「これを、私にですか?」
「うん、どうかな……?」
休日。私はデビルズパレスの別邸にお邪魔し、ユーハンにとうとう例のことを頼みこんでいた。
「えっと、確認のためもう一度聞きますが……これは、尻尾ですよね?」
ユーハンは戸惑いながら手にしている尻尾について訊く。私は頷いた。
「そうなの。いつもの服屋さんでサービスでくれて……」
「それは聞きましたが……」
私の言葉に困惑が拭えないといった表情のユーハン。やはり、成人男性が尻尾をつけるというのは抵抗があるか。じゃあなんでハナマルは躊躇いもなくつけたんだって思うのだが。
「や、やっぱり嫌だよね! ご、ごめんね、変なお願いして!」私は作り物の尻尾を回収した。「さっきのは聞かなかったことにして! ごめん、本当に……」
ほんの出来心だったんだ。ユーハンに似合いそうな尻尾だなぁ、なんて思って。
「フフ……」
だけど唐突に、ユーハンは小さく笑ったのだ。
「ユーハン?」
私は恐る恐るユーハンの表情を覗き見たが、そこにあるのは穏やかに笑っている顔だけだった。
「申し訳ございません、主様。尻尾をつけて欲しいなんて可愛らしい願い、言われたことがなかったので少々驚いてしまいました」
「え」
「この尻尾をつけたらいいんですよね?」そう聞きながら、ユーハンはひょいっと、私の手にある尻尾を持ち上げた。「主様がお望みなら、尻尾でも耳でも、なんでもつけますよ」
そしてユーハンは、なんと尻尾をつけてくれたのだ!
「うぇええ……!」
私は驚きと感動で意味不明な声をあげながら、倒れてしまいそうになるのをグッと堪えた。
「どうですか? 主様」
と微笑むユーハンは、人に身につけた途端リアルな尻尾のように揺れる作り物をチラつかせながら訊ねる。尻尾には鈴がついているので、リンッリンッと音が鳴った。
「すごく、いい……」
他にももっと色んな言葉でユーハンを褒めちぎりたいのに、出てきたのはその一言だけだった。黒く赤いグラデーションがある髪の毛をしているユーハンは、赤い物がよく似合う。そして今つけてもらった尻尾は赤い。似合わないはずがないのだ。
「フフ……主様に気に入って頂けて光栄です」
と言うユーハンは、いつも真っ直ぐとこちらを見つめてくれた。微笑むと妖艶という言葉が相応しいくらいますます美しくなるユーハン。丁寧な仕草から目が離せなくなるのも、きっとそれがユーハンの真面目な性格が現れているからなのだと思う。
「ありがとう、ユーハン。もう外しても……」
言いかけて、私はユーハンに手首を掴まれた。
「もう目を逸らしてしまわれるのですか? 主様」
「へ」
ユーハンの灰色をした瞳が私の視線とぶつかる。なんて綺麗な目をしているのだろう。というかちょっと見つめ過ぎなのでは。
「フフ、失礼しました。冗談ですよ」
ユーハンはそう言って私から手を離し、自ら尻尾を外して返却してくれた。私は尻尾を受け取るまできょとん顔をしていることだろう。
「と、とにかく、私のワガママに付き合ってくれてありがとう……」
意識がボーッとなりそうなのをなんとか振り払いながら私はユーハンに感謝を伝える。どうしよう、なんか今目見られないかも……。
「いえいえ。このような可愛らしい願いならいくらでもしますからね」
フフと笑いながらユーハンが口元に人差し指を当てたのを私はつい見てしまった。まるで何かを秘密にされたみたいで少し緊張してしまった。
「あ、ユーハンさん!」そこにテディがやって来た。「そこにいたんですね……あ、主様も、こんにちは」
「こんにちは……」
私はテディに挨拶を返したが、変な顔になっていないだろうかとちょっと心配になる。
「ユーハンさん、ハナマルさんを知りませんか? 今日模擬戦の約束をしていたのに、どこにも見当たらなくて……」
だけどテディは、普段通りにユーハンと話している。
(まだちょっと、ドキドキしてるかも……)
「では主様。私はハナマルさんを探してきますね……主様?」
「え、あ、何っ?!」
ユーハンがグッと距離を詰めてきた。私、意識し過ぎじゃないだろうか。
「ハナマルさんを探しに行くんです。もちろん、主様をお部屋にお送りした後でですが……」
「だ、大丈夫! 一人で帰るから!」
私は逃げるように別邸を飛び出して自室へ戻った。ユーハンの魅力はなんか分からないけど一緒にいたらどうにかなってしまいそうだ。
おしまい