ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ラトと星空

 

 デビルズパレスにある私の自室の隣は、書庫となっている。

 

 執事の名前はだいぶ覚えてきた私だが、まだ屋敷のことは全然覚えていなかった。未だに案内されないと食堂や玄関が分からなかったりする。まぁ、名前を忘れちゃう執事もまだいるんだけどね……。

 

 そんな私がようやく覚えた書庫は、自室の隣なのでよく行き来していた。ムーが他の執事の手伝いに行って暇になると、私は書庫で本を借りたりその場で作業をしたりしていた。

 

(今日は本でも借りに行こうかな……)

 

 と私は書庫に向かう。書庫には人がいなかった。

 

(……風?)

 

 書庫で風を感じ、窓でも開いているのだろうかと奥に進むと、カーテンが揺れていることに気がついた。どうやらバルコニーから隙間風が吹き込んでいて、そこに誰かがいるみたいだった。

 

「いい風が吹いているね、ラトくん」

 

「はい。星空が美しいです」

 

(褐色肌の執事さんと、三つ編みの執事さんだ……)

 

 まだ担当執事になってもらったことはないけど、確か彼らはミヤジとラトだ。

 

(地下の執事さんたちだよね……?)

 

 私はなぜか、地下の担当執事さんたちの名前はスムーズに覚えることが出来た。他の執事たちの名前はなんとか覚えたけど……いや、まだ間違えるかもだけど……執事たちが何階の部屋にいるかまではまだ覚えていないというのに。

 

(邪魔しないように今日は部屋に戻ろう……)

 

 と私が踵を返そうとした時、こんな会話が聞こえてきた。

 

「地下にもバルコニーが欲しいです」

 

(地下にも……?)

 

 何気なくだろうがそう口にしたラトの言葉に、私は思わず足を止めてしまう。

 

「うーん、それは難しいかな……」

 

 困ったようにミヤジはラトに答えていたが、私は妙にその言葉が心に引っ掛かっていた。ラトは美しいものを好む傾向にあった。

 

(地下からも空が見えたら、きっと綺麗だよね……)

 

 とは思うものの、私の力で地下から空が見える窓を作るなんて到底無理だ。

 

(でも、いつも頑張ってくれてるし、何か考えてあげたいな……)

 

 執事たちはいつも、色々な任務をこなしたり天使狩りをしたり、更には私のお世話までしてくれている。それはラトも同じだ。

 

「う〜ん……」

 

 私は自室に戻って考えてみる。私に出来ることなんて、多才な執事たちと比べたら少ない。

 

(そうだ! あの方法だったら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作業場所はここでいいですか?」

 

「うん! ありがとう、フェネス」

 

 別の日。私は、フェネスと一緒に書庫にまたやって来ていた。

 

(作業するならここの方が集中しやすいのよね〜)

 

 それに今回は、保育士の仕事関係で作業に付き合って欲しい、と言えば私が本当は何をしようとしているのかバレないはず。ということで、今回担当執事であるフェネスに、時間を計ってもらいながら私はとある作業を密かに実行することにした。

 

(その名も、地下執事さんたちの部屋を星でいっぱいにしよう作戦!)

 

 我ながらネーミングセンスはないなとは思うが、サプライズで進行するので名前なんてどうでもいいのだ。とにかく今は、この色画用紙を星型に切るという作業を進める。保育士の仕事をしているおかげで、こういった作業はだいぶ慣れていた。保育園では、季節に合わせて部屋の装飾をすることはよくあること。まぁ、最初は上手く出来なくて怒られてたけどね。

 

(人のために怒られていたのなら、少しは気持ちも楽になるかな)

 

 そうして私は、次々に色画用紙を星型に切っていった。

 

「ふふ……」

 

「なぁに、フェネス?」

 

 フェネスが急に笑うものだから、私は作業をしながら訊ねた。

 

