ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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前書き

主の学生時代の話が出てきます

暗めです

苦手な方は閲覧非推奨

なんでも大丈夫な方だけ、どうぞ












フルーレと三つ編み

 

「……うん、これでいいですか?」

 

 ある日のデビルズパレス。ドレスルームにいる私は鏡の前に座っていて、後ろではヘアセットをしてくれたフルーレが立っていた。

 

「わぁ、三つ編みお下げだ! 素敵!」

 

 今日は特に何もない休日なのだが、フルーレにお任せでヘアセットをお願いすると、三つ編みお下げをしてもらったのだ。

 

「ふふん、俺の手に掛かればどんな髪型だって出来ますよ!」

 

 とフルーレは得意げにウインクをしたが、ヘアセットならハナマルさんの方が上手なんですよね、と付け足した。

 

「今日はなんとなく、フルーレにやって貰いたかったんだよね〜」

 

 依頼とかでパーティ等に参加しなくてはいけない時はフルーレによくヘアセットをして貰ってはいるが、こういう何気ない時間だって、オシャレな髪型にしたっていいはずだ。

 

「あの、主様……」

 

 フルーレが鏡越しで私の三つ編みを整えながら、控えめそうに口を開く。私は振り向いた。

 

「どうしたの?」

 

 何か思うことでもあるのだろうか。私は直接フルーレの顔を見てみるが、彼の顔は俯き加減で目が合わなかった。

 

「こんなこと聞くのは失礼かもしれないのですが……」フルーレがおずおずと話し続ける。「主様に、三つ編みをしても大丈夫だったでしょうか?」

 

「え?」

 

「あ、あの!」フルーレの顔は真っ赤になりながら半歩後ずさった。「前に、ラトが不思議なことを言ってたのをずっと覚えてて……主様は、三つ編みを見つめながら、嬉しそうで悲しそうな顔をしていたって」

 

 フルーレの逸らされたままの目を見つめながら、私はあの日の話だ、と思い出した。ラトの三つ編みを見つめていた時、そしてこっそり、地下執事たちの会話を聞いた時の……。

 

「ラトは不思議な奴ですが、その、なんというか……勘みたいなのは、確かだと思うんです。だから、ラトは……多分主様のことを、心配してるのかなって思って……」

 

 フルーレは途切れ途切れに、自信なさげにそうは言ったが、それは私を心配してこその言葉なのだということは分かっていた。私は考え、やはり黙っている訳にはいかないだろうと、深呼吸をした。

 

「ラトの言いたいことは、多分、懐かしんでるって意味だったんだと思う」

 

 私は自分の話をすることに酷い動悸を感じながら、脳内ではルカスに言われた言葉を思い出していた。ルカスは言ってくれた。言葉にすることで楽になる気持ちがあるかもしれないこと、ここの執事は誰も、私に嫌なことを言わないことを。

 

「私ね、三つ編みが好きなの」私は、ゆっくりと言葉にすることにした。「一昔前は、女子はみんな三つ編みお下げにするのが流行っててさ。私は憧れて、よく親に三つ編みお下げにして貰ってたの。その内に、自分でもやるようになってさ……」

 

「へぇ、すごいじゃないですか。三つ編みってすごく大変ですよね?」

 

 フルーレはそう言ってくれたが、私は首を振った。

 

「でも、私は人に合わせるのが上手じゃないからさ……三つ編みお下げが流行らなくなっても、ずっと三つ編みお下げをしてたの。周りに誰も、三つ編みお下げどころか三つ編みすらしてる子なんていないのに、だよ? 今思えば変だったな〜、当時は流行に反抗してたのかも」

 

「主様……」

 

「だから私は、周りから浮いちゃって。気づいたら友達と一緒にいることもなくなって、一人で過ごすことも多くなってたんだよね」私は学生だった時のことを思い出していた。「極めつけは一番仲良かった友達の一言。三つ編みしてる変な子とは遊ばないって。小学生の頃のことだったけどさ〜」

 

 子どもはそういうところあるから、と思っても、今でも寂しい時代だったのは心に残っている。

 

「だから、私も高校生くらいの時には……えっと、十五歳くらいの時かな? 大好きだった三つ編み自体しなくなって、ずっと髪の毛下ろしてるかポニテだったの。一人ぼっちになっても三つ編みの髪にしていた私も馬鹿だったけどさ……」

 

「馬鹿じゃないです」

 

「へ」

 

「主様は馬鹿じゃないです」フルーレが強い意思を感じさせる眼差しで、グッとこちらに詰め寄った。「主様は素敵な人ですよ! だってこんなにも三つ編みが似合うお方なんですから! 子どもの頃から自分によく似合う三つ編みを知ってたって、すごいことです!」

 

「フルーレ……」

 

 ここの執事たちが私に嫌なこと言わないのはもう分かっている。だけど、こうして言葉にして返してくれるものは、もっとずっと優しくて、私の中で固まっていた何かが、解れていくかのようで。

 

「ありがとう、フルーレ」私は目を伏せた。「ここに来て、フルーレに色んな素敵な衣装を着るようになって、だんだん気づいたの。私は自分の好きな表現で、過ごしてもいいんだって」

 

 私はフルーレと真っ直ぐ向き合った。フルーレの鮮やかなピンク色の瞳が、光や角度によって一部が水色にキラキラ輝く。フルーレの瞳は、まるでカラーチェンジをする宝石みたいに美しい。

 

「俺の衣装で、主様を助けていたのなら嬉しいです!」

 

 フルーレはニッコリと笑った。私はフルーレの混じりもない笑顔を見て、一人頷いた。

 

(そうだ、この笑顔だ。執事たちには、ずっとこうして笑っていて欲しい)

 

「主様……?」

 

 フルーレが不思議そうな顔をしている。ひょっとして、私今深刻そうな顔でもしているだろうか。

 

「ううん、なんでもない」

 

 私は微笑みながら首を振った。

 

「そうですか……」フルーレは心配そうに眉を吊り下げていたが、何か思いついたように、あ、そうです! と話を切り替えた。「良かったら、お仕事がある日にも三つ編みをしましょうか? 俺、朝早起きしますから、三つ編みしてあげますよ!」

 

「あ〜、それはありがたいけど……」私は保育園で預かる子どもたちのことを思い出す。「子どもたちに髪の毛引っ張られそうだから、三つ編みはやめとくわ……」

 

 子どもは容赦ないからなぁ、と私はついクスリと笑ってしまう。

 

「あ、そうですよね……子どもって元気だし……」

 

「でも、仕事しやすい髪型とかなら……お願いしてもいいかな?」

 

「もちろんです!」

 

 私はまだ、人に頼ることが不慣れだけど、何かお願いをしても、嫌な顔一つしないフルーレやここの執事たちがとても大好きだ。

 

「ありがとう、フルーレ」

 

 私がお礼を言うと、フルーレは嬉しそうにこう言うのだ。

 

「いえいえ! 俺は、主様の執事ですから♪」

 

 どうして私がこの世界の屋敷に呼ばれたのかよく分からないが……。

 

(デビルズパレスに来て良かったな)

 

 私は心から、そう思った。

 

 

 おしまい

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