ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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バスティンの過去ネタバレ、親密度レベル上昇時に見られる会話から発想を得たのでそのネタバレも含むと思います

解釈不一致が生じる可能性大

なんでも大丈夫な方だけどうぞ














バスティンが泣いた日

 

 

 

「ただいま〜」

 

 ある日のデビルズパレス。自室に帰ってくると、今日の担当執事であるバスティンがそこで立っていた。

 

「……っ」

 

 だけど様子がおかしい。ずっと窓の方見て背中を向けたままだし。私はバスティンの横に並んで顔を覗き込もうとした。

 

「バスティン?」

 

「……っ?! 主様!!」

 

 私が声を掛けると、珍しく酷く驚いて後ずさったバスティン。いつもなら気配で気づかれるというのに。

 

「帰っていたんだな。おかえりなさい、主様」

 

 とバスティンはいつものように出迎えているつもりだろうが、表情は暗く、胸に当てた手は震えている。

 

「ただいま……」私はこのまま、バスティンから離れる訳にはいかないと思った。「何かあった? 話なら聞くよ?」

 

「え」

 

 バスティンは焦ったように瞬きをした。するとその赤紫色の瞳から一粒涙が零れてきて私は驚いた。

 

「バスティン、涙が……」

 

 ハンカチを持っていたのに、私はつい涙を素手で拭いてしまった。バスティンの頬に広がって崩れた涙が、一瞬でも綺麗と思った私はきっとおかしい。

 

「主様……」

 

 するとバスティンはほとんど表情を変えないまま私の手に自分の手を重ねた。今度は私が焦る番となったが、バスティンは落ち着いた様子で笑みを浮かべながら微笑んだ。

 

「主様の手、温かいな」

 

 そう言ってバスティンが目を伏せると、本当に綺麗な涙の大粒がいくつもいくつも溢れて、私はしばらくこうしていようと思った。バスティンの頬にある私の手も涙で濡れていったが、不快ではなかった。

 

「実は、さっき夢を見たんだ」バスティンがポツリポツリと話してくれた。「ジェシカとの楽しい思い出だった。目が覚めると寂しくなってしまって、ボーッとしてしまったようだ」

 

「そうだったんだね……」

 

 私は相槌を打ちながら、バスティンの涙が綺麗だと思うのは勘違いではなかったと分かった。それは友を思っての涙だったのだ。きっと、大切な涙。宝石よりも美しい涙だ。

 

「主様の顔を見ていたら落ち着いてきた。もう大丈夫だ」

 

 しばらくするとバスティンはそう言い、私の手を握ってゆっくり下ろした。バスティンの涙は乾き、いつもの穏やか笑みになっている。

 

「すまない、主様。手が濡れてしまったな」とバスティンは自分のハンカチを取り出した。「今すぐ拭くからな。少しじっとしていてくれ」

 

「じ、自分で拭くから大丈夫だよ……」

 

 今更ながらこの美男子に至近距離で手を拭いてもらう状況が恥ずかしくなってきた私だが、バスティンは笑顔を返すだけだ。

 

「俺が拭きたいんだ。……それとも、俺じゃ嫌なのか?」

 

 バスティンが覗き込むようにこちらを見つめてくる。バスティンの周りにだけ、キラキラエフェクトがあるみたいに美しい。

 

「嫌じゃない……けど……」

 

「分かった。なら拭くからな」

 

 私が恥ずかしがってることを気にもせず、バスティンは手を丁寧に拭いてくれた。バスティンの骨ばった逞しい指先と手がハンカチ越しで触れ合うことにちょっと緊張したりして。

 

(でもまぁ……今日は好きにさせてあげよう)

 

 バスティンの気持ちが落ち着くならと、私はバスティンにしばらく手を拭かれることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーデビルズパレス、裏庭ー

 

「ってことがあって、あなたのお友達にドキドキさせられっぱなしなのよ」

 

 数日後。私はジェシカの墓の前で、バスティンの話を聞かせていた。

 

「でも、あなたのお友達はとても優しくていい人で……本当にいつも助けてもらっているの」私は手元の花束をジェシカの墓に手向けた。「私の好きな花でごめんね。私、ハルって名前だし、春の花が好きで……フリンジ咲きはこっちでは珍しいかな? 私の世界から持ってきた花なんだけど、気に入ってくれると嬉しいな」

 

「主様」

 

「わ、バスティン?!」

 

 タイミングがいいのか悪いのか、バスティンがそこに立っていた。

 

「驚かせてすまない、主様。いつ声を掛けたらいいか分からなくてな……」

 

 とバスティンは気まずそうに赤紫色の瞳を向こうに逸らす。

 

「ってことは、最初から聞かれてた……?」

 

「ああ。ドキドキさせられっぱなしってところから」

 

「もうほとんど聞かれてたじゃん……」

 

「ジェシカに何話していたんだ? 俺は聞いてはいけないだろうか?」

 

「もお、そーゆーところだから!」

 

「……?」

 

 何か悪いことでも言っただろうか、みたいな顔で私を見つめるバスティン。何も悪いことなんて言ってない。だけどそれがまた心臓に悪い。顔もいいし目も綺麗だしそれにそれに……。

 

「ジェシカに花を供えてくれたんだな。ありがとう、主様」

 

 しかし私の心中を全く気にする様子なく、バスティンは墓の前の花を見て会釈をする。バスティンが胸に当てている手を見ると、私その手で涙を拭いてもらったんだよな、とか余計なことを思い出してしまって色々しんどい。

 

「た、たまたま花屋さんの前通ったら、急にこのお墓のことを思い出してさ……」私は慌ててバスティンから目を逸らしながら花の話に集中しようとした。「今の時期とは全然違う花だけど、春の花が偶然売ってて、ついチューリップを……」

 

「ジェシカのために、ありがとう、主様」

 

 と言ったバスティンはいつの間にか私の隣に並んで立っていた。美男子が隣にいると、つい目を逸らしてしまう。

 

「赤と白のチューリップ……?」

 

 バスティンは墓の前にしゃがみ、私が墓に手向けたチューリップを眺めた。こっちの世界では珍しいだろうか? 二色あるチューリップは。

 

「そうなの、珍しいよね……変、かな?」

 

「いや、そんなことはない」バスティンが優しく微笑んだ。「ジェシカによく似合う花だ。アイツにも主様の話を沢山してあげたかったな」

 

 と悲しげに言うバスティンに、私はその場にしゃがんだ。

 

「今からでもいっぱい話そ? きっと聞いてくれてるから!」

 

 私は、お墓の前で話すことが無駄じゃないと思ってる。

 

「主様……」

 

 とバスティンに見つめ返されて私はハッとした。

 

「ご、ごめん! ちょっと近かったよね!」

 

 あまり暗い気持ちになって欲しくないと必死になってしまい、バスティンに顔を近づけ過ぎたみたいだ。

 

「大丈夫だ、主様」だけどバスティンはそんなことを気にする執事ではなかった。「今からジェシカに紹介しよう。……ジェシカ、ここにいるのは俺たちの主様、ハルだ」

 

 名前を、呼ばれた……。

 

「主様は優しい人でな、この前なんか……主様?」

 

「あ、ううん! なんでもないの!」

 

 名前を呼ばれることがこんなに嬉しいなんて、思っていなかったな。

 

「そうか。……そうだ、エスポワールに行った時の話をしよう」

 

 とバスティンがジェシカに話し掛け続けるのを見守りながら、私は彼がもっと幸せになれますように、と願うのだった。

 

 おしまい

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