「あ、声に出ちゃってたかな……」フェネスは少し恥ずかしそうに目を見開いた。「主様の作業に付き合うことが出来て嬉しいなって、つい思っちゃって……ダ、ダメですよね、執事としてこんなこと考えたら……」

 

 と自信なさげに目を逸らすフェネスの顔を、私は見つめた。

 

「執事としてどうかは分からないけど……作業に付き合ってくれるなら、フェネスがいいなって思ったの」私は自分の考えをそのまま伝えた。「まぁでもこういうのって、特別な感じがするよね」

 

 すると、フェネスはようやく私と目が合った。

 

「俺もそう思っていました」

 

 フェネスの言葉に私がうんうんと頷くと、優しい笑みが返ってきた。フェネスのはにかんだような顔は、ふんわりとしたスイーツのように甘い。

 

「よーし、頑張る!」

 

「はい、応援してます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして私は、フェネスの応援もあり、なんとか満足のいく星型の色画用紙をいくつも作り出した。あとはこれらを紐にくっつけて地下執事たちの部屋に飾るのだが、私はそこまで背も高くなければ手先も器用ではない。なので私は、別日にある執事にハシゴを持ってきてもらっていた。

 

「これでいいのか? 主様」

 

「ありがとう、バスティン」

 

 設備管理のことならハウレスに、背丈が高い人ならフェネスに頼んでも良かったのだが、その日はどちらも任務や買い出しに出ていて屋敷にはいなかった。しかし一人でどこにあるのか分からないハシゴを探すのも難しく、ウロウロしていたところにバスティンに助けられたところである。

 

「しかし、ハシゴを使って何をするんだ?」

 

 バスティンはハシゴを渡しながら訊いてきた。まぁ、聞かれちゃうよね……。

 

「えっと、ちょっとね……」

 

 私が言い淀むのには訳がある。バスティンは誠実な執事だ。だけどちょっと、嘘や誤魔化しが苦手なところがあるので、ラトにサプライズをしようとしている、と伝えるには少し考えなくてはいけなかった。

 

「俺には言いづらいことなのか?」

 

 と真剣そうな顔で聞いてくるバスティンを見ると黙っているのも心が痛い。

 

「そうじゃないんだけど……」私は考えた。「サプライズなの。みんなには秘密にしてくれる?」

 

「サプライズ……分かった。主様がそう言うなら」

 

 そう言うとバスティンは、私にそれ以上何か聞くこともなく、地下執事たちの部屋の飾り付けを手伝ってくれた。バスティンは自分が嘘が苦手なことを自覚しているのかもしれない。どちらにせよバスティンの性格の良さに私は心から感謝した。

 

(今度はバスティンにも何かサプライズしたいな……)

 

 こうして手伝ってくれているんだもの、と地下執事たちの部屋の半分くらいが星の飾りで埋められ始めた時、ガチャリとドアノブが捻る音がした。

 

(あ、ラトが帰って来ちゃったのかも……!)

 

 フルーレとミヤジは音楽室にいるというのは先程確認していたが、ラトの動きは全く読めなかった。どうしよう、と慌てるのも束の間、その人物は部屋に入ってきた。

 

「……主様? とバスティンくん?」

 

「ミ、ミヤジ……」

 

 入ってきたのはミヤジだと知ってホッとする私。いや、そもそも勝手に自室に入られているのでミヤジはホッと出来ない状態のはずだ。

 

「ご、ごめんね、勝手に入っちゃって! 別に変なことはしていないのよ!?」

 

 部屋の飾り付けを勝手にして置きながら「変なこと」と言ってしまう私の誤魔化し方が一番マズイ。ていうかバスティンはこちらを気にもせず黙々と飾り付けしちゃってるし……。

 

「主様。これはこうでいいのか?」

 

 ミヤジが入って来たことなんてお構いなしに聞いてくる始末だ。

 

「あ、うん、お願いね……」

 

 私はバスティンにそう答えながら恐る恐るミヤジの顔を覗き込んだが、そこには穏やかに笑む顔があるだけだった。

 

