(今日はムーは料理のお手伝いに行ってるから、私一人で屋敷探索だ)
ある日のこと。私はまた、デビルズパレスの探索をしていた。今度は一人である。担当執事もつけないで一人ウロウロしていると心配されそうなので、こっそり探索しているのだが……。
(この部屋、なんだっけ……?)
そっと部屋を覗き込む。その部屋には誰もおらず、静かだった。
(すごい武器の数……ここは武器庫とかかな?)
私は部屋にズラリと並ぶ武器に興味を持ち、武器庫に入ることにした。
「へぇ、剣や槍だけじゃなく、弓矢だけでもこんな種類があるんだ……」
私は日本では見ることのない珍しい武器に、つい食い入るように眺めてしまう。
「あ、これは日本刀みたいなやつ……」
確か誰かこんな感じの武器使う執事いたよなぁと思うものの、また名前を忘れてしまっていた。えっと、ボス……ボス……えーっと。
「はっ! 主様?!」
「わ、ボスティン?!」
武器庫の扉が急に開き、同時に誰かが入ってきた。前に誰かが言ったデルフィニウムのような髪色をした執事だ。
「俺の名前はバスティンだ、主様」
まさか私が武器庫にいるとは思わなかったのか、酷く驚いた顔をしていたバスティンだったが、すぐには取り繕って落ち着いた声で名乗る。私が名前を呼び間違えるのもだいぶ慣れてきたという感じだ。
「ごめん、バスティンだったね……」
「ああ。……それより、ここで何をしていたんだ? 主様」
バスティンは私が名前を言い間違えたことを全く気にする様子なく質問をした。彼はあまり嘘をついたり取り繕ったりする執事ではないので、本当に気にしていないんだと思う。
「武器を見ていたの。私、元の世界ではこんなに間近で武器を見ることがなかったから……」
と私は正直に答えたが、悪魔執事の主ともなる私が武器庫にいたら、心配するか怒るに決まってる。私は咄嗟に言い訳を考えようとした。
「い、いつも守ってもらってばかりだし、私も戦いについてちゃんと知ったらいいだろうなぁとか……思って……」
「ふむ……」バスティンは考え込む仕草を見せた。「主様はいつも一生懸命だな。俺が分かることなら教えよう」
「えっ」
「だが、武器は触るな。怪我するかもしれないからな」
「わ、分かった……」
思ってもいなかった言葉に私は戸惑うばかりだったが、バスティンは全く表情を変えないまま前向きなことをサラリと言ってのけた。
「主様?」
「へっ?! な、何……?」
「顔が赤いんじゃないか? 熱があるのか……?」
「こ、これは……!」
私は慌てて顔を隠そうとする。バスティンって顔もいいのにイケメン発言を無表情で言うからこっちが恥ずかしくなるのよね……って!?
(足がもつれて転ぶ……!)
とすっ……。
「大丈夫か? 主様」
「ふぁ……」
年甲斐もなく変な声が出てしまった。今フラついた私の腰には、バスティンの腕が回っている。私よりはあるけど、こんな細身から安定した力が返ってきて私はますますドキドキしてしまった。
「だ、大丈夫……」
私はバスティンの赤紫色の瞳から思わず目を逸らしながらなんとか答える。あなた、本当にカッコよすぎるのよ。少しは自覚して欲しい。
「このまま歩けるか?」
バスティンは私を支えたまま、直立になるようにしてくれた。本当に力強い。私は頷いた。
「ありがとう。今日はもう部屋に戻ろうかな……」
イケメン無自覚男と密室()でいつまでもいられないと、私は武器を眺めることを諦めてそう言った。バスティンも、分かったと言って部屋まで案内すると言ってくれたが、その前に一言こう言ったのだ。
「主様、ちゃんと食べているのか? いくらなんでも軽過ぎだ」
「うっ……」
いつかはここの執事の誰かにも言われる気がした。そうなのだ。私は忙し過ぎて昼食を食べることすら忘れるくらいの少食。ついでに保育士の仕事が激務のせいか、全然体に身につかないのだ。
「た、食べてるつもりなんだけど……」
それに最近は、この屋敷で食事を沢山食べるようになったし……しかし不思議と体重が増えないのだから困ったものである。
「ふむ……なら食堂に行こう」
「え、食堂に……?」
昼食は食べたあとである。夕食にしてはまだ早いのに、と私が思っていると。
「簡単なものなら俺も作れる。ロノみたいにものすごく美味い訳ではないかもしれないが……」
このイケメン、料理も出来るのか。
「バスティンの作る料理、ちょっと気になるかも……」
思ったことをそのまま言葉にしてしまった私。ハッとして取り消そうとした時にはもう遅い。
「分かった。なら行こう、主様」
間もなく、ニコリと笑ったバスティンの顔に心臓刺されて(精神的に)死んだ。今日もデビルズパレスは、平和だ。
おしまい