ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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主の境遇が明らかになっていきます

暗めです

苦手な方は閲覧非推奨












ベレンと湖

 

 デビルズパレスの近くには湖が広がっている。

 

 私は時々、執事たちの誰かと共にその湖まで散歩に行くことがあった。今日は、ベレンと一緒に湖まで遊びに行った。

 

「エヘヘ、主様とのお散歩、楽しいです!」

 

 足元にはムーが歩いていて、三人一緒に散歩をしていた。

 

「俺も、主様とムーと一緒で楽しいよ」とベレンは言う。「朝のランニング中に、たまたま湖を見掛けてね。みんなに聞いたら、よく散歩に来るって話だったから、俺もゆっくり景色を眺めながら主様と歩きたいなと思っていたんだよ」

 

「そうだったんだね」

 

 私はのんびりと歩きながらベレンの隣で湖の岸辺を歩く。湖は高く昇った太陽の光を燦々と照らし返していて、綺麗だった。

 

「いいなぁ……僕も何か綺麗なものを見つけて、主様にプレゼントしたいです!」と言うムー。「あ、そうです! 今から綺麗なものを探しに行きますね! 待ってて下さい、主様!」

 

「え……」

 

 私が何も答えないまま、ムーはどこかへと走って行った。私は追いかけようとしたが、それだとベレンを置いていってしまうと振り向いた時にそれは起きた。

 

 ざばぁああん……!

 

「えっ?!」

 

 私は湖へ視線を投げた。そこには、湖に溺れる誰かがいたのだ。

 

「助け……ゴボゴボッ、助けて……!」

 

 子どもだ。しかも、よく聞いたことのある声の……。

 

「待って! 今助けに行くからね!」

 

 私はいてもたってもいられずに湖へと飛び込んだ。この時の私は本当に馬鹿だったと思う。近くにベレンもいたのに、後先考えず、深さも分からない湖へ飛び込むなんて……。

 

「シュウ、今行くからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主様……主様?」

 

「う〜ん……」

 

 優しい声が聞こえて私は目を開ける。

 

「あれ、ここは……」

 

 目の前に広がる湖は美しく穏やかで、誰かが溺れている様子はない。

 

(さっきのは夢だった……?)

 

「大丈夫? 主様」

 

 横からベレンが顔を覗き込んできてハッとして体を起こす。どうやら私は、ベレンと湖に散歩に来たあと、うたた寝してしまったらしい。しかも、ベレンの肩に寄りかかって。

 

「ご、ごめんね、ベレン! 寄りかかってたみたいだね?!」私はベレンの肩に涎がついていないだろうかと慌てて手で拭いた。「仕事が忙しくて寝ちゃってたみたい……お遊戯会が近いからかな」

 

 保育園のお遊戯会の準備で、確かに私は最近忙しくしていた。飾りつけは自分が好きで作っているとはいえ、夜更かししがちだったかもしれない。

 

「フフ……俺の肩は主様の肩だから、何度でも寄りかかっていいからね?」だけどベレンは怒ることなく、優しく微笑むばかりだった。「起こしちゃ悪いなとは思ったんだけど……途中からうなされてたからさ」

 

「私が?」

 

「うん。シュウ……って呼んでたかな?」

 

「ああ、そっか……」私は、先程見た夢の内容を思い出していた。「弟が溺れる夢を見たの……六歳も下の弟でね。私には、シュウとランって双子の弟と妹がいるの。子どもの頃は、双子だからなのか体が弱くてさ……」

 

 私は、五人兄弟姉妹の次女だ。頭が良くて優秀な兄や姉と、体が弱くて色々と気にしなくちゃいけなかった弟や妹と違って、私には何も突出した能力も可愛さもなかった。弟と妹は見た目がいいことで上手くやっていけたのだ。だけど私には、何もない。

 

