鈴さんの傍には居づらいのだが、当の本人はあまり気にしていないご様子なのは幸いだ。

 

「遅いですね〜」

 

 美鈴さんが呟く。

 そう、確かに遅い。

 先週来た時間より30分は過ぎている。

 美鈴さんによれば、あのお爺さんはいつも同じ時間に来ていたとのこと。

 何かあったのだろうか?嫌な予感がする…。

 

 

 

◆いつもの門前にて 〜紅美鈴〜

 

 

 紅魔館には結構多くの人が訪れる。

 この巨大な館を維持するためには当たり前のことだ。

 今日も何人かの商人や業者に対応しつつ、魔理沙や木っ端妖怪を追い払った。

 今日の予定では、あとはいつも野菜を届けてくれる御老体が来るはずなのだが…。

 

「遅いですね〜」

 

 つい呟いてしまったが、あのルーミアでさえ手懐けた御仁が、木っ端妖怪に襲われるようなこともないと思うが…。

 まあ、今は隣にカヒしかいないし、鬼の居ぬ間に一眠りでも……と、目を閉じたとき。

 

「あ、美鈴さん、来たみたいですよ」

 

 カヒの声に森の方へと目を向ければ、確かに馬車らしき影が…。

 しかし、様子がおかしい。

 何やら土煙を上げて、紅魔館へ走ってくる。

 そして何より…

 

「乗っているのは…お爺さんじゃない…」

 

 

◇わかってはいても… 〜カヒライス〜

 

 

 半ば暴走という勢いで疾走する馬車。

 何をそんなに急ぐのかと思えば、馬車の後ろを黒い球体がピッタリと追いかけていた。

 

「ルーミア!?」

 

 美鈴さんは先週会った人食い妖怪の名を呟いて走り出す。

 

「私は馬車を止めます!カヒはルーミアを!!」

 

 何だかよくわからないけど、あの黒いのがルーミアなのね?

 止めるといってもどうやって…?

 美鈴さんは馬車の真正面へと走り出し、そのまま高い高い跳躍!

 くるくると回転したかと思うとそのまま馬車の御者席に飛び乗った。

 おお〜!雑技団みたい〜!!

 と、ここで気がついたが、御者席にいるの……お爺さんじゃない…もっと若い……初老のおじさん…。

 

「カヒ!ルーミアを早く!!」

 

 お爺さんではなかったことで混乱していた私に、美鈴さんが叫ぶ。

 気づけばルーミアの手が黒い球体から伸び、おじさんを捕まえようとしていた。

 もうなりふり構ってはいられない。

 私は全力で飛び出すと、そのまま黒い球体に体当たりするようにしがみついた。

 

「ひゃわぁっ!?」

 

 何とも気の抜けた、かわいらしい声が響く。

 先週はずっと果物を食べるのに夢中だったから、声を聞いたのは今が初めてだ。

 ともあれ、球体はいつの間にか消え、私とルーミアが抱き合う形で紅魔館前に広がる草原に転がった。

 

「はいドォドォドォ!」

 

 おじさんに代わって馬車の手綱を握った美鈴さんが、見事に馬たちをなだめて馬車を停止させると、隣で目を回しているおじさんを抱き上げ、地面に下ろした。

 ルーミアも、大の字になってのびている。

 

「ルーミアさ〜ん!大丈夫ですか〜!?」

 

 とりあえず、ルーミアの頬をぺちぺち叩いて声をかけてみる。

 

「う〜…何がどうなったのか〜?」

 

 変わった語尾だが、どうやら大丈夫のようだ。

 

「何があったんですか?いったい…」

 

 ルーミアはまだ目を回っているのか、焦点が定まらない様子だったが、美鈴さんが介抱しているおじさんを指差し、

 

「前のお爺さんじゃなくて、あの人が来たから、どうしたのか聞こうとしたら〜逃げ出したのか〜」

 

 この妖怪、語尾に“のか〜”を付ける癖でもあるのか?

