ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ボスキと体調不良

 

「う〜ん……」

 

 最近暑くて寝苦しい夜が続いていた。だがその日は、ますます体調が酷かった。

 

(もう朝……?)

 

 うっすらと目を開けると、自分のよく見慣れた部屋。昨夜はデビルズパレスからこっちに戻って来てから寝たんだっけ、と思い出すも体が起き上がらない。

 

(体が重い……)

 

 腕や足も怠い。頭も痛い。確か今日は仕事があるはず、と時計を見やると起床時間の十分前。もう少し寝たいと思うものの、眠いのに寝られないという謎矛盾に翻弄され、仕方なく起きることにした。

 

 ふらっ……。

 

「わっ」

 

 なんとかベットから起き上がるも、突然の目眩にふらついた。さすがにおかしいと、私はフラフラしながら体温計を手に取った。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ピピッ。

 

 私は脇に挟んだ体温計を見た。

 

「……」

 

 40.1℃。

 

 それは、私の体温が高いことを示した。

 

「ヤバ」

 

 私は慌ててスマホを手に取り、時間を確認する。園長先生は早起きだから、この時間なら起きているかも、と電話を掛けた。やはり園長先生はすぐに出てくれた。

 

「はい……体温が四十度越えで……」

 

 私は園長先生に熱があること、病院に行くことを約束し、今日の仕事を急遽休むことに。とはいっても、病院はまだ開いていない。なら今出来ることを……となんとかリビングまで行ってハッとする。

 

(デビルズパレスの人たちにも報告しないとな……)

 

 リビングに置いてある棚には、デビルズパレスへ行くための指輪を仕舞っている小物入れが置いてあった。ただ、熱が出たとか話すと看病するとか言い出しそうなんだよな、と私は執事たちを思い描く。この体調不良のまま向こうに行ったらみんなに風邪を移してしまいそう。それに、風邪じゃなくて別の感染しやすい病気だったら……と思うと、気が重くなる。

 

(……でも、いつもお世話になってるし、何も言わずに一日中向こうに行かないのも心配されそう)

 

 ポンコツな私でも、毎日デビルズパレスに帰ってはいたのだ。朝は行けないことも多いが、夜や夕方は向こうで過ごすことも多い。

 

(やっぱり、報告に行こう)

 

 せめてデビルズパレスと繋がる電話さえあればと思うが、ないものは仕方がない。

 

「ゴホッゴホッ……」

 

 マズイ。咳も出てきた。

 

(市販の風邪薬は……あー、切らしていたんだった)

 

 私のバカ、と思いながらも、薬局もこの時間は開いていないので仕方ない。

 

(デビルズパレスに行って、すぐこっちに戻って来よう。そして病院に行って……よし、大丈夫)

 

 体調不良で思考が覚束ないまま、私は指輪をはめた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んごっ……?」

 

 指輪をはめた途端、妙な音がした。

 

(今度は屋敷のどの辺りに飛ばされたんだろ……)

 

 と私は手探りをしながら体を起こそうとした。

 

(なんか……硬い?)

 

 床ではない硬さに手が触れてゆっくり体を起こすと……間もなく私の目に青い服と髪の毛が見えてきた。

 

「へっ?!」

 

 私は飛び上がった。しかし、何かに掴まれてそこから離れることは出来なかった。私は指輪をはめた途端、誰かの体の上に落ちてきたのだ。(落ちてきた、という表現が正しいのかどうか分からないが……)。

 

「おはよう、主様。随分手荒な起こし方だな?」

 

(この声は……)

 

「ボ、ボスナ……?」

 

「違ーよ、ボスキだ」

 

 ボスキだ。寄りにもよって寝ていたボスキの体の上に落ちてきたらしい。

 

「ご、ごめん、ボスキ! 今避けるね……」

 

 と避けようとしたが、ぐいっと引っ張られて私はボスキの胸の中にダイブした。

 

「いきなり体の上に乗ってきて、逃げられると思うなよ?」

 

