ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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前書き

また主が心病んでます

モブが登場します

メインストーリーとラトの境遇ネタバレがあります

苦手な方は閲覧非推奨

なんでも大丈夫な方だけ、どうぞ














ラトと正義

 

 

 

 ザー……!

 

 ある仕事帰りのことだった。

 

 夕立からそのまま大雨になった私の住居付近は、まさしくバケツをひっくり返したようだった。

 

(デビルズパレスのみんなには感謝だな……今日は夕方から雨だと教えてくれてたし)

 

 デビルズパレスには、不思議な本がある。私はそれを勝手にSNSみたいなものだと思い込んでいるが、その本のおかげでこれからの天気も分かるのだ。カラクリはよく分からないが、デビルズパレスに来てから傘をちゃんと持ち歩くようになっていた。

 

(いつも折り畳み傘頼りだったからな〜……ん?)

 

 今日は家から少し遠いところから徒歩で帰宅していた。食材の買い物をしていたからだ。一つ手前のバス停に降りて買い物を済ませて歩いていたところ、シャッターの下りた商店の軒下に、一人の子どもが困ったように雨宿りしていた。

 

(……傘、持ってないのかな?)

 

 私は、どうやら困っていそうな子どもが放って置けないようである。私は気づいた時には、その子に声を掛けていたのだ。

 

「こんばんは。雨すごいね」

 

「こんばんは……」

 

 やはり、知らない大人に声を掛けられると警戒するものである。よくよく見ると、その子どもの腕や鎖骨辺りにアザのようなものが見えた。私はよからぬ考えに発展したが、そのアザについて聞く言葉をグッと飲み込んだ。

 

「家、近く? 傘はあるかな」

 

 子どもに聞くと、どちらも首を振って返された。私はその子を、少しでも助けたいと思ったのだ。

 

「良かったら、傘貸すよ。私、折り畳み傘があるから」

 

「え、でも……」

 

「大丈夫大丈夫! 風邪引いたら大変だよ?」

 

 私は半ば強引にその子に今手にしている傘を渡し、土砂降りの中駆けていく子どもを見送った。ちゃんと、ありがとうと言ってくれたし、本当にいい子なんだろなと思う。

 

(で私は折り畳み傘を……)

 

 と鞄の中を漁ってもない。折り畳み傘が。

 

(まさか、傘持ち歩いてるからって折り畳み傘を置いてっちゃったの?!)

 

 自分のポンコツさに呆れながらも、止みそうにない雨を軒下で待つ訳にもいかず。その後私は、ダッシュで帰宅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、主様?!」

 

 デビルズパレスにほぼ濡れたまま帰ってきた私を見たハウレスには非常に驚かせてしまった。それから急ぎでタオルを持ってきてもらい、フェネスが用意してくれたお風呂にゆっくり浸かることにした。

 

 だけどフツフツと湧いてくる感情は。

 

(あの子、絶対もっと違う助け方をすべきだったよね……)

 

 という罪悪感だった。

 

 アザだらけの子ども。たまたまスポーツか何かをして怪我をしただけかもしれない。だけど……とアレコレ考えてしまうと、私の気持ちはどんどんネガティブに引っ張られた。

 

「知らない人からどうして傘を借りたんだ!」

 

 とあの子どもが今頃怒られていたらどうしよう、とか。

 

 それはお風呂に上がってからも引きずっていて、私はボーッと自室の窓から夜空を眺めていた。さっきまであんなに降っていたのに、今ではすっかり雨が止んでいる。

 

「うわぁ?!」

 

 そんな時、窓の上から急に誰かが現れた。紫色の長い三つ編みが、ぶらりと目の前で揺れている。

 

「ラト……」

 

 私が驚いていることが気にならないのか、ラトはいつもと変わらないといった様子で窓をコンコンとノックした。一体どうしてラトは窓の上から現れたんだ、というのは本人に聞いても無駄だろうから、とにかく窓を開けた。すると、軽々とした身のこなしでラトは窓から部屋に入ってきた。

 

「こんばんは、主様」

 

 ラトは胸に手を当てながら挨拶をする。

 

「こんばんは、ラト……」

 

 私が挨拶を返すと、ラトは満足そうにニッコリと笑った。ラトはそうして笑うと、グッと幼く見える。ラトの顔が小さくて丸いからだろうか。

 

 しかしその笑顔はフッと消えて、まるで好奇心溢れた子どもみたいな顔で首を傾げた。

 

「おや……? 主様の反応が、私が想像していたのと違ったようです」

 

「え?」

 

 ラトは時々、よく分からない言い方をする。

 

「主様の呼吸が乱れているのが聞こえたのですが、私の勘違いだったでしょうか?」

 

「呼吸が……?」

 

「クフフ、はい、そうです。人はそのように呼吸が乱れると、落ち込んだり泣いたりするのですよ」

 

 とラトは笑いながら答えたが、私は図星を突かれて内心焦っていた。

 

