「こんにちは、ロノ」
「主様! こんにちは!」
ある日のデビルズパレス。厨房に向かうと、ロノが元気に挨拶をしてくれた。
「物音がしたから、様子を見に来ちゃった」
と私が言うと、足元のムーも出てきた。
「ついでにつまみ食いしようとか思ってないですからね!」
なんて心の内をすぐに明かすムーは、私を巻き込んで厨房に来たことはさすがのロノも見抜いているだろう。
「つまみ食いより、デザートを食ってくか?」しかしロノは、もう何か用意していたみたいで、作業テーブルを指した。「ムー用のデザートも用意していたんだ。その名も、フルーツゼリーだ!」
「わぁ、美味しそうです!」
食い意地の強いムーはそう言って作業テーブルに並ぶゼリーを眺める。透明の氷にも見えるゼリーに、色とりどりのフルーツが適度にカットされて彩りを与えている。まるで宝石箱のようだった。
「綺麗……」
私がそう言葉を零すと、ロノは得意げに笑った。
「へへっ、主様、こういう綺麗なもの好きそうだなって思って! 今食堂に運ぶんで、待ってて下さい!」
とロノが鼻の下をさする。
「僕、運ぶの手伝います!」
とムーは言い、私も続いた。
「私も手伝うよ!」
「いやいや、主様は待ってて下さい! ここは、オレとムーが運ぶんで!」
「はい! 主様、食堂で待ってて下さいね!」
ロノとムーは私にそう言った。
「じゃあ、お願いね」
未だに自分が主としてあれこれしてもらうことには気が引けるのだが、そこまで言うのなら、と私は食堂で待つことにした。
ー食堂にてー
(とはいったものの……)
食堂の席につきながら私は思案する。
(私、ゼリー苦手なんだよな……)
さっきはノリでああは言ったが、ゼリーだけは苦手な食べ物であった。食感が苦手なのだ。似ているグミとかこんにゃくとかも苦手だ。ただ、こっちの世界にはグミやこんにゃく芋がないからと油断していた。この世界には、ゼリーは存在するらしい。
(でも、食わず嫌いはよくない。保育園でも、子どもたちに苦手は食べ物は一口くらいは食べさせるし……)
「お待たせしました、主様!」
「スプーンも持ってきましたよ!」
そうこうと悩んでいる間に、ロノとムーがゼリーが入った器とスプーンを運んで食堂に入ってきた。私はいつも通り、平静な笑顔で受け答えようと務めた。
「ありがとう、ロノ、ムー」
ちゃんと笑えているかな? 私。
「それではどーぞ、主様」
コトリと、丁寧な作法で私の目の前にゼリーを置くロノ。あとからムーがスプーンを添えて置いてくれる。それから一人と一匹はテーブルから少し離れて私がゼリーを食べるのを見守っていた。
(これは、食べるしかなさそうだな……)
私はそっと、スプーンを手に取ってゼリーを掬う。これだけ見ると、宝石をスプーンに乗せているという贅沢なシーンのようだ。ゼリーじゃなければ。
(……一口だけは食べてみよう)
……ぱくり。
もぐもぐ。
……。
…………。
………………。
「どうですか? 主様」
「なんか、すごい味わって食べてますね……?」
とロノとムーが言っている。
(これは……)
「美味しい……!」
感動した。
「へへっ、それは良かったです!」
「そんなに美味しいんですか! 僕も早く食べてみたいです〜」
ロノは嬉しそうに笑い、ムーはソワソワし始めた。
「私、ゼリーが苦手なんだけど、これはすっごく美味しい!」私はロノに向かって真っ直ぐに感想を伝えた。「ゼリーの食感が果物みたいで美味しい! 何個でも食べちゃえそう!」
と私はゼリーをパクパクと食べたが、ロノは驚いた顔をしていた。
「主様に苦手な食べ物があったんですね……? すみません、何も知らないで……」
と謝るロノに、私は一旦手を止めた。
「ええ、謝る程ではないよ。言わなかった私も私だし……それに、ロノが作ったゼリーはとても美味しいから大満足だよ!」
と私が心から思ったことを伝えると、ロノは嬉しそうに笑った。
「主様がそう言ってくれて嬉しいです!」
「僕も、主様の笑顔を見ていたら元気が出てきました!」
とムーも笑い、私たちは楽しい時間を過ごした。
まさかデビルズパレスで苦手が克服出来るとは思わなかったが……。
(これはこれで楽しい、かな)
私は、今この幸せな時間を味わうように、ゼリーを頬張った。
おしまい