ポンコツ主と悪魔執事たちの現実   作:青瑠璃

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シロと冒険譚

 

(ふふ、ついに出来た!)

 

 その日、私はとてもご機嫌だった。

 

(私の最新作の小説がついに書籍化した! 第一号はパレスの書庫にこっそり置いて……)

 

 フェネス、気づくかなぁ、なんて思いながら、私はデビルズパレスの書庫へ向かった。

 

 ガチャ……。

 

 そこにいたのは。

 

「ふむ……」

 

 白い髪に白い燕尾服に身を包む、シロだった。

 

(シロもここで読書するんだな……)

 

 シロが画集を借りに来てるのは見たことあったけれど……と思考を巡らせていると、シロの青い宝石の瞳がこちらを見上げた。

 

「何をそこで突っ立っている。我に用でもあるのか?」

 

 低く威厳のあるシロの声が聞こえ、私はハッと現実に戻ったような感覚になる。

 

「ううん、本を仕舞いに来ただけで……」

 

 シロって瞬きしてないと本物の彫刻みたいに美しいんだよな、と心の中で見つめ過ぎたことを反省しながら自作小説を本棚に仕舞おうとして気がついた。

 

(シロが読んでる本って、もしかして私が書いた小説……?)

 

 私が書いている小説は冒険譚だ。思い切りファンタジーな世界の小説を、まさかシロが読むはずない……と思いながらも、好奇心もあって彼のそばに近づいた。近づけば近づく程、シロの手元にある本が私の小説だということが分かるばかりだ。

 

「なんだ」

 

「わ、ごめん!」

 

 さすがに近寄り過ぎたようだ。シロが不機嫌そうにこちらを見上げ……いや、睨んでいた。

 

(これは正直に言わねば……)

 

「あの、その本、私が書いた小説なの」私はとうとう、本当のことを伝えようと思った。「冒険譚なんてシロが読むと思わなかったから、ちょっと驚いて……」

 

「お前が書いた話なのか」

 

 しかし、返って来たのはシロの文句ではなく、興味ありそうな目であった。シロは開いていたページを手で挟みながら、表紙を表にしたのだ。

 

「ここの作者の名前はハルトのようだが……お前の名前はハルではないのか?」

 

 シロって、私の名前ちゃんと知ってたんだ。と驚いていると、シロはそんな心境も見抜いたかのように眉間に皺を寄せた。

 

「我がお前の名前を間違えると思っていたのか?」

 

「な、なんで心の中が読めるの……」

 

「フッ、お前は分かりやすいからな」

 

 私ってそんなに分かりやすい顔をしてるんだ、と自分の顔を触ってみても自覚出来るはずもなく。まぁそんなことより、と私は自作の小説の話をしたくてシロの隣の席に座った。

 

「ハルトって名前はペンネームなの。私はネット小説から出版してるからね、本名だと色々やりづらいのよ」

 

 保育士が仕事の片手間に小説を出版していた、なんて園長先生が知ったら馬鹿にされそうだな、と私は想像した。園長先生に副業の申請は通して貰っているが、私が冒険譚を書いているのは知らないのだ。

 

「ペンネーム……偽名みたいなものか」

 

 とシロが聞いたので私は頷いた。

 

「偽名って言われると聞こえが悪いけど、まぁそんな感じ」

 

「そうか」

 

 シロはそれだけ言って、再びページを開き直した。結構読み進めているみたいだ。小説の感想とかは……いや、やっぱり直接聞くのは恥ずかしいかも……。

 

「ここの挿し絵」

 

「え」

 

 急に話し始めたシロの声に驚く私。見ると、シロは先程開いていたページをいくつか戻ったページを見ていた。

 

「お前の絵柄によく似ていると思っていたが、これもお前が描いたのか?」

 

 とシロが見ているページには、挿し絵が挟められていた。小説の雰囲気に合わせて白黒の絵ではあるが、実はカラーバージョンが最後のページに追記してある。

 

「そうだよ。こっちにカラーバージョンがあって……」

 

 私は本に手を差し伸べた。カラフルなページがいくつか並ぶそこは、まるで途切れ途切れの絵本みたいだった。私はこのページを眺めるのが好きだ。

 

「ほう」

 

 いくらかページを捲っても、シロからはそういった短い言葉しか聞こえなかったが、嫌がってはいなさそうなのでこのまま話し続けても良さそうだと私は思った。

 

「わざわざカラー印刷してるから、ちょっと高いんだけどね。この本はプレミアムバージョンで、他の本にカラーページはないの」と私は説明する。「仲がいいファンとか、友達にプレゼントする用ってところかな。抽選で五人だけ当たるってキャンペーンもしてたけど」

 

 大事にしてくれているといいなぁと私が思っていると、宝石みたいな瞳がこちらに熱心に向けられていたことに気づく。

 

「我のプレミアムバージョンとやらはないのか」

 

「へ?」

 

 へ……?

 

 え、何、ちょっと待って……。

 

 私はシロの短い言葉から、何を言いたいのか理解しようとした。

 

「シロも、このプレミアムバージョンの本が欲しいってこと……?」

 

 私が恐る恐るそう訊くと、シロは横に目を逸らした。

 

「皆まで言わせるな」

 

 と単調的に言いながら。

 

 確かまだ何冊か余ってるから……と私は自宅の本棚を思い出しながら、なんだか嬉しい気持ちが込み上げてくるのを抑えられなかった。

 

「ふふっ……でも嬉しいな。私の小説が、こっちの世界でも好評価なのが」私は思ったことを口にする。「シロにも持ってくるね。目の前で読まれるとちょっと恥ずかしいけど……」

 

 見た目も所作も美しいシロにページを捲って貰ったら本もきっと嬉しいだろうな、と妄想じみたことを考えてみる。うん、そう考えたらすぐに本を持って来たくなってきたな。

 

「ちょっと待ってね、シロ。今指輪を外して持ってくるから!」

 

 いてもたっても居られなくなり、私は立ち上がった。すぐには指輪を外そうとしたが、シロがそれを引き止めた。

 

「待て」

 

「ん……?」

 

「その手にある本はなんだ?」

 

 あ、そうだった。私、新作の本をここにこっそり仕舞おうとしていたんだった。

 

「ふふーん、これはね」私はもったいつけるように本を引き寄せた。「私の最新作の小説なの! 今シロが読んでる小説の続編みたいなところがあるから、そっちの小説が好きならこっちも楽しめるかも……」

 

「貸せ」

 

「うわ、ちょっと!」

 

 まさか奪われるように取られるとは。ビックリはしたけど、それ程気に入ってくれたのなら、それはそれで嬉しいかも。

 

「しばらく借りるぞ」

 

 綺麗な見た目とは真逆に、冷ややかな態度と言葉を吐くシロだったが、そう言ってしっかり私の本を握って書庫を出て行くのを見送って、彼は本当に心から悪い人間ではないのだろうなと思う。シロからどんな感想が貰えるのだろうか。やっぱり「悪くない」だけかなぁなんて思いながら、私は少し先の未来が楽しみになっていた。

 

「私の最新作を最初に読んだのは、シロになったなぁ」

 

 私は静かな書庫で、独り言を呟いた。

 

 おしまい

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