晴れ渡る空。白く棚びく雲。心地よい風。
そして突きつけられる槍。
「答えて。貴女何者?どうして私と同じ格好をしているの?それになんか、ヘンな感じ…」
黒い喪服に花飾りを差し、こちらを警戒しながらにじり寄る彼女は、至極当然の疑問を投げかける。
何せ今の私は彼女とそっくりそのまま鏡写しのよう。ご本人が警戒しないわけがない。
唯一違うのは、私の“眼”。彼女の目は特徴的な五葉の赤い眼だが、私のものは違う。赤い逆星型の印が輝く新緑の目だ。
それに加えてその…平族ではない。普乳。
「こたえて!」
急かす彼女を尻目に、空を仰ぐ。どうしてこうなった。
私はただの原神プレイヤーのはずだったのに。
私が胡桃というキャラクターを知ったのは、ある意味偶然だった。いわゆる初期勢だった私は、はじまりのアカウントを消失させてしまい原神からしばらく離れて過ごしていた。当時の最新キャラクターは火花騎士クレーで、本当に初期の頃にしかプレイしていなかった。
それから2年が経ち、友人に誘われて再びテイワットに降り立った私は、その時初めて彼女を知ったのだった。
当時の炎軸といえば彼女の率いる「往生夜行」と呼ばれる編成だ。その火力に魅入られた同士は数多く居ただろう。今でこそ最強炎アタッカーの座を他キャラに譲っているが、それでも尚、一線級と言って過言ではないだろう。フォンテーヌ初期環境で、同時ピックアップだった某水龍と胡桃で深境螺旋を滅ぼしたのはいい思い出だ。
そんな楽しい時間が終わったのは、それからしばらく経った時だった。
ネット上でテイワットを満喫していた私だったが、気がついたら森の中に放り出されていたのだ。
最後に覚えているのは、いつものログイン画面が赤黒く発光し、体を覆う天理のキューブだった。
初めは混乱したし、悪い夢なんだと思った。
森を彷徨ううちに、最初に出会ったのは、やっぱりあいつらだった。
黒い体にボロ切れを纏い、割れた仮面を被ったあいつら。
そう、ヒルチャールである。
それを夢だと思った私はおっかなびっくり彼らに近づいてしまった。彼らは普通の生物に、強い敵対心を抱いているはずなのに。
言葉を話す彼らに、道を聞こうと思ったのだ。返答は暴力、暴力、暴力。とりつく島もなかった。
慌てて逃げ出した先で、野良の冒険者に出会わなかったら、ズタボロにされて森の餌になっていたことだろう。
冒険者に保護されて、話を聞いているうちに、ようやく私は、この世界が本当にあのテイワットであると確信したのだった。
彼に連れられてやってきたのは、かの有名なモンド城下町で、はじめに私が彷徨っていたのは星落としの湖で、南下して囁きの森に居たそうな。
それから私は生きていくために冒険者になった。サバイバル能力なんてないし、当然神の目なんてない。
自由の国モンドでの生活が落ち着いた頃には、すでに半年以上経過しており、すっかり馴染んでしまった。
鹿亭のデリバリーや宅配便を主な仕事として請け負いながら、騎士志望のエリンと共に戦闘訓練を受けたりなんかもした。
本編開始前であったようで、旅人のたの字も聞かないが、ちらほらプレイアブルキャラや有名NPCとも遭遇して、遠巻きに感動して不審者扱いされたこともあった。
当然行きつけのお店は鹿亭とエンジェルス・シェアとキャッツテールであるが、飯はうまいし、仕事もやり甲斐ありで非常に充実して過ごしていた。
時は過ぎ去りそろそろ一年が変わろうかという頃。そろそろモンドの外に出るべきだと思った私は、遠征に出ることにした。
行き先は決めていなかったが、行商人が璃月に行くそうなので、便乗してついていくことにした。
ゲーム内である程度知ってはいたが、同行人はいる方が面白い。そういう発想だった。
それからしばらく璃月を冒険し、あらかた回り尽くした頃。初めて胡桃堂主を見かけた。
彼女はやはり葬儀の押し売りをしていたが、元気いっぱいで常に笑顔、ゲームで見たそのままの姿で私の視線の先に居た。
虫が火に引き寄せ慣れるように、私は胡堂主に近づいていた。彼女のすぐ側に辿り着いたその直後、私は意識を失った。
気づけば往生堂の客室におり、その時はお礼を言ってすぐ帰ったが、鍾離客卿の目が何やら鋭いことに気づきはしなかった。
モンドに戻った私は、モンド城が風魔龍に襲われたことを知った。そして、栄誉騎士が事件を解決したとも。
私の受難は、そこから始まったのだった。
貴女に憧れて、その手に槍を。