ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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アモンと唐紅

 

「う〜ん……」

 

 ある日のデビルズパレス。私は自分の世界からタブレットを持ち出し、作業をしていた。

 

「主様、何を悩んでるんすか?」

 

 今日の担当執事であるアモンと一緒に。

 

「アモンの似顔絵をもう一度描こうと思ってて」

 

 と私はアモンに答えながらタブレットを持ち上げた。悩んでいるのは、アモンの瞳の色である。アモンは薔薇みたいに真っ赤な瞳をしているが、それを絵に落とし込むのが非常に難しかったのだ。

 

「え、またオレの似顔絵を描こうとしてくれてるんすか?」

 

 アモンはタブレットの向こうで驚いた顔を見せる。そうそう、もうちょっとその赤い瞳を眺めさせて欲しいんだけど……。

 

「そうなの。アモンの瞳の色に納得してなくて……」

 

 私はタブレットとアモンを交互に見つめる。私は絵師ではないが、アモンのその瞳の色のことが知りたくて色々と調べた。それによると、色というのはデジタルの世界では数字化されていて、それぞれカラーコードを入力するとお望みの色が出せるらしいのだ。

 

「オレの瞳、そんなに珍しい色してるっすかね?」

 

 アモンが不思議そうな顔をして問いかけてくる。私は話しかけられてもスムーズに作業が進められるタイプであった。それはもう、この屋敷の執事たちみんなが知っていることだが、ラムリの似顔絵を描くのはちょっと大変だったっけ。

 

「私も知らなかったんだけど、赤色にも色んな種類の赤があるみたいで。赤色、朱色、茜色……あ、薔薇色ってのもあるんだよ」

 

「なるほどっすね〜」その時、アモンがチラリと横を向いた。「あ、もう少しで三十分に……」

 

「待って、アモン! まだこっち向いてて……」

 

 時間経過を教えようとしていたアモンに、絵描きに集中していた私はつい行き過ぎた行動をしてしまった。アモンの顔に触れようとしてしまったのだ。

 

「おっ……と、危ないっすよ、主様?」

 

 反射のいいアモンに易々とかわされてしまったが。

 

「ごめんごめん、ビックリさせたよね……」

 

 この時は大して気にはしていなかったのだ。

 

「ほんと、ビックリさせるのが上手っすね〜、主様」

 

 アモンは舌ピをチラつかせながらそう言った。その時は、もう三十分も作業をしたからということでアモンの瞳の色の問題は解決せずに別日に考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔と契約した執事たちは、その代償として心身共に負担が掛かっていた。しかし、その兆候が出た時、私が執事たちの体に触れることで軽減することが出来た。

 

「ふぅ……ありがとうございます、主様」

 

 女性が苦手というハウレスも、私に慣れたのか触れても照れたりしなくなっていた。ハウレスは背が高いので大体背中をさすったりしてあげるのだが、人に寄っては頭を撫でたり腕に触れたりしていた。

 

「力になれて良かった」

 

 と私は答えながらも、頭の中にはアモンの瞳の色について悩んでいた。

 

「主様……? ご気分が優れないのですか?」

 

 浮かない顔でもしていたのだろう。ハウレスが心配そうに顔を覗き込んできた。

 

「あ、ううん、ちょっとした悩みがあって……」

 

 と言って私はハウレスの瞳をじっと見つめる。ハウレスの瞳は透き通った赤い色をしている。それはアモンとは違う赤色な気がしていた。

 

「アモンの瞳の色で悩んでて……」

 

「アモンの瞳の色……?」

 

「うん。前に描いたアモンの似顔絵が気に入らなくて、もう一回描こうと思ってるんだけど……」

 

 と答えながら私はアモンの顔を頭の中で思い浮かべた。アモンのあの美しい瞳は、なんて名前の色なのだろうか。

 

「俺は、絵に関してはあまり知識がありませんが……もう一枚の似顔絵が出来ると知ったら、アモンが喜びそうですね」

 

 とハウレスは言ったが、その時顔に触ろうとして避けられたアモンのことを思い出し、喜んでくれるのかな、と急に不安になってきた。

 

「喜んでくれるといいんだけど……」

 

「喜んでくれますよ。俺たちは主様のことを慕っていますから」

 

 ハウレスは励ますように微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主様、庭を眺めていらっしゃるのですか?」

 

 また更に数日後。私が屋敷の窓から庭を眺めていると、ベリアンが声を掛けてきた。

 

「ベリアン、こんにちは」

 

「こんにちは、主様」

 

 私は挨拶をし、庭へと視線を戻した。庭には、花に水やりをしているアモンが見える。

 

「私、ちょっと悩んでてさ」

 

「悩み事……ですか」

 

「うん。大したことないんだけど……」

 

 とアモンの似顔絵の話をしようとした時、アモンが急にその場に座り込んでハッとした。

 

「どうしました? 主様……」

 

「庭にいるアモンが急に座り込んで……」

 

「何かあったのでしょうか? 見に行ってみます」

 

「私もついて行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……く……」

 

 庭に駆けつけると、苦しそうなアモンが地面に座り込んでいた。アモンの体は黒いモヤなようなもので包まれている。悪魔化の兆候だ、と私はすぐに分かった。

 

「アモン……!」

 

 私がこの屋敷で主様と呼ばれている理由……はよく分からないこともあるけど、このポンコツな自分にも出来ることが一つあった。それが、悪魔化し始める執事たちの体を触れることで、浄化することだ。

