ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ボスキと変わり者

 

 ボスキを初めて担当執事にした時は、結構警戒されたものだった。

 

「なんで俺を担当執事にしたのか分からねぇが……まぁ変わり者の方がありがたいから別にどうでもいい」

 

 みたいな感じだった。

 

「まぁ、私は変な発言をする主だからね」

 

 と私が言うと、ボスキは悪びる様子もなく、ケラケラと笑ったのだ。

 

「ああ、あの時のことか」

 

 私が最初の担当執事を選ぶ時、遠慮なく笑った青く長い髪をした執事……それが、このボスキという人物だったのである。

 

「それに、ボス……ナはさ……」

 

「ボスキな」

 

 そして私は相変わらず、彼の名前を間違えてばかりだった。

 

「ごめん、ボスキ……」

 

「名前をよく間違えてるのは他の執事たちから聞いてる。まぁ来たばかりだし、無理することはない」

 

 言葉の端々に優しさが滲み出ていたのは、今でも覚えている。

 

「ありがとう、ボスキ。でも、私みんなのことちゃんと覚えたいんだ」私は言った。「あ、そうだ! 私、みんなの名前を早く覚えるために似顔絵を描かせてもらっているの。あなたも描いてみてもいい?」

 

「ああ? 別に構わねーが……」

 

 絵を描いたことで覚えるのか? といった顔をしていた。私も不思議だけど、本当に描いた人の名前を覚えたのだから自分でも驚いている。

 

「また変な奴って思ったでしょ」私はクスクスと笑いながらつい口走ってしまった。「でもいいの。最初から私は変わり者ってのは分かったでしょう? 昔からよく言われてるの。私は変わり者だから」

 

「そーかよ」

 

 彼は興味なさそうに顔を背けるだけだった。

 

(横顔も綺麗だな)

 

 デビルズパレスにいる執事たちは皆顔がいいのだ。髪がそこまで長い男性を日本ではあまり見掛けないからというのもあるかもしれないが、彼の容姿は新鮮だったし。

 

(顔のお面は、確か片目だけ見えていないからだよね……?)

 

 彼は片目を覆うようなお面をつけていた。人の名前はなかなか覚えないのに、身体的特徴で気をつけなくてはいけないことはすぐ覚えた自分も不思議過ぎる。

 

(まぁ、子どもの特徴を覚えなきゃいけない仕事してるし……)

 

 と私はなぜか内心で言い訳しながら観察していると、彼がこちらを向いて警戒深げにこう言ってきたのだ。

 

「おい、さすがに見つめ過ぎじゃないか?」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 この時はほぼ初対面みたいなものだったし、失礼だったかなと私が慌てて目を逸らすと、彼はため息をついた。

 

「なんでこの俺を担当執事にしたんだ……」

 

 と小さく呟いて。

 

「それは、あなたと仲良くなりたいからよ?」私は彼に自分の考えをそのまま伝えた。「いつも色々とお世話になってるし……それに、ホールの模様替えをしているのはあなたでしょう?」

 

「模様替え……ああ、そうだが……」

 

 何か文句があるのか、と言いたげな目をしていたと思う。少なくとも私が強面の男性に物怖じするタイプだったら、彼の顔は睨んでいるように見えただろう。

 だけど私は、最初から彼のことなど怖くはなかったのだ。何より私の珍発言を「笑った人」というイメージが強かったから。

 

「季節に合わせて模様替えするのって大変だと思うのに、いつも細かく装飾しているから、すごいなって思っていたの!」これは私の本心だった。「だからあなたともお話したいと思っていたのよ。季節に合わせて模様替えする苦労は、保育園で経験してるから……」

 

 あ、保育園というのは子どもを預かる仕事で……と説明を付け加えたが、彼はそんな細かいことを気にする執事ではなかった。彼は楽しげにニッと笑ってこう言ったのを今でも覚えている。

 

「さすが、主様。あの模様替えの良さが分かるとはな」

 

 そうして模様替えに関して掛かった手間や材料の話をする彼は楽しそうだった。私はうんうんと耳を傾けたり、たまに質問をすると丁寧に説明をしてくれた。きっとこの時から、彼は少しずつ私に心を開いてくれていたのだと思う。

 

「色々話してくれてありがとう、楽しかったよ」

 

「ああ……少し話し過ぎちまったかもな」

 

「そんなことないよ……えっと、ボスナじゃなくて……」

 

 彼の名前はボスナではなかったはずだ。

 

「俺の名前はボスキだ」

 

「あー、ボスキね! 早く似顔絵を描いて覚えないと……」

 

(ボスキって本当に、どこかのボスみたいな見た目をしているんだよなぁ……)

 

 実はあながち外れてはいなかった考えなのだが、その話は、もう少しあとになって知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。私が屋敷探索をしていた時に、こんな会話もこっそり聞いていたのも覚えている。

 

「おい、フェネス」

 

(あ、この声は……)

 

 書庫から聞こえた低く渋い声。なぜかいつも怒っているようにも聞こえる、ボスキの声だった。

 

(確かあの長い髪の執事さんは、内装の執事さんよね……)

 

 当時私はまだボスキの名前を覚えていなかったので、長い髪の執事とか、内装の執事とかで認識していたのだ。

 

「何? ボスキ」

 

 書庫で本の整理をしていたらしいフェネスが、ボスキに返事をしている。

 

「主様が書いた小説の中で、ボスナって名前の登場人物はいるのか?」

 

 当時、ボスキがなぜフェネスにこう聞いていたのか分からなかったんだっけ。

 

「え? ……いなかったと思うけど、どうして?」

 

 フェネスの回答通りだ。私の書いた小説に、ボスナという登場人物はいない。

 

「チッ……じゃあなんでアイツは俺のことをボスナと呼ぶんだ……」

 

「アイツって……? ちょっとボスキ、主様のことをそう呼んだらダメだよ?」

 

 私はその会話を最後に慌てて自室に戻った。確かに私は、よくボスキのことを「ボスナ」呼びしていたのだ。

 

(私の世界でいうコーヒー会社の名前って言ったら、さすがに怒るよね……)

 

 ボスキのことをボスナと呼ばなくなるまで、かなりの努力をしたことは、執事のほとんどには秘密だ。

 

 

 おしまい

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