デビルズパレスの朝は心地いい。
仕事前もデビルズパレスで過ごすようになった私だが、執事たちが用意してくれるベットも、寝る前にそばに置いてくれる香りのいい花も、何もかもが居心地がいいここは、休日過ごす場所ともなっていた。
「う〜ん……今日もいい朝!」
カーテンの隙間から注ぎ込む朝日を感じながら、私はデビルズパレスの自室で伸びをする。なんだか今日もいい日になりそうだ。
(さて、今日は休みだし何しようかなぁ……)
と私がベットを下りようとした時、ソレはいた。
カサカサカサカサ……。
「……っ?!」
デビルズパレスは居心地がいい。ただ、現代の日本のように、発展が進んでいないところがあった。なので、この世界には網戸とか虫除けスプレーとかがないのであって……。
私は素早く手元にあったペーパーを手に取った……。
ドタドタバタン!!
すごい音が出てしまった。たかが虫一匹捕まえるのに……。
トントンッ!
「主様! お部屋からすごい音が聞こえましたが大丈夫ですか?!」
私が大袈裟な音を立てながら虫を捕まえたからだろう。扉の向こうで声が聞こえてきた。
(寄りにもよってベリアンが来ちゃったか〜)
ベリアンは虫嫌いである。なのに虫は外に逃がして欲しいという心優しい執事。私も虫は逃がす予定ではあるが、ペーパーの下にいるコレをベリアンに見せる訳にはいかない。
「だ、大丈夫! 大丈夫だからまだ部屋には入って来ないで!」
私は大きな声で無事であることを伝えると同時に、ベリアンだけは部屋には入れないようにと必死だった。他に何か言い訳がないだろうか、と考えていると。
「しかし、大きな音がしたので、お怪我でもしたのかと思うと心配です。一度、ルカスさんに診てもらった方が……」
「あ、うん! あ、あとで診てもらうねっ?」
ルカス……ルカス……確かあの医者執事だったな、と思いながら、とにかく今は手元のペーパー下にいるヤツをどうにかせねばならないと考えた。そっと持ち上げる。うっ、形や大きさがよく分かってしまう。
(私だってそこまで虫は得意じゃないけど……)
保育園でも虫が入ってくるのはよくあること。先生ですら虫が全くダメなことが多いので、消去法で私が撃退していた。触るのが平気な訳ではない。
(よし、あと少しで窓に……)
ガチャリ……。
「失礼します、主様! やはり心配で……」
「ギャーッ!!」
私は変な声を出してしまった。扉が急に開いてベリアンが入ったことで、私は虫が動いたのだと勘違いしてしまったのだ。私は手にしていたペーパーを落としてしまった。と同時に、そこそこ大きな虫がそこら中を跳ねたり飛んだりでますます大騒ぎ。
「ひぃー!」
「む、虫さん?! あ、主様、こちらへ……っ!」
飛び上がった私を庇うためにベリアンが駆けつけてくれたが、彼だって虫は苦手なはず。最終的には私たちは腰を抜かしてしまい、互いの手を握り合って騒いでいたところに間もなくバスティンがやって来て虫を外に逃がしてくれた。なんとかことなきを終えたが、私たちはしばらく、手を握り合ったまま立ち上がることが出来なかった。
「主様とベリアンさん、仲がいいんだな」
とバスティンが声を掛けてきたことでベリアンはハッとしたらしい。
「も、申し訳ありません、主様。執事である私が主様とこのような……」
「だ、大丈夫……でもちょっとだけ、落ち着くまでこうしてていい……?」
虫はもういないというのに、心臓が落ち着かなかった。見るとベリアンも、まだ顔が青ざめている。
「も、もちろんです、主様。落ち着くまでお傍にいますね……」
「なら俺は鍛錬に戻る」
バスティンはバスティンで私たちをそのままにして部屋を出ていくし、とにかく落ち着くまで手を握り合っていたが……。
(たまにはこれくらい距離が近いのも、いいかもね……?)
私が少しずつ落ち着きを取り戻しながら密かにそう思ったのは、ベリアンには秘密だ。
おしまい