 

「すぐになんとかするからね……!」

 

 私は急いでアモンの元に駆けつける。悪魔化しかけているからか、私には気づいていないみたいだ。

 

「大丈夫だからね……」

 

 私はアモンの頭を撫でた。少し癖毛のある髪は、毛先だけ赤いグラデーションがある美しい白い髪をしていた。私は彼の髪の毛が好きだ。何より背丈が近いからすぐ頭も撫でられるし……って最近こうして頭を撫でるのも久々のような。

 

「主様?」

 

 ふっとアモンの赤い瞳と目が合った。どうやら黒いモヤは消えていて、悪魔化は浄化出来たようだ。

 

「大丈夫? アモン……」

 

 私はアモンの髪の毛を指で梳きながら問い掛ける。すると徐々にアモンの顔が赤らんできた。

 

「あ、主様……!」それから素早く、アモンが私から離れた。「ああ、もう……こういうことになるから主様に頭撫でられないようにしていたのに……これじゃあ……」

 

「え、私避けられたってこと?」

 

 まさか、アモンは頭を撫でられることが嫌だったのだろうか? と私は不安になってきた。思えばこの前だって、顔に触ろうとして避けられていた。私は今すぐにでも謝ろうとした。

 

「ごめん、アモン、気づかなくて……」

 

「違うんす、主様」アモンは目を見開いた。「むしろその逆っす。主様に頭撫でられていると、もっと撫でられたいとか、もっとずっと一緒にいたいなぁとか、そう思うようになるから我慢してたんすけど……」

 

 と目を逸らしながら話すアモンは、少し照れているように見えた。

 

「アモン、それって……」

 

「アモンくん、それは執事としてどうなんでしょう?」

 

 私が言いかけたところにベリアンが後ろから近づいてきた。

 

「げっ、ベリアンさんと一緒だったんすか」アモンは途端に気まずそうな顔をする。「えっと、よ、用事を思い出したっす! ここで失礼するっす、ベリアンさん、主様!」

 

 そうしてアモンは逃げるようにその場から立ち去った。私はベリアンを見やる。ベリアンは穏やかに、少しイタズラっぽい顔で微笑んでいるだけだった。

 

「フフ、少々意地悪な言い方をしてしまったでしょうか」

 

 なんて言って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしそれからというものの、アモンは再び、頭を撫でさせてもらえるようになっていた。ただちょっと、頭を撫でると嬉しそうに顔を赤らめるので逆に私が恥ずかしくなってしまうのだが……。

 

「主様は本当、オレの頭を撫でるの好きっすね〜」

 

 ある日のデビルズパレス。アモンを担当執事にして作業をしている私に突然そう話し掛けてきたのだ。

 

「改めて言葉にして言われるとなんだか恥ずかしいな……」

 

 と私は言ったが、ここで執事たちと関わる内にどんどんと分かってきたことがある。私はアモンやムーなど、頭や顔を撫でたりすることで自分自身の癒しになっているのだ。

 

「へへっ、オレは事実を述べただけっすけどね〜」

 

 アモンはイタズラっぽく舌を突き出しながら両腕を広げる。今日もアモンは、通常運転だ。

 

「それは……否定出来ないけど……」と答えながらも、いつも一枚上手なアモンに、少しくらい仕返ししたいと私は思った。「そんなこと言ってたら、描き直したアモンの似顔絵見せてあげないからね?」

 

「えっ、マジっすか」

 

 アモンは焦ったような顔になる。これは上手く仕返しが出来たなと私は満足したが、アモンがぐっと距離を近づけてきて詰め寄ってきたのだ。

 

「そんな思ってもいないこと、言ってもいいんですか? 主様?」

 

 その真っ赤な瞳がじっと私を真っ直ぐ見据えるものだから、あ、これはやり過ぎたな、と思った時にはもう遅かった。

 

「ご、ごめん、アモン……」

 

 私が慌てて謝ると、アッハハ! とアモンは笑って距離を離した。冗談だったらしい。いつもの顔に私は安堵する。

 

「あんまり揶揄うとよくないっすよ? 主様」

 

「う、うん、ごめん……」

 

 とはいえちょっと顔を寄せてきたアモンがカッコよかったな、なんて思ってしまう私はきっと変だ。

 

「でもおかげで、悩みが一つ消えたよ」

 

 それと、ふっと思いついたことで悩みも解決しそうだったし。

 

「悩み? なんすか?」

 

「あなたの瞳の色よ」私は作業しているタブレットを掲げた。「ずっと、アモンの瞳の色を言葉にしてみたかったんだけど分からなくて……でもきっと、あなたはこの色がよく似合うと思うな」

 

「……?」

 

 私はきょとんとするアモンの顔の横に自分のタブレットを並べ、カラーパレットを開いた。選ぶ色はアモンの瞳の色──

 

「唐紅色。アモンによく似合ってる」

 

「カラクレナイ……?」

 

 アモンがぱちくりと瞬きをした。

 

「もう少しで完成するから、待っててね」

 

 私はタブレットを膝の上に戻して筆を進める。もう少ししたら、デビルズパレスのギャラリーにまた私の描いた絵が飾られることだろう。

 

 そんなこれからのことを思うだけで、私はどんどんと楽しくなっていた。

 

(喜んでくれるかな? アモン)

 

 私は不思議そうにこちらを見つめるアモンを見つめ返した。

 

 おしまい

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