昔は魔法少女でした   作:たんたん狸の金ヒャララ

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神代¦凄まじいヘビースモーカー


まあいいか

アパートのベランダ、広くないそこに小さなリゾートチェアで座り、サイドテーブルには灰皿と湯飲みと急須を置き、買ったまま積み続けていた小説を読む。

こんなゆっくりした時間は何時以来だろうか。

 

「いい天気……」

 

夏が始まり、暑さは厳しいがエアコンの効きが悪い日中の部屋より、まだ涼しい風が通り日陰になっているベランダに居る方がマシだ。

温くなった麦茶を飲み、新しい煙草に火を点け、小説のページを捲る。

内容は今メジャーな推理小説、三文小説家が事件に巻き込まれて異様に博識な古本屋に助けを求めて、警察を煙に巻きつつ事件を解決を導いていくというストーリー。

しかし、内容に爽やかさは無く、人の情念や後ろ暗さが怪異という形となり人々を絡め取り、その糸を古本屋が解き見えない真相が明らかになっていく。

後味の悪い結末も多く、読む人を選ぶ作品だが神代はこのシリーズを好いている。

程好く現実的で程好く非現実的、現実を忘れられて、でも現実に引き戻してくれる。

短くなった煙草を灰皿に押し付け、喉の辛みを麦茶で流す。

そしてまた煙草に火を点け、ページを捲る。

神代は貯まりに貯まった有休と、源氏が手を回して用意してくれた特別休暇を出来る限り家から出ずに、このように過ごしていた。

趣味らしい趣味も読書と散歩くらいしかなく、食事も料理は出来るが外食かレトルトで済ませている。

自炊もまったくしない訳ではないが、自炊をする気力が無い。

 

紫煙を吐く。灰を吸殻が山となった灰皿に落とし、ページを捲る。

急須を持ち上げると軽い。突っ込んだ氷も全て溶け、湯飲みも空になった。煙草もよく見れば今咥えているもので最後で、空箱が六つサイドテーブルに積み重なっている。

麦茶を淹れ直し、読書を再開しようと椅子から立ち上がり、ついでに煙草の買い置きを入れてある棚を見るが棚は空だ。

麦茶も大容量と書かれたパッケージだけになっていた。

溜め息と紫煙を深々と吐き出し、部屋着のタンクトップと短パンからシャツとジーンズに着替え、財布と携帯を持ち部屋から出る準備を終える。

履き慣れた窮屈な革靴を履きそうになったが、草臥れたサンダルを履く。

軋む扉を開ければ、初夏の熱気が全身に纏わり付く。

今の時期でこれなら、本番となった時はどうなるのか。

エアコンの買い換えも考えながら、サンダル特有の足音で階段を降り、湿気た土を踏む。

大家か顔も見た事の無い一階の住人の趣味か、前庭兼駐輪場の僅かな日当たりを占拠する様な観葉植物の群れを横目に、目的の商店に向かう。

 

魔族襲撃の影響か、大手の量販店は東京の郊外に集中し、神代のアパート近辺にはコンビニが一件と、昔ながらの商店街が細々と生き残っている。無論、少し足を伸ばせば大手チェーン店はあるが、人が多いので最悪の場合は避難誘導に参加する事になりかねない。

だが、この近辺は魔法少女の担当区域が重なり合う区域であり、魔族が出現しても最速最短で各区域の魔法少女が討伐に動く。

人も少なく役場も小さな支所があるだけで不便だが、治安は良い区域。

そこが神代の住処だ。

 

「毎度あり」

 

シャッターばかりの商店街の個人商店で必要なものを買い、買ったばかりの煙草に火を点ける。

酸素ではなくニコチンとタールで呼吸をしている気分になるが、これでもないとやってられない。

肺から深々と不健康の塊の煙を吐き出してないと、何時か身の内に溜まったもので爆発しそうになる。

長く続く煙を眺め、携帯灰皿に押し込む。

遠く聞き慣れた音が聞こえてくるが携帯に着信は無く、周囲に疎らに居る人々にも焦りは無い。

 

「はぁ……、職業病だ」

 

魔法少女の戦闘を知ると、どうしても気になる。

気にしたところで要請が無ければ出動は無い。

新しい煙を吐き、日陰に沿う様にして歩く。

空を見上げれば、先を急ぐ魔法少女が見えそうで、それから目を逸らしたくて、日陰の中を歩く。

逃げたところで、自身が嫌われ者の魔法少女である事には変わりない。

現実を認めたくないのか。それとも、未来へ進む子供の姿を見たくないのか。

いや、もうどうしようもない過去から目を剃らしたいだけだ。

だから、買い物を終えるとここに来る。

 

「やっぱり、誰も居ない」

 

ただの公園、危険だからと遊具は取り払われ、残ったのは砂場と最後の情けと設置されたブランコ、そしてベンチと誰かが置いた灰皿だけの公園。

だが、神代にとっては思い出深い場所。ここで集まり、ここでカースメイカーは始まった。

この辺りを住処にしているのも、過去にすがりたいから。過去から目を剃らしたい癖に、なんとも情けなくみっともない。

これが現代最高峰の魔法少女の一人とは。

木陰のベンチに座り、出てきもしない涙の代わりに紫煙を吐き、また灰皿に押し込める。

 

「あ……」

 

押し込めて押し込めて、何時か限界が来た時、この携帯灰皿みたいにちゃんと壊れるのだろうか。

それとも、壊れる事も出来ずに底に溜まった膿に沈んで腐っていくのか。

それが分からなくてつい見上げた空は、ただひたすらに澄んでいて、淀んだ自分には相応しくない場所だ。

 

「まあ、いいか」

 

携帯灰皿の中身を灰皿に捨て、壊れた携帯灰皿をポケットに仕舞う。

そしてまた煙草に火を点ける。

過去は過去、戻る事も取り戻す事も出来ない。

やはり自分は魔法少女に相応しくない。

だから消えよう。

神代はベンチから立ち上がり、夏の日差しの中帰路に着いた。




魔法少女¦高い身体能力と魔力を保有し、魔族に対抗出来る唯一の存在。
また、対毒耐病性も異様に高く、魔法少女になれば病気には掛からない。
また加齢についても個人差はあるが、ある一定の年齢から外見の加齢は止まる。
寿命についてはまだ不明
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