昔は魔法少女でした   作:たんたん狸の金ヒャララ

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本当は〝魔法少女にあこがれて〟みたいな話にしたかったんです。


そうかもしれない

「やあ、源氏」

「坂尾か。随分久し振りだな」

「まあ、仕事ばかりさ」

 

防音、防諜対策がされた源氏の執務室に一人の客人があった。

坂尾、まだ現役の魔法少女の一人で〝プロフェッサー〟の名で後方支援を担当している。

彼女の魔法は解析、今までも様々な魔法少女の謎や魔族について調べ解析し、皆を勝利へ導いてきた。

 

「お前も苦労しているな」

 

坂尾を分かりやすく白衣で、顔には疲れと隈が目立ち、髪も以前会った時から伸びたままな印象だ。

 

「君程じゃないさ。……上からまた、だろう?」

「ああ、まただ。連中、魔法少女を何だと思っているのか……」

 

源氏が額を押さえ、深く溜め息を吐く。

書類は、また魔法少女の新しいアイドルグループ設立に関する報告書。

東京解放戦以来、大規模な魔族の進攻は無くなった。そのせいか、魔法局の上位組織である魔法省は魔法少女をアイドルとして売りだそうと、芸能プロダクションを組み入れ、様々な企画を発案してきた。

その結果、大人の思惑に踊らされ、その身を崩す子供が増えた。

 

「全て放り出してよかろうよ」

「そうもいくか」

 

だが、それも一部だ。

むしろ、真面目に魔法少女をプロデュースしようとする者達の方が多い。

だからこそ、源氏の悩みは増え続ける。

 

「魔法少女は魔族に対する唯一無二の手段。だから、実戦経験を積まないと死ぬ」

「だが、それも邪魔が入る」

「そうだ」

 

魔法省が何故にアイドル売りを前面に押し出すのか。それは源氏達第一世代(ザ・ファースト)が勧めたという事もあるが、更に加速させたのは魔族との戦いが落ち着きを見せた頃、一部の政党が声高に叫んだ魔法少女の人権問題だ。

曰く、年若い少女を戦わせるのは非人道的だ。

可憐な少女ばかりなのだから、もっと相応しい活躍の場がある。

といった、魔族の脅威を知らないのか、魔族が居ない世界から来たのかと問い質したくなる様な意見だった。

だが、金になる。その一点だけで源氏達の反対を押し切って今の方針となり、胡散臭い芸能プロダクションやテレビ局が幅を効かせているのが現状だ。

そしてその結果

 

「神代達に皺寄せがいった……」

「私は戦闘は得手ではないし、君もそう簡単には動けない立場だ。その意味では仕方ないとは言え……」

「神代もそうだが、アイドルやタレント売りに反対し、魔族との戦いに注力してくれている皆、限界が近い」

「いっその事、もう一度東京が占領されれば目を覚ますかもしれん」

「滅多な事を言うな。そんな事になれば、神代は間違いなく暴走する」

「そう、その神代についての話だ」

 

突然、話を切り替えて、坂尾は脇に抱えていた資料の束を源氏の机に置いた。

 

「ようやく解析出来たよ。数年掛かりでようやくだ」

「やっとか。で、結果は?」

「芳しくはない。まさか、既に暴走気味だったとはね」

「なに?」

「まあ、その資料を見るといい」

 

促され、まずは流し見した資料には神代の戦闘結果と魔法の威力と範囲の推移が事細かに記されていた。

それだけなら見慣れた報告書だ。だが、そこに気になる事があった。

 

「坂尾、この〝呪い〟とはなんだ?」

「〝呪い〟、そうとしか表現出来なかったのさ。……神代の魔法はルナの死を起因として完成した。そして、今の神代の状況もその辺りからだ」

「ルナの死が関係している、と?」

「そうだよ。別で綴じてる資料を見てくれ」

 

ホッチキスで雑に綴じられた資料は、魔法が掛けられていた。恐らく、源氏と坂尾以外には白紙の束に見える魔法だ。

そこにはカースメイカーの人気の推移と何らかの数値のグラフがあった。

 

「神代が戦う度にかなり稀薄だが魔力の放出がある。私はそれが何かしらの影響を及ぼしていると見て、部下に調査させた」

「結果は?」

「カースメイカーの大ファンだった彼は反転アンチになりかけた。まあ、気付くのが早くて戻ったがね」

「つまり、どういう意味だ?」

 

