ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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この前復刻イベントとして開催していた「執事と合宿と夏祭り」で、あくねこを開く度に花火の音が聞こえたことから発想を得たもの

主様のハルが心を病んでいます

モブ子ども登場します

なんでも大丈夫な方、閲覧どうぞ












ロノと花火

 

 私は保育園での仕事が終わると、近くのバス停で夜遅くまで走っているバスに乗って帰宅をする。

 

 それから自宅近くのバス停で降りると、自宅まで徒歩で向かう。大した距離ではないが、時間によっては暗いので辺りを警戒しながら歩く癖が私にある。そして、途中にある誰もいない公園を横目に帰宅するのだが。

 

 ギィ……。

 

(今、ブランコが揺れたよね……?)

 

 この時間はもう子どもは公園にはいないはず。しかし私は職業柄、なんらかの理由で帰れなくなった子どもがいるのではないか、と心配になって公園に近づいたのだ。

 

「うぐっ、ひぐっ……」

 

(やっぱり子どもがいる……!)

 

 私の予想通り、ブランコには子どもが座っていたのだ。しかも何度も瞼をこすって、泣いている様子だ。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 たまらず私が声を掛けると、子どもはビックリしたように動きを止めてこちらをじっと見据えた。私は敵意はないと両手を前に振りながら、これ以上は近づかないよと安心させたくてその場に立った。

 

「ごめんね、いきなり。私、近くに住んでるの」

 

 私は話し出しながら子どもをよく観察してみる。見る限り小学一、ニ年生くらいの子どもだった。怪我をしている様子もない。

 

「私は、七崎ハル。君の名前を聞いてもいいかな?」

 

「……」

 

 しかし子どもは答えず俯いた。ただの勘なのだが、何か嫌な訳あり感があった。

 

「じゃあ、名前はいいよ。さっき、泣いてたみたいだから心配になって……何かあったの?」

 

 泣いている子どもを、放って置けなかったのだ。

 

「……ボクは、いらない子なんだ」

 

 子どもがようやく発した言葉に、私はドキリとした。こんな小さな子どもに、そんなことを言わせる大人がどんな人物なのか、私には容易に想像出来たからだ。

 

(……明らかに虐待されそうな子どもを預かったこともある。あの子は日に日にアザが増えたから気づいたけど……)

 

 警察に通報はしたけど、その時預かった子どもはもう二度と私が働く保育園に姿を見せなかった。

 

(でも、この子は……?)

 

 パッと見怪我はしていなさそうだし、たまたま保護者がイライラしていて外に追い出しちゃっただけなのかもしれない。子どもは言うこと聞かないこともあって腹が立つこともあるし、親の気持ちも分かる。

 

(だけど、追い出された子どもの気持ちは……?)

 

「お姉さん、警察の人?」

 

「え……ううん、違うけど……」

 

 子どもが質問してきたことに正直に答えたが、私の中では更なることが分かり始めていた。子どもがそう聞くということは、よく警察にお世話になってるってことなんじゃないか、と。

 

「そうなんだ。……じゃあ、ボクのことは放って置いて大丈夫」

 

 明らかに放って置いて大丈夫ではない低く沈んだ声。

 

(だけど、私にはこれ以上何も出来ないんだ……)

 

 何かあったかな、と私はポケットに手を突っ込み、フルーレからもらったハンカチがあったのだと気づく。私はハンカチを取り出し、ブランコのそばにある柵に掛けた。

 

「良かったら、涙拭いてね? ここにハンカチ置いていくから」

 

 子どもからの反応は何もなかった。ただ、ハンカチを見つめていたのだと思う。

 

「じゃあね」

 

 私はゆっくりと後ずさり、このまま子どもを一人にしていいのかな、と不安に思いながら公園を後にした。公園が見えなくなったところで私はスマホを手に取り、警察に通報。暗い時間に子どもが一人でいる、と伝えたが自分の名前は名乗れないまま電話を切ってしまい、逃げるようにデビルズパレスに帰っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、主様!」