 私はぐるりと自室を見回した。今は担当執事が別の仕事で離れていて、ムーは厨房で明日の仕込みの手伝いに行っている。ここにいるのは、私とラトだけだった。

 

「ラトの言ってることは、正解だよ」

 

 私はそう言って、さっき自分の世界の方で子どもに傘を貸した話をした。子どもがアザだらけだったことも、それに対して私が何も言えなかったことも。

 

「そう考えるとさ、私って本当に無力なんだなって思って」それから私は、ラトをじっと見つめた。「それに比べて、ラトはすごいよね。自分のしたいことがちゃんと実行出来るんだもの。私は、傘を貸してあげることが精一杯だよ」

 

「ふむ……」

 

 想定はしていたけど、ラトは、どうしてそんなことで悩んでいるのだろう、といった顔をして横を向いた。ラトは椅子より床に座るのを好んでいて、その場に胡座をかいて何か考え込んでいる様子だった。

 

「ごめんね、ラト。変な話だったよね……」

 

 こんなよく分からない話でラトを悩ませたくないと私はすぐに謝ったが、こう言うことすら不思議だと言うかのように、青褐色な瞳をこちらに向けた。

 

「主様がどうして謝るのか分かりませんが……」ラトが口を開く。「主様が子どもに傘を貸したことは、いいことだと私は思います。ミヤジ先生も、主様と同じ状況なら傘を貸したと思います」

 

「そう、だよね……」

 

 ミヤジは子どもに好かれている。それは、困っている子どもが放って置けないからだろう。

 

「それに、ハウレスさんもよく人助けをしていますし、主様がどうして、人助けをしたことで悩んでいるのか、私には分かりません」

 

 ラトの言う通りだ。

 

「そうだよね。本当にごめん……ただ、私が人助けしたことで悩んでるなんて話、今まで誰にも話したことなかったから、ラトに聞いて欲しかっただけなのかも」

 

 私は俯いた。もうこんな暗い話はやめようと思った。

 

「もうこの話はおしまいにしよっか。話したらスッキリしたし、私はもう……」

 

 大丈夫、と言いかけて、ラトが私の目の前にいつの間にか立っていたことに気がついた。今さっきまで森にいたのか、ラトから木の葉の香りがした。

 

「主様」

 

 グッと顔を近づけるラト。私は少し緊張した。

 

「な、何……?」

 

 私は距離の近さにドキドキしながら、その黒みがかった青い瞳から逸らせずにいた。

 

「私は、主様に助けられたことを感謝しています。それでも、主様は私を助けたことを後悔しているのですか?」

 

「そんなことはないよ!」

 

 私は即答した。ラトのことは助けたかったし、ラトも幸せになって欲しいと常日頃思ってる。後悔なんてしていない。これから楽しいことばかりじゃないと思うけど、私は……。

 

「クフフ、主様ならそう答えると思ってました」ラトは私から離れて満足そうに微笑んだ。「それが聞けたら満足です。では私は、ここで失礼しますね」

 

「え、あ、うん……?」

 

 そう言って立ち去るラトを、私は困惑しながら見送った。

 

(私を慰めに来たのかと思ったんだけど、もしかして自分の満足する答えを聞きたかっただけ……?)

 

 ラトの自由奔放さにまたしても振り回された感がある私だが、心は先程よりも穏やかになっていたのは確かだ。

 

(どちらにせよ、ラトのおかげでちょっと落ち着いたかも)

 

 そう、助けたことに後悔することなんてないのだ。例え、傘を貸すことしか出来なくても、あの子どもからしたら「傘を貸してくれた」恩人になれたのかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「あ、そこのお姉さん! ちょっといいかな?」

 

 また買い物の後の帰路を辿っていたところ、通り道にあるお店の男性から声を掛けられた。

 

「見た目の特徴も一致するし……うん、確かにお姉さんだな」とお店の男性は言いながら何かを持ってきた。「何日か前に、息子の友達がここにいたお姉さんから傘借りたって聞いてさ。俺が代わりに返すってずっと待ってたんだよ」

 

「え……」

 

 男性が私に差し出すのは、あの日子どもに貸した私の傘だった。

 

「そそっかしい子どもでさ、転んだり頭ぶつけたりしてすーぐ体にアザ作るもんだから、自分のもう一人の息子みたいに面倒見ていたんだが……おっと、お姉さんの傘じゃないのかい?」

 

「いえ、私のです……」私は傘を受け取った。「ありがとうございます、お兄さん」

 

「いやいや、礼を言いたいのはこっちの方さ! 傘貸してくれてありがとよ! あの子もすごく感謝しててさ」

 

 そう言って快活に笑うお店の男性。私も自然と、笑顔になっていた。

 

 

 そっか。私のしたことは、ちゃんと未来に繋がるんだね。

 

 

 私は、心の中でラトに感謝をしながら、急いでデビルズパレスに帰るのだった。

 

 おしまい

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