ハウレスの過去ネタバレ、親密度レベル上昇時に見られる会話から発想を得たのでそのネタバレも含むと思います
大丈夫な方だけどうぞ
「ただいま〜」
ある日のデビルズパレス。休日の昼間に帰ってくると、ハウレスがそこでうずくまっているのを目撃した。
「早くしないと主様が帰ってくるというのに……」
うずくまっているからか、私が帰ってきたことに気づかない様子でハウレスはそんなことをブツブツと呟いていた。
「……ハウレス?」
私が声を掛けると、ハウレスはようやくこちらに気づいたようで急いで頬をこすった。泣いていたようだ。
「申し訳ございません、主様……」
そうは言うのに、ハウレスの涙は止まらなかった。
「何があったの? 話してくれる?」
私が聞くと、ハウレスはおずおずと、心中を言葉にした。
「実は……トリシアが亡くなった日のことを鮮明に思い出してしまって……情けないですよね。もう随分昔のことなのに……」
「ううん」
そんなことない。私は首を振ってハウレスの腕に軽く触れた。それから落ち着いた方がいいと、そこにある椅子に座ってもらうことにした。
「すみません、主様……」
ハウレスはずっと謝ってばかりだった。
「謝らなくていいの、ハウレス」私もハウレスのそばでもう一つの椅子に腰を下ろした。「悲しくなるってことは、愛情があるってことだから。涙が出るのは、ハウレスが優しいからだよ」
何百年も妹のことを思い続けている。悪魔執事たちの悲しき運命の中、昔のことを忘れないでいることはきっと辛いことだけど、それは同時に、ハウレスの深い愛情を指しているのだと私は思った。
「ありがとうございます、主様」
私はハウレスが落ち着くまで背中をさすってあげた。保育園でも、子どもが酷くギャン泣きすることがある。それは、初めて親が保育園に子どもを預けに来る瞬間だ。子どもは親に置いていかれると心配や不安を感じて大泣きするが、それはしっかりと親に愛情を注がれて育てられているからだ。落ち着いている子どもももちろんいるが、泣くことが悪いことだとは、私は思ってもいなかった。 ハウレスの辛い過去を、保育園に初めて来る子どもと同じ気持ちと比べるものではないだろうが、私にとってはどちらも大事なものだと思っているのだ。
「主様といたら、だんだん落ち着いてきました」
やがてハウレスは落ち着いてきて、涙も止まり始めた。私は安堵しながら微笑んでみせる。
「泣くのを我慢しなくて大丈夫だからね?」
そう私が言う頃には、ハウレスはニコリと笑みを浮かべてくれていた。
「はい。しかし、もう大丈夫です」そしてハウレスは立ち上がった。「これからは俺が主様を支える番です。俺に出来ることがあれば、なんでも言って下さい」
「ありがとう」
でも無理はしなくていいんだからね、と私が言っても、ハウレスは大丈夫と言わんばかりに微笑むばかりだった。
「主様は優しいです。俺よりずっと」
またまた、そんなこと言って。
「ハウレスが優しいからだよ」
私は首を振ったが、ハウレスはクスリと笑うだけだ。
「ところで、お食事は済ませましたか? ロノが、主様の分も作っていたはずです」
「あ、そうだった! 私、お昼まだで……残り物とかあるかな?」
「厨房に行って確認してきますね」
「うん、ありがとう」
泣いてたばかりの人に仕事をさせるのも気が引けたが、一旦私から離れることで気持ちがより落ち着くかもしれないと思い、私はハウレスに確認に行かせることにした。
(ハウレスも、ここにいる執事たち全員も、どうかどうか、少しでも幸せで過ごせますように……)
私はハウレスの背中を見送りながら、そう願うのだった。
別日。
「あ、おかえりなさい、主様!」
「ただいま、テディ」
デビルズパレスに帰ってくると、その日の担当執事であるテディが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、主様」
テディのそばにはフェネスがいて、どうやら彼らは先程まで、談笑していたのだろうことが伺えた。
「二人の会話を邪魔しちゃったみたいで、ごめんね?」
指輪をはめてこちらの世界に来るのはいいが、場所だけでなく、タイミングまでも計れないのは残念なところであった。
「いえいえ、そんなことないですよ!」とテディは明るく笑った。「今さっき、フェネスさんから豆知識を教えてもらっていたんです!」
「へぇ、どんな?」
ここの執事たちは、時折私に便利な豆知識を教えてくれることがあった。季節も日本と同じなので、旬な野菜とかも教えてくれたりするのだ。
「それが、泣くことはストレス発散になるみたいで」とテディはノートを取り出す。「感動的なお話を読んで思いっきり泣くと、ストレス発散するらしいです!」
「泣くとストレス発散に?」
「そうみたいです! なので、今フェネスさんに、泣けるオススメの本を聞いていたんですよ」
とテディが言うと、後ろでフェネスがはにかんだ笑みを見せた。
「良かったら主様も、本を読んでみませんか?」
俺が勧める本に興味ないかもしれませんが、とやはり自信なさげな発言をしながらも、フェネスは私にそう提案してくれた。
「ストレス発散か……」
私の脳裏には、あの日涙を流していたハウレスの顔が浮かんでいた。悲しいことを思い出すのは、辛いことかもしれない。だけどいつも頑張っているハウレスが、唯一泣ける瞬間がアレなのだとすると、やはり泣くのは悪いことじゃないように思えていたのだ。
「……主様?」
私が黙り込んだからだろう。テディもフェネスも、不思議そうにこちらを見つめていた。
「う、ううん、なんでもないの。……私も、フェネスのオススメの本、読んでみたいな」
私はそう言ってフェネスからオススメの本を聞くことにした。この本が本当に泣けるお話で、私も久々に思い切り泣いた気がする。これも、ストレス発散になるといいな。
おしまい