 すぐ頭上ではボスキの渋い声が降り掛かる。マズイ。怒っているのではないか。私は男性の体にくっついているという羞恥心と怒られたという恐怖心とこのままでは病気を移してしまうという焦燥感と回らない思考回路で激しい動悸に襲われていた。

 

「ご、ごめ……ゴホッゴホッ」

 

 慌てていたため、私は口元を抑える余裕もないままボスキの胸に咳を掛けてしまった。ごめん、ごめん……と咳が掛かったボスキの胸を手で拭うものの多分無意味だ。

 

「主様……風邪引いてるのか?」

 

 しかしボスキは、私の焦燥とは真逆で落ち着いているどころか心配をされてしまった。腰に回されていたボスキの腕の力も弱まる。早く要件を伝えて元の世界に戻ろう、と思うものの、タイミング悪くまた咳が出て私は言葉が出てこなかった。

 

「体調悪いなら先に言えよ。ルカスさん起きてっかな……よし、しっかり掴まってろよ、主様」

 

「えっ」

 

 私はボスキに言葉を返す余裕もないまま、ひょいっと持ち上げられていた。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。今の時間帯は朝で、周りには誰もいない庭だが……というかボスキは朝からこんなところでサボっていたのか?……ボスキに抱えられているという事実がもう恥ずかしかった。

 

「だ、大丈夫だから! 私一人で歩けるから!」

 

 と私は暴れてみるも、ボスキの逞しい腕はビクともしない。

 

「そんな火照った体で何が大丈夫なんだよ。いいから大人しくしてろ」

 

 そうボスキに言われ、もしかして私、今顔が赤いのだろうかと思うとますます恥ずかしくなって。とはいえボスキから逃れられるはずもなく、私は大人しくするしかなかった。

 

「おやおや? 朝からロマンチックな登場だね」

 

 屋敷には、丁度医療室にいたルカスがそう言ってきて更に恥ずかしかったが、体調が悪いのは本当なので静かに診察を受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は部屋で大人しくしてろよ」

 

 とボスキが見守る中、私は自室のベットで横になっている。私の病状は、ルカスいわく風邪らしく、熱も出ているので解熱剤だけ渡されてボスキに寝かされたところである。

 

「食欲はあるみてーだから安心したが」

 

 とボスキが言うように、その後ロノに体調不良でも食べやすい温かく柔らかいご飯を作ってもらい、私はそれらをペロリと平らげたのである。食欲はあって良かった。まぁ、多分デビルズパレスに来なければ、作るのも面倒で食べなかった説もあるのでそれは有難いんだけど……。

 

「みんなに迷惑掛けちゃって、申し訳ないな……」

 

 こうなることは想像ついたのに、いきなり指輪を外して元の世界に戻ることも出来ないまま、私は屋敷のみんなに面倒を掛けてしまった。

 

「誰も迷惑だとは思ってねーよ」

 

 今は余計なこと考えずに寝てろ、と私の額に乗せてある冷たいタオルを取り替えるボスキ。彼はこんなにも口が悪くぶっきらぼうだが、そういう気遣い上手なところ、尊敬するなと思う。

 

「でも、庭でサボっていたんでしょ?」

 

 と私が言うと、ボスキはニヤリと笑った。

 

「朝からハウレスが鍛錬だと言うからな、主様が来てサボる理由が出来て良かったわ」

 

 どうやらサボっていたことは否定しないらしい。

 

「ふふ、ボスキは優しいのね……」

 

 それを私はボスキの優しさとして受け取って目を閉じた。すると途端に眠気に襲われて、私の体調は思っていた以上に酷いらしいと自覚し始めた。

 

「ゆっくり休めよ。主様は無理をするところがあるからな」

 

 そんなボスキの低く穏やかな声を聞きながら、私は眠りについた。眠りにつく直前、額にタオルとは違う何かが触れた気もしたが、それがなんなのかは私は分からなかった。

 

 翌朝、みんなのお世話のおかげかすっかり元気になったのは、語るまでもないだろう。

 

 おしまい

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