ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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フェネスと読書

 

「フェネス〜」

 

「あ、こんにちは、主様」

 

 ある日の休日。私は、デビルズパレスで備品の片付けをしていたらしいフェネスに声を掛けた。

 

「こんにちは、フェネス」私も挨拶を返した。「時間があったら、一緒に読書しない? お気に入りの作家さんのお話が書籍化してて! フェネスの分も買ってきちゃった!」

 

「え、俺のために……?」フェネスは大きな瞳を更に大きくさせた。「ありがとうございます、主様。これを片付けたらすぐ行きますね」

 

「あ、急がなくていいからね! 私、書庫にいるから……」

 

「いえいえ、すぐ終わりますから。片付けが終わったら、書庫に行きます」

 

「ありがとう、フェネス」

 

 私のワガママみたいなものだけど、フェネスは快く受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーデビルズパレス 書庫ー

 

 そうして私は、書庫にあるテーブル席に座って読書をすることにした。向かいの席にはフェネスがいる。

 

 私は本を読みながら、チラリとフェネスを見てみた。フェネスは真剣そうに本を読んでいるが、その目の動きとページを開くスピードは人並み以上。それは、フェネスが契約した悪魔の力のおかげらしく、本なんてあっという間に読み終わるのだと思う。

 

 私は自分の手元にある本に視線を戻し、前にフェネスが言ってくれたことを思い出す。フェネスは自信なさげに、それでもこっそりと「隣で本を読んでもいいですか」と言っていたのだ。向かい合わせなので今は隣ではないのだが、フェネスと読書をするこの時間が私は好きだった。

 

(いつか隣に並んで座れたらいいんだけどね……)

 

 私が主でフェネスは執事。何よりも私のことを優先する執事たちは、それなりの距離感を保つように気をつけている。私は王様でもなんでもないので、周りの人が何から何までやって貰うことに気が引けるのだが……。

 

(もっと力を抜いて過ごして貰えたらな〜)

 

 と私は思っていたのだ。

 

(とりあえず今は読書に集中するか……)

 

 少しずつでいいから皆と仲良くなれたらいいな、と私は読書に集中しようとしたが、何か視線を感じて顔を上げた。フェネスの黄色い瞳と、目が合った。

 

「ご、ごめんなさい、主様っ。俺なんかに見つめられても嬉しくないですよね……」

 

 フェネスは焦ったように顔を赤らめながら私から目を逸らした。いやいや、そんなことはない。見つめられるのはちょっと恥ずかしいけど、さっきは私がフェネスのことを見つめていたのだからお互い様である。

 

「謝らなくて大丈夫。私もさっき見つめてたから、これでおあいこだね」

 

 気にしていないんだよ、と私は笑ってみせたが、フェネスの顔はますます赤く染まっていった。

 

「え……主様が、俺の顔を見つめていたんですか……?」

 

 とフェネスが驚きと照れを含む顔で聞いてくるから、私もだんだんと恥ずかしくなってきた。

 

「ご、ごめんね、見つめちゃって! フェネスの顔って可愛くてカッコよくて癒されるっていうか……その、顔だけじゃないんだけど、真剣そうに本を読んでる眼差しとか好きで……」

 

 何を言っているんだろう、私。

 

 言い訳どころか突然の褒め殺しに、私はまるでフェネスを口説いているみたいだと思ったが時すでに遅し。もう何か言うのをやめようとフェネスから目を逸らしたが、聞こえてきたのはフフッという笑った声だった。

 

「俺も、好きです」

 

「えっ?!」

 

 思わぬ返しに私が急いで顔を上げると、フェネスは真っ赤な顔しながら手を前に振った。

 

「あ、いえ、好きなのは、主様が読書をしている時の眼差しとかページを捲る指先とか、そういう……で、でも、主様の全てを好きなのは本当ですし、そ、そういう意味で言いたかった訳ではなくて……」

 

 それから最後にはフェネスからため息が出て、俺に好かれても嬉しくないですよね、と言葉を吐いた。

 

 プロポーズみたいなシチュエーションに驚きはしたが、フェネスが真摯に私と向き合ったことは確かだろう。私は、机から少し身を乗り出した。

 

「ありがとう、フェネス。大切だと思っていることは、伝わったから」

 

 私はニッコリと笑ってみせた。するとフェネスもようやく笑ってくれて、緊張感が解れたみたいだった。

 

「主様は俺たちにとって大事な主様ですから。……も、もちろん、俺にとっても大事な人ですよ?」

 

 フェネスの謙虚さはすぐには変わらないだろうが、いつかちょっとだけでも自分に自信を持ったらいいのにな、と私は思う。

 

「私も、フェネスのことを大事に思ってるから、何かあったら手伝わせてね?」

 

 私に出来ることは少ないだろうなぁと思いながらも。

 

 執事たちには幸せになって欲しいな、と私は願うばかりだ。

 

「はい。ありがとうございます、主様」

 

 おしまい

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