「買い物のメモによると……あとは向こうの店で終わりだな」
ある日のエスポワール。私はボスキと一緒に、食材の買い出しにやって来ていた。
「ただついて来ただけなんだけど、一緒に買い物してくれてありがとう」
気分転換で外に出ようと誘われたついでに、ロノに食材の買い物を頼まれてエスポワールの街に来た私たち。とはいっても、馬車の操縦も荷物持ちも全て付き添いのボスキにやって貰っている。
「ああ? 主様一人で外に行かせる訳にはいかないだろ」ボスキは飾り気のない言葉でいつも通り話す。「お前は俺たちの大事な人なんだ。一緒に買い物に付き添うのは当然のことだ。俺は主様の執事だしな」
「って言っても、荷物もボスキが持ってくれてるじゃん」
「いいんだよ、これくらい。主様はそばにいてくれりゃあいいし」
「ふふ、ありがとう」
ボスキは口が悪くサバサバしているが、根から優しいのはよく知っている。初めて会った時に笑われたのは今でも覚えているが、自分の気持ちに素直なのだと考えれば、ボスキらしい反応だったのだと思う。
ーしばらくしてー
「よし、頼まれたものは買い終わったな。そろそろ馬車に戻って帰るか」
ボスキに言われ、頷く私。買い物はここで最後だ。私たちは屋敷から乗って来た馬車に戻ろうとした。
コソコソ……。
「おい、アイツらって……」
「間違いない……あの忌まわしい悪魔執事とその主だ……」
「なんと恐ろしい……武装してる方が執事か……?」
相変わらずだが、街の人たちの反応はあまり良くない。
「気にするな。行こう」
「うん……」
私に気遣ってか、ボスキがそう声を掛けてくれる。だが、気にするなというのは無理な話だ。執事たちは命を懸けて戦っているのに、どうしてもっと仲良く出来ないのだろう、と。
「あっ……!」
その時、コロコロと目の前までボールが転がってきた。私は気づかずに歩いていたのだが、ボスキに手を引かれて躓かずに助かった。見ると、道路の脇にボールの持ち主だろう男の子が立ち尽くしていた。
「ボールが……」
「こら、何してるんだい! わざわざ悪魔執事なんかの前にボールを落として……」
「だって……」
男の子は母親らしき人物にそう怒られていた。時には、悪魔執事に近づくことすら恐ろしいことだとされる噂が後を絶たない。彼らだって人間だというのに、悪魔と契約したその日から、人間離れした何かとされるのは、思えば普通のことなのかもしれない。
「主様……」
私はボスキに呼び止められるのを横目にボールを拾い、男の子の前でしゃがんだ。男の子は「悪魔執事の主」である私を前に怯えたような顔をし、その母親も固唾を飲んで動くことが出来ない様子だった。
「はい、これ。ボール遊びする時は、広いところで遊ぶんだよ?」
私は、保育園の子どもたちと同じように接した。男の子は恐る恐る、ボールを受け取った。
「うん……」
私は立ち上がってボスキのところに戻った。ボスキは何かあった時のために身構えていたのだろうが、私の顔を見るなり安心したような笑みを見せてくれた。
「主様は優しいよな」
「そんなことないよ、ボスキの方が優しい」
さ、行こっか。私はボスキと共に馬車へと向かう。ボールの少年はしばらく私たちを見つめていたみたいだったが、それ以上は何もしてこなかった。
「それにしても、ボスキってお侍さんみたいだよね」
馬車でデビルズパレスに戻ってきた時、私はそのまま、ボスキの印象を伝えた。
「ああ? オサムライって、どういう意味だ?」
ボスキは馬車から荷物を下ろしながら訊ねた。あ、そっか。こっちの世界には「侍」という言葉がないのか。
「カッコよくて頼りになるってことだよ。一緒に街を歩いてたら、お侍さんの召使いって感じがして私もカッコよくなれる気がするし……」
「主様は召使いじゃねーだろ」
何言ってんだ、みたいな目でボスキは荷物を持ちながら屋敷へと向かう。私もその横をついて行きながら、ボスキは本当にカッコイイんだよってことをちゃんと伝えたかった。
「それはそうなんだけど、人の上に立つのは元の世界では全然なかったし……」私はうーんと考え込む。「とにかく、ボスキはカッコイイってことだよ。また一緒に街とか歩きたいな〜なんて」
いい言葉も思いつかず、冗談も混じえてそう言った私。だけどボスキは急に足を止めてこちらを真っ直ぐ見つめた。途端に真剣な眼差しになるボスキに、私はつい見とれてしまう。
「主様がそう言うなら何度でも街に一緒に行ってやる。街とはいわず、どこへでも」ボスキは話し続ける。「だが、これだけは忘れないでくれ。カッコよくて頼りがあって優しいのは、主様だってことをな」
「え……」
ボスキは言うだけ言ってさっさと屋敷に入って行った。私はしばらくボスキの言葉の理解が追いつかずにボーッとしてしまったが、だんだん分かり始めてきてちょっと照れくさくなっていた。
「てか、その主置いて先に行かないでよ!」
私は慌ててボスキを追い掛けて走った。すぐに立ち去ったのはボスキなりの気遣いだったのだろう。だってきっと、私の顔は真っ赤だったし。
クールに真っ直ぐな言葉を投げてくるボスキに、私は時々……いや、常にドキドキしてばかりだ。
おしまい