ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ナックとオッドアイ

 

 ナックと初めて会った時は、沢山の驚きがあったものだった。

 

 まず、彼の瞳が両目共色が違うこと。

 

 そして、一緒に馬車に乗った時の饒舌な言葉がどれも美しかったこと。

 

 世の中にはこんな美しく、丁寧な人がいるんだな、と驚いたのである。

 

 それに私は物書きなので、ナックの言葉遣いから勝手にこう思っていたのだ。

 

(なんか、私と気が合いそうだな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはナックを初めて担当執事にした時にも期待を裏切らなかった。

 

「美しい……」

 

 ナックを担当執事にしたその日、最初に発せられた一言はそれだったのだ。

 

「あ、ありがとう……?」

 

 最初はなんのことだか分からずに困惑しながら私はそう言ったものだけれども、ある程度月日が経った今なら分かる。ナックは常に、誰とでもその美しさや素晴らしさを瞬時に見抜く力があるのだ。

 

「待ちなさい、ラムリ!」

 

 ……ラムリ以外は。

 

 それに、名前を忘れやすい私でも、ナックのことはすぐに覚えられたのも確かだ。最初から覚えた訳ではないのだが、それはナックの口癖のおかげでもあったのだと思う。

 

「このナック、主様のためとあらば」

 

 と自分のことをよく名乗りながら会話をするからだ。

 

 そんなある日、ナックを担当執事にしていた時に、私の興味本位でちょっとしたことを頼んだことがあった。

 

「ねぇ、ナック。こっちに座ってみてくれるかな?」

 

 ぽんぽん、と私は座っている自分のベットを軽く叩いた。ナックはすぐには承諾しなかった。

 

「あ、主様の寝具に腰掛けるなんて、そんな畏れ多いことは……」

 

「んー、だったらソファの方がいい?」

 

 確かに私は寝汗酷いかもなぁと思いながらそう言うと、それでも、執事である自分が主様の隣に座る訳には、と遠慮したものだった。

 

「本当にちょっとだけでいいから! お願い!」

 

 と私が懇願するとナックはようやく折れてくれて。

 

「主様がそこまでおっしゃるなら……」

 

 いつも饒舌に何か語っている時とは違い、緊張気味なナックが私の隣に座る。碧玉色の髪から覗く、片目色違いの瞳がとても綺麗だ。

 

「本当、綺麗……」

 

 この時は気づいていなかったのだが、どうやら私は、ちょっと疲れたりしていると、人の頭を撫でたり頬を触れたりして癒されているらしいのだ。私はナックのオッドアイの瞳に惹かれていた。ほぼ無意識でナックの頬を撫でてしまっていたのだ。

 

「あ、主様……?」

 

 まだそこまで信頼関係が築けていなかった私たちは、ナックの困惑した顔を返されたものである。

 

「あ、ごめん! つい……!」

 

 私は慌てて手を引っ込めた。ナックを隣に座らせたのはそのオッドアイをよく見たいから、だったのだが、その欲望ついでに手が出てしまったらしい。

 

「いえ、大丈夫ですよ。ただ少し、驚きましたが……」

 

 すぐにはいつものナックになって私にウインクをしてくれた。私はこの時は知らなかったのだ。ナックの、片目色違いが何を指していたかなんて──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから私は、ある事件以降、ナックのオッドアイを気にしないように、と思ってはいたのだが、彼はむしろ逆の反応を見せるようになっていた。

 

「おかえりなさい、主様」

 

「ただいま、ナック」

 

 ナックが担当執事だった時のことである。デビルズパレスでナックに出迎えられた私は、いつものように自室でゆっくり過ごそうとしていた時。

 

「主様、今日はアレ、しなくてもよいのでしょうか?」

 

「……? アレって?」

 

 最初はなんのことか分からなかった。

 

 しかしナックは胸に手を当てながら、恥ずかしげもなくこんなことを言うのだ。

 

「主様は全生物たちの太陽のような存在……ならばこのナックの出来ることといえば、主様の向日葵になるしかないのです」

 

「……ん?」

 

 ナックは比喩表現が多い。私が首を傾げると、主様のことを想い過ぎて言い過ぎたようです、とナックはこう通訳してくれた。

 

「このナックの頬を撫でて頂いた主様の手、私はいつまでも有難いと思っているのです」とナックは言った。「それに、主様は人の頭や頬を撫でることでリラックス効果を得ているようですので……良ければ私の頬もお貸し出来ますが、如何致しましょう」

 

「え」

 

 ……え?

 

 この時にようやく、私が人の頭や頬を撫でることでリラックス効果を得ていたのだと自覚し始めるのだが、そんな驚いている場合ではなかった。

 

「わ、私は……ナックが、目をじっと見つめるの嫌がってるのかと思ってて」

 

「そんなことありません。むしろずっと、私の太陽です」

 

 そう語るナックは、本当に幸せそうで。

 

「そっか……良かった……」私は、ナックが前よりも自由に、幸せそうな姿に心から安心していた。「じゃ、じゃあちょっとだけ、いいかな……?」

 

「ちょっととは言わず、主様の満足するまで、いつまでも構いませんよ?」

 

 そうしてナックがウインクするものだから、あ、本当に美しい瞳をしてるなと思って。

 

「ねぇ、ナック」

 

「はい、なんでしょう、主様」

 

「ナックは最初、私に美しいって言ってくれたよね」

 

「ええ、嘘偽りはありません」

 

「私は、ナックも美しいと思ってるよ?」

 

 と私が言って真っ直ぐ見つめたナックの顔がどんなふうだったか、他の執事たちには、秘密だ。

 

 おしまい

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