昔は魔法少女でした   作:たんたん狸の金ヒャララ

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辞めたい

始めに甲高い音が響いた。

それだけで敵味方の両方が辺りを見回し、自身の同胞が、自身の敵が串刺しになっているのを見つける。

その後も繰り返し甲高い音が響き渡ると、異形の怪物全てが黒い釘に撃ち抜かれ、百舌鳥の早贄の如く実る光景が夜の町に広がっていた。

 

「また、かー」

「ちょっと時間かかったからって」

「本部、こちら角川区担当。状況終了」

 

数人の内一人が耳元に手を当て、状況の終了を告げる。

 

「わざわざ無線じゃなくてよくない?」

「こっちの方が安定するのよ」

 

煌びやかで多様な装飾が施された可愛らしくも、象徴的な衣装に身を包み、夜空で溜め息が四つ溢れた。

彼女達は魔法少女、突如として異なる世界より現れ、この世界を蹂躙する怪物〝魔族〟に対抗出来る唯一の存在だ。

だが、敵を倒したのにその顔は晴れない。

 

第一世代(ザ・ファースト)だからって、ちょっとあれじゃない?」

「言わないの。……討伐が遅れたのは事実なんだから」

「で、でも、ここは私達の担当区域だよ」

「そうだよ。いつも手柄横取りされてさ」

 

深く息を吐く。

三人の言いたい事も理解出来るし、本気ではない事も解る。

事実、討伐予定時間は大幅に過ぎている。

時間超過勤務、避けたい事だったが相性が悪すぎた。

四人共に中近距離主体で、相手は遠距離と空間転移を多用してきた。

その結果、討伐予定時間超過だ。

 

「良い風に考えましょう。誰も欠けず、査定にもマイナスは無いと」

「はーい」

 

リーダー、騎士風の少女がそう纏めると全員が頷いた。

実際、あのままだったら最悪はメンバーの誰かが欠けていた。

それだけの大物、しかも複数相手だったのだ。

査定にプラスは無いだろうが人的被害は無く、家屋等の物的被害も最小限だ。

 

「どうする? 今度会ったらなんか奢ってもらう?」

「そうしましょう」

 

そんな事を言いながら四人は本部への帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、本日もマジックガールランキング。マジランのお時間です』

 

如何にも作った声の女子アナが、画面の向こうで特大のボードのシールを剥ぎながら、ランキングの発表を開始した。

 

『まずは十位、〝グラスミラクル〟。先週の大型魔族討伐によりランキング上昇。ファンサービスも欠かさない新進気鋭の魔法少女です』

 

画面には森の国という国があれば、そこのお姫様と言っても過言ではない可憐な少女が、召喚した蔦や根で魔族を締め上げていた。

 

「はー、綺麗なもんだな」

「魔法少女ってのは、美人揃いだよな」

「まあ、ビジュアル商売な面は確かにあるし」

 

魔法少女は魔族に対抗出来る唯一の存在であり、それと同時にアイドルとしての面もある。

それは魔法少女が可憐な美少女揃いであるという事と、魔法少女の管理と魔族に対する行動の全権を握る〝魔法局〟の意向だ。

戦うだけの野蛮な存在よりも身近な存在に、恐れられるより慕われる存在へ。

魔法と権利で秘匿された魔法少女の正体を明かさず、そういった存在になる為には最適とも言える。

 

『そして、五位にランクインしたのは……』

「……」

 

そんな会話とテレビの音声をどうでもよさげにラーメンを啜り、合間に炒飯と餃子を掻き込む姿がカウンター席にあった。

紺のパンツスタイルのスーツ、ハイヒールではなくローファー。少し癖のある髪は後ろで適当に束ね、化粧も最低限で隈が隠しきれてない草臥れたOLといった姿の女。

しっかりと死んだ目で半分程になった炒飯と、麺が無いラーメン。そして、腕時計を睨む様に見ると、残った炒飯をラーメンのスープに突っ込みレンゲでさっさと掻き込む。

そして、食事を終えると手を合わせてから、代金をカウンターに置き店を出る。

 

