ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ハナマルと口癖

 

「七崎先生〜」

 

 ここは私が働く保育園。今日も今日とて子どもたちに引っ張りダコだ。

 

「はーい、何かな?」

 

 その日は園庭で子どもたちが遊ぶのを見守りながら、呼ばれた声の方へ振り向いた。そこにいたのは一人の女の子、アリスちゃんだった。

 

「あのねあのね、ユメちゃんと一緒に花輪作ったんだよ〜!」

 

 とアリスちゃんは白詰草で出来た花輪を見せてくれた。この前、ユメちゃんと一緒に遊びたいと言っていたアリスちゃん。ようやく勇気を持って声を掛けたみたいだ。

 

「そっかそっか、良かったね〜」

 

 私はアリスちゃんの前でしゃがんでそう言った。アリスちゃんは嬉しそうに笑ってまたユメちゃんの方に戻って行ったが、私はふとあることに気がついた。

 

(あれ、これって……)

 

 ハナマルの口癖……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッハッハッ!」

 

「もう、笑わないでよ……」

 

 デビルズパレスの別邸。この話をすると、そこにいるハナマルにゲラゲラと笑われた。

 

「いや、だって……寄りによって俺の口癖が移るとはなぁ……災難だったな、主様」

 

 なんとか笑い止みながらハナマルはそう言ったが、口角はまだニヤついていて抑えられないといった感じだった。

 

「災難……うーん、災難って程ではないんだけど……」

 

 考え込みながら私はハナマルを見つめる。ボサボサの髪、着崩した衣服、どれもキッチリと整えられたとは言い切れないが、決して不潔という訳ではない。しっかり保湿をしているのか肌はスベスベしているし、髪の毛の毛先はいつも同じ長さで切り揃えられている。こんな妖艶な三十代男性がいるだろうか。

 

「なんか、ハナマルと話してると、私が子どもになったような気持ちになるんだよねぇ。子どもの面倒を見る仕事をしているのに、うっかり子ども返りしそうで……」

 

 と私がため息をつくと、ハナマルはそんな気持ちも知らんぷりといった感じで、ふぅんと赤い目を向こうに逸らした。

 

「なるほど……つまり俺の前だと、甘えた主様になるって訳だ」

 

 何が「なるほど」なのか。

 

「もう……私は真剣に悩んでいるのに」

 

 と私が言うと、ハナマルはカラリと笑った。

 

「悪い悪い。けどよ、主様」とハナマルは改まった口調で切り出す。「いつも頑張ってるんだから、俺の前じゃ子どもみたいに甘えてもいいんじゃない? 口癖くらい、子どもは気にしないって」

 

「説得力ある……」

 

 子育て経験を経ているハナマル。確かにそれもそうかもしれない。

 

「でも、私あまり頑張ってないよ」私は言った。「私が頑張ってたら掃除用具の場所も、人の名前もちゃんと覚えているのにな」

 

「それとこれは違うだろ〜? 主様」

 

「そうかなぁ……」

 

「だって俺の名前は、すぐ覚えてくれたじゃん」

 

「それは、ハナマルって名前が覚えやすくて……」

 

「そっかそっか〜」

 

 ハナマルは楽しげに笑うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー数日後、保育園にてー

 

「七崎先生! 花丸つけて〜!」

 

 保育園で預かってる子どもの一人が何かを持って駆け寄ってきた。見るとこの前の園庭で遊んだ時の絵を描いたみたいだ。

 

「ここに描くの?」

 

「うん! 帰ったらママに見せるんだ!」

 

「へぇ、いいね〜」私は赤ペンを手に取った。「はい、ハナマル……」

 

 と私は子どもの描いた絵に花丸を描いてハッとした。花丸とハナマル、ちょっと発音が違ったかも……?

 

「七崎先生?」

 

「う、ううん、なんでもないよ、アズサくん」

 

 私は取り繕いながら絵をアズサくんに返した。ありがとう、と言うアズサさんくんの背中を見送りながら、私はだいぶ、デビルズパレスの生活が浸透しているんだなぁと思った。

 

(私、やっぱり頑張っているのかもな)

 

 子どもたちを見守りながら、私はハナマルに言われたことを思い出した。

 

(私が頑張ってるから、子どもたちがわざわざ花丸をもらいに来てくれたんだもんね……)

 

 デビルズパレスに帰ったらまたハナマルと話そう。そう思った私だった。

 

 

 おしまい

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