ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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メインストーリーorイベントストーリーとナックの境遇ネタバレほのめかしあり

主のリアルめいた事情も明かされます

苦手な方は閲覧非推奨

ではなんでも大丈夫な方だけ、どうぞ












ナックと手

 

 私は、ナックの手が好きだ。

 

 最初の頃は、私をエスコートする時は大抵ナックは手袋をしていた。執事ってそんなものなのかな、と気にせず過ごしていたが、砂漠の街で衣装に着替えた時も、あの事件の時に手紙で語ってくれたナックの境遇を知ったあとも、ますますその手が好きになっていた。

 

「このような傷だらけの手で申し訳ありません」

 

 なんてナックは言うけれど、私は「このような」なんて思ったことはなかった。

 

「ううん、何も謝ることなんてないんだよ」

 

 私は手袋をしていないナックの手を握りながらその体温を改めて大切だなと思う。

 

「有り難きお言葉」

 

 と言うナックは、前よりより柔らかく微笑むようになった気がした。

 

「それより、むしろ私の方が申し訳ないかなって思うよ。私、カサカサ肌だし。生まれつきアトピー体質でさ……ってあ、この世界にはアトピーって言葉ないかな?」

 

 学生の頃はアトピー性皮膚炎で酷い顔と肌をしていたものだった。成人してからは、薬のおかげか、肌に合うものを使うようにしていたからか、まるでアトピー体質ではなさそうな皮膚ではあるが、私の体は結構神経質だった。

 

「アトピーというと、肌荒れのことですか?」

 

「まぁ、うん、そういうことかな……?」

 

「それならいい保湿がありますよ」すっと立ち上がり、ナックは得意げに語り始めた。「私も使っているハンドクリームなのですが、肌に優しい素材を使っているので、きっと主様のお肌にも合うはずです。今持ってきますね」

 

「ああ、うん、ありがとう……?」

 

「では一旦失礼します」

 

 と部屋を後にしたナックだったが、私は少し不安だった。

 

(私、何使ってもほとんどダメだったんだよな……大丈夫かなぁ)

 

 保育士という職業柄もあり、私はほぼスッピンであった。子どもを追いかけている内に汗で化粧も崩れるから、というのもあるが……。

 

(肌が荒れないものを探すのが面倒なんだよなぁ)

 

 顔にニキビとか湿疹出なくて良かった〜程度の私。だが油断するとすぐに肌が荒れるので、薬以外に保湿の何かを塗ることはもう諦めていた。

 

「戻りました、主様」

 

 そうこうと考えている内に、ナックが何かを手に戻ってきた。なるほど、こっちの世界のハンドクリームって、そういう入れ物に入っているのか。

 

「おかえり、ナック」

 

 私が笑顔で出迎えると、ナックも穏やかな笑みを返してくれた。私の笑顔で執事の笑顔が生まれるのなら、自分がブサイクでも安いものだなと思う。

 

「では、ハンドクリームをお塗りしてもよろしいでしょうか?」

 

「え、いいの?」

 

「もちろんです、主様。このナック、心を込めてハンドクリームを塗らせて頂きます」

 

 映画でも聞かないようなセリフに私は緊張しながらも、手を差し出した。

 

「うん、お願い」

 

「では失礼します」

 

 ナックの手が、繊細な動きで優しくハンドクリームを掬い取る。ナック自身は知らないのだろうか。その手が傷を憐れだと思わないくらいに美しいことを。

 

 私は、まさか自分が手フェチだったとは今の今まで知らないまま、ナックの一つ一つの動きにもはや少しも逸らせなくなっていた。気づいた時にはそっと、ナックの手が私に触れていて、握っていた時とは違う感覚に少しドキドキした。

 

「このように広げると満遍なく塗れますよ」

 

 ナックはアドバイスをしながら私の手の甲にハンドクリームを広げる。なんかきっと役に立つことを言っているのだろうけど、声が聞こえなくなるくらい、ナックの手の動きから目が離せなくなっていた。

 

「さ、終わりましたよ、主様……主様?」

 

 呼び掛けられて私は我に返る。どうやら手の平にもハンドクリームを塗ってくれたようだ。私は肌に異常がないことに安堵しながらナックを見上げた。

 

「ありがとう、ナック。まるで映画みたいでドキドキしちゃった」

 

 こんなに集中して何かや誰かを眺めるだけなんてことは、もう随分前からなかった気がするから。

 

「主様のお役に立てて光栄でございます」

 

 ナックは胸に手を当てて満足そうに笑った。

 

「あ、ハンドクリーム塗って貰ったら、ナックが手袋つけられなくなっちゃうね……?」

 

「おや、私としたことが……」とわざとらしく困った風な顔をしてからナックはウインクをした。「ですが、主様が褒めて下さる手ですから、たまには素手でも構わないと思います」

 

「ナック……」

 

 私は彼の境遇を思って泣きたくなるのをグッと堪えた。ずっと泣きたかったのはきっとナックの方だ。私は泣く代わりになんとか笑ってみせて、ナックのこれからのことを思った。

 

「だったらもう少しだけ、手を握ってもいいかな?」

 

「はい、もちろんです」

 

 そうして私たちは、互いの手を握り合ってしばらくの時間を過ごした。

 

 おしまい

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