ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ベレンとベリアン

 

 「ベレン」という名前を聞いた時、私は真っ先に不安要素が確定していた。

 

(ベリアンと名前間違えそう……)

 

 その予想は的中していて、やはりベリアンを見掛けると「ベレン」、ベレンを見掛けると「ベリアン」と呼んでしまうのだった。

 

「ごめん、また間違えちゃった……」

 

 私はすぐに訂正するのだが、ベレンはベリアンから聞いていた通り、穏やかな人物であった。

 

「ううん、お互いまだよく知らないからね、間違えてしまうのは当然だよ」とベレンは言った。「今度、親睦を深めるために一緒にどこかに出掛けようか? その方が俺のことも覚えやすくなるんじゃないかな。ね、主様?」

 

 ……かなり距離感も近いのだが。

 

 アモンやラトとは違う距離の詰め方に最初はドキドキしたものだけれども、ベレンに慣れた理由は彼の口癖のおかげだったのかもしれない。

 

「困ったことがあったら、ベレンお兄さんに任せてね?」

 

 そうか、ベレンは私を妹だと思っているのか。年齢で考えたらちょっとしか年齢差はないのだが、ベレンの穏やかで包容力の広さが居心地いいと思っているのは本当だ。

 

「ありがとう、ベレン」

 

 それに、ナックと同様に名前を名乗ってくれるので、名前もすぐ覚えられたのは確かである。それでも、時々ベリアンと呼び間違えるのは申し訳ないのだけど……。

 

「ベレンみたいなお兄さんがいるベリアンはとても幸せね」

 

 私がそう言うと、今日の担当執事であるベレンがきょとん顔をした。

 

「その口ぶりからして、もしかして主様ってお兄さんがいるのかな?」

 

 あ、そうか。私から自分の家族の話とか執事たちにしたことなかったな、と思い返す。

 

「そういえば、他の執事たちにも話したことなかったわ……私、五人きょうだいの真ん中なんだよね〜」と話しながら、私は実の兄のことを思い出した。「でも私のお兄ちゃんはベレンみたいにカッコよくないかな〜」

 

「ふぅん、そうなんだ」

 

 そう言うなり、ベレンがグッと近づいてきた。急な距離の詰め方と、ベレンの緑の瞳に私は不覚にも緊張してしまう。

 

「じゃあ俺は、本当のお兄さんにハルが取られないように頑張ってお兄ちゃんやらないとね?」

 

「え?」

 

「なーんて。ビックリした?」

 

 すぐにはベレンは私から離れ、冗談っぽく笑ってウインクをする。私は肩から一気に力が抜けた。

 

「もーう、ビックリしたよ……」

 

 と私はホッと息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝。

 

 早起きをした私は、仕事前に執事のみんなに挨拶をしようと屋敷を探索していた。執事たちは私が起きる時間に合わせて起きていることも多いのだが、朝に弱い執事はまだ眠ったりもしていた。

 

「あそこにいるのは……」

 

 その屋敷の廊下を歩いていると、裏庭でベレンの姿を見掛けた。確か、彼は朝ランニングをすることが趣味なのだとか。ということは、ランニングをし終えた後だろうか。ベレンは今、運動着を着ているし……。

 

(タオルでも持って行こうかな)

 

 と思ったが、ベレンの元に歩み寄って行く一人の姿があって足を止めた。朝に弱いはずのベリアンであった。

 

(何か話してる……?)

 

 屋敷にいる私は、彼らの会話は聞こえなかったが、親しげに話しているのが遠目からでもよく分かった。そしてベリアンがベレンにタオルを差し出している。どうやらタオルを持って行く必要はないようだ。

 

 ベレンはタオルを受け取って額の汗を拭った。その様子を穏やかに眺めるベリアンの姿を見て、私はこう思った。

 

(ベレンは、ベリアンの兄としての方がよく似合ってる)

 

 気が遠くなる程の長い長い時間の中、誰よりもベレンを想っていたのはベリアンだ。

 

 それは、私なんかが立ち入れないくらい深く強い絆なのだ。

 

(でも、こんなこと言ったら、ベレンは笑うんだろうな)

 

 私はもうしばらく、ベレンとベリアン兄弟のやり取りを眺めていた。もっとずっとずっと、幸せになって欲しいと願いながら。

 

 おしまい

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