「昔はさ、周りの大人たちがシュウとランばかり気に止めて嫌な思いしてたんだよね。何かある度に、それに比べてお前は〜……なんて。もう大人だから、そんなこと気にしてないけど」私は湖へ視線を移した。「でもずっと前に、家族で海へ遊びに行った時、小さかったシュウが浮き輪ごと波に飲み込まれそうになって……ちょっと腹立つ弟だったけど、気づいたら、シュウに手を伸ばして助けてたの」

 

 と言葉にしてようやく、私はいつも、ちゃんと人助けをしていたんだな、と思う。だとしてもあの夢の中の弟を助けるのに一人で飛び込んだのは、無謀過ぎたよね。

 

「そっか……主様は主様なりに、頑張ってるんだね」

 

「いやいや、私なんか頑張ってないよ。さっきの夢の中でも、私は……」

 

 多分、助けられなかったよね、弟のこと。

 

「……?」

 

 私はベレンへと視線を戻した。この穏やかで優しく微笑む彼の、武器を手にした時の動きや普段の鍛錬を考えたら、助けられなかったってことは少ないのだろうと思う。それでも、ベレンは助けられなかった誰かのことを想い続けるのだろうけど、私よりは断然、多くの人を救ってるのだろうとか思ってしまう。

 

「いや、やっぱやめよう、この話」

 

 執事たちにはそれぞれ大変な過去と思いを背負って今日を生きてきている。それを私の暗い話で不安や心配を増やしたくない。私はそう思った。

 

「う〜ん、主様が話したくないなら話さなくていいけど……」ベレンは普段通りの顔で話し続ける。「主様は俺たちの主様なんだから、嫌なことの一つや二つ、一緒に背負わせて欲しいな。ね? 主様」

 

「ベレン……」

 

 私はベレンの瞳を見つめた。ベレンの瞳は、澄んだ森を思わせるくらい深く美しい色をしていた。木漏れ日も、木陰も、全てをひっくるめたようなその瞳の色に、私は安らぎを感じるのだ。

 

「フフッ……そんなに見つめられたら、照れちゃうな」

 

 ベレンのことを見つめ過ぎたのだろう。ベレンは照れているというより余裕ありそうな笑みを浮かべながらそう言ったのだ。私はハッとしてすぐに視線を外した。

 

「ごめん、つい……」

 

 と私は謝るものの、言い訳すら出てこない。思えばベレンも、顔の整ったイケメン男子なのだ。ベレンが仕切りに、自分のことを兄だと名乗るからすっかり忘れそうになるのだが。

 

(イケメンと見つめ合っちゃったよ……)

 

 だけどベレンはそんな心中を知ってか知らずか、湖の方を眺めながらクスリと笑った。

 

「もう少し、ここにいようか。主様との時間を独占したいし」

 

「え?」

 

「あ、ごめんね。これは執事らしくなかったかも……さっきの言葉は忘れてね?」とベレンは私の方を見る。「やっぱり、頭の片隅には覚えてて欲しいかも」

 

 自分の気持ちに素直なベレンのマイペースさに、私はいつか巻き込まれてしまいそうだ。

 

「ふふ、少しだけ覚えとくね」

 

 どんなに辛いことや悲しいことがあっても、今は執事たちがいる。私はベレンの言葉をそういうメッセージなのだと思うことにし、一人頷いた。

 

「ありがとう、ベレン。いつか……話せるようになったら、話すね」

 

 私の暗い話も、いつか誰かに話せますように。そう願いながら。

 

「主様〜!! 綺麗なお花を見つけたんで採って来ました!」

 

 やがて、向こうからムーが花を咥えて走ってくるのが見えた。ムーの口には、見たことのない黄色い花があった。

 

「主様に綺麗なお花をプレゼントです!」

 

「ありがとう、ムー」

 

「へぇ、ムーもなかなかやるね。俺も負けていられないな」

 

「えっ、何か勝負していたんですか?」

 

 きょとんとするムーに対し、微笑だけ返したベレン。ベレンの心境は、まだ私には分からないみたいだ。

 

 おしまい

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