昔は魔法少女でした   作:たんたん狸の金ヒャララ

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もういいかな

人間、どうでもよくなると途端に雑になる。

昨日の出動の後、やはりというべきか。ネットニュースやSNSは自身への批判で持ちきりだった。

中には肯定的な意見も当然ある。むしろ、数はそちらの方が多い。

だが、百の称賛より十の批判の方がよく響く。

 

「魔法少女らしからぬ姿、か」

 

理解している。よく、理解している。

煌びやかで可憐な他の魔法少女に比べて、自身の姿のなんとおぞましく禍々しい事か。

煙草に火を点け、紫煙を吐く。魔法少女だなんだと言われていても、中身は疲れきったアラサー女。

そのアラサー女の変身した姿が、如何にも他人を呪いそうな巫女。

冗談にしてもキツイ。

昔はここまでではなかった。ちょっとダークな巫女風魔法少女でしかなかった。

こうなったのは、何時からだっただろうか。

二十歳になった時、それともそれを過ぎた時。

いや、違う。あの戦い、〝東京解放戦〟の後だ。

 

「……やっぱり恨んでるよね。〝ルナ〟」

 

あの戦いで散った友、唯一無二の相棒。

目の前で死にいく彼女に、自分は何も出来なかった。

百人以上の魔法少女、それと自衛軍が投入された三日間の戦い。

生き残った魔法少女は十数人、投入された自衛軍も半分近くが帰れなかった。

今も嘗ての中央区は完全には復興されていない。

強力な魔族は必ず中央区から現れる。理由はまだ判明していないが、予測では解放戦の際の影響から魔族側の世界と繋がっているのではないかとされている。

 

「……やはりここに居たか」

「源氏」

 

項垂れながら煙草を吹かしていた神代の隣に、一人の女が座る。

名を源氏、神代と同じ第一世代(ザ・ファースト)であり魔法局の局長でもある。

 

「神代、すまない」

「……なにが?」

「お前に色々と押し付けている」

「もういいよ。同じ第一世代だし」

 

東京解放戦に投入された魔法少女の大半は第一世代。そして、生き残ったのは十数人。その中で、まだ現役を続けているのは神代と源氏と他三人の五人だけ。

後は怪我や病気、家庭を持つ等の理由で現役を退いたが、一番の理由は加齢だ。

魔法少女としての全盛は十代、二十歳を越える辺りから個人差は有るが急激に衰える。

いまだ現役の頃と同等の力を有しているのは、神代達五人だけだ。

 

「それでもだ。……部下から最近のお前の様子がおかしいとも聞いている」

「そう。大丈夫、ちょっと疲れただけ」

「そうか」

「そうだよ」

 

長い付き合いだ。神代の状態はよく解っているだろう。そして、今日あった事も。

力はあっても、メンタルが疲弊している。

人々は魔法少女カースメイカーとしての功績より、自らの推しの魔法少女しか見ていない。

これは魔法少女を戦うだけの道具にしたくなかった源氏や、他の第一世代達の功罪だ。

現に強い力を持つ魔法少女を恐れる人々はほぼ居ない。だが、強い力しか見せていない。それ以外向かない神代に対して、人々は残酷だ。

 

「源氏、魔法少女でも石をぶつけられると痛いんだ」

「すまない」

 

今朝、突如現れた魔族に対して出動した魔法少女の危機に、神代は救援に向かった。

魔力の節約を考え、視認出来る範囲に移動して魔族を討伐した。

そして、膝をつく魔法少女に手を貸そうとした時、小石が頭に当たった。

子供だった。地理的に避難が遅れた集団の一人の子供の投げた小石。

それが神代の足掻きを折ってしまった。

 

「思い出したよ。〝ルナ〟に会うまで、私は元々こうだったって」

「神代……」

 

神代の力は簡単に言ってしまえば呪殺。神代が認識した相手に対して、距離や場所を問わずほぼ一撃必殺の釘を打ち込める理不尽な力だ。

そして、魔法少女というにはあまりにも禍々しい姿。

子供が受け入れるには厳しすぎる姿だ。

だがと、源氏は歯噛みした。

神代に十代の頃の輝きはもう無い。十代の子供は例え蔑まれても、人々を守ろうとする強い光が目にあった。

だが、今の神代には何も無い。支えでもあった友を目の前で喪い、守ろうとした人々からの侮蔑。

力強かった目の光は消え失せ、今の神代の目には何も写っていない。

どんよりとした漆黒の双眸、整えていた髪も何時からか雑に纏めるだけで、化粧でも隠しきれてない隈。

もう限界は近い。だが、現状で神代に引退される訳にはいかない。

神代は現魔法少女の中でも最大戦力だ。理不尽な効果範囲と威力を持ち、魔力量も並外れている。

誰も気付いていないが、出現する魔族のレベルが上がりつつある今、神代が去れば被害は甚大なものとなる。

故に、源氏は心を鬼として告げた。

 

「神代、すまないが現状でお前の引退は認められない」

「なんで?」

「お前も気付いている筈だ。魔族が力を増している現在、お前が引退すると今の魔法少女達では難しい」

「だから言ったんだ。緩くし過ぎだって」

「ああ、そうだな」

 

魔法少女になるのは簡単だ。素質有りとされた少女が国が定めた試験に合格して資格を得た後、魔法局で面談と再度試験を受ければ魔法少女として活動出来る。

だが、問題はその試験だ。

東京解放戦で魔法少女の大半を喪った煽りから、国は魔法少女の拡充を第一とした。

そして試験難度はかなり低くなり、多種多様な魔法少女が乱立する事となった。

その結果、実力の伴わない魔法少女が現場に出る事になり、先達の実力者達に皺寄せが行く形になってしまい、その煽りを一番に受けてしまったのが神代だ。

 

「アイドル売りも考えなよ。絶対、また問題起きるよ」

「ああ、昨日もそれで徹夜だ」

 

魔法少女は可憐で見目麗しい少女が多く、魔族と戦う以外にもアイドルやタレントとしての一面もある。

これは源氏達第一世代(ザ・ファースト)が勧めたもので、魔法少女は戦う道具ではないという意志表示の為であった。

だが、これにも問題が起きた。

粗製乱造とは言葉が悪いが、少しばかり頭が弱い娘が自身の人気を勘違いし、魔法で秘匿された自身の正体をSNS等で明かしたり、人気者になりたいだけの娘が魔法少女となり戦闘で指導役に大怪我を負わせたりと、嘗ては無かった問題が発生していた。

 

「最近の娘は解らん……」

「私はずっと解らないよ」

 

他にもユニットやグループで活動している魔法少女同士のいざこざもあり、源氏は昔は良かったとぼやく。

 

「神代、休め」

「休めるの?」

「ああ、他の連中を回す。……決めるのはそれからにしろ」

「分かった」

 

友の心は限界だ。この数年、ほぼ休み無しで駆け抜けてきた。

なら、最後になるかもしれないこの時に、せめて穏やかな時間を過ごしてから送り出したい。

 

「出来れば引退はしないでくれ」

「忙しくなるから?」

「違う。……数少ない友人にそんな顔で去ってほしくないからだ」

「……ありがとう」

 

源氏は立ち上がり、屋上の喫煙所を後にした。

その背を見送り、ふと左手を見ると煙草は燃え尽きて燻りが指を焼いていた。

まったく気付かなかったが、源氏は気付いていたのだろうか。

神代が燃え尽きたそれを水が張られた灰皿に捨てると、燻りが消える音がした。

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