ハウレスとバスティンも登場します
なお、テディの好き嫌いを把握してません()
それでも良かったら、どうぞ
「ラッキー! 主様のクッキーが食べられるなんて!」
ある日のこと。私は丁度そこで会ったテディに、手作りのクッキーを渡していた。
「自分の世界にある材料で作ったから口に合うかは分からないけど……あ、美味しくなかったら捨てていいからね? 感想とか聞いたりしないから!」
「そんな捨てるなんて、俺には出来ませんよ!」
とテディはニコニコ顔でクッキーを入れた袋を受け取ってくれたが、私は自信がなかった。
(異世界の人に手作りクッキー渡すのは思い切りが良過ぎたかな……せめてキーホルダー的な方が良かったかな?)
と考え込んでいるところに、誰かが近づいてきた。
「あ、主様、帰っていらしたんですね」ハウレスだった。「テディと何か楽しげな会話が聞こえていましたが、何を話していたんですか?」
「ハウレスにもあげるね。甘いもの食べられるよね?」
私はハウレス用の袋を取り出し、彼に差し出した。ハウレスは少し驚いたような顔をした。
「主様、これは……?」
「主様の手作りクッキーだって! いつもお世話になってるからって作ってくれたみたいなんですけど、お世話になってるのは俺の方ですよ、主様!」
私が答えるより早く、テディが嬉しそうにそう話してくれる。まだクッキーが美味しいかどうかも分からないのに、こんなに嬉しそうなテディの顔を見ていると、また何かをあげたくなってしまう。
「主様……ありがとうございます」
ハウレスは丁寧に、胸に手を当てて会釈をする。まるで宝石をもらったみたいな対応をするものだから、私はちょっと焦った。
「私の世界にある材料で作ったから、口に合うか分からないけど……」
と私は言ったが、ハウレスが作る炭ではないので安心はして欲しい()。誰に言い聞かせているのか自分でも分からなくなりながら、私は残りのクッキーの袋を数えた。
「他にも誰かに渡す予定ですか?」
私の視線に気づいたのか、ハウレスがそう聞いてきた。
「うん、執事みんなの分を持ってきたんだ」
「ならお手伝いします」
「俺も手伝います、主様!」
ハウレスに続き、テディも快く手伝いを申し込んでくれる。
「ありがとう、二人とも。みんなを探し回っていたところだったから、丁度良かった」
「俺は、外にいる執事たちを確認してきます」
「ありがとう、ハウレス」
と他の執事を探し始めようとしてまた誰かがやって来た。
「ジャスミン!」
「違いますよ、主様。バスティンさんです」
「あ、あ〜、そうだったね……」
テディもすっかり、私が執事たちの名前を呼び間違えることに慣れているようだ。
「なんだ? 主様」
ジャスミン呼びされたというのに全く気にする様子なくバスティンがこちらに近づいてきた。私は気を取り直して袋を取り出した。
「はい、バスティン。手作りクッキーなの」
「クッキー……?」
私はクッキーの入った袋を渡そうとしたが、バスティンは目を逸らした。
「俺は甘いものは……」
「そう言うと思って、バスティンのはブラックペッパー味にしてみたの。気に入らなかったら捨てていいからね?」
あなただって執事の前に人間だもの。食べ物の好き嫌いあるわ、と思いながら袋を差し出していると、バスティンはようやく受け取ってくれた。
「ありがとう、主様」
そう言って微笑むバスティンは、今日もイケメンだ。
「良かったですね、主様」
私が嬉しそうな顔でもしていたのか、横でハウレスも微笑んだ。ハウレスの微笑みは美し過ぎる。バスティンがイケメンなら、ハウレスは美男子だ。
「じゃあ剣の特訓に行ってくる」
とバスティンは無愛想に立ち去っていたが、いつも丁寧に接してくれているのは私もよく知っている。
「俺は外にいる執事を確認してきますね。……では主様、失礼します」
そうして外に出て行ったバスティンとハウレスを見送ったのち、ふとテディを見やると彼は難しい顔をして何か考え込んでいた。
「どうしたの? テディ」
「いや、大したことじゃないんですけど……」テディが難しい顔を崩さないまま話し続ける。「主様って、ハウレスさんやフェネスさんの名前をなかなか覚えられなかったんですよね? バスティンさんのことも、ジャスミンって呼んでたし……」
「あ〜……それは本当に申し訳ない……」
テディはここにいる執事たちのことを全員慕っている。その慕っている人物の名前を間違えられているとなると、聞いているだけで不快にもなるだろう。
「いえいえ! 俺が言いたいのはそういうことじゃなくて!」テディが慌てたように言葉を紡ぐ。「俺も、主様に名前を呼び間違えられたかったなって……なんか、こうやって言葉にすると、俺変なこと言ってるなぁとは思うんですけど……」
「名前を呼び間違えられたい……?」
「そ、そうです……俺の名前は、全然呼び間違えなかったですよね?」
「あー、それは……」
私はじっと、目の前のテディの目を見つめる。テディは不思議そうに大きな目で見つめ返してくれる。それはまるで某クマのぬいぐるみのように愛らしい表情だった。
「テディは、覚えやすかったんだよねぇ」
他に言い訳も思いつかずに私がそう言うと、テディは嬉しそうにフフフと笑った。笑顔がよく似合う青年だ。
「覚えてもらえて嬉しいです、主様!」
と言ったテディは本当にいい人だ。私が失礼なことを言っているというのに、本当に。
「でも、ラムリみたいにニックネームを考えるのはありかも……?」
テディの囁かな願いくらい叶えてあげたいなと私か思いついたまま呟くと、彼はそれも嬉しそうに受け取ってくれた。
「ニックネームですか! 主様にだけ呼んでくれるニックネーム、俺も欲しいです!」
そこまで喜んでくれるなら、少し真剣に考えた方がいいかもしれない。
「じゃあ、ちょっと考えてみるね。私は絵描きじゃないから、少し時間はかかるかもだけど……」
「……? はい、分かりました!」
テディは清々しい返事をしてくれた。
おしまい