「ふふ、私たちの部屋を飾り付けしていたのかい? 主様」

 

 とミヤジがいつも通りに聞いてくる。私は、頷くしかなかった。

 

「そ、そうなの。えっと、これにはちょっと事情があってね……」

 

 なんて言い訳しよう、と私が頭を捻っていると、ミヤジは更に優しいことを言うのだ。

 

「私は何も見なかったことにしよう。そういうことでいいかな?」

 

「へ……」ここの執事は本当、誰もが優し過ぎる。「ありがとう、ミヤジ。あとでラトも連れて来てくれると嬉しいな〜、なんて……」

 

「分かった、そうしよう」

 

 ガチャリ……。

 

 私の言葉にミヤジは快く快諾して部屋を後にしていった。なんか私、もう泣きそう。

 

「主様、飾り付けはこれで全部……主様?」

 

 間もなくバスティンに呼ばれて私はハッとして頬を拭う。なんだ、本当に泣いちゃってたじゃん。

 

「主様、どこか痛むのか……?」

 

「ううん……もう、ミヤジもバスティンもみんな優しいから……ううっ」

 

 どうしよう。なんでこんなことで泣いているんだろう。

 

「優しいのは主様だ。優しくて素敵な主様だから、みんな優しくするんだ。もちろん俺も」

 

 バスティンは相変わらず王子みたいなこと言うし、私はサプライズをする前からボロボロ泣いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、落ち着いた頃に、ミヤジは本当にラトを連れて地下執事室に戻って来てくれた。ラトは作り物の星をじっと眺めながら、最終的には「主様が用意してくれたものは、ミヤジ先生もフルーレも喜びます」と言ってくれた。

 

「本当は、地下にバルコニーが作れたらいいんだけどね……」

 

 私がそう言うと、ラトはおや、とこちらを振り向いた。

 

「やはり、主様は私たちの会話を聞いていたのですね。足音は聞こえていたのですが……」

 

 地獄耳ラトに、サプライズは難しいのかもしれない。

 

「やっぱバレてた?」

 

 そう私が聞くと、ラトは不敵に笑いながら、

 

「クフフ……涙の理由も、知りたいです」

 

 と言われた。

 

「そ、それはいいのよ……」

 

 私は目を逸らしたが、ラトは逃がしてくれなかった。

 

「そうですか? 私に話してくれないなんて、残念です」

 

 うっ、このおねだりするような言い方、ちょっと私弱いんだよね……。

 

「えっと、暗い話ではないし、ちょっとだけなら……」

 

「はい。星空を眺めながら、主様とお話したいです。ミヤジ先生も聞きますよね?」

 

「私は……」

 

 ラトの話に巻き込まれ、ミヤジは困ったように私に目を向ける。私が迷惑がっているとでも思ったのだろう。

 私はそんなミヤジの優しさに気づいて笑顔を返した。

 

「うん、一緒にお話しよう、ミヤジも」私は頷いた。「星空なら見張り台が一番見えやすいかな? 今日は晴れだったかな……」

 

「星空なら、ここから見えるじゃないですか」と言うなり、ラトは天井を指した。「主様の星空」

 

「ラト……」

 

 ラトのあまり動かない目はいつも何を考えているかよく分からないが……。

 

(私の作った星が気に入ってくれた……ってことかな?)

 

 ラトがそう言ってくれたことが嬉しくて、手間を掛けた甲斐があったなぁと私は思った。

 

「ありがとう、ラト」

 

 私がお礼を言うと、ラトは不思議そうな顔をした。

 

「おや? お礼を言うのは私の方だと思ったのですが……」

 

「ふふ、そう言いたくなる日もあるんだよ」

 

 とミヤジもフォローしてくれて、ラトはミヤジ先生もそう言うなら、と私の不思議発言も受け入れてくれた。

 

「じゃあどこから話そうかな……」

 

 私はその日、しばらくラトとミヤジとお話をして時間を過ごした。

 

 おしまい

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