 

 デビルズパレスで出迎えてくれたのは、明るい笑顔がよく似合うロノだった。

 

「ただいま……」

 

 私は全身から力が抜ける思いで崩れるようにその場に座り込んだ。最近、強化訓練で東の大地にやって来ている私たちは、和風な宿で泊まっていて部屋が畳だったのだ。窓辺では風鈴がカラカラと音を鳴らしている。

 

「お疲れですか、主様? 今から飯でもいいですけど、先に風呂にします?」

 

 どっちも準備出来てますよ、といって早速世話をしようとしてくれるロノに、私は何か答えようとした。答えようとしているのに、あの静かな公園のブランコで、一人でいた子どもが思い浮かんで言葉が詰まった。

 

「……主様?」

 

 私が黙り込んでいるからだろう。ロノが不思議そうな顔をして私にその明るい空色みたいな瞳を向けてきた。ロノの瞳はよく晴れた空の色みたいで、とても綺麗だ。

 

「ロノ……」

 

 名前を呼んだ瞬間、ポロリと涙が零れた。あ、マズイと思ったが、顔を覗き込んでいるロノが、私の涙に気づかない訳がなかった。

 

「え、どうしたんですかっ?! どこか痛むんですか?? それとも腹でも減りました??」

 

 ロノは分かりやすく慌て、こういう時どうしたらいいんだと部屋をあちこちと歩き回った。私は大丈夫と言いたかったが、公園にいたあの子どものことをより鮮明に思い出し、何も出来なかった自分に対する無力感や正しいことをしたのか分からない複雑感に苛まれ、涙はどんどんと溢れる一方だった。

 

「と、とにかくこれで涙を拭いて下さいっ」

 

 ようやくロノはペーパーを見つけて私に渡してくれた。私はそれを受け取って涙を拭いたが、ちゃんとありがとうと言えたかどうかはハッキリしなかった。

 

「んー、何があったか分かりませんが……」ロノが話し始める。「主様は今日も頑張ったってことですよ! お疲れ様でした! 良かったら、オレに話して下さい。あ、オレに話しづらかったらベリアンさんとかフェネスさんでも……」

 

「ううん」私は首を振った。「ロノの笑った顔を見たら、なんか泣けてきちゃって」

 

 ロノの笑顔は、本当に元気を貰うから。

 

「えっ、そうなんですか……?」

 

 とロノは答えてはいるが、それがなぜ泣くことになったのか、と疑問に思っていそうだった。

 

「ごめん、ロノのせいじゃないの……」

 

 私は落ち着きを取り戻しながら涙を拭いた。見上げると眉が吊り下がったロノの顔がそこにある。

 

(そんな顔させたくなかったのに……)

 

 と私が思わずロノの頬に触れると、明るい空色の瞳が何度も瞬いた。

 

「主様?」

 

「ご、ごめんっ」

 

 私は何をしているんだろうと急いで手を引っ込めた。

 

(温かい……)

 

 手にロノの体温が残ってる。

 

「あのね……」

 

 私は深呼吸をし、先程公園で見掛けた子どもの話をした。こっちの世界とは色々と違うこともあるだろうからと、だいぶ噛み砕いて説明している間、ロノは目を見開いたり何度も頷いたり、考え込むように腕を組んだりして様々な表情や仕草をしながら最後まで聞いてくれた。

 

「だから、私がしたことって本当に正しかったのかなって、不安に思っちゃって」

 

 もっと声を掛けていたら良かったのでは、とか警察が来るまで一緒に待っていたら良かったのかも、とか。色々考えるとまた苦しくなってきた。あーあ、私ってこんなに何も出来ないんだと嫌という程実感してしまう。

 

