(手に入れてしまった……)
エスポワールで買い物に行った時、いつもお世話になってるから〜と、贔屓にしてくれている服屋さんで、私は手に入れてしまったのだ。
尻尾を……。
尻尾といっても、作り物の尻尾で、ファッションの一部として使われているものだった。一本は赤っぽい鈴のついた尻尾で、もう一本は黒い色をして、こちらも鈴がついていた。
(赤いのはユーハンに似合いそう……)
と思いながら屋敷の前庭を歩いていると、木陰で寝転んでいるハナマルを見掛けた。
(あんな丁度いいところにハナマルがいる)
「主様? 如何なさいました?」
買い物に同行してくれていたハウレスが、足を止めた私を不思議そうに見つめている。
「ちょっとハナマルに話しかけてくる!」
と私が言うと、ハウレスは優しく微笑んだ。
「分かりました。なら、お荷物は俺が……」
「あ、こ、これは私が持つよ……!」
いつものお店で作り物の尻尾をサービスしてくれたことをハウレスは知らない。今からこの尻尾でハナマルにイタズラをしようとしているなんて、ハウレスにハッキリ言う訳にはいかなかった。
「ですが……」
「そ、それよりこっちを持ってくれるかな? お部屋に置いとくだけでいいから!」
私は別の荷物をハウレスに任せ、逃げるようにハナマルの方に向かった。
……。
…………。
「ふぅ……ハウレスはついて来てないね」
真面目なハウレスのことだから追いかけられる心配もあったが(だって彼が本気で追いかけたら絶対追いつかれるもの!)荷物を運ぶことを優先してくれたようだ。ハウレスは荷物を屋敷へ運んでいる。
「さて……」
と木陰にいるはずのハナマルを振り向いたが、あれ、いない……?
「よお、主様。そんな急いでどこに行くつもりだったのよ?」
「わ、いつの間に……」
先程まで地面に寝転がっていたはずのハナマルが、いつの間にか私の背後に立っていたのだ。
(彼も剣士なのだし、いつの間にか後ろに立ってるのは……普通なのかな?)
と思いながら、私はいつも通りの姿勢でハナマルに言葉を返した。
「こんにちは、ハナマル。ちょっと尻尾を……じゃなくて、お喋りしたくてこっちに来たの」
「へぇ、俺と昼寝したかったの? そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
そんなことは全く言ってはいないが、誤魔化すためにはなんとか言葉を続けるしかない。
「ま、まぁ、そんな感じ……」
寝ているハナマルに尻尾をつけようとか、そんなこと考えてないから! と私は内心で言い訳をしながら、苦し紛れにそう答えた。
「で、そのバックは何かな?」
「えっ」
ハナマルはどこかこちらの心境を見抜く節があった。ハナマルは元々そういう能力に優れるのか、それとも私が見抜きやすいのか……恐らく後者の方だろうが、ここで尻尾のことがバレると色々面倒になる気がした。
「えっと、なんでもないの……」
「へぇ」
「あ、ハナマル!」
ひょいっと、あっさりハナマルにバックが奪われた。あまりにも軽い力で。私に怪我しないようにしているところ、ハナマルの気遣い上手も現れているが、もれなく尻尾のこともバレてしまった。
「へ〜……主様。この尻尾を持って俺に何しようとしてたの?」
と言いながら目の前で尻尾をブラブラさせるハナマル。私はもう逃げられないと思った。
「ごめんなさい、ハナマル……」
私はハナマルに、尻尾をこっそりつけようとしたのだ、と説明した。
しかしハナマルは最初は驚いたが、最後にはケラケラと笑って、なんで俺に? と聞き返してきた。だってハナマルに似合いそうじゃん。ほら、鈴ついてるし、サボれなくなるよ、と言うとそれは嫌だなぁと言いながら、なんとハナマルが自ら尻尾をつけてくれたのだ!
「え、ハナマル……?」
「どーよ? 似合うか?」
その作り物の尻尾は、どういう訳かユラユラとまるで本物のように揺れていた。そういえばあの店員さん、なんとかの祈りつきだとかって言ってたっけ。この世界には悪魔や天使だけでなく、不思議なものが多くあるので、魔法みたいなのがあってもおかしくはなかった。
「めっちゃ似合う……」
この前のバスティン女装事件から、私の性癖はおかしくなったのだろうか。寄りにもよって(めちゃくちゃ失礼)三十代男性のハナマルに尻尾をつけて喜んじゃう私、おかしいのではないのか。だけど、本当に、ハナマルに尻尾があるのは似合い過ぎて拝みたくなってきた。いや、今拝もう。
「ちょっと主様? 拝む程ではないでしょ」
とハナマルは若干引き気味な様子だったが、悪いことではないので私はもう少しだけ手を合わせることにした。
「ありがとう、ハナマル。今日はいい夢見られそうだわ」
さすがに執事たちをオモチャみたいに扱うのも嫌なので、ハナマルについている尻尾を回収しようとしたが、そこについている鈴がリンッと音が鳴って手首を掴まれた。
「いい夢だけじゃなくて、起きてる時の俺ももっとよく見てくれよ?」
「え……」
ハナマルに結構な至近距離で言われる私。
「おっと、本気にさせちゃったかな。悪い悪い」
ハナマルはすぐに手を放した。大丈夫、と私は答えたものの、急に色気を出してくるハナマルに内心はドキドキだった。
(ちょっと悪いことしちゃった……よね)
きっとハナマルの私に対するイタズラのやり返しなのだと思い、反省することにした。
「ごめんね、ハナマル。イタズラしようとした私の仕返しだよね」
「ん〜? ……ま、そういうことにしといてやるよ」
「……?」
ハナマルの意味深そうな言葉は疑問に思ったが、次には尻尾を返してくれてので気にしないことにした。
おしまい