 ともあれ、先週の件で仲良くなったお爺さんがいないことで心配になったらしい。

 それは私も同じだが、私の場合は確信に近い心当たりがある。

 

「騒がしいわね…何かあったのかしら?」

 

 不意に頭上から声がした。

 仰ぎ見れば、レミリアお嬢様と、日傘を差したメイド長がこちらに降りてくる。

 

「まったく、静かにお茶も楽しめないわ」

 

「申し訳ありません。ルーミアに慣れてなかったせいか、こちらの方の馬車が暴走してましたので」

 

 美鈴さんが手短に報告すると、お嬢様はおじさんに目を向ける。

 

「見ない顔ね……咲夜、貴女は知っている?」

 

「いえ、存じません」

 

「ふむ…」

 

 再びお嬢様がおじさんの顔を覗き込んだ時、おじさんが微かに呻いた。

 

「あ、意識が戻りそうですね」

 

 美鈴さんに膝枕をされているおじさんの眼が少し開いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 そう声をかけたお嬢様の姿を、おじさんの眼が捉えた瞬間。

 

「!!?」

 

 眼を見開いたおじさんが口をパクパクと動かすも、驚きすぎて声が出ない様子。

 そりゃ、人食い妖怪のルーミアに追いかけられた挙げ句、気が付いたら紅魔館の主たるレミリアお嬢様の前にいたらねぇ…。

 

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 

 無礼にならない程度に毅然と訊ねる。

 お嬢様の前だし、紅魔館のメイドらしくしないとね。

 

「あ…ああ……俺は…この野菜を紅魔館に…」

 

「あのお爺さんはどうしたのか〜?」

 

 ルーミアがフラフラと飛んでくるのを見て、おじさんの顔が強張る。

 

「大丈夫ですよ、ルーミアは食べ物さえあれば滅多に人を襲いません。先週もお爺さんがルーミアと仲良くなってましたし…」

 

 膝枕している美鈴さんが、安心させようと話しかける。

 すると、そのおじさんは何か思い出した様子でフラフラと立ち上がり、馬車の荷台から大きな籠を引っ張り出すと、それをルーミアの前に置いた。

 見ると、熟した甘そうな桃がたくさん詰まっている。

 

「父から話は聞いていたが…お前さんが…」

 

 しみじみと呟くおじさん。

 

「どういうことなのか〜?」 

 ルーミアが不思議そうに訊くと、おじさんは少し言いづらそうに言葉を続ける。

 

「いつもここに野菜を届けてた父は……二日前に…心臓発作で……」

 

 ………ああ……いや、お爺さんが来なかった時点で何となくわかっていましたよ……わかっていたけど…。

 事前に知っていた私でもこれなのだ。

 死期などわからない上、仲良くなったルーミアなど、口をわなわなと震わせている。

 

「……し、死んだ……のか〜…?」

 

 ルーミアの問いに、おじさんは頷いて答えた。

 

「これは父から…森で出会った可愛い“孫娘”にと…」

 

 籠いっぱいの桃に、呆然と目を落とすルーミア。

 

「失礼ですが…お子さんは?」

 

「娘がいました…流行り病で亡くしましたが……ちょうど、亡くなったのがあの子くらいの時です」

 

 おじさんはルーミアを見ながら目を細めた。

 

「父はあの子に、死んだ孫娘の姿を見たのかもしれません」

 

 

 

◇人間というもの 〜カヒライス〜

 

 

 荷を下ろし、亡くなったお爺さんに代わり、おじさんがこの仕事を引き継ぐことを伝えると、今度は元気をなくしたルーミアを隣に乗せ、おじさんは紅魔館を後にした。

 

 ようやく事情を理解したルーミアが、ぼろぼろと涙をこぼしながら桃を食べていたのが印象的だった。

 

 私と美鈴さんで荷物を持ち、お嬢様を先頭に館に戻る時、

 

「咲夜…、今の男に、今後はルーミアにも食料を届けるよう伝えておきなさい…。費用は紅魔館で出すわ」 

「はい、お嬢様」

 

「また、何故ですか?」

 

 美鈴さんは正直に理由を訊ねる。

 

「あの人食い妖怪…今回で人の命の重みを知ってしまった……今後は人も襲えないでしょう…飢えるのは目に見えるわ」

 

 普段、他人など眼中に無さそうな傍若無人なお嬢様だけに、この気遣いは正直意外だった。

 

「それにしても…人間の身で、妖怪の心をあそこまで揺さぶるとは…あの翁……尊敬に値するわ…」

 

 そう呟くと、お嬢様は再びメイド長に告げる。

 

「あの翁の遺族に、これまでの労いと弔意を込めて、相応の餞別と、弔いの花を…。紅魔の紅いバラではなく、白いバラでね」

 

 白いバラにはいくつかの花言葉がある。

 無邪気、清純、純潔…。

 

 しかし、レミリアお嬢様が白いバラを選んだのは、きっとこの花言葉をお爺さんに伝えたかったのだろう。

 

 それは、“心からの尊敬”

 

 




 ルーミアの口調をどうするか迷いましたが、キャラの特徴を無くしたくなかったので、あえて残しました。
 シリアスな空気を壊してなければいいのですが(^^;
 さて、そろそろ紅魔館の秘蔵っ子、あの方の出番が欲しいところ…。
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