「ん〜、何が正しいかなんて、オレには全然分からないんですけど」俯いた私に、ロノは話し続けた。「その、主様の世界で言うケーサツってのは、憲兵みたいなもんですよね? だったらきっと、そのケーサツがなんとかしてくれてますよ!」

 

 そしてロノは、明るくニカッと笑うのだ。

 

「そう、だよね……」

 

 私はまたボロボロと涙を流してしまいながら頷いた。分かってる。本当は安心したかったってだけ。自分の無力さを呪って、自分は正しいことをしたのだと納得したかっただけなのだ。

 

「主様からそういう話が聞けて、オレちょっと安心しました」

 

「え……?」

 

 予想外の言葉に、私はまだ涙が止まらないままロノを見つめた。ロノは考え込みながら、ゆっくりと話してくれた。

 

「主様は、いつもオレたちや人類のために頑張ってくれているじゃないですか。主様の世界でも頑張っているのに、その……全然弱音とか言わないから、ちょっと心配してたんですよ」それからロノが、私と目を合わせた。「オレたちに合わせて無理してるんじゃないかって思ってて。この前だって、苦手な食べ物も黙ってたじゃないですか」

 

「そ、それは……」

 

 だけどロノは、鼻の下をこすりながら笑った。

 

「へへっ、いいんですいいんです! オレはまた、主様の長所を知れましたから!」

 

「私の……長所?」

 

 ロノの話を聞いている内に、私の涙は自然と乾いていた。

 

「はい!」ロノはニコリと笑った。「知らない子どものことを気掛かりに思ってる主様は、優しくて素敵ってことですよ! きっとその子どもも、今は分かんなくても、あとで主様に出会えたことに感謝してますよ!」

 

「ロノ……」

 

 私はロノの境遇のことを思い、今も恵まれない子どもたちのために活動していることを思い出す。そうだ、ロノとはそういう人物なのだ。

 

「ありがとう……」

 

「へへっ、思ったことしか言ってないんですけど、主様に感謝されると嬉しいです!」

 

 ロノはそう言って、心から嬉しそうに笑っていた。

 

 ヒュ〜……ドーン!

 

 ドドン!

 

 その時、開けっ放しの窓からそんな音が聞こえてきて私は空を見上げた。夜空には、いくつも花火が上がっている。

 

「あ、そうだ! 今近くの夏祭りで花火をあげているらしいんです! もう少しこっちで一緒に見てみませんか?」

 

 そうして窓辺でこちらを振り向くロノは、楽しげだった。

 

「うん、一緒に見よう」

 

 私は立ち上がり、ロノと一緒にバルコニーへ出た。

 

「あ、赤い花火があがりましたよ!」

 

 花火があがる度、そう言うロノの顔が眩しい。私は、夜空の花火へ視線を戻す。

 

「次は黄色い花火だね」

 

 私も花火を眺めながらそう言ってみると、ただそれだけなのに楽しくなってきた気がした。花火って不思議だな。それとも、ロノがいるから楽しく感じるのかな。

 

 私は、あの時公園で見掛けた子どもが、どこかで無邪気に花火で遊べますようにと、祈った。

 

 おしまい

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 あとがき

「執事と合宿と夏祭り」のイベント中、疲れた夜にあくねこを開くと花火の音が聞こえるのが癒しでした。どうやら私は、花火の音が好きみたいです。まるで、祖父母宅に遊びに来たようなリラックス効果があったのかもしれません

ある日仕事で少し心が病んだ時、たまたま担当執事にしていたロノの笑顔に更に癒されて。笑顔って画面越しでも元気を貰うのですね。本当にこのあくねこの執事たちは癒しを提供してくれているとは……

そんな個人的な感情を乗せながらの執筆でした。如何だったでしょうか。あ、文句なら受け付けられませんよ。まだ全然信頼度進んでないので解釈不一致があるかもしれませんが

ここまで読んで下さりありがとうございます。また次も読んで下さると幸いです
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