源氏の脳内に嫌な予感が走る。

この資料と今の話を合わせると、一つの答えに行き着く。

源氏はその答えから目を逸らしたかった。だが、坂尾はそうはしなかった。

 

「神代は自身を呪っている。恐らく、というより確実にルナを助けられなかった自責。この自責が呪いとなり、魔法を使用した際に周囲に拡散し、あの不評に繋がっている。というのが今の仮説だ」

「自身と周囲に自分を罰させているのか」

「恐らくね。これに神代は気付いていないだろう。何しろ、それ以前からカースメイカーは不人気だったからね」

 

源氏は頭を抱えた。

神代自身が原因ならどうにか出来た可能性がある。しかし、本人も認知していない魔法の影響、しかも長年抱え込んできた過去が原因では、源氏にはどうする事も出来ない。

 

「坂尾、何か手はあるか?」

「手段なら単純だ。仮説上だが、この魔法の影響は一回や二回では大した効果は無い。そして、カースメイカーとの関わりで効果は増減する」

「私達が変わりないのはそれか」

「ああ、そうだ。調査担当者も調査から離れると元通りのファンに戻った。つまり、関わりの薄いか無い者がカースメイカーの戦闘現場や近くに居て、それを繰り返すとアンチとなり、そこからこの呪いは伝播する。つまり、カースメイカーが戦闘をしなければ、次第に薄れていくだろうね」

「なら、やはり神代には休暇明けに引退してもらうしかないな」

「そうだね。それがいいよ」

 

感情の薄い坂尾の表情にも浮かぶ憐憫と後悔の色。

あの日、源氏がもう少し早く〝王族〟クラスの魔族を倒せて、もう少し速く二人の元へ加勢に行けたら結果は変わっていたかもしれない。 

だが、そうはならなかった。

そうはならなかった。なら、今出来る最善の手を取るべきだ。

源氏はもう一度溜め息を吐いて、窓の外に広がる晴天を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日差しが強い。刺すというより蒸す。直接の日差しよりも、日差しに熱された地面やアスファルトからの熱で体力が奪われていく。

だが、そんな猛暑の中でも神代は煙草に火を点ける。

数日前に日向から煙草を減らせと言われたが、それで簡単に減るなら禁煙している。

 

世間は夏休み、本来なら子供達が遊んでいるだろう公園のベンチで煙草を吹かし無人の公園を眺める。

特に何か目的がある訳ではない。ただ座って本を読みながら紫煙に沈む毎日に飽きて、少し外に出ようと思っただけだ。

そして、無人の公園で煙草を吸う。

結局、何処に居ようと何も変わらない。

何も変わらず、ただそこに居るだけ。

カースメイカーではない自分に、一体何の価値があるのか。

何も無い。何の価値も無い。

なら、何の為に生きている。魔法少女として戦わない自分に価値が無いなら、どうして今生きている。

 

「ルナ……」

 

目を閉じる。瞼の裏に写るのは、何時だって懐かしい日々とその最期。

繰り返し繰り返し、瞼を閉じる度に繰り返され、最近では瞼を閉じる事も嫌になってきた。

ずっと同じ日々の繰り返し、もう変えられない過去がずっと傍にいる。

だけど、最期の声だけが聞こえない。

約束した筈なのに、心に刻んだ筈なのに、神代の記憶は靄がかかった様にそこだけがぼやけている。

ああ、でもきっとこう言ったのだ。

 

「……仇は取るよ」

 

ルナを殺した魔族は殺した。

なら、残る仇は魔族だ。

源氏が用意した休暇はまだ半年程残っている。

それが明けたら、仇を討つ。

それまでは力を溜める。殺意を貯める。

どんな魔族が現れても、何処に現れても、必ず殺す。

 

「だから見ててよ。ルナ」

 

神代は誰も居ない公園に微笑んだ。

公園の外からそれを見つめる視線に気付かないまま。




坂尾¦解析、調査を得意とする魔法少女〝プロフェッサー〟。直接戦闘能力は皆無。〝ルナ〟にはよく勉強を教えていた。

源氏¦現在最速の魔法少女〝スターゲイザー〟。最速であり最強、だが間に合わなかった。

調査担当者¦カースメイカーとルナプリマーレに命を救われてから、カースメイカーの大ファン。
調査中、カースメイカーに対する悪感情が自身に生まれている事に気付き、担当者から外れる。
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