ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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ハウレスにあーんする話

 

「はい、ハウレス。今日の夕食の魚の塩焼きだよ?」

 

 ある日のデビルズパレス。私は執事たちの食堂で、ハウレスの隣に座っていた。

 

「あ、主様が……俺に……」

 

 ハウレスは私を隣に困惑していた。そう、今日は私が言った通り、魚の塩焼きであった。私は先に食事を済ませていて、今はハウレスが魚を食べられるように手伝っていた。

 

 なぜならハウレスは、極度の魚嫌いだからだ。

 

「主様! ハウレスが魚を一口だけでも食べるまで逃がしちゃダメですからね!」

 

 ことの経緯は簡単だ。そこにいるロノは、執事たちの食べ物の好き嫌いが直らなくて悩んでいて、何か手伝うことないかな? と私が言ったのが始まりだ。

 

「……だって。ハウレス、頑張って食べよう?」

 

 私は横にいてただ励ます役を受けることになったのだが、それでも、魚料理を前にしたハウレスの顔は真っ青だった。

 

「主様がそばにいるというのに……俺は、どうしても……」

 

 ハウレスはこの通り、魚料理に手さえもつけられない状態だ。

 

「ハッ、ざまーねーな」

 

 隣でボスキがハウレスをからかっているが、ボスキはボスキで皿に野菜だけが残ってる。

 

「ハウレスの次は、ボスキにも同じことするけどね?」

 

 私はハウレスの代わりにからかいを返すように言うと、ボスキはわずかにバツが悪そうな顔をした。

 

「そうかよ……」

 

 ボスキは平然を装っているが、野菜を食べる未来を想像したのだろう。

 

 とりあえず今はハウレスの方を……と私は手元にある箸で魚を一口分挟んだ。ここは強行突破しかないかもしれない。

 

「はい、ハウレス。口開けて〜?」

 

「え……あ、主様……」

 

 さすがに恥ずかしいと思ったのか、ハウレスの頬に赤みが差した。成人男性にこんなことをするのは確かに恥ずかしいだろうが、ロノがそこで監視している限り、やるしかないのだ。

 

「じゃあ頑張れよ、ハウレス」

 

 その内に隣にいたボスキも夕食を食べ終え、逃げるように食堂を出て行く。すると、ロノが食器を片付けるためか、厨房へと戻って行ったのだ。

 

「ハウレス、少しだけでも口開けて?」

 

 主命令じみた言い方をした私。ハウレスはたじたじしながらも、私の指示には抗えないというかのように、本当にわずかに口を開けた。そこに私は無理矢理魚料理の一口をねじ込む。頬の内側を軽く刺激すると自然と口が開くのは、どうやら成人男性にも通用するらしい。

 

「どお? 美味しい?」

 

 私はなんとか咀嚼を始めたハウレスの顔を覗き込む。返事をする余裕はないのか、ハウレスはうんともすんとも言えない反応しか見せなかった。

 

 私はもう一度、ロノがいないことを確認し、すかさず、テーブルの下に隠していた皿を取り出した。

 

「ハウレス」私はグッとハウレスの耳元に顔を近づけた。「嫌いなものを無理して食べる必要ないから、ここに出していいよ」

 

「し、しかし、主様……」

 

 私の思わぬ発言に、ハウレスは酷く動揺したようだった。ハウレスは未だ咀嚼を続けている。恐らく飲み込むことにも苦労しているのだろう。私が取り出した皿の上には、数枚のペーパーが入っていた。

 

 実はこれ、保育園にいる子どもたちに、苦手な物を無理に食べさせないために私がこっそりやっていることだった。

 

 親や大人たちが、子どもに苦手な食べ物も食べるようになって欲しいという気持ちは分かる。だが子どもは、それきっかけで食べること自体が苦痛になるかもしれない。私はそう考えて、ロノの願いを叶えながらハウレスも助けようとしている、私の姑息なやり方であった。

 

(姑息だけでいうなら、アモンと引けを取らないかもな……)

 

 でも酷なことさせちゃったな、と私はハウレスの頬に触れた。顔の筋肉が緊張している。口にあるものを出しさえすればいいのに……と私はアレコレ考え込み過ぎて、ベタベタ顔を触り過ぎてハウレスがますます緊張していることにこの時の自分は気づかなかったのだ。

 

「主様! ハウレスの奴、食べましたか?!」

 

 直後、ロノのよく通る声が飛び込んできた。私とハウレスはほぼ同時に肩が跳ねる。私は慌てて皿をテーブルの下に隠した……。

 

 ……ごくんっ。

 

 飲み込む音。ハウレスの喉仏が上下に動いたのが見えた。私は嬉しくなってロノを振り向いた。

 

「ロノ! ハウレスが食べたよ!」

 

「おお!」

 

 ロノは歓声をあげ、作った甲斐があったぜ、と喜んだ。私はハウレスに申し訳ない気持ちもありながら、頑張ったことを褒めようとしてその顔が真っ赤になっていたことにここでようやく気がついたのだ。

 

「あ、わ、ごめん、ハウレス! つい顔触っちゃった……」

 

 私は急いで手を引っ込めた。子どもにやるようについ手が出る私の癖、なんとか直さねばならない。だけどハウレスは、目を逸らしたままだったが、不快そうな顔はしなかった。

 

「いえ、大丈夫です……むしろ嬉しかったです」

 

「……へ?」

 

「あとは自分で食べますね。主様のおかげで、もう少しだけ魚が食べられそうなので」

 

 私が返事に困っている間に、ハウレスの顔から熱が引いていき、いつもの凛とした表情に戻っていた。

 

「なら、良かったけど……」

 

「じゃあハウレス! あともう半分くらいは食べてくれよ!」

 

 私が何か言うより早く、ロノが近づいてハウレスを促した。

 

「ああ、努力しよう」

 

 その後、さすがに主様の手を煩わせる訳にはいかない、と部屋に案内された私だったが、ロノの報告で本当に魚を半分だけ食べたのだそうだ。何がきっかけでハウレスの心境に変化をもたらしたのか分からないが、とにかく食べてくれたのならよかったと思うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー翌日 デビルズパレスの自室にてー

 

「よう、主様」

 

「おはよう、ボスキ。今日の担当執事はボスキだったよね」

 

 仕事終わったらまた来るね、とボスキに伝えると、彼はああ、と返事をしたのちこんなことを言い出した。

 

「帰ったら俺の飯を食うのを手伝ってくれるか? 今日は野菜が出るらしいからな」

 

「え?」

 

「……ハウレスにだけ甘やかすとか許さねーし」

 

「ああ……」

 

 ボスキはやたらハウレスと対立したがる。とはいえ、多分……。

 

「ふふ、じゃあ一口だけでも食べてね?」

 

「……」

 

 私が言うと、ボスキが気まずそうに目を逸らした。恐らく心の中で葛藤しているのだ。私に食べさせて貰うためには野菜を食べなくてはいけないということに。

 

 でもまぁ、苦手なものに立ち向かおうとしてる姿勢は素晴らしいことだよね。

 

「じゃあ今日は頑張って早めに帰ってくるね」

 

「ああ、気をつけろよ」

 

 私はなんだか、主というより母親のような気持ちになりながら、今日の仕事へ出るために、指輪を外した。

 

 おしまい

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