ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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シロと絵描き

 

 ちょっと暇になった私は、デビルズパレス内を散策していた。そこに、庭で絵を描いているシロを見掛け、そういえば彼との交流は少なかったな……と近づいてみることにした。

 

 恐らく彼の実力的には私が近づいたことに気づいているのだろうが、手元を止めるどころかこちらに一つの視線も向けないままひたすら絵を描き続けていた。私は、思い切って声を掛けてみた。

 

「ねぇ、シロ」

 

 名前を呼ぶと、シロはようやく手を止めてこちらを振り向いた。

 

「お前か」

 

 たったそれだけ言ってまたキャンパスへ視線を戻すシロ。今は庭の花の絵を描いているようだ。シロの長い指先が、絵筆で柔らかな彩りを描いていることについ目が奪われてしまう。

 

「そばで見ていてもいい?」

 

 私が訊ねると、やはりシロの手は一旦止まったがまた絵を描き続け、少しの沈黙を守る。それから出てきた一言は、

 

「好きにするがいい」

 

 だけだったので、私はありがとうと言って芝生の上に座り込んだ。

 

 私はそうして、しばらくシロの描く絵を眺めていた。絵というよりは、シロの描き方ばかりに注目していたかもな。まるで人の顔にお化粧をしているかのように丁寧な指先なのに、力強く描く時と柔らかく描く時を全て使いこなしているみたいだ。

 

「お前……」

 

「……?」

 

 シロが唐突に話し始めた。なんだろうとシロを見上げても、そこには仏頂面という言葉が似合う程あまり動かない顔があるばかりで心境までは伺えない。ただ、宝石のように美しい瞳がそこにあるだけだ。

 

「絵ならお前も描くだろう。なぜ我の描き方を観察しているのだ」

 

 驚いた。シロは私が絵を描くことを知っていたのか。

 

「なぜそのような驚いた顔をしている。ギャラリーに堂々と絵が飾ってあるのだから、誰が見てもお前は絵描きだということが分かるだろう」

 

 そっか。シロは一度見聞したことを覚えることが出来る。私とは大違いだ。シロがギャラリーにいるのは何度か見掛けているし、その時に私の絵も見たのだろう。

 

「ごめんね。シロって、私のことには興味ないと思ってたから」

 

 と私が言ったところで、シロは他の執事みたいに「そんなことはない」と否定することも、フォローしてくることも言ってこない。それはそれで居心地がいいんだけどね。否定されたくない訳でもないんだけど……。

 

「でも、シロが使ってるのは筆でしょう? 私はタッチペンっていう硬い筆みたいなの使ってるから、描き方とか全然違うんだろうなって」私はシロのパレットを眺めた。「シロの絵の描き方に、私は興味あるんだけどなぁ」

 

 私が絵描きを始めたのは、小説に差し込む絵を絵師さんに依頼する手間金を節約するためだった。それがかえって人気を呼んだのだから、人生どう転がるか分からないなぁと思ってみたり。

 

「ふん……お前が何に興味を持とうが、我には関係ない」

 

 相変わらずの態度だ。

 

「ふふ、そうね」

 

 私はシロが描く絵をもうしばらく眺めていた。シロはいつも冷たい態度を取るが、そばにいることは許可を貰えたので多分心の底から悪い人ではないのだと思う。そうでなければシロは今頃、悪魔執事にはなっていなかったのだから。

 

「あ、主様……とシロさん!」

 

 間もなく、ベリアンがやって来て、主様をどうして地面に座らせているのだとシロを丁寧に窘めていた。シロは終始「うむ」「そうだな」しか言わなかったが、最終的には「私が勝手に地面に座ったから許してあげて」と割り込んだことでなんとか収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思ったのだが、後日から、シロが外で絵描きをしている時は、なぜか隣にもう一つ椅子を置くことが多くなったそうだ。そしてその椅子に勝手に座ると、

 

「お前の座る椅子ではない」

 

 とシロが言って座らせないようにするのだそうだ。

 

「きっとあれは、主様が座る椅子なんだと思いますよ!」シロの隣の椅子に勝手に座った第一号であるムーが私に言った。「だから、主様。シロさんがお絵描きをしていたら、どうか隣の椅子に座ってあげて下さいね!」

 

「そうなのかなぁ……」

 

 私の座る椅子とは限らないが、前にシロがベリアンに注意されていたことを思い出したので、もしかして……という甘い期待も浮かんでいた。

 

「今度座ってみようかな」

 

「はい! きっとシロさんも喜びますよ!」

 

 ムーは無邪気そうに笑った。

 

 

 おしまい

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