『次はとうとうトップ3の発表です』

「ここまできたら変わらんだろ」

「言うなって、トップ3は十年は変わってないんだから」

「どうせ、三位は〝カースメイカー〟だろ」

 

溜め息と紫煙を店先の灰皿の側で吐き出す。

お冷やを飲めばよかったと、喉に残る辛味に後悔しながらまた紫煙を吐く。二十歳を過ぎてから始めた煙草だが、気付いたら習慣になっていた。

何度か禁煙しようかとも思いはしたが、捌け口と逃げ道がないとやってられない仕事だと、女は嘆息しながら鳴り始めた携帯を手に取る。

 

「……はい、神代です」

『すまん。出動してくれ』

「判りました」

『すまない。苦労ばかり……』

 

通話を切る。どうせ、思ってもない謝罪に時間を割くなら、さっさと終わらせた方がまだ気分が楽だ。

女、神代は近くにある魔法局管轄のビルに入ると、エレベーターで屋上へ向かう。

 

「もう辞めようか」

 

携帯に入るニュースの見出しは

 

〝またもカースメイカーの横槍〟

〝横取りの第一世代(ザ・ファースト)

 

この調子だとSNSも騒がしくなっているのだろう。

好きでやっている訳でもないのに、何故こうも言われなくてはならないのか。

 

「今季で辞めよう。もういいや」

 

屋上に着き、変身アイテムのペンダントを襟元から引っ張り出し握り締める。

 

「……変身(トランス)

 

神代は、疲れきった声でそう唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の実力はランク外、理解していた。

でも、自分は魔法少女になったのだから、人々を護らなくてはならない。

敵わなくても立ち向かい、避難が終わり増援が来るまでの時間を稼がなくてはならない。

その筈だったのに。

 

「あ……」

 

無理だ。バリアで攻撃を受け止めようとして、バリアが簡単に砕かれた瞬間に理解してしまった。

自分は何も出来ずにただ死ぬ。

 

「お、おい、あれ不味くねえか?」

「でも、魔法少女がやられるなんて……」

「誰か、誰でもいいから来てくれ!」

 

人々の声がやけに大きく聞こえる。

ああ、こんな事なら母の言う事を聞いて、魔法少女にならなければよかった。

 

「お母さん、ごめん……」

 

振り下ろされる大鎌に目を閉じ、自身の終わりを待つ。

だが、それは来なかった。

釘だった。

二本の釘が魔族の両腕を縫い止めていた。

 

「カースメイカーか!」

「一体どこから?!」

 

疑問する声に応える声はなかった。

代わりと、自身の影から湧き出る泥の様にして、長大な金槌が現れ、それが魔族を弾き飛ばした。

 

「カース、メイカー……」

「……」

 

無言、応える声はない。

長い黒髪に巫女服によく似た和装。しかし、顔は面布に隠され見えない。

そして、長大な金槌を右肩に担ぎ、左手には槍と見紛うばかりの釘を持ち、背後には藁人形が数体浮いている。

煌びやかな装飾すら無く、魔法少女というにはあまりにも不吉で禍々しい姿。

それが第一世代(ザ・ファースト)魔法少女〝カースメイカー〟だった。

 

「あの……」

 

応える気は無いと、金槌を掲げる。

すると、数体の内の一体の藁人形が彼女の前に移動する。

藁人形の胸辺りには釘が半ばまで刺さっていた。そして、その釘目掛けて金槌を振り下ろすのと、魔族が大鎌を再び振るったのは同時。

だが、勝ったのは物言わぬ不吉の巫女。昨夜の魔族と同様に藁人形と同じく釘に体を打ち抜かれ、一種の芸術作品の様に痙攣と紫色の出血を繰り返し、次第に動かなくなっていった。

それを見届けたカースメイカーは何も言わず、無言で魔族と釘の作品が作り出す影の中へ沈む様に消えた。

残ったのは、衣装があちこち裂け満身創痍の新人魔法少女と、遅れてきた増援の魔法少女達。その戦いと呼べるかどうかすら分からない光景を目の当たりにした